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寂然
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しん
ふりがな文庫
“
寂然
(
しん
)” の例文
寂然
(
しん
)
として、
果
(
はて
)
は目を
瞑
(
つむ
)
って聞入った旅僧は、夢ならぬ顔を上げて、
葭簀
(
よしず
)
から街道の
前後
(
あとさき
)
を
視
(
なが
)
めたが、日脚を仰ぐまでもない。
草迷宮
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
寂然
(
しん
)
と更けた纐纈城、耳を澄ませば地下に当って、物の呻くような音がする。人間の血を無限に
貪
(
むさぼ
)
る、血絞り機械の音である。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
……時計の刻む音は、火の気のない
寂然
(
しん
)
とした広間に響いて、
針線
(
しんせん
)
は目に見えぬ位に、しかし
用捨
(
ようしゃ
)
なく進んだ。
点
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
母は
如何
(
どう
)
したろうと
後
(
うしろ
)
を振向く途端に、「おお作か」、という声が
俄
(
にわか
)
に
寂然
(
しん
)
となった座敷の
中
(
うち
)
に聞えたから、又
此方
(
こッち
)
を振向くと、其処に伯父が居るようだ。
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
法廷は水を打ったように
寂然
(
しん
)
となった。人々の同情は、この黒衣を着て
面窶
(
おもやつ
)
れのした百姓婆さんに集まった。
情状酌量
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
▼ もっと見る
母を呼びまた姉を呼んで見たが、答うる者は
木精
(
こだま
)
の響き、梢の鳥、ただ
寂然
(
しん
)
として音もしない。
初恋
(新字新仮名)
/
矢崎嵯峨の舎
(著)
境内は
寂然
(
しん
)
として雨水の溜りに石燈籠と若木の桜の影との浮んでいるばかりであった。
写況雑記
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
暫くすると廊下を三階の階段の方へ歸つてゆく跫音がした、その階段には近頃それを塞ぐ
扉
(
ドア
)
が造られてゐた。その
扉
(
ドア
)
が開いて
閉
(
し
)
まるのが聞え、そしてすべては
寂然
(
しん
)
としてしまつた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
或る朝二番船も出まして、もう一人も客はおりませんで
寂然
(
しん
)
としております。
松の操美人の生埋:02 侠骨今に馨く賊胆猶お腥し
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
宿に帰って、私は寝ようとして、
寂然
(
しん
)
とした心持ちになると、隣室の人達が計画している音楽会が、この今夜のように静かに眠っている町に、何か新らしい波紋を起こそうとしているように思われる。
遠野へ
(新字新仮名)
/
水野葉舟
(著)
私は人気のない
寂然
(
しん
)
とした教室で、ひとりで涙をながしていた。
幼年時代
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
しかし其声は口の中で消え
四辺
(
あたり
)
は
寂然
(
しん
)
と静かである。彼は襖を引き開けた。それは開けたと思ったばかりで、依然として襖は閉ざされている。
赤格子九郎右衛門
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
山中の
湯泉宿
(
ゆやど
)
は、
寂然
(
しん
)
として
静
(
しずま
)
り返り、遠くの方でざらりざらりと、
湯女
(
ゆな
)
が湯殿を洗いながら、歌を唄うのが聞えまする。
湯女の魂
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
なるほどこの
町
(
まち
)
にきてみると、それは
人々
(
ひとびと
)
のいったように
気味
(
きみ
)
の
悪
(
わる
)
い
町
(
まち
)
でありました。
音
(
おと
)
ひとつ
聞
(
き
)
こえるではなく、
寂然
(
しん
)
として
昼間
(
ひるま
)
も
夜
(
よる
)
のようでありました。
眠い町
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
