筑波つくば)” の例文
虚に乗じて筑波つくばに討幕の旗があがり、洛中にも怪しげな物の気配が香いはじめたというとき、将軍はあわを食って東帰を言上した。
新撰組 (新字新仮名) / 服部之総(著)
その以前、筑波つくば騒動の時、武田伊賀守(耕雲斎)が幕府へ向けて、騒動を鎮めるための軍用金として借受けた三万両の金がありました。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
出発の前日、筑波つくばの方の水戸浪士の動静について、確かな筋へ届いたといううわさを東片町の屋敷から聞き込んで来たものもあったからで。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
天保十一年の夏も過ぎて秋は早く郊墟こうきょに入り、上野の鐘声清夜のまくらに徹する頃となるや、枕山はにわか筑波つくば登山を思立って雨中に江戸を発した。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と、又四郎はふと、身を退けた。そして元の古材木の端に腰を正しくすえて、昼ならば筑波つくばの見えるほうの空へ心もち頭を下げてからいった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なかにはまた、あのながれ邸内ていないいて、用水ようすゐぐるみにはいけにして、筑波つくばかげほこりとする、豪農がうのう大百姓おほびやくしやうなどがあるのです。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
富士を高く見せてあだかも我々が逗子ずしの「あぶずり」で眺むるように見せるのはこの辺にかぎる。また筑波つくばでわかる。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「まあ風呂へおはいんなさい」相手はこう云って歩きだした、「窓から筑波つくば山が見える、なかなかいい眺めだよ」
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
稲荷神社で有名な笠間かさまは、窯場のある所であります。筑波つくば山を真近くに見ます。昔から雑器を焼きましたが、徳利とっくり蓋附壺ふたつきつぼなどに見るべきものがあります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
いよいよこれより右門流の水ぎわだった捕物にかかろうといわんばかりで、筑波つくばおろし吹きしきる大江戸の昼日中町を、神田連雀町目ざして駆けさせました。
蝦夷えびすどもをたいらげながら、常陸ひたち新治にいばり筑波つくばを通りすぎて、ここまで来るのに、いく夜寝たであろう」
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
新「成程そうでしょうねえ、雷鳴かみなりには実に驚きまして、此地こっち筑波つくばぢかいので雷鳴はひどうございますね」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
わが裏庭の垣のほとりに一株の臘梅らふばいあり。ことしもまた筑波つくばおろしの寒きに琥珀こはくに似たる数朶すうだの花をつづりぬ。こは本所ほんじよなるわがにありしを田端たばたに移し植ゑつるなり。
臘梅 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その後、その辺りにては、某村の海浜にて数名の青年を苦しめしは、筑波つくば山の天狗なりと風聞せり。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
其方そのかたさしてあゆむ人はみな大尉たいゐかうを送るの人なるべし、両国橋りやうごくばしにさしかゝりしは午前七時三十分、や橋の北側きたがは人垣ひとがきたちつどひ、川上かはかみはるかに見やりて、みどりかすむ筑波つくばの山も
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
あの新治にひばり近邊きんぺん筑波つくばをとほりぎて、今夜こんや幾晩いくばんたとおもふ、といはれたのです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
源右大将は常陸守ひたちのかみの養女に興味は覚えながらも、しいて筑波つくばの葉山繁山しげやまを分け入るのは軽々しいことと人の批議するのが思われ、自身でも恥ずかしい気のされる家であるために
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
なし流れ/\て嘉川家へいり込しに當時嘉川の評判ひやうばんあしき故おのづから知音ちいんの人もとほざかりしにより常陸ひたち筑波つくば山の近邊に少しの知音を便たより行んと千住へ出筑波をさして急ぎしが先江戸近邊きんぺん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
時折車の音の聞ゆるばかり、春は囘向院えかうゐん角力すまふの太鼓夢の中にきいて、夏は富士筑波つくばの水彩畫をてんねむの後景として、見あかぬ住居すまゐさりとて向島根岸の如き不自由はなく、娘がのぞみかなひ
うづみ火 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
「焚き物はたくさん仕込んで置くがいい。もう直き筑波つくばが吹きおろして来るからね」
半七捕物帳:24 小女郎狐 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
師走しわすからこのかた湿りがなく、春とはほんの名ばかり、筑波つくばから来る名代のからッ風が、夕方になるとうしとらへまわり、こずえおろしに枯葉を巻き土煙つちけむりをあげ、斬りつけるようにビュウと吹き通る。
東石田は筑波つくばの西に当るところで、国香もこれに居たのである。護は世系が明らかでないが、其の子のたすく、隆、繁と共に皆一字名であるところを見ると、嵯峨さが源氏でゞもあるらしく思はれる。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
そうして一方にはまた有名な、富士と筑波つくばという古い話もあるのである。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
田園の果に、筑波つくば加波かばの山波が夕陽を浴びて黄ばんでいた。その上に、山の高さの数倍の高さに、巨大な積乱雲が盛り上っていた。紅みがかった円い頭は、なおも高く湧き返っているようだった。
