此際このさい)” の例文
たゞ平岡と事を決する前は、麺麭パンために働らく事をうけがはぬ心を持つてゐたから、あによめ贈物おくりものが、此際このさい糧食としてことに彼にはたつとかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ついては、少し思う仔細もあるので、此際このさい私の配下に属する色々な事業や、私の田地でんち、私の漁場などを、一巡して見たいと思う。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
此際このさい鐵道橋梁てつどうきようりようくだ汽車きしやともさらはれてしまつたが、これは土砂どさうづまつたまゝ海底かいていまでつてかれたものであることがわかつた。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
その女客は、手に何か黒いかさばったものを持っているらしかったが、此際このさいそんなことは、女房に取って注意を要すべきことではなかった。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それとも一方いつぱうには小説雑誌の気運きうん日増ひましじゆくして来たので、此際このさいなにか発行しやうと金港堂きんこうどう計画けいくわくが有つたのですから、早速さつそく山田やまだ密使みつしむかつたものと見える
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
我が恋のかたきとも云うべき冬子がかかる危難に陥っていると知ったら、お葉は此際このさいんな処置を取ったであろう。が、表よりるるおぼろ雪明ゆきあかりでは、お葉にれと判然はっきり解らなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いやしくも、なすあるところの人物は、今日此際このさい、断じて酒杯を粉砕すべきである。
禁酒の心 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼等は、性悪しょうわるで荒っぽくて使いにくい兵卒は、此際このさい、帰してしまいたかった。そして、おとなしくって、よく働く、使いいゝ吉田と小村とが軍医の命令によって残されることになった。
雪のシベリア (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
また金解禁きんかいきんたいしては世人せじんぱんなり神經過敏しんけいくわびんになつてるから、此際このさいめてこれ發表はつぺうしてくとふことはむし財界ざいかい安定あんていせしむるうへ相當さうたう效果かうくわのあることゝかんがへたからである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
列座れつざ方々かた/″\、いづれもかね御存ごぞんじのごとく、それがし勝手かつて不如意ふによいにて、すで先年せんねん公義こうぎより多分たぶん拜借はいしやくいたしたれど、なか/\それにて取續とりつゞかず、此際このさい家政かせい改革かいかくして勝手かつてとゝのまをさでは、一家いつかつひあやふさふらふ
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
此際このさいの千えんでもあったなら、どんなにやくつことかと。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「それにしても、此際このさい社長のおからだに万一のことがあっては、それこそ大変ですから、充分御注意が肝要だと思います」
気がついたのは——此際このさい呑気のんきな話であるが——なにかしら、馥郁ふくいくたるにおいとでもいいたいかおりの辺にすることだった。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今だにひとばなしのこつてるのは、此際このさいの事です、なんでも雑誌を売らなければかんとふので、発行日はつかうびには石橋いしばしわたしかばんの中へ何十部なんじふぶんで、さうして学校へ出る
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「さう云ふ親類が一軒位あるのは、大変な便利で、且つ此際このさい甚だ必要ぢやないか」と云つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
此際このさいあるひ倒壞家屋とうかいかおく下敷したじきになつたものもあらうし、あるひ火災かさいおこしかけてゐる場所ばしよおほいことであらうし、救難きゆうなん出來できるだけおほくの人手ひとでようし、しかもそれには一刻いつこく躊躇ちゆうちよゆるされないものがある。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
此際このさいの千ゑんでもつたなら、甚麼どんなやくことかと。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
支持するとして此際このさい僕等はどの国へ嫌疑を向けるべきだろうかね、もちろんアメリカとソ連は吟味ずみで、その埒外らちがいだ。そこで僕は今、その嫌疑を……
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
の第壱号を出したのが明治十八年の五月二日です、毎月まいげつ壱回いつくわい発行はつかう九号くがうまで続きました、すると、社員は続々ぞく/″\ゑる、川上かはかみ同級どうきふりましたので、此際このさい入社したのです
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ちゝくなつた此際このさいにも、叔父をぢ都合つがふもとあまかはつてゐない樣子やうすであつたが、生前せいぜん義理ぎりもあるし、またをとこつねとして、いざと場合ばあひには比較的ひかくてき融通ゆうづうくものとえて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
昨日、質屋の番頭をきつけて、寧ろ強奪して、やっと手に入れた二十円なにがしの共有財産の寿命が、按摩賃六十銭丈け縮められることは、此際このさい、確かに贅沢に相違なかったからである。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
地震ぢしん其根源そのこんげん場所ばしよおいては緩急かんきゆう各種かくしゆ地震波ぢしんぱ發生はつせいするものであつて、これがあひともなつて四方八方しほうはつぽうひろがつてくのであるが、此際このさいきゆう振動しんどうをなす波動はどうみちすがら其勢力そのせいりよくもつとすみやかに減殺げんさいされるから
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
ことに開けると爬虫たちの生命をおびやかすことになるという話のあった鴨田研究員苦心の三本のタンクみたいなものも、此際このさいどうしても開けてみなければまされなかった。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
小六ころく實際じつさいこんなようをするのを、内心ないしんではおほいに輕蔑けいべつしてゐた。ことに昨今さくこん自分じぶんむなくかれた境遇きやうぐうからして、此際このさい多少たせう自己じこ侮辱ぶじよくしてゐるかのくわんいだいて雜巾ざふきんにしてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
けれども前者と違つて、此際このさい新らしい解釈を受ける必要のない名である。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)