短冊たんざく)” の例文
旧字:短册
故老の話では四五十年前にも一度あったが、その時は女たちがかんざしに小さな短冊たんざくをつけて、魔よけにしたと云って、その歌を引いてある。
簪につけた短冊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
みんなのくれた玩具おもちゃも足や頭の所へ押し込んだ。最後に南無阿弥陀仏の短冊たんざくを雪のように振りかけた上へふたをして、白綸子しろりんずおいをした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
午後には五平の方から半蔵をたずねて来て、短冊たんざくを取り寄せたり、互いに歌をよみかわしたりするような、ささやかな席が開けた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それに女たちが五色の短冊たんざくをつけて、台に載せてき廻わり、最後に浜に持出して注連飾しめかざりと共に焼き、それからその火に身をあたためつつ
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そして懐中ふところからたつた一枚きりの、短冊たんざくを出して何か書いてくれと強請せがんだ。氏は余儀なく万年筆を取り出して、さらさらと書きつけた。
その枝にむすんである、色とりどりの短冊たんざくがなまぬるい軟風に、ひらひらとひるがえって、街ぜんたいがにぎやかに浮きたってみえる。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
何者の子とも知れぬ藻という女子を相手にして、その歌というのを見て取らそう。料紙りょうし短冊たんざくにでもしたためてまいったか
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それから細長く短冊たんざくのように切ってテンピで五分間ほど焼けば出来るのです。ついでにモー一つチースソフレーというお料理を申しましょうか。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
その薄っぺらな板のようなものが短冊たんざくというものであることを認めることによって、このお婆さんが亡者の衣服を剥ぐことを商売とする人でなく
そのとき彼は多少のかんでも心にあったのか。短冊たんざくを手に何か書きかけていたが、立騒ぐ周囲を見て「すべては運命というもの。俄に何の用心やある」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
世にはまた色紙しきし短冊たんざくのたぐいに揮毫きごうを求める好事家があるが、その人たちがことごとく書画を愛するものとは言われない。
葛飾土産 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その屋形船に乗合っている男女の頭を一つ一つさぐっているうちに、短冊たんざくを持って笑っている烏帽子えぼし男の首が、すこしぐらぐらしているのを発見した。
千早館の迷路 (新字新仮名) / 海野十三(著)
隅に、短冊たんざくを散らしりにした屏風びょうぶが置いてある。ふと見ると、それが、何時の間にかさかさ屏風になっているのだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
お辰素性すじょうのあらましふるう筆のにじむ墨に覚束おぼつかなくしたためて守り袋に父が書きすて短冊たんざくトひらと共におさめやりて、明日をもしれぬがなき後頼りなき此子このこ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
えり首のところから短冊たんざくほどの紙きれが背中へつるさがっていて、墨痕ぼっこんあざやかに『花岡の家来』と書いてある。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そして、腰元のる墨の匂がほんのりとたゞよう中に、短冊たんざくを片手に、燈火のもとに近寄りながら、じきにすら/\と見事な筆のあとを走らせて行った。
師匠は何んであるかと、その物を見ると、それらの紙片は短冊たんざくなりに切った長さ三寸巾六、七分位の薄様美濃みのに一枚々々南無阿弥陀仏なむあみだぶつ御名号おんみょうごうが書いてある。
茶室が水墨画をかけながら、短冊たんざくや色紙に和歌の古筆を用いる消息が、同じことに関係しはしないかと思う。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
八重やへさつしてすゝめつゝとりまかなひてふうらすにふみにはあらで一枚ひとひら短冊たんざくなりけり兩女ふたりひとしく雲形くもがた
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
八月は小学校も休業やすみだ。八月七日は村の七夕たなばた、五色の短冊たんざくさげたささを立つる家もある。やがて于蘭盆会うらぼんえ
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
短冊たんざく色紙しきし等のはりまぜの二枚屏風の陰に、薬をせんじる土瓶どびんをかけた火鉢ひばち。金だらい、水びん等あり。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
鶴見は短冊たんざくを一枚花袋から貰って、戦禍に遇うまでは、ちょくちょく短冊かけにかけてながめていた。
薬びんの乗せてある丸盆が、出入りの商人から到来のもので、ふちの所にげた所ができて、表には赤い短冊たんざくのついた矢がまとに命中しているが安っぽい金で描いてあった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ふりかえれば森田の母子と田中君なり。連れ立って更に園をめぐる。草花に処々ところどころ釣り下げたる短冊たんざく既に面白からぬにその裏を見れば鬼ころしの広告ずり嘔吐を催すばかりなり。
半日ある記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「何のお礼をいに、あほらしい。芝居でたくさんや。多勢短冊たんざくも書いてもらいましたし」
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
短冊たんざくを持て」と殿が云った。運ばれた短冊を手に取ると、すらすらと和歌をしたためた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
達者たっしゃに書いた。長編小説でもなんでも書いた。選挙運動には銀座の街頭にたって、短冊たんざくを書いて売った。家庭には荒くれた男の人たちも多くいるし、廃娼はいしょうしたいひとたちも飛込んできた。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