余
(
あと
)
は皆小官吏や下級の会社員ばかりで、皆朝から弁当を持って出懸けて、午後は四時過でなければ帰って来ぬ
連中
(
れんじゅう
)
だから昼の
中
(
うち
)
は家内が
寂然
(
しん
)
とする程静かだった。
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
柳
(
やなぎ
)
に
渡
(
わた
)
る
風
(
かぜ
)
もなし、
寂然
(
しん
)
として、よく
聞
(
きこ
)
える……たゞ
空
(
そら
)
走
(
はし
)
る
雲
(
くも
)
ばかり、
月
(
つき
)
の
前
(
まへ
)
を
騷
(
さわ
)
がしい、が、
最初
(
はじめ
)
から
一
(
ひと
)
ツ
一
(
ひと
)
ツ、
朗
(
ほがらか
)
な
聲
(
こゑ
)
が
耳
(
みゝ
)
に
響
(
ひゞ
)
くのであつた。
浅茅生
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
後は
寂然
(
しん
)
と音もしない。しかし無数の邪教徒が、四方八方から彼を取りこめ、討ち取ろう討ち取ろうとしていることは、ほとんど疑う余地はなかった。
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
また
音
(
おと
)
ひとつ
聞
(
き
)
こえてこない
寂然
(
しん
)
とした
町
(
まち
)
であります。また
建物
(
たてもの
)
といっては、いずれも
古
(
ふる
)
びていて、
壊
(
こわ
)
れたところも
修繕
(
しゅうぜん
)
するではなく、
烟
(
けむり
)
ひとつ
上
(
あ
)
がっているのが
見
(
み
)
えません。
眠い町
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
宵惑
(
よいまどい
)
の私は例の通り宵の口から寝て了って、いつ
両親
(
りょうしん
)
は
寝
(
しん
)
に就いた事やら、一向知らなかったが、ふと目を覚すと、
有明
(
ありあけ
)
が枕元を
朦朧
(
ぼんやり
)
と照して、
四辺
(
あたり
)
は
微暗
(
ほのぐら
)
く
寂然
(
しん
)
としている中で
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
この
断乎
(
だんこ
)
たるオースチン師の言葉に、鬼王丸は失望したか、何事も云わず下
俯向
(
うつむ
)
いた、一座
寂然
(
しん
)
として言葉もない。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
裏町
(
うらまち
)
、
表通
(
おもてどほ
)
り、
火
(
ひ
)
を
警
(
いまし
)
むる
拍子木
(
ひやうしぎ
)
の
音
(
おと
)
も、
石
(
いし
)
を
噛
(
か
)
むやうに
軋
(
きし
)
んで、
寂然
(
しん
)
とした、
臺所
(
だいどころ
)
で、がさりと
陰氣
(
いんき
)
に
響
(
ひゞ
)
く。
間引菜
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
馬
(
うま
)
の
背
(
せ
)
のやうに
乘上
(
のりあが
)
つた
俥
(
くるま
)
の
上
(
うへ
)
の
目
(
め
)
の
前
(
まへ
)
に、
角柱
(
かくばしら
)
の
大門
(
おほもん
)
に、
銅板
(
どうばん
)
の
額
(
がく
)
を
打
(
う
)
つて、
若葉町
(
わかばちやう
)
旭
(
あさひ
)
の
廓
(
くるわ
)
と
鑄
(
い
)
てかゝげた、
寂然
(
しん
)
とした、
明
(
あか
)
るい
場所
(
しま
)
を
見
(
み
)
たからである。
飯坂ゆき
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
叔父の家を出た弓之助は、
寂然
(
しん
)
と更けた深夜の江戸を屋敷の方へ帰って行った。考えざるを得なかった。
銅銭会事変
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
それでいて——
寂然
(
しん
)
として、海ばかり動きます耳に響いて、秋谷へ近路のその山づたい。鈴虫が
音
(
ね
)
を立てると、露が
溢
(
こぼ
)
れますような、
佳
(
い
)
い声で、そして
物凄
(
ものすご
)
う
草迷宮
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
六蔵の体が地の上へ潰された
蟇
(
がま
)
のようにヘタバった。
寂然
(
しん
)
と後は静かであった。常夜燈の灯がまばたいた。ギー、ギーと櫓を漕ぐ音が、河の方から聞こえて来た。
