つむぎ)” の例文
と懐から取出す胴巻は、木綿かつむぎか知れませんが、つる/\とこいて落ちた金は七八十両もありましょうか、其の中から一両出して
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
織物ではつむぎ類が多少残り、上田紬うえだつむぎなど名がありましたが、今は衰えました。麻布では木曾に開田かいだという村があってよい品を出します。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
見たところ、四十近い好い男、小紋の羽織、つむぎらしい袷、煙草は呑まず、澁茶にも手を觸れず、いかにもしたゝかな感じのする中年者です。
女たちは皆、姉が黒羽二重、幸子以下の三姉妹はそれぞれ少しずつ違う紫系統の一越縮緬ひとこしちりめん、お春が古代紫のつむぎ、と云う紋服姿であった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そして自ら先に、黒頭巾を脱ぎすて黒衣くろごを解いて振り落とすと、下は常着のおはぐろつむぎ鶯茶うぐいすちゃ博多はかたかなんぞと見られる平帯。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
従妹いとこのお近は大島つむぎの小袖と黒繻子じゅすの帯を選み、常子はやや荒い縞の錦紗きんしゃめしの二枚がさねと紋附の羽織と帯とを貰うことにした。
老人 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そして中央の美人は、濃い髪を銀杏がえしに結って、荒いかすり——その頃はようやくはやりだしたばかりだと思った——大島つむぎを着て写っていた。
大橋須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
わたしは鳶八丈とびはちじょうの綿入れに黒紋付のつむぎの羽織を着せられて、地質はなんだか知らないが、鶯茶のような地に黒い太い竪縞たてじまのあるはかま穿いていた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
鉄無地の古いつむぎあわせに、同じ様な色の幅のせまい博多の丸帯を、盛り上った様な肉附の宜い腰の辺に恰好よく結んで居た。
かやの生立 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
きょうは鼠いろのつむぎの袷を着ている。彼があまりにも永く自分のすがたを鏡にうつしてみているのには、おどろかされた。
彼は昔の彼ならず (新字新仮名) / 太宰治(著)
がかつたつむぎ羽織はおりに、銘仙めいせんちやじまをたのと、石持こくもち黒羽織くろばおりに、まがひ琉球りうきうのかすりをたのが、しよぼ/\あめなかを、夜汽車よぎしやつた。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
亭主ていしゅたる名称を継いだものでも、常は綿布、夏は布羽織、特別のおりには糸縞いとじまか上はつむぎまでに定めて置いて、右より上の衣類等は用意に及ばない
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
母親はその間に、結城縞ゆうきじまの綿入れと、自分のつむぎ衣服きものを縫い直した羽織とをそろえてそこに出して、脱いだ羽織とはかまとを手ばしこく衣紋竹えもんだけにかける。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
つむぎの綿入に縮緬ちりめん兵子帯へこおびをぐるぐる巻きつけて、金縁きんぶち眼鏡越めがねごしに、道也先生をまぼしそうに見て、「や、御待たせ申しまして」と椅子へ腰をおろす。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その所有物の中には、母のかたみだと云ふ桐に鳳凰か何かの縫ひをした玉子色の繻子しゆすの帶や、水淺黄の奉書つむぎの裾に浪千鳥の縫ひある衣物などもある。
もう羽織はなしで、つむぎだか銘仙だか、夫とももッい物だか、其も薩張さっぱり分らなかったが、なにしても半襟の掛った柔か物で、前垂まえだれを締めて居たようだった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
世に栄え富める人々は初霜月の更衣うつりかえも何の苦慮くるしみなく、つむぎに糸織に自己おのが好き好きのきぬ着て寒さに向う貧者の心配も知らず、やれ炉開きじゃ、やれ口切りじゃ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それより秩父織とかつむぎとか実用向の物をたくさん作って頂くことだわ、でもそうするとお式にはなにを着たらいいかしら、ああ困った、心配だわ心配だわ……
風流化物屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
下着はつむぎかと思われる鼠縞、羽織は黒の奉書にお里の知れた酸漿かたばみ三所紋みところもん、どういうはずか白足袋に穿はきかえ、机の上へ出しそろえて置いた財嚢かみいれ手巾はんけち巻烟草入まきたばこいれ
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
大兵肥満の晋子其角しんしきかくが、つむぎの角通しの懐を鷹揚おうやうにふくらませて、憲法小紋の肩をそば立てた、ものごしの凛々りりしい去来と一しよに、ぢつと師匠の容態をうかがつてゐる。
枯野抄 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
能の当日になると、夏ならば生帷子かたびらの漆紋(加賀梅鉢)に茶と黄色の細かい縦縞、もしくは鉄色無地のつむぎの仕舞袴。冬は郡山(灰色の絹紬)に同じ袴を穿いていた。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
『ほんとに大きくなりましたでせう』と答へ乍らつむぎの袷と縮緬の帯を出して来た。衣服を着ながら
四十余りの、つむぎの袷に、茶の袴をはいたのが、人々を止めて、前へ出た。そして、二人を左右に見て
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
老人は長い廊下の道々みちみち、蘭子の吉崎はなに、丁寧ていねいに言い聞かせた。彼は無地のつむぎの着物に、同じ品の黒い羽織を着て、腰に両手をまわし、背中を丸くして歩いている。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
五つ紋の古いつむぎの羽織を着たその男は、おせいの方をも一度じっと見て、その眼を父の方に移した。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あくるあさかぜすゞしきほどにいま一人ひとりくるまりつけゝるひとのありけり、つむぎ單衣ひとへしろちりめんのおびきて、はなしたうすひげのある三十位さんじふぐらゐのでつぷりとふとりてだてよきひと
