御機嫌ごきげん)” の例文
あの女は今夜僕の東京へ帰る事を知って、笑いながら御機嫌ごきげんようと云った。僕はそのさびしい笑を、今夜何だか汽車の中で夢に見そうだ
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「おやこつちのおとつゝあん、しばらくでがしたねどうも、御機嫌ごきげんよろしがすね」おつたはそら/″\しいほどつてかはつた調子てうしでいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それ御前の御機嫌ごきげんがわるいといえば、台所のねずみまでひっそりとして、迅雷じんらい一声奥より響いて耳の太き下女手に持つ庖丁ほうちょう取り落とし
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
乳母 はい、御機嫌ごきげんよう。……もし/\、あのひとは、ま、なんといふ無作法ぶさはふわかしゅでござるぞ? あくたいもくたいばかりうて。
おもてむきは何處どこまでも田舍書生いなかじよせい厄介者やつかいものひこみて御世話おせわ相成あいなるといふこしらへでなくてはだい一に伯母御前おばごぜ御機嫌ごきげんむづかし
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そして為朝ためとも御機嫌ごきげんをとるつもりで、きゅう新院しんいんねがって為朝ためとも蔵人くらんどというおもやくにとりてようといいました。すると為朝ためともはあざわらって
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「島田先生も、大へん御機嫌ごきげんがよくて、常よりは御酒ごしゅも過ごしなされ、御料理もよくいただいて、さてその帰りでございます」
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ト云うて、貴官あなたの方へは、彼の罪迹ざいせきを何か報告せねばならぬでせう——イヤ、其様さうせねば貴官あなた御機嫌ごきげんが悪いでせう——けれど実を言ふと
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
そしてその小さい腰かけにちょこんと腰をおろして、悠々と朝日あさひをふかしながら、雑然たる三つの実験台を等分に眺めながら、御機嫌ごきげんであった。
綱雄さんが来たらばっつけて上げるからいい。ほんとに憎らしい父様だよ。と光代はいよいよむつかる。いやはや御機嫌ごきげんそこねてしもうた。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
ことほか御機嫌ごきげんで、「村の祭が、取り持つえんで——」という、卑俗ひぞくな歌を、口ずさんでいましたが、ぼくの寝姿をみるなり
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「おや、ジムじいさん。いい御機嫌ごきげんだね。ああ分った。すてきな靴をはいて来たね、今日は……。どこで手に入れたんだい」
諜報中継局 (新字新仮名) / 海野十三(著)
だが、もっとあげようといえば、それはもらうのである。飲みものなしで、彼は、嫌いな米を頬張ほおばる。ルピック夫人の御機嫌ごきげんを取るつもりである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
忘れて打喜うちよろこびやれ/\嬉しや南無金毘羅こんぴら大權現だいごんげん心願しんぐわん成就じやうじゆ有難やとなみだを流して伏拜ふしをがみテモマア此寒さに御機嫌ごきげんよくと藤三郎を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
勤めぎらいの平中は、宮中への出仕は怠りがちであったらしいが、本院の左大臣のもとへは始終御機嫌ごきげん伺いに行った。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
うしたかぜきまわしか、そのたいへん御機嫌ごきげんがよいらしく、老顔ろうがん微笑えみたたえてわれるのでした。——
御機嫌ごきげんをそこねておりますようですからこんなことを申し上げます。風流の真似まねをいたし過ぎるかもしれません。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
町「親父は頑固いっこくものですから、お気に障りましたろうが、どうか悪く思召さないで下さいまし、御機嫌ごきげん宜しゅう」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
イと課長さんのとこへも御機嫌ごきげん伺いにお出でお出でと口の酸ぱくなるほど言ッても強情張ッてお出ででなかッたもんだから、それでこんな事になったんだヨ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
あの執拗ひねくれた焦熬いらいらしている富岡先生の御機嫌ごきげんに少しでもさわろうものなら直ぐ一撃のもとに破壊されてしまう。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ヂョウジアァナは「御機嫌ごきげん如何?」と云つて、二言三言私の旅行のことや、天氣その他のおきま文句もんくを、どちらかと云ふとまだるい、ものうげな調子で附け加へた。
「ぢや送りません。御機嫌ごきげんよう。——あ、だけど京都へお帰りになつても黙つてゐて下さい。でないと僕行つても一寸具合が悪いし、第一行きにくくなるから。」
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
御機嫌ごきげんよろしゅうと言葉じり力なく送られし時、跡ふりむきて今一言ひとことかわしたかりしを邪見に唇囓切かみしめ女々めめしからぬふりたがためにかよそおい、急がでもよき足わざと早めながら
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
と、とのさまはいま二合にがふで、大分だいぶ御機嫌ごきげん。ストンと、いや、ゆか柔軟やはらかいから、ストンでない、スポンとて、肱枕ひぢまくらで、阪地到來はんちたうらい芳酒うまざけゑひだけに、地唄ぢうたとやらを口誦くちずさむ。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
随分お達者で御機嫌ごきげんよろしう……みいさん、お前から好くさう言つておくれ、よ、し貫一はどうしたとおたづねなすつたら、あの大馬鹿者は一月十七日の晩に気が違つて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
