ぬか)” の例文
「そうですか。いや、それについて飛んだお笑いぐさがありましてね。なんでも物を握って見ねえうちは、ぬかよろこびは出来ませんね」
半七捕物帳:27 化け銀杏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
折角智慧を紋つたぬかしをりも、夜道ではあまり役に立たず、そのうちに空ツ風が吹いて、明日をも待たずに吹き飛ばされて了つたのです。
しかも天子様はイクラお側の者がいましめてもぬかに釘どころか、ウッカリ御機嫌に触れたために、冤罪えんざいで殺される忠臣が続々という有様だ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ぬかだらけな顔——わらごみにまみれている姿——。与五郎の善兵衛は、自分を忘れて、ふと、何とも云えない気持に胸をき上げられた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
馬鈴薯をふかして食べたり、ぬかにお醤油ついで掻きまはして食べたりした。それにお父ちやん、お酒まないと何も出来ないの。
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
そこで私は父と協定して、犬のお客のあった時にはぬかを一にぎりだけやることにしていた。ところが、それすらも父はあまり喜ばなかった。
私の父 (新字新仮名) / 堺利彦(著)
疲れのせいと思っていたが、疲れが、こんなに眠っても軽快にならず、尿はまるでぬか味噌を水にあけたような工合だから変ね。
僕が餅好きだから折々拵えさせるが、先ず関東一という越ヶ谷こしがや糯米もちごめぬかのついたまま決して水で洗わずに碾臼ひきうすで粉にさせる。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ぬかに、かぶれたのじゃないかしら。私、銭湯へ行くたんびに、胸や頸を、とてもきつく、きゅっきゅっこすったから。」
皮膚と心 (新字新仮名) / 太宰治(著)
老人は、公園の入口のそばへ馬をつなぐと、馬車から飼料槽かいばおけをとりおろし、まぐさのなかへひとつかみほどのぬかを投げいれて
キャラコさん:10 馬と老人 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
物をうる茶屋をもつくる、いづれの処も平一めんの雪なれば、物を煮処にるところは雪をくぼぬかをちらして火をたけば、雪のとけざる事妙なり。
いま、瀧太郎たきたらうさんは、まじろがず、一段いちだん目玉めだまおほきくして、しかぬかにぶく/\とれてあま河豚やつふからおどろく。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
神棚の上には蜘蛛くもの巣にぬかのくっついた間からお燈明とうみょうがボンヤリ光っていた、気がついた時は自分は縛られていた、上からじっと見据みすえた竜之助。
故意こいにしても偶然にしても、とにかく仇討を延び延びにすることによって、そういう生半可なものをすぐり落された、もみぬかとをり分けられた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
二人は、恵美のうちのぬか小屋で遊んでいた。発見した男の子の群は、何時いつの間にか、小屋の周囲を取巻とりまいてしまった。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
ただしこのアラり方法の発明は新しいことで、近き百年以内までは、貯蔵は多くの地方ではもみを囲い、ぬかを去る仕事は食事の準備に過ぎなかった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
江戸から西の沿道諸駅へはすでに一貫目ずつのまぐさと、百石ずつのぬかと、十二石ずつの大豆を備えよとの布告が出た。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ぬかのような砂は男の踵を没し、一足ごとに疲れは加わっていた。それでも男は歩いて行かなければならなかった。
忘れがたみ (新字新仮名) / 原民喜(著)
私は飛泥はねの上がるのも構わずに、ぬかの中を自暴やけにどしどし歩きました。それからぐ宅へ帰って来ました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ぬかくぎッてな、おめえのこった。——火のおこるまで一ぷくやるから、その煙草入たばこいれを、こっちへよこしねえ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
このときの扶持ふちが御切米金十五両、御合力七両二分の他に、月々薪六貫四分、炭二俵八分、水油八合、ぬか二升八合、菜銀三十匁で、子供を三人使うことが出来た。
柘榴 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ぬか臭い氣を發してゐるが、日の光りは東京に於ける冬の日の樣に弱々しいので、急にからだに冷氣が増すをおぼえて、義雄は東京の歳の暮が來た樣に心細くなり
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
雨はぬかほどより降つて居ない。その知らない男は、何かまだぐづぐづ言つて居た。さうしてどうしてもこの犬を繋げ、それでなければ俺は通れぬ、と言ひ張つた。
ブリキ屋根の上に、ぬかのような雨が降っている。五月の緑は暗く丘に浮き出て、西と東の空を、くっきりとさえぎった。ブリキ屋根は黒く塗ってある。家の壁板したみも黒い。
抜髪 (新字新仮名) / 小川未明(著)
母が一疋いっぴき取て台石だいいしの上に置くと私はコツリと打潰うちつぶすと云う役目で、五十も百もずその時に取れるけ取て仕舞しまい、ソレカラ母も私も着物を払うてぬかで手を洗うて
