すこや)” の例文
こうして、うつくしいすこやかな千浪と、練塀小路の小鬼、美青年伴大次郎とは、男女ののりを越えない潔い許婚の仲をつづけて来ている。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
おうなは忽ち身を起し、すこやかなる歩みざまして我前に來て云ふやう。能くも歌ひて、身のしろをち得つるよ。のどの響はやがて黄金こがねの響ぞ。
お父様は何うなされたかと日々お案じ申しまするのみでございましたが、先ずはおすこやかなる御顔おんかおを拝しまして誠に大悦たいえつに存じまする
こうした父の持病は一生を通して父を苦しめたとは言え、しかし岸本は父にもすこやかな月日の多かったことを想像することが出来る。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
伝兵衛はもう六十と云っていたが、身のたけも高く、頬の肉も豊かで、見るからすこやかな、いかにも温和らしい福相をそなえた老人であった。
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
素戔嗚すさのおはその湖の水を浴びて、全身のけがれを洗い落した。それから岸に臨んでいる、大きなもみの木の陰へ行って、久しぶりにすこやな眠に沈んだ。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
温室の花は虫に弱い、野の花はこれに比べてはるかすこやかである。私は今も咲くその健かな花を見るために旅立ったのである。
北九州の窯 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
すると、ふと、彼は初めて妻を見たときの、あの彼女のただ彼のみにゆるされてあるかのようなすこやかな笑顔を思い出した。彼は涙がにじんで来た。
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
すこやかに保つことを忘れてはならぬ。霊も肉もあの世もこの世も一であって二ではない。聖なる人間は取りも直さず俗世間にも健かな人間である。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
この清くすこやかになった心を持って、新しく地上の生活に参加し活動する。そうして又彼の天の高きにあこがれ、登山の楽みを今年も試みようとする。
高きへ憧れる心 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
健康問題について心を労しない。生きる死ぬるということが気にならないような、心のすこやかさをもつことができる。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
御念ごねんおよばぬ、じやうぬまそこく……霊泉れいせんゆあみさせて、きづもなく疲労つかれもなく苦悩くなうもなく、すこやかにしておかへまをす。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
せざりし者と泣々なく/\たのもらひ乳の足ぬがちなる養育やういくつなぐ我が子の玉のほそくも五たいやせながら蟲氣むしけも有ぬすこやかさえん有ればこそ親子と成何知らぬ兒に此憂苦いうく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
遠からず父上母上を迎へ取り、膝下しつか奉仕ほうじすることとなすべきなど語りきこえて東京に帰り、先づ愛児のすこやかなる顔を見て、始めて十数日来すうにちらいさをはらしぬ。
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
電鈴ベルを押すと、すぐに人が出て来たのは意外だった。迎えてくれたのは、三十四五の、涼しそうな髭を立てた、見るからにすこやかそうな和服姿の紳士だった。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
なれどもすこやかな二本の脚を、何面白おもしろいこともないに、ねじって折って放すとは、何という浅間あさましい人間の心じゃ。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
同時におのおのの心と肉体とを、すこやかに清々すがすがしくお保ちくだされ! 一言とはなんぞや! 一言とはなんぞや!