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いろは青く黒し、これをくだけば石綿いしわたいだす。此石をこゝろみしに、石中に石綿いしわたといふものは、木綿もめんわたをほそつむぎたるを二三分ほどにちぎりたるやうなるものなり。
そしてあれこれと式服の模様なぞ見ているうちに、それを着る時の彼女の姿が浮かんで来たりした。柄の選択はすぐ一致した。そしてその時庸三も質素なつむぎの紋服をあつらえた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この時、衣服の制限をたつるに、何の身分は綿服めんぷく、何はつむぎまで、何は羽二重はぶたえを許すなどとめいいだすゆえ、その命令は一藩経済のため衣冠制度いかんせいどのため歟、両様混雑して分明ならず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それでなるべくごつごつしたつむぎか何かに少し堅く綿をつめたのを掛け蒲団にしている。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
客は、四十二、三の円頂えんちょうの男である。黒っぽいつむぎ茶縮緬ちゃちりめんの十とくのような物を着ている。った頭が甲羅こうらを経て茶いろに光って見える。眼のギョロリとした、うすあばたの長い顔だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そこへ大槻がいきな鳥打帽子に、つむぎ飛白かすり唐縮緬とうちりめん兵児帯へこおび背後うしろで結んで、細身のステッキ小脇こわきはさんだまま小走りに出て来たが、木戸の掛金をすと二人肩を並べて、手を取るばかりに
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
ほかのところのよせぎれが、ちりめんだの、つむぎだの、黄八丈きはちじょうだののりっぱなきれで、ここだけがメリンスなのねえ。でも、これは爆発で色がかわったのではなくて、もともと、これはこんな色なのよ
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
『池田大助』の奉行のなりがつむぎの対服に仙台平の袴。
噺家の着物 (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
商人らしく地味なつむぎ単衣ひとえを着て、帯はきちんと締めております。さすがに衣紋は崩れて、みぞおちのあたり、ひどく脹れているのが目立ちます。
首里しゅりの仕事を筆頭に、八重山の白絣しろがすり宮古みやこ紺絣こんがすり、それに久米島くめじまの久米つむぎなど、実は百花の美を競う有様であります。
沖縄の思い出 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
つむぎなのである。これは、私の結婚式の時に用いただけで、家内は、ものものしく油紙に包んで行李こうりの底に蔵している。家内は之を仙台平せんだいひらだと思っている。
善蔵を思う (新字新仮名) / 太宰治(著)
その次はどうするかと思うと主人のつむぎの上着を大風呂敷のようにひろげてこれに細君の帯と主人の羽織と繻絆じゅばんとその他あらゆる雑物ぞうもつを奇麗に畳んでくるみ込む。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
黒っぽいつむぎの着物に同じ柄の袴をはき、「端然」という感じで坐っている、眉のきっと張った、短く刈り込んだ口髭くちひげの半ば白い、かなりかんの強そうな顔つきである。
花咲かぬリラ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
琉球つむぎの書生羽織が添えてあったが、それには及ばぬから浴衣だけ取って手を通すと、桁短ゆきみじかに腕が出て着心の変な事は、引上げても、引上げても、裾がるのを
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
着物は、つむぎじま、袴は唐桟とうざん、いつもごつい紀州の田舎好みを、千代田城の奥へ来てからも用いている。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
玄関の石段を登った左には和服を着た人も何人か硝子ガラス窓の向うに事務をっていた。僕はその硝子窓をあけ、黒いつむぎの紋つきを着た男に出来るだけ静かに話しかけた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
冬は地味な、粗末な綿入の上に渋茶色のチャンチャンコ、茶色の小倉帯、紺飛白こんがすりの手縫足袋。客が来るとその上からコオリ山(灰白色のつむぎの一種)の羽織を羽織った。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
いろは青く黒し、これをくだけば石綿いしわたいだす。此石をこゝろみしに、石中に石綿いしわたといふものは、木綿もめんわたをほそつむぎたるを二三分ほどにちぎりたるやうなるものなり。
久米君は見兼みかねて鉄条綱の向から重い書物の包と蝙蝠傘とを受取ってくれたので、私は日和下駄の鼻緒はなお踏〆ふみしめ、つむぎ一重羽織ひとえばおりの裾を高く巻上げ、きっと夏袴の股立ももだちを取ると
と云いながら庭口の縁側の障子を明けて出て来ましたのは、年頃四十五六の人物のい御新造で、平常着ふだんぎゆえつむぎぐらいではありますが、お屋敷は堅いもので紋付を着て居ります。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
老人は上田つむぎ万筋まんすじ単衣ひとえの下に夏せのした膝頭ひざがしらをそろえて、団扇うちわ蚊遣かやりの煙を追いながら、思いなしか眼ぶたをしばだたいているのは、除虫菊にむせんだのかも知れない。………
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
廂髪ひさしがみって、矢絣やがすりつむぎ海老茶えびちゃはかまをはいた女学生ふうの娘が、野菊や山菊など一束にしたのを持って、寺の庫裡くりに手桶を借りに来て、手ずから前の水草の茂った井戸で水を汲んで
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
それがやり一筋のあるじだという加頭義輝だった。眼のきつい、おなじように長い顔だが色の黒い輝夫という人が、つむぎの黒紋附きを着て来ていたが、大変理屈ずきで、じきに格式を言出していた。
茶色のつむぎの薄い着物に黒い帯をしゃんと結んで、おとなしやかに控えていた。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)