再び山へ (新字新仮名) / 松濤明(著)
標高千米突内外の筑波つくばや箱根では、麓で天候を予想して登っても、大なる失策はなかろう、が三千米突以上の高山となると、山麓で晴天の予想も、頂上へ行くとがらりかわり、折々雲霧に見舞われる
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
今にもひる小島こじまの頼朝にても、筑波つくばおろしに旗揚はたあげんには、源氏譜代の恩顧の士は言はずもあれ、いやしくも志を當代に得ず、怨みを平家へいけふくめる者、響の如く應じて關八州は日ならず平家のものに非ざらん。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
常陸の新治にいはり筑波つくばぎて幾夜いくよたか。
右は、遠く荒天にそびえる筑波つくばの山。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
筑波つくばれぬ野も暮れぬ
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
やよ筑波つくば
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
当時、この国では初めて二隻の新艦を製し、清輝せいき筑波つくばと名づけ、明治十二年の春にその処女航海を試みて大変な評判を取ったころである。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と、煙管きせるく。とじり/\と吸込すひこんで吹殼ふきがらのこそげいてけないやつ、よこなぐりに、並木なみきまつへトンとはらつて、はなかすみ江戸えどそら筑波つくばよこいそぐ。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ここにおいて江戸児えどっこは水道の水と合せて富士の眺望を東都のほこりとなした。西に富士ヶ根東に筑波つくばの一語は誠によく武蔵野の風景をいい尽したものである。
よつ三升みます目印めじるし門前もんぜんいちすにぞ、のどづゝ往来わうらいかまびすしく、笑ふこゑ富士ふじ筑波つくばにひゞく。
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
関東では、山として高い方では日本一の富士、低いけれども名に於て、このもかのもの筑波つくばがある。高さにして富士は一万五千尺、山も高いが、名も高いことこの上なし。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ウム、入念だな。多年の鬱懐うっかいもこの一瞬に晴らすか。そのせいかあの雲、血のように筑波つくばの空を
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八月から四年四月までのあいだに大和やまと生野いくの筑波つくばの挙兵、六月の長兵大挙上洛と蛤門はまぐりもんの敗戦、ただちに征長詔勅、そして征長軍が進発しないうち四国連合艦隊に攻められて大敗
尊攘戦略史 (新字新仮名) / 服部之総(著)
骨にしみとおるほど寒い、筑波つくばおろしに吹かれながら、大川端おおかわばたに茫然とたたずんでいたり、また、山の手の、どことも知れぬ町を、ひもじさにふるえながら、歩きまわることもあった。
筑波つくばおろしに落ち着かぬ心を抱きながら消息の絶えた年月を空蝉うつせみは重ねたのである。
源氏物語:16 関屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
山は筑波つくば、水は霞ヶ浦かすみがうら、花は水戸と適切な説明も聞き及びますが、それは関東の益子ものには当てはまっても、関西の信楽ものには当りません。それはただ山と水と花とでよいのであります。
益子の絵土瓶 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
関東地方では茨城県の筑波つくばとか、遠くは福島県の会津あいづ地方のような、田畠がすくないか、または秋の農作のはやく片づく村から、群れをなしてその屋根葺き職の者が出てきて、大よそけんとうをつけ
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「つまり筑波つくばの町のような工合だね。」
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
園ノ西南がいツテコレヲ径ス。眺観豁如かつじょタリ。筑波つくば二荒ふたらノ諸峰コレヲ襟帯きんたいルベシ。厓下ニ池アリ。さかしまニ雲天ヲひたシ、芰荷菰葦叢然きかこいそうぜんトシテコレニ植ス。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
諸国の人の注意は尊攘を標榜ひょうぼうする水戸人士の行動と、筑波つくば挙兵以来の出来事とに集まっている当時のことで
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
朝から見物に出掛けた……この初阪とは、伝え聞く、富士、浅間、大山、筑波つくば、はじめて、出立いでたつを初山ととなうるにならって、大阪の地へ初見参ういけんざんという意味である。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
筑波つくばの歌垣のように、夜もすがらの神前かみまえで、かがりも焚かず、他の人妻と他の人夫ひとづまが、闇の香を、まさぐり合う祭りに似た風習など、この豊田郡、相馬郡の辺りにも、広く行われていた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのきびしいおきての目をくぐって、箱根や草津へ湯治にゆくとか、筑波つくば赤城あかぎ、富士などへ山登りをするとか、水戸の浜から鹿島かしま香取かとりに参詣するなど、結構よろしくやっている例も稀ではなかった。
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
新治にひはり筑波つくばを過ぎて幾夜いくよか寝つる
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
常陸筑波つくば郡鹿島村大字古川字鉦打
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
なにしろ海抜三千尺、浅間一帯の山腹にある小諸の位置はほとんど筑波つくばみねと同じ高さと言いますからね。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)