殿様も一生おそばにおいてくださるとおっしゃるんだから、お前もその気でせいぜい御機嫌ごきげんを取り結んだらどうだえ。あたしゃ決してためにならないことは言わないよ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「じゃ、まあ御機嫌ごきげんよう。お勝さんの方へは妹から君のことを通じさせることにして置きました」
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お細工仰せつけられしは当春の初め、その後すでに半年をも過ぎたるに、いまだ献上いたさぬとはあまりの懈怠けたい、もはや猶予は相成らぬと、上様うえさま御機嫌ごきげんさんざんじゃぞ。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
勿論もちろん美妙の家で蕎麦そば一つ御馳走ごちそうになったという人もなかったようだ。かえって美妙を尋ねる時は最中もなかの一と折も持って行かないと御機嫌ごきげんが悪いというような影口かげぐちがあった。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「今日は御機嫌ごきげんが悪いようです。あれでも気が向くと、思いのほか愛嬌あいきょうのある女なんですが。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
御機嫌ごきげん如何いかゞらせられますか、陛下へいかよ!』公爵夫人こうしやくふじんひく脾弱ひよわこゑでおうかゞ申上まをしあげました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
支那しながまだ清国しんこくといつたころ北京ペキンの宮城の万寿山まんじゆさんの御殿にかけてあつたもので、その頃、皇帝よりも勢ひをもつた西太后せいたいごう(皇太后)の御機嫌ごきげんとりに、外国から贈つたものを
ラマ塔の秘密 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
皇子さまは、だんだん、お話が面白くなつて来ましたので、御機嫌ごきげんが、直つてまゐりました。
岩を小くする (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
『や、御機嫌ごきげんよう、今日こんにちは。』院長ゐんちやうは六號室がうしつはひつてふた。『きみねむつてゐるのですか?』
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
故に黒田の殿様が江戸出府しゅっぷあるいは帰国の時に大阪を通行する時分には、先生は屹度きっと中ノ嶋なかのしまの筑前屋敷に伺候しこうして御機嫌ごきげんを伺うと云う常例であった。或歳あるとし、安政三年か四年と思う。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
時には富士見町に大きな邸宅を構えている、金主の大場への御機嫌ごきげん伺いかとも思われた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
またお前たちが元気よく私に朝の挨拶あいさつをしてから、母上の写真の前に駈けて行って、「ママちゃん御機嫌ごきげんよう」と快活に叫ぶ瞬間ほど、私の心の底までぐざとえぐり通す瞬間はない。
小さき者へ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
浅田の狡智こうちにだまされた青砥左衛門尉藤綱は、その夜たいへんの御機嫌ごきげんで帰宅し、女房子供を一室に集めて、きょうこの父が滑川を渡りし時、火打袋をあけた途端に銭十一文を川に落し
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「平田さん、御機嫌ごきげんよろしゅう」と、小万とお梅とは口をそろえて声をかけた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
彼はすっかり海にひきつけられたので、一、二時間後に列車が汽笛を鳴らしてふたたび進行しだしたときには、小舟に乗っていて、列車が通り行くのを見ながら「御機嫌ごきげんよう!」と叫んでやった。
文麻呂 (厳然たる姿勢をとる)御機嫌ごきげんよろしく、お父さん!
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
「やあ、犬の八公さんか、犬共の御機嫌ごきげんはどうですか。」
犬の八公 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
「親分、御機嫌ごきげんよう。御機嫌よう」
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「では、御機嫌ごきげんよう」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
おいらのふのはよめさんのことさ、年寄としよりはどうでもいとあるに、れは大失敗おほしくじりだねとふでやの女房にようぼうおもしろづくに御機嫌ごきげんりぬ。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「それで先刻さっきから大変御機嫌ごきげんが悪いのよ。もっともあたしと兄さんと寄るときっと喧嘩けんかになるんですけれどもね。ことにこの事件このかた」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「殿様はお酒をおあがりなさるとお気が荒いけれど、平生へいぜいは親切なお方だから、御機嫌ごきげんの取りにくいことはありませぬ」
上へうかゞふには餘人にてはよろしからず兼々御懇命ごこんめいかうむる石川近江守然るべしとて近江守をまねかれ委細ゐさい申しふく御機嫌ごきげん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これで今度の戦争に勝てるというえら御機嫌ごきげんだという話を、実際にその人に会って来た友人から聞いた。
千里眼その他 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
(皆々代る/″\長者に近づきて、小聲に挨拶して歸りゆく)……でござるか? はて、しからば、いづれもかたじけなうござった。かたじけなうござる。御機嫌ごきげんようござりませ。