)” の例文
快い北東の季節風ムンスウンに吹かれ、御納戸おなんど色の絹をべた様な静平な海面を過ぎながら、十一月二十五日の朝蘭領のアノムバ島を左舷に見た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
又は八方に爪をばし、翼を広げて、あたかも大道のちりの如く、又は眼に見えぬ黴菌の如く、死ぬが死ぬまでも人間に取り付いております。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今御覧の通り幾重いくえにも幾重にもして焼いたものですから横から見てちょうど紙を幾百枚もかさねたようにならなければいけません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
客既ニ集リ炉底火ハ活シ鼎腹沸沸トシテ声アレバすなわち茗ヲテ主客倶ニすすルコト一碗両碗。腋間えきかん風生ズルニ至ツテ古人ノ書画ヲブ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
初月楚々として西天に懸り、群星更に光甚を争ふ。はるかに濤声を聴くは楽を奏するを疑ひ、仰いで天上を視れば画をぶるが如し。
客居偶録 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
床をべに来た女中に聞いてみると、お内儀かみさんが、さっき出たまま、まだ帰らないので、旦那様がれて怒っているのだと言いました。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
信長が志業を中央へべる始めに、その後顧こうこたる三河の家康を説いて、織徳しょくとく同盟を成功に導いた彼の功は信長も大きく買っていたらしい。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この歌の左に、「春日遅遅として、鶬鶊ひばり正にく。悽惆せいちうの意、歌にあらずば、はらひ難し。りて此の歌を作り、ちて締緒ていしよぶ」
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
桜町さくらまち殿との最早もはや寝処しんじより給ひしころか。さらずは燈火ともしびのもとに書物をやひらき給ふ。らずは机の上に紙をべて、静かに筆をや動かし給ふ。
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そして水を離れて日に照された櫂のやうに光る白歯が見える。哀しい追憶を隠す、重いたれぬのが開くやうに、眉の間の皺がびる。
その寝るには表の往来を枕にして、二つ並べてべたとこ枕辺まくらもとの方にはランプを置いて、愈々いよいよ睡る時はそのランプの火を吹き消してくらくする。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
ぎょくはそこでやぐべて暫く女をやすまし、自分は他のへやへいって寝たが、朝になって女の所へいってみると、女は帰ったのかもういなかった。
阿英 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
紙をべておもいを構うるときは自然とそう云う気合になる。この気合が彼らの人生観である。少なくとも文章を作る上においての人生観である。
写生文 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
紙をべ、ペンを執った。が、最初の一字を書こうとして気がつくと、何事であろう、いつの間にか感情の扉はぴたりと閉ってしまっている。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
祖父岳から右にべた一線が、幾多の峰頭を鈍い金字形に統一した尨大な薬師岳との間に、鏑箭かぶらやのように高鳴りして雲平の高原を拡げている。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
すぐ彼の前にべられた妻の寝床から、彼は反対の方に寝返りをした。眠ろうと思って眼をつぶったが、頭のしんが妙に冴え返って眠れなかった。
愚かな一日 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
今となって職業の好みもなく、また、田舎いなか住いでも幸福だと云った意味を長々とべて。彼女にも安心の行くように音読してさえ聞かせてやった。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
さま銀色の帶をべたる如し。この細大二流は、わが立てるいはほの前に至りて合し、幅ひろき急流となり、乳色の渦卷を生じてそこひなき深谷にみなぎり落つ。
いまふさがず、れいみはつて、ひそむべきなやみもげに、ひたひばかりのすぢきざまず、うつくしうやさしまゆびたまゝ、またゝきもしないで、のまゝ見据みすえた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これのみは御自分の身にくらべお察し下されたく候、さて床のべあり候に清さんと這入はいり候時の私の心は
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
遠くを這っている時はうすい白繻子しろじゅすべたように見えるが、近くに寄せて来る時は一二寸の厚みを持って、湯に溶けたシャボンの如くに盛上っている。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
せめては令見みせしめの為にも折々くぎを刺して、再び那奴しやつはがいべしめざらんにかずと、昨日きのふは貫一のぬからず厳談せよと代理を命ぜられてその家に向ひしなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
エレベーターの後ろへ廻って、厳重な差掛屋根ペントハウスを出ると、すぐ私の散歩場なる屋上庭園は、何んのわだかまりもなく、丸ノ内の中空に宏々ひろびろべられて居たのです。
極彩色の、現実離れのした綺麗な男女の滑稽な痴態の有様が村井の繰りべる巻物の中で行列を成してゐた。
南風譜 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