此日このひ本線ほんせんがつして仙台せんだいをすぐるころから、まちはもとより、すゑの一軒家けんやふもと孤屋ひとつやのき背戸せどに、かき今年ことしたけ真青まつさをなのに、五しき短冊たんざく、七いろいとむすんでけたのを沁々しみ/″\ゆかしく
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
文「御主人、話は変るが、この貼付はりつけうちにある短冊たんざくは何者の筆蹟でござるな」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
こればかり焼け残りたりといふ内裏雛だいりびな一対、紙雛かみびな一対、見にくく大きなる婢子様ほうこさま一つを赤き毛氈もうせんの上に飾りて三日を祝ふ時、五色の色紙を短冊たんざくに切り、芋の露をすずりりて庭先に七夕を祭る時
わが幼時の美感 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ト僕ガ言つてはヤツパリ広目屋臭ひろめやくさい、おい悪言あくげんていするこれは前駆ぜんくさ、齷齪あくせくするばかりが平民へいみんの能でもないから、今一段の風流ふうりう加味かみしたまへたゞ風流ふうりうとは墨斗やたて短冊たんざく瓢箪へうたんいひにあらず(十五日)
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
棚橋絢子刀自あやことじ短冊たんざく以上だろう。世にもめでたいレコードである。
といいつつ、一枚の短冊たんざくに、さらさらと書きしたためたのは
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
彼は読み書きの好きな和助のために座右の銘ともなるべき格言を選び、心をこめた数よう短冊たんざくを書き、それを紙に包んで初旅のはなむけともした。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その店さきのガラス戸や内の鴨居かもいなどには赤い短冊たんざくのような紙片しへんを貼ってあるのが見えた。それは謙作が見慣れている支那街の色彩であった。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
私に短冊たんざくを書けの、詩を書けのと云って来る人がある。そうしてその短冊やらぬめやらをまだ承諾もしないうちに送って来る。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
酌をしながらふと見ると、客の膝の向うに硯箱すずりばこ短冊たんざくなどが並べてあり、待っているあいだの手すさびであろう、なにやら書きつけたものが四五枚みえた。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あるひは琴を弾じを描きまたは桜の枝に結び付くべき短冊たんざくに歌書けるものあり。あるひは矢を指にして楊弓ようきゅうもてあそびあるひはおかめめんかぶりて戯るるものあり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
全くの素人しろうとでは、なかなか色紙しきし短冊たんざくに乗らないものだが、この女文字は板についていると感じました。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
風鈴ふうりん短冊たんざくが先日の風に飛ばされたので、先帝の「星のとぶ影のみ見えて夏の夜も更け行く空はさびしかりけり」の歌を書いて下げた。西行さいぎょうでもみそうな歌だ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それが色紙しきし短冊たんざくの世の中になって、新たに始まった現象でないことは、わかりきったことのように私は思うのだが、今まではとかく文字の教育を受けた人ばかりに
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
... 塩水へ漬けてあらっ蒸籠せいろうで蒸します。それを濃い甘酒へ漬けて四、五日置いて食べる時短冊たんざくに切って出します」妻君「松茸にも色々なお料理がありましょうね」お登和嬢
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
仲間の歌詠うたよみ画家ゑかきなすつて貰つた短冊たんざくを五六枚と、茶菓子一皿を景品のつもりで、最後まで聴いて呉れた人に送ることにしたが、短冊と茶菓子の人並外れて好きな京都人も
障子紙を細くって、短冊たんざくに代えた紙きれへ、誰かが、こんな句を、いたずらに書く。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それがまるで短冊たんざくのようだ。顔がずんずんのびて、やがてスキーほどに上下へ引きのばされたかと思うと、突然ふっと、かき消すようにその長い顔は消えた。後に残るは、暗黒だけだった。
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
たった一枚肉筆の短冊たんざくが有りましたから、その歌を見ると「背くとも何か怨みん親として教えざりけんことぞ口惜くやしき」という歌が書いて有ったのを見て、奧州屋新助はびっくり致しましたと云うのは
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
風流人なんていうものは、を見ても、頭巾ずきんかぶるか短冊たんざくを持ってるものだ。このおれを風流人だなどと真面目に云うのはただの曲者くせものじゃない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
長吉はいやなものを吐きだすように云ってから口をつぐんだ。短冊たんざくのような型のあるあか昼夜帯ちゅうやおびを見せたお鶴が、小料亭こりょうりやじょちゅうのような恰好かっこうをして入って来た。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
武田、田丸、山国、藤田諸将の書いた詩歌の短冊たんざく小桜縅こざくらおどし甲冑片袖かっちゅうかたそで、そのほかに小荷駄掛りの亀山嘉治かめやまよしはるが特に半蔵のもとに残して置いて行った歌がある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
六左衛門は帰るときに、こんな腰折れをんだが、あとでお笑い草に読み捨ててもらいたい、と云って、一枚の短冊たんざくを渡した。甲斐は六左衛門が去ってから、それを読んだ。