ゆが)” の例文
縁側もない破屋あばらやの、横に長いのを二室ふたまにした、古びゆがんだ柱の根に、よわい七十路ななそじに余る一人のおうな、糸をつて車をぶう/\、しずかにぶう/\。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
お熊は四十格向がッこうで、薄痘痕うすいもがあッて、小鬢こびん禿はげがあッて、右の眼がゆがんで、口がとんがらかッて、どう見ても新造面しんぞうづら——意地悪別製の新造面である。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
何とも物は仰いませんでしたけれど、御顔を見ているうちに、美しい朱唇くちびるゆがんで来て、しまい微笑にっこりわらいになって了いました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
或ひはなほく或ひはゆがみ、或ひは疾く或ひは遲く、たえずそのかたちを變へて動くさままたかくの如し —一一七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
二階の女の姿が消えると間もなく、下の雨戸を開ける音がゴトゴトして、建付たてつけゆがんだ戸がやっと開いた。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
彼女かのぢよ若々わか/\しくむねをどきつかせながら、いそいでつくゑうへ手紙てがみつてふうつた。彼女かのぢよかほはみる/\よろこびにかゞやいた。ゆがみかげんにむすんだ口許くちもと微笑ほゝゑみうかんでゐる。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
それらの品はきずを恐れたりゆがみを心配したり不完全をこわがったり致します。有難いことに雑器の場合にはそんな執着は伴いません。ずっと作る気持が自由で楽であります。
益子の絵土瓶 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
立ち寄りて窓からでも投込まんと段々行くに、はたせるかなもみの木高くそびえて外囲い大きく如何いかにも須原すはらの長者が昔の住居すまいと思わるゝ立派なる家の横手に、此頃このごろの風吹きゆがめたる荒屋あばらやあり。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
犬どもはいぶかしげに、主人の手の中と主人の顔とをかはるがはる見くらべて、彼等は一様にその頭をかしげ、それから彼等の口の端を少しゆがめて、その可憐に輝く眼で彼の顔を見上げた。
玄関の板間いたのまに晨は伏目ふしめに首を振りながら微笑ほゝゑんで立つて居た。榮子は青味の多い白眼がちの眼で母をじろと見て、口をゆがめた儘障子に身を隠した。格別大きくなつて居るやうではなかつた。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
二つの手桶に溢るゝほど汲みて、十三は入れねば成らず、大汗に成りて運びけるうち、輪寶りんぼうのすがりしゆがの水ばき下駄、前鼻緒のゆる/\に成りて、指を浮かさねば他愛の無きやう成し
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「はゝゝゝ。」春挙氏は多くの舞妓連を接吻キツスしたらしい唇をゆがめて笑つた。
彼が十歳のとき甘木の祇園ぎおんの縁日に買い来しものなり、雨に湿みて色変りところどころ虫いたる中折半紙に、御家流おいえりゅう文字を書きたるは、とらの年の吉書の手本、台所のゆがめる窓よりぎ来たれる
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
もつと間近まぢかかつたのを、よくた。が、しろ風呂敷ふろしきけめは、四角しかくにクハツとあいて、しかもゆがめたるくちである。結目むすびめみゝである。墨繪すみゑ模樣もやう八角はつかくまなこである。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
惜気おしげもなく剃刀を動かす度に、もう幾年となく鼻の下にたくわえて置いたやつがゆがめた彼の顔をすべり落ちた。好くも切れない剃刀で、彼はくちびる周囲まわりれ上るほど力を入れて剃った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
坂にカッシーノある山にては、往昔そのかみ巓に登りゆく迷へるゆがめる人多かりき 三七—三九
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
二つの手桶てをけあふるゝほどみて、十三はれねばらず、大汗おほあせりてはこびけるうち、輪寳りんぽうのすがりしゆがみづばき下駄げた前鼻緒まへばなをのゆる/\にりて、ゆびかさねば他愛たわいきやうなり
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
有島氏は一寸口もとをゆがめた。
ゆがみてうつる影の上
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
右になり、左になり、横ちがいにゆがんだり、こちらは人をよけて、雨の傘越からかさごしに、幾度いくたびも振返る。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
塩俵をしょって腰をゆがめながら歩いて行く農夫があった。体操の教師は呼び掛けて
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二つの手桶てをけあふるるほどみて、十三は入れねば成らず、大汗に成りて運びけるうち、輪宝りんぽうのすがりしゆがみ歯の水ばき下駄げた、前鼻緒のゆるゆるに成りて、指を浮かさねば他愛たわいの無きやうなり
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
このとき夫人のまゆは動き、口はゆがみて、瞬間苦痛に堪えざるごとくなりし。半ば目をみひらきて
外科室 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
総身そうしんふるはして、ちひさなくちせつなさうにゆがめてけると、あふみづ掻乱かきみだされてかげえた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
鼻は大にして高く、しかも幅広に膨れたり。そのさきは少しくゆがみ、赤く色着きてつやあり。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
立派やかなお座敷にも似合わねえ、安火鉢のゆがんだやつが転がるように出ていました。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
生際はえぎわが抜け上ってつむりの半ばから引詰ひッつめた、ぼんのくどにて小さなおばこに、かいの形のこうがいさした、片頬かたほせて、片頬かたほふとく、目も鼻も口もあごも、いびつなりゆがんだが、肩も横に、胸も横に
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ああでなくては不可いけません。私は何も、ゆがんだりねたりして、こう云うのではないんです。お爺さん、色でも恋でもない人に、立てる操は操でないのよ。……一人に買われる玩弄品おもちゃです。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぺたんこともゆがんだとも、おほきな下駄げた引摺ひきずつて、前屈まへかゞみに俯向うつむいた、瓢箪へうたん俯向うつむきに、出額おでこしりすぼけ、なさけらずことさらにいたやうなのが、ピイロロロピイと仰向あふむいていて、すぐ
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かぜゆがんだ烏帽子えばうしひも結直ゆひなおしたが、老爺ぢいこゑちからかつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
白痴ばかは情ない顔をして口をゆがめながらかぶりった。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白痴あはうなさけないかほをしてくちゆがめながらかぶりつた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と口をゆがめて横ざまにた。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)