その十八日の夜は皆帰ってしまって、余一人座敷に床をべて寝ることになった。どうも寝る気がしないので庭に降りて見た。それは十二時頃であったろう。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ただ先生は教育家として凡人主義を社会に皷吹こすいし、我輩は政治家としてこの主義を社会にべんと欲したという差があるのみで、非凡人主義なる封建思想を破壊し
お蘭は自分でとこべて寝ましたが、寝ても寝られませんから、旦那様は今日もお帰りはないか、何時迄待ってもお帰りがなくっては、淋しい処に居るのもいやだし
この上は仮設こしらえるべき口実いいぐさの種も尽て居たが、さればと云って小歌に逢わずには居られず、つるんだ金の手もとで出来るはずはないのでよんどころなく巻紙の皺をべて
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
蒼空と大海原のような限りもなくきわまりもない時空の引伸し器に挟まれたなら、まるで縁日の芭蕉せんべいを焼くように、平たくばされ、もろくも軽くふくらまされて
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
斉彬の死によって、一新した心は、斉彬の遺志をべさすために、十分の熱と、力とをもっていた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
そうしてうす暗い夜の世界がべられると蝙蝠こうもりのように夜だけ羽をひろげて飛び廻る女供を狙う幾多あまたの男が、何処からともなく寒いのも打ち忘れてぞろぞろと出て来る。
女給 (新字新仮名) / 細井和喜蔵(著)
「しかし学校は初めのうち丈けだよ。したところで天井てんじょうつかえているから、大したことはない」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
天狗星てんぐせいの流れます年の春には花頂若王子にゃくおうじのお花御覧、この時の御前相伴衆ごぜんしょうばんしゅうはしは黄金をもってべ、御供衆おともしゅうのは沈香じんこうを削って同じく黄金の鍔口つばぐちをかけたものと申します。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
無造作に鋼線はりがねで繋いだ木柵は、まばらで、不規則で、歪んで、破れた鎧の袖をべた樣である。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
物置の天井に一坪に足らぬ場所を発見してここに蒲団をべ、自分はそこに横たわって見た。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
思いを晴らし心をばし、観じてみればこれまでの辛苦、お吉にはかえって楽しみであった。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
秋になって病気もややうすらぐ、今日は心持が善いという日、ふと机の上に活けてある秋海棠しゅうかいどうを見て居ると、何となく絵心が浮んで来たので、急に絵の具を出させて判紙べて
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
札幌さっぽろ行の列車は、函館の雑沓ざっとうをあとにして、桔梗、七飯なないいと次第に上って行く。皮をめくる様に頭が軽くなる。臥牛山がぎゅうざんしんにした巴形ともえなりの函館が、鳥瞰図ちょうかんずべた様に眼下に開ける。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
紙をべた机はちり一つない、清らかな、冷たい触感をたたえたまま、彼の前にあった。
冬日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
のみならずべ紙の左はしに、何やら、べっとりと油じみたみのあとがありましたので、試みにその匂いを嗅いでみると、これが浅ましい事にはあまり上等でない梅花香のみでした。
探偵小説家の梅野十伍うめのじゅうごは、机の上に原稿用紙をべて、意気はなは銷沈しょうちんしていた。
軍用鼠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
法名といふものも年月もしるさで、三十一字に末期いまはの心を哀れにもべたり。
そして今、レンズの場合、光が石英の合成体を通して、正しき屈折律をもって反射し、そこにべられる正確なる光の現象は、集団的意志、すなわち見る意志の深い具象化とも考えられよう。
うつす (新字新仮名) / 中井正一(著)
なんとなれば欲求に高下の差別はあり得ぬにしても、われらはある欲求は制してある欲求はばしているが、この説明者は理想でなければならぬからである。私は自己運動の満足説を奉じたい。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
灼熱の夏日かじつくれなゐに移る一歩前、陽光さんさんと降りくだつて、そこに菜の花は咲きつづき、やはらぎと喜びの色に照りはえ、べひろげられ、麗かに、のどかに國を包んで、朝にけ、夕べに暮れてゐる。
いや、それよりも一層身の毛がよだつたのは、師匠の良秀がその騒ぎを冷然と眺めながら、徐に紙をべ筆をねぶつて、女のやうな少年が異形な鳥にさいなまれる、物凄い有様を写してゐた事でございます。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「皆様の御床はもうべて御座います」と老婆も言葉を添えた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
よく経綸けいりんの業をべ、めぐりのぼ輔弼ほひつえい
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一つ一つ書いてゆく間に、自分の過去の歴史がまるで絵巻物のように眼前にべられる。もっとも懐かしいのは郷里の故旧の名前が呼びだす幼き日の追憶である。そういう懐かしい名前が年々に一つ減り二つ減って行くのがさびしい。
年賀状 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
横は世界を巻きて
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)