海嘯つなみ)” の例文
若者わかものは、自分じぶん父親ちちおやが、海嘯つなみほろびてしまったこのまちを、ふたたびあたらしくてたひとであることをかたりました。船長せんちょうは、うなずきました。
塩を載せた船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
たちまち、うしほ泡立あわだち、なみ逆卷さかまいて、其邊そのへん海嘯つなみせたやう光景くわうけいわたくし一生懸命いつせうけんめい鐵鎖てつさにぎめて、此處こゝ千番せんばん一番いちばんんだ。
ブールドン大通りからオーステルリッツ橋まで、海嘯つなみのような響きが起こって群集を沸き立たした。激しい二つの叫びが起こった。
老臣の分別や重役のささえも何らのかいなく、得物を取って宮津武士の百人余りは今しも愛宕へ差して海嘯つなみの如くせようとしていた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、家は海嘯つなみのために持って往かれたので、その跡へ仮小屋をこしらえて住んでいるから、女房は驚くだろうとも思った。
月光の下 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
幌の中に包まれた自分はほとんど往来のすさまじさを見るいとまがなかった。自分の頭はまだ経験した事のない海嘯つなみというものに絶えず支配された。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
海嘯つなみのために流沒したその一帶の地域からは、人工の加へられた木片、貝類、葦の根などの發掘せらるゝことがあるといふ。
山陰土産 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
否、それのみにはあらじ、地震起り海嘯つなみきたるときは、賢愚貴賤何の用捨もなく、何の差別もなく、一度に生命いのちを取らるることもあるにあらずや。
一夜のうれい (新字新仮名) / 田山花袋(著)
又しても我等の主人公は惨めな逆境に身をさらしたのである! 怖ろしい災厄の海嘯つなみが彼の頭上にどっと押し寄せたのである! これこそ彼が
それは、東京の深川本所に大海嘯つなみを起して、多くの人命を奪つたばかりでなく、湘南各地の別荘にも、可なりヒドイ惨害を蒙らせたのであつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
別段我が家の海嘯つなみに襲はれし事あるにもあらず、その折家に在りしは予一人なれば登場の人物皆わが構へしところにして所謂もでるを有せざるなり。
唐桑浜の宿という部落では、家の数が四十戸足らずのうち、ただの一戸だけ残って他はことごとくあの海嘯つなみつぶれた。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
(ホ)ゆきなだれと海嘯つなみ防止ぼうし。 それからまへにおはなしした洪水こうずい豫防よぼうや、水源すいげん涵養かんようのほかに森林しんりん雪國ゆきぐにですと『ゆきなだれ』のがいふせぐことも出來できます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
薄曇りのしている日の午後である。大村と何か話して笑っていると、外から「海嘯つなみが来ます」と叫んだ女がある。自分が先きにって往来に出て見た。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そういうと、海嘯つなみをまきおこして、湯槽から、飛び出た。あおりをくらって、金五郎は、顔中、飛ばちりをかぶった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「ヨーロッパももう底を突いた。今度こそはいよいよ東洋の海嘯つなみだよ。僕らはうろうろしているときじゃない。」
旅愁 (新字新仮名) / 横光利一(著)
もうそうなると、気のあがった各自てんでが、自分の手足で、茶碗を蹴飛けとばす、徳利とっくりを踏倒す、海嘯つなみだ、とわめきましょう。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
或る時、大海嘯つなみが突然やつてきた、果樹園の人々は狼狽して果樹園の背後の山へ避難したが、望楼の男だけは、最後まで望楼に踏み止まつてお喋しつづけた。
小熊秀雄全集-15:小説 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
洪水また難破船の節、神林目的に泳ぎ助かり、洪水海嘯つなみの後に神林を標準として他処の境界を定むる例多し。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
海嘯つなみ。大海侵。大陸が一夜のうちに海になり、海の中から忽然と大陸が現出する。地殻の大変動と大変貌。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ところで、その災難が有明の海を隔てた向う岸の肥後の国にまで海嘯つなみとなって現われ、それがためにあちらでも、五千人からの人が死にました。そのほか——
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しろいシヤツのうへ浴衣ゆかたかたまでくつて、しりからげて草鞋わらぢ穿はい幾人いくにんれつからはなれたとおもつたら、其處そこらにつて見物けんぶつして女等をんならむかつて海嘯つなみごとおそうた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
母のお時といっしょに廓の仁和賀にわかを見物に行ったとき、海嘯つなみのように寄せて来る人波の渦に巻き込まれて、母にははぐれ、人には踏まれ、藁草履わらぞうりを片足なくして
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
浦安では海嘯つなみが来ると云って気色ばんでいる。併しもう潮は退き始めたのだから大丈夫らしい。若し来れば此の次の満潮、即ち夜半頃である。嗽は大分よくなった。
お千代が娘のおたみを京橋区新栄町しんえいちょう女髪結おんなかみゆいもとにやったのは大正六年の秋、海嘯つなみの余波が深夜築地つきじから木挽町辺こびきちょうへんまで押寄せたころで、その時おたみは五ツになっていた。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
