便宜べんぎ)” の例文
良兼は何様どうかして勝を得ようとしても、尋常じんじやうの勝負では勝を取ることが難かつた。そこで便宜べんぎうかゞひ巧計を以て事をさうと考へた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
が、折角せっかくたのみとあってればなんとか便宜べんぎはかってげずばなるまい。かく母人ははびと瀑壺たきつぼのところへれてまいるがよかろう……。
けれどもそれはただ自分の便宜べんぎになるだけの、いわば私の都合に過ぎないので、先刻さっき云った母のいいつけとはまるで別物であった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一種の役徳やくとく があります。それは政府から一人について三千円の金を借り得らるる便宜べんぎがあるので、その金は僅かに五分の利子である。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
伊勢詣りとわかれば箱根の關所もやかましいことは言はず、先々の宿も舟も、何彼と便宜べんぎを與へてくれる世の中だつたのです。
……今度、其の若年寄に、便宜べんぎあつて、京都比野大納言殿より、(江戸隅田川の都鳥みやこどりが見たい、一羽首尾ようして送られよ。)
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しかし、敵地の城下なのでもちろん儘ならぬものがあったが、昆陽寺の和尚はつねにその場所と便宜べんぎとをこの人々のために与えてくれていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いゝえ、私とあそこの人達とはこちらの便宜べんぎで頼んで差支へないやうな、そんな間柄の親類ぢやないのでございます。私は廣告いたします。」
刀の儀難有御厚禮申上候。何卒便宜べんぎを以て御遣し被下度奉合掌がつしやう候。かけ重疊かさね/″\自由の儀申上不都合千萬に御座候得共、御仁宥可下候。
遺牘 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
「僕はこの右足湖畔の怪を調べるために、東京から派遣されたこういう者です。犯人を捜す便宜べんぎのため、署長さんに永く隠して貰っていたのです」
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
二人ふたりは、めずらしいものがにはいると、いろいろなくにみやこへ、どことはかぎらずに、ふね便宜べんぎによって上陸じょうりくしました。
汽船の中の父と子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それに、附近には昔ながらのあけっ放しな百姓が点在していて、そこの納屋なやからくわを盗み出す便宜べんぎもあるのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
唯、必要と云ふ語に、幾分でも自他共便宜べんぎと云ふ意味を加へれば、まるで違つた事が云はれるかも知れません。それなら私は口をつぐんだ方がいいでせう。
また先生のおしえしたがいて赤十字社病院にいりたる後も、先生来問らいもんありてるところの医官いかんに談じ特に予が事をたくせられたるを以て、一方ひとかたならず便宜べんぎを得たり。
なにしろ故人がまだ生きているうちに手記したものだから、この手紙はヘンリイにとって大きな便宜べんぎとなった。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
するとあらゆる事柄はもはや、世人の意見と生活の便宜べんぎとに一致する点においてしか価値をもたなかった。そうなると彼女は、母と同じ精神状態に陥った。
それに梅子さんほかの方の妻君おくさんなど不思議だと思ひますよ、男子の不品行は日本の習慣だし、ことに外交官などは其れが職務上の便宜べんぎにもなるんだからなんて
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
と、いうのは、この男、たしかに、三斎屋敷を辞して来たところらしいので、何かの時の便宜べんぎと考えたからだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
富士男の一行は左岸の林中に、ストーンパインを発見したというではないか、そうすればぼくらは、ゆくゆく果実を採集さいしゅうする便宜べんぎがある。一挙両得きょりょうとくじゃないか
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
岡本という人物は、谷村夫妻の心象世界を説くための便宜べんぎなので、今はそれ以上のことを考えていない。
先生が女性体育家になったのは、勉強に給費制度があるため学費に便宜べんぎなところもあったには違いないが、また、こういう先生自身の内的な要求からでもあった。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ないものははらへないからそこは宗教しうけうちからで、なんとか便宜べんぎはかつてはくれまいかと嘆願たんぐわんしてたんですが、彼奴あいつはどうして、規定きてい規定きていだから、證明書しようめいしよもなくかねもないなら
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
或人あるひとは、日本人にほんじんみづか姓名せいめい轉倒てんたふしてこと國際的こくさいてき有意義ゆういぎであり、歐米人おうべいじんのために便宜べんぎおほきのみならず、吾人ごじん日本人にほんじんつても都合つがふがよいといふが、自分じぶんはさうおもはぬ。
誤まれる姓名の逆列 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
それ故余は都会生活の煩累はんるいなくしてしかも万事に便宜べんぎな田舎の生活をする事ができるのだ。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
前哨ぜんしょうたる米屋の店と聯絡れんらくを取って、何かの便宜べんぎを計るためであったことはいうまでもない。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
記載は見合はせ、一般讀者の便宜べんぎを計り、直ちに各種の器具に就き説明せつめいを試む事とすべし。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