銅銭会事変
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
俥
(
くるま
)
は
寂然
(
しん
)
とした
夏草塚
(
なつくさづか
)
の
傍
(
そば
)
に、小さく見えて待っていた。まだ葉ばかりの
菖蒲
(
あやめ
)
杜若
(
かきつばた
)
が
隈々
(
くまぐま
)
に自然と伸びて、荒れたこの広い
境内
(
けいだい
)
は、
宛然
(
さながら
)
沼の乾いたのに似ていた。
七宝の柱
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
場内は
寂然
(
しん
)
と静かであった。松明の火が数を増した。火事場のように赤かった。後から後からと無数の信者が、出入り口からはいって来た。みんな
得物
(
えもの
)
を持っていた。
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
白昼も
寂然
(
しん
)
としていて
訝
(
こだま
)
をするか、濁って呼ぶから女の名ではあるまいが、おなじ名のきれいな、あわれな
婦
(
おんな
)
がここで自殺をしたと伝えて、のちのちの今も
尚
(
な
)
お
遺稿:02 遺稿
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
……箱から現われ出た
大猩々
(
おおしょうじょう
)
! 私はそのまま気絶して再び
呼吸
(
いき
)
を吹き返した時には四辺は
寂然
(
しん
)
と静まり返り、一人さっきの
欧羅巴
(
ヨーロッパ
)
人が死んだように倒れているばかりだ。
沙漠の古都
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
寂然
(
しん
)
としておりますので、
尋常
(
ただ
)
のじゃない、と何となくその暗い灯に、白い影があるらしく見えました。
菎蒻本
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
そこに立ててある
几帳
(
きちょう
)
の蔭へ彼女は静かにはいって行った。と、一瞬間「あっ」という声が几帳の蔭から聞こえて来たが、ただ一声聞こえただけで後は
寂然
(
しん
)
と静かになった。
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
颯
(
さっ
)
と
照射入
(
さしい
)
る月影に、お藤の顔は
蒼
(
あお
)
うなり、人形の形は
朦朧
(
もうろう
)
と、煙のごとく
仄
(
ほの
)
見えつ。霊山に
撞
(
つ
)
く寺の鐘、
丑満時
(
うしみつどき
)
を
報
(
つ
)
げ
来
(
こ
)
して、天地
寂然
(
しん
)
として、室内陰々たり。
活人形
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
博士の声が消えた後は書斎の中は
寂然
(
しん
)
となって呟き一つ聞えなくなった。やがて老僕は跫音を忍んで書斎の前を立ち去ったが其晩を限りにバルビューの姿は永久世間から失われた。
物凄き人喰い花の怪
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
口々
(
くち/″\
)
に
言
(
い
)
ひ
交
(
かは
)
して、
寂然
(
しん
)
とした
道
(
みち
)
ながら、
往來
(
ゆきき
)
の
慌
(
あわたゞ
)
しい
町
(
まち
)
を、
白井
(
しらゐ
)
さんの
家族
(
かぞく
)
ともろともに
立退
(
たちの
)
いた。
露宿
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
ひとしきり
寂然
(
しん
)
と静かであった。
龕
(
がん
)
の灯がユラユラと揺らめいた。どこからか微風がはいったと見える。面が一斉に瞬いた。がしかしすぐ止んだ。龕の灯が静止したからであろう。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
崖下ながら、ここの屋根に日は当るが、軒も
廂
(
ひさし
)
もまだ雫をしないから、狭いのに
寂然
(
しん
)
とした平屋の奥の六畳に、火鉢からやや
蒸気
(
いきれ
)
が立って、炭の新しいのが頼もしい。
薄紅梅
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
美男の浪人が炉の前で、内職の
楊枝
(
ようじ
)
を削っていた。あたりは
寂然
(
しん
)
と静かであった。
名人地獄
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
あまりの事に、
寂然