六十の馬つなぎ場を急設する。客は百五十人も来たろうか。三時頃から来て、七時に帰った。海嘯つなみの襲来のようだ。大酋長だいしゅうちょうセウマヌが自分の称号の一つを私に贈って呉れた。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
火災、海嘯つなみ、山崩れ、食糧問題、治安問題などが、いたるところに起っているのであろう。
第五氷河期 (新字新仮名) / 海野十三(著)
……一度盲点が破れると、長い間せき止められていたかんがえ海嘯つなみの様にほとばしり出た。
恐ろしき錯誤 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これを見た大手先おおてさきの大小名の家来けらいは、驚破すわ、殿中に椿事ちんじがあったと云うので、立ち騒ぐ事が一通りでない。何度目付衆が出て、制しても、すぐまた、海嘯つなみのように、押し返して来る。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ことわたくしかみまつられました当座とうざは、海嘯つなみたすけられた御礼詣おれいまいりの人々ひとびとにぎわいました。
然し戰爭は決して地震や海嘯つなみのやうな天變地異ではない。何の音沙汰も無く突然起つて來るものではない。これ此の極めて平凡なる一事は今我々の決して忘れてはならぬ事なのである。
大硯君足下 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
地底の喧騒と咆哮はたちまち海嘯つなみのように遠ざかって、店の犬もまたキャンキャン啼き始めてきた。これにも一発くれようとしたが、すでに撃ち尽したのか引金を引いても弾は出てこなかった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
海嘯つなみのやうに人の波が押し寄せる中に家は火の海になつて燃え落ちた。
秋風 (新字旧仮名) / 飯田蛇笏(著)
震災の時由井ヶ浜ゆいがはま海嘯つなみにさらわれたという恋愛至上主義者の未亡人、その姉だというある劇場の夫人、それに雪枝と名取りの弟子たちとが、鍵なりに座を取ると、反対側に庸三と葉子と清川とが
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
海嘯つなみのあるのを知っているものは、かにが一番だと申しますね」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「もう少し暴風雨が続いたら、なみに引かれて海へ行ってしまうに違いない。海嘯つなみというものはにわかに起こって人死ひとじにがあるものだと聞いていたが、今日のは雨風が原因になっていてそれとも違うようだ」
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
稲妻、雷鳴、海嘯つなみに対して、一切の媒介物を排し
海嘯つなみ暴風あらし、地震、火事、どれを持って行っても
海嘯つなみであつた。
樹木とその葉:34 地震日記 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
足もとからもり上った海嘯つなみのように、混雑は、急であった。変事を耳にした時から、殆ど、嘆息ためいきもさせてかないき方である。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女は最後に物凄ものすごい決心を語った。海嘯つなみさらわれて行きたいとか、雷火に打たれて死にたいとか、何しろ平凡以上に壮烈な最後を望んでいた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
仁治元年四月の地震には海嘯つなみがあって、由比ヶ浜の八幡宮の拝殿が流れた。建長二年七月の地震は余震が十六度に及んだ。
日本天変地異記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
なにかはつたことでもおこりましたか、しや、昨夜さくや海嘯つなみのために、海底戰鬪艇かいていせんとうてい破損はそんでもせうじたのではありませんか。』
そのはやしがあるので、ただに景色けしきがいゝばかりでなく、まへにもおはなししたように海嘯つなみがいふせぐことも出來できます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
六年には東北に螟虫めいちゆうが出来る。海嘯つなみがある。とう/\去年は五月から雨続きで、冬のやうに寒く、秋は大風たいふう大水たいすゐがあり、東北をはじめとして全国の不作になつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
東海道岡崎宿おかざきじゅくあたりへは海嘯つなみがやって来て、新井あらいの番所なぞは海嘯つなみのためにさらわれたこともわかって来た。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
風はあまりないようでありましたけれど、どこかの山奥で、海嘯つなみのような音が聞えないではありません。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
圧死した二人は、その上に海嘯つなみにさらわれたものと想像していたが、それだけは免かれたのを知った。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
あるまちをあるきまわっていますときに、乞食こじきは、三日みっかばかりまえ自分じぶんがたってきたまちが、すっかり海嘯つなみのためにさらわれてしまった、というようなうわさをきました。
塩を載せた船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
多分は栄養力が単原だったために、それが働き手の減少とともに、次第に乏しくなって行くらしいのである。明治二十九年の東北海岸の海嘯つなみの跡などもよい例であった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)