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
グランテールはもひとりの男と向かい合って、ぬかをまきドミノの札をひろげた聖アンヌ大理石のテーブルの前にすわっていた。彼はその大理石をこぶしでたたいていた。
それで、もっと息子をきれいにしてやろうと考え、銭湯につれて行くと、ぬか袋と卵の自身とで、ゴシゴシ磨き立てて、とうとう、赤ン坊の顔をすりむいてしまった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
いくら憎く思って見てもいわゆるぬかくぎで何らの手ごたえもない。あらゆる偽善の虚栄心をくつがえして、心の底からおとよさんうれしの思いがむくむく頭を上げる。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
勘次かんじさんしほてくんねえか、大丈夫だえぢよぶるとおもつてたつけがなよ、それからこつちのをけぬかがえゝんだよ、そつちのがにや房州砂ばうしうずなまじつてんだから」おしなはいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
この時瓦師土を取りに出ると駒随い行き、その土を袋に満ててしまうを見て背を低くす。袋を載せると負うて宅へかえる。因ってこれを留めぬか胡麻滓ごまかすぜて飼い置いた。
若い身空で女のたすきをして漬物樽つけものだるぬか加減かげんいじっている姿なぞは頼まれてもできる芸ではない。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
米も研がずに炊いてぬか臭いボロボロ飯で我慢した。それも遊んでいるのだから二食とめる。
大井川奥山の話 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
しめった草の根からきだすぬかのようなぶよが、脚絆きゃはんのあいめ、手甲てっこうの結びめなどのやわらかい皮膚に忍びこんで来た。汗とあかあぶらと、ふんぷんとした体臭をまき散らした。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
常にうぐいすを飼っていてふんぬかぜて使いまた糸瓜へちまの水を珍重ちんちょうし顔や手足がつるつるすべるようでなければ気持を悪がり地肌のれるのを最もんだべて絃楽器を弾く者は絃を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ぬか袋のような小さい麻の袋に入れかえるとき、そばにかしこまっているアンポンタンに
最も近き山にり、蕨を採りたりしに、四囲より小虫の集る事は、あだかけぶりの内に在るが如くにして、面部くび手足等に附着してぬかを撒布したるが如くにして、皮膚を見ざるに至れり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
今朝、私は米屋で貰ったぬかを湯でといて食べた事がおかしくなって来る。躯を張って働くより道はないのだと思う。売れもせぬ原稿に執念深く未練を持つなんて馬鹿々々しい事だ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
また丸邇わに日爪ひのつまの臣が女、ぬか若子わくごの郎女に娶ひて、生みませる御子、春日の小田をだの郎女。この天皇の御子たち、并せて、七柱。この中、小長谷の若雀の命は天の下治らしめしき。
それでも、自ら責めているふうをまだ誇張して見せ、かすれたしゃくり泣きを喉から押し戻し、ひっぱたき甲斐がいのある、その醜い顔の、ぬかみたいな斑点しみを、大水おおみずで洗い落としている。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
米をきながら会読かいどくするの先生あれば、ぬかふるいながら講義を聞く生徒もあるべし。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
それに、私は悲惨な冒険に慣れたために死人に対する恐怖がほとんどすっかりなくなっていたので、ぬかの嚢か何かのように彼の腰を掴んで、ぐっと一度持ち上げると、船の外へ投げ落した。
宇賀長者は、ここに大きなやしきをかまえて、莫大な富を作っておりました。その田地でんちかられる米のすりぬかが、邸の傍に何時いつも大きな山をこしらえていたので、糠塚ぬかづか長者と呼ぶ者もありました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
十三日、明けてぬかくさき飯ろくにもわず、脚半きゃはんはきて走り出づ。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そうしてポツリポツリと、ぬかのようなわびしい秋時雨でした。
そしてその果皮はまたこれを米麦で言えばぬかとなる処である。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
みすずかる信濃の国に足たゆくともしびのもとにぬかを煮にけり
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
えびをいてぬかをまぜた餌を一日作っているわ。
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ぬかが吹き飛ばされるさまを
アイヌ神謡集 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
人足達が路の上へほうり上げたのは、まさに使い古りた沢庵石たくあんいし。五、六貫は確かと言った、泥とぬかまみれた真っ黒な丸石です。
道々の在々所々の庄屋、大百姓ども召寄せられ、馬のはみをば合せぬかにせよ。先手先手に、もちたるたしなみの米を出したかせよ。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)