(
しん
)
とする、その人立の中を、どう替草履を
引掛
(
ひっか
)
けたか覚えていません。夢中で、はすに木戸口へ
突切
(
つっき
)
りました。お絹は、それでも、帯も襟もくずさない。
白花の朝顔
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
場内は一時に
寂然
(
しん
)
とした。さすがは城主の威厳であった。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
……時に、その
枕頭
(
まくらもと
)
の
行燈
(
あんどん
)
に、一挺消さない蝋燭があって、
寂然
(
しん
)
と
間
(
ま
)
を
照
(
てら
)
しておりますんでな。
菎蒻本
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
やがて妖婆は泣き止んだ。
四辺
(
あたり
)
はにわかに
寂然
(
しん
)
となる。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
路が
一条
(
ひとすじ
)
、
胡粉
(
ごふん
)
で
泥塗
(
だみ
)
たように、ずっと白く、
寂然
(
しん
)
として、
家
(
や
)
ならび、三町ばかり、手前どもとおなじ
側
(
かわ
)
です、けれども、何だか遠く離れた海際まで、突抜けになったようで
縷紅新草
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
寂然
(
しん
)
と更けた富沢町。人っ子一人通ろうともしない。
三甚内
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
まあ、お
待
(
ま
)
ちよ、
友
(
とも
)
さん、
眞個
(
ほんと
)
に
可
(
い
)
いんだよ。……
決
(
けつ
)
して
邪魔
(
じやま
)
にするんぢやない。
一人
(
ひとり
)
の
方
(
はう
)
が、
何
(
な
)
んだか
落着
(
おちつ
)
いて、
寂然
(
しん
)
として、
墓
(
はか
)
の
松
(
まつ
)
に
吹
(
ふ
)
く
風
(
かぜ
)
も
聞
(
きこ
)
えるだらうと
思
(
おも
)
ふからだよ。
月夜車
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
が、それもすぐ止んで、またもや後は
寂然
(
しん
)
となった。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
と
急遽
(
きゅうきょ
)
囁
(
ささや
)
き合う声があちこちして、天井まで
湧返
(
わきかえ
)
る
筈
(
はず
)
を、かえって、瞬間、
寂然
(
しん
)
とする。
卵塔場の天女
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
その後は
寂然
(
しん
)
となってしまいました。
怪しの者
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
泣いて、……泣いている……と囁く声が、ひそひそと立って、ふと
留
(
や
)
むと
寂然
(
しん
)
とした。
露萩
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
しばらくの間は
寂然
(
しん
)
としていた。
あさひの鎧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
第一
(
だいいち
)
、もう
店
(
みせ
)
を
閉
(
とざ
)
して、
町中
(
まちぢう
)
寂然
(
しん
)
として、ひし/\と
中
(
うち
)
に
荷
(
に
)
をしめる
音
(
おと
)
がひしめいて
聞
(
きこ
)
えて、
鎖
(
とざ
)
した
戸
(
と
)
には
炎
(
ひ
)
の
影
(
かげ
)
が
暮
(
く
)
れせまる
雲
(
くも
)
とともに
血
(
ち
)
をそゝぐやうに
映
(
うつ
)
つたと
言
(
い
)
ふのであつた。
間引菜
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
“寂然”の意味
《形容動詞》
ひっそりとして寂しいさま。静かなさま。
(出典:Wiktionary)
“寂然”の解説
寂然(じゃくせん/じゃくねん)は、平安時代後期の僧・貴族・歌人。俗名は藤原 頼業(ふじわら の よりなり)。藤原北家長良流、丹後守・藤原為忠の四男。官位は従五位下・壱岐守。(諸説あり不詳)
(出典:Wikipedia)
寂
常用漢字
中学
部首:⼧
11画
然
常用漢字
小4
部首:⽕
12画
“寂然”で始まる語句
寂然定