此處こゝからもつと便宜べんぎなる、またもつとちか貿易港ぼうえきかう矢張やはり印度國インドこくコロンボのみなとで、海上かいじやう大約おほよそ千二百マイル、それより橄欖島かんらんたうまでは千五百マイルじやく、されば、本艦ほんかん明後晩めうごばんコロンボにいかりとう
たい多數たすうひとあつまつて一組織そしきすれば自然しぜんいきほひとして多數人たすうじん便宜べんぎといふこと心掛こゝろがけねばなりません、多數たすう都合つがふよろしいとやうにといふのが畢竟ひつきやう規則きそく精神目的せいしんもくてきでありませう。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
思うにそれは、私の父に対するがごとくに好いて一緒になったわけでもなく、ただ、生活の便宜べんぎのためにのみ一緒になった中村との間のことだから、一層つらかったのに相違ない。
単に薪水しんすい食料しょくりょうを求むるの便宜べんぎを得んとするに過ぎざりしは、その要求ようきゅう個条かじょうを見るも明白めいはくにして、その後タオンセント・ハリスが全権ぜんけんを帯びて来るに及び、始めて通商条約つうしょうじょうやくを結び
これ我々自身の希望、もしくは便宜べんぎによるか、父兄の希望、便宜によるか、あるいはまた両者のともに意識せざる他の原因によるかはべつとして、ともかくも以上の状態は事実である。
便宜べんぎな材料でありますから、更に美しい形を与えたら、まだまだよい仕事に延びて行くでありましょう。次には馬具屋が現れます。ここの鞍骨くらぼね金具かなぐのよさではたしかに日本一でありましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
こうして彼は私を鞭撻べんたつしてくれたのだ。そして今また今度の会へもぜひ私を出席さして、その席上でいろいろな雑誌や新聞の関係者に紹介してくれて、生活の便宜べんぎを計ってやると言っていたのだ。
遁走 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
バクテリヤを植物だ、アミーバーを動物だとするのは、ただ研究の便宜べんぎ上、勝手に名をつけたものである。動物には意識があって食うのは気の毒だが、植物にはないから差しつかえないというのか。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
と云うのは、一高時代の友人の津村と云う青年、———それが、当人は大阪の人間なのだが、その親戚しんせきが吉野の国栖くずに住んでいたので、私はたびたび津村をかいしてそこへ問い合わせる便宜べんぎがあった。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
花は花蓋かがいがく、花弁同様な姿をしているものを、便宜べんぎのため植物学上では花蓋かがいと呼んでいる)が六ぺんあるが、それが内外二列をなしており、その外列の三片が萼片がくへんであり、内列の三片が花弁である。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
便宜べんぎらばもう一かれ是非ぜひたづねやうとおもふてゐた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
開けて置いて、古田の忍び込むのに便宜べんぎを与えました
ニッケルの文鎮 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
位地の高いものはもっともこの罪をおかしやすい。彼らは彼らの社会的地位からして、他に働きかける便宜べんぎの多い場所に立っている。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あるいはやはりサンスクリットの言葉に関係あるものかどうか充分研究したならば、この種族の根本が解る便宜べんぎを得るかも知れん。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
伊勢詣りとわかれば箱根の関所もやかましいことは言わず、先々の宿も舟も、何かと便宜べんぎを与えてくれる世の中だったのです。
幸いパリ大学の若き助教授ドン博士が一行の副団長として加わることになり、その用意の方はたいへん便宜べんぎを得た。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
吾人は貞淑ていしゅくなる夫人のために満腔まんこうの同情をひょうすると共に、賢明なる三菱みつびし当事者のために夫人の便宜べんぎを考慮するにやぶさかならざらんことを切望するものなり。……
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
三谷は新聞記事などで、この名探偵の噂を聞いていたばかりでなく、紹介状を手に入れる便宜べんぎもあった。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それよりは、たんに友人として、これによってマタ・アリがパリーに滞在しうる最大便宜べんぎに止めておいた方が安全である。が、いまは、そんなことをいっていられない。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
佛蘭西の婦人に佛蘭西語を教はる便宜べんぎがあつたし、いつも出來るだけ度々マダム・ピエロと會話をするやうにしてゐたので、それにこの七年間といふものは、毎日一生懸命に
なぜならば、伊丹亘が、その便宜べんぎを与えてやっても、城門の守りは、彼の一手だけではない。まして、伊丹城はいまや、四六時中、警固けいごに警固をげんにされている非常時中の城だった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先生はごうも平日とことなることなく、予が飲食いんしょく起臥きがの末に至るまで、力をつくしこれをたすけ、また彼地かのち上陸じょうりくしたる後も、通弁つうべんその他、先生に依頼いらいして便宜べんぎを得たることすこぶる多ければなり。
决心けつしん如何いかんといふのは、吾等われら兩人りようにんかゝる絶島ぜつたう漂着へうちやくしたいま無理むりにも本國ほんごくかへりたいか、またある便宜べんぎるまで、大佐等たいさらこのしま滯在たいざいする覺悟かくごがあるかとのとひだとわたくしかんがへたので、無論むろん
自己の論法を展開する便宜べんぎとしているまでの如くであるけれども、然し、織田の論理の支柱となっている感情は、熱情は、東京に対する大阪であり、織田の反逆でなしに、大阪の反逆