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
どこまでもつよすこやかな心の活動をもって本当に自己の衷に見出されたものを維持し発展することができる人は、真に個性の何たるかを理解することができる。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
自分は恋しい妻をもうくしたが、白髪になるまで二人ともすこやかで、その妻の声を聞くことの出来る人は何と為合しあわせな人だろう、うらやましいことだ、というので
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
人の世より神の世に、時より永劫に、フィオレンツァより、正しきすこやかなる民のもとに來れる我 三七—三九
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
おもうに近頃諸国で結婚問題やかましく、優生学者等同音に男女身体検査を厳重に行うた後、相応ふさわしい同士を婚せしむべきを主張するが、体すこやかにして子なきも多ければ
れを腑甲斐ふがひなしとおもふな、うでにはしよくありすこやかなるに、いつまでくてはあらぬものをと口癖くちぐせあふせらるゝは、何處どこやらこゝろかほでゝいやしむいろえけるにや
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さなきだにあおざめて血色しき顔の夜目には死人しびとかと怪しまれるばかり。あまつさえ髪は乱れてほおにかかり、頬の肉やや落ちて、身体からだすこやかならぬと心に苦労多きとを示している。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
聞くにつけ、よそながらいたましゅう存ぜられて居った。然し、おすこやかのてい、何よりでござる
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かたわらに二、三の人あり。その内の一人、人の耳ばかり見て居るとよつぽど変だよ、など話して笑ふ。我はすこやかなる人は人の耳など見るものなることを始めて知りぬ。(一月二十三日)
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
彼は父祖から、堅固な骨格と、弱点のないすこやかな肉体とを、受け継いではいた。
駒形茂兵衛、途中で食い物にありつき、前よりはすこやかになっている。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
私は恋人にでも手を取られて居る様な甘い気持に浸りながら、小さな時計の面に視線を集めて居る彼女のすこやかさうな顔を見つめて居た。彼女の指先の温味が私の手から心臓に伝つて来るのを感じた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
世にはたいすこやかなるが為に心健かならざるもの多ければ、常に健やかなるものゝ十日二十日病床に臥すは、左まで恨むべき事にあらず、してこの秋の物色けしきに対して、命運を学ぶにこよなき便よすがあるをや。
秋窓雑記 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
すこやけく常はさずも大御命おほみいのち長くせよと仰ぎしものを
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
彼はアラビヤの山多き地方に生れた、彼はすこやかに
いかにすこやかにも頼むに足るの現実ぞや。
生活のうるほひ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
日本はすこやかで、正しく、美しかった。
光り合ういのち (新字新仮名) / 倉田百三(著)
熟さぬ果実のすこやかさであつた。
盂蘭盆 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
すこやかな、若い女等の手足が
さくなりてすこやか冬籠
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
盲人のさとき習として、少女はその常の錢ならぬを知りたるなるべし、顏は燃ゆる如くなりて、そのすこやかに美しき唇は我手背に觸れたり。
その弟らしいのが三四人、どれもこれも黒い垢のついた顔をして、髪はまるでよもぎのように見えた。でも、すこやかな、無心な声で、子供らしい唄を歌った。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
茶筅を見ますと誠に繊細な技に達しておりますが、やや度を過ごして病いに近づきつつあると思われます。何かもっとすこやかな姿となり得ないものでしょうか。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ば折られても、二度と父母の処へも戻ったのぢゃ。なれどもすこやかな二本の脚を、何面白いこともないに、ねぢって折って放すとは、何といふ浅間あさましい人間の心ぢゃ。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
たとへば冬の日ヴェネーツィア人の船廠アールセーナに、すこやかならぬ船を塗替へんとて、ねばやに煮ゆるごとく 七—九
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
何分御主人さまにつきッ切りゆえ、参る事も出来ないので、存じながら大層御無沙汰になって、誠に相済みませんが、何時もお変りなくおすこやかで私も満足致しました
なぜなら人間性の実現せられる状態は個個の人に由って異っている。それが個性といわれるものである。すこやかな個性は静かに停まっていない、断えず流転し、進化し、成長する。
母性偏重を排す (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
私の実の父も母も飯田の城下にすこやかに現在ただいま生活くらしておりますものを、臨終いまわの妄執だの亡魂だのと、らちもないことをおおせられる。おたわむれも事によれ、程度ほどを過ごせば無礼ともなる。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
英一もすこやかならば、来年はかくあるべきものをと、またしても眼瞼まぶたの重きをおぼゆ。
見るに今夜こくに死する者がかくすこやかに有べき樣もなし如何なればおうが斯樣の事を云しかと不審ふしんするも道理ことわりぞかし然れば靱負は甚だ氣色きしよくそんじ居ける故主は昨日もらひし金子きんすにてさけさかな
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
身のすこやかなる夫人は、かえって、かッと上気して眩暈めまいを感じて、扉を閉めながら蹌踉よろめいたが、ばらばら脱ぎ散らした上草履乱れた中に、良人のを見て、取って揃えて直しながら、袖にも襟にも
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
明日一小児門外に棄てあり、何者と知れず、すこやかに見えしとて、憐れんでおのが子のごとく養ひ、成長後嗣子とせり、もとより子なかりしを知りて、何方いずかたよりか奪ひ来りしとみゆ、狼つれ来りし証は
武は勝たんがための武ではない。正しく生き、すこやかに明るくあらんがための武であり、剣であるということが、この二羽の鶯を見るたびに、いつまでも両藩の若侍たちの胸に力強くひびいたという。
平馬と鶯 (新字新仮名) / 林不忘(著)
すこやけく常はさずも大御命おほみいのち長くせよと仰ぎしものを
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)