うぐいす)” の例文
何処からか飼いうぐいすの声も聞えてくると言った長閑のどかさ、八五郎の哲学を空耳に聴いて、うつらうつらとやるには、申分の無い日和ひよりです。
裏藪うらやぶの中に分け入ってたたずむと、まだ、チチッとしか啼けないうぐいすの子が、自分のたもとの中からでも飛んだように、すぐ側から逃げて行く。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遠い郷里のほうの木曽川きそがわの音や少年時代の友だちのことなぞを思い出し顔に、その窓のところでしきりにうぐいすのなき声のまねを試みた。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
八のふかくしながら、せたまつろう眼先めさきを、ちらとかすめたのは、うぐいすふんをいれて使つかうという、近頃ちかごろはやりの紅色べにいろ糠袋ぬかぶくろだった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
村はうららかな日にかすんでいた。麦は色づき始め、菜の花が黄色く彩どっていた。うぐいすが山に鳴き家々の庭には沈丁香じんちょうげの花がにおっていた。
花ならば梅桜あやめに菊、鳥獣ならうぐいす時鳥ほととぎすいのししに鹿、まるで近頃の骨牌かるたの絵模様が、日本の自然文学の目録であったというも誇張でない。
なるほどその時往たことは往たがうぐいす横町といふ立札の処まで来ると町幅が狭くて火の車が通らぬから引つ返した、といふ答である。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
生物を長く与えると色々な病気を起します。うぐいすを飼っても摺餌すりえを拵える位ですから鶏の餌を煮る位何でもありません。つまり慣れです。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
違棚の高岡塗は沈んだ小豆色あずきいろ古木こぼくの幹を青く盛り上げて、寒紅梅かんこうばいの数点を螺鈿擬らでんまがいり出した。裏は黒地にうぐいすが一羽飛んでいる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「花に住むうぐいす、水に住むかわずの声をきけば、生きとし生けるものいずれか歌をまざりける」とも述べおる如く、誠の声はく人を動かす。
婦人問題解決の急務 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
電信柱に下向きのかたがり燕、一羽気まぐれに浮いたかもめが、どこかの手飼いのうぐいす交りに、音を捕うる人心ひとごころを、はッと同音に笑いでもする気勢けはい
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うぐいすがどこへ来ているか、雀が何羽止ったかという数なんぞ読んでいる様子が、お松にとっては、いよいよ小憎らしいばかりです。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何といったらいいのか、うぐいす笹鳴ささなきみたいな美しさだ、とでもいったら君はわかってくれるであろうか。つまり、「かるみ」さ。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
梅にうぐいすやら、浦島が子やら、たかやら、どれもどれも小さいたけの短いふくなので、天井の高い壁にかけられたのが、しり端折はしょったように見える。
普請中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
花の木にはうぐいすのような小鳥が枝から枝を飛んでいた。雲雀ひばりのようにきりりんりんと鳴きながら空にあがって往く小鳥もあった。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
うららかなうぐいすの声と鳥の楽が混じり、池の水鳥も自由に場所を変えてさえずる時に、吹奏楽が終わりの急なになったのがおもしろかった。
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
うぐいすらしいが、まだ幼ない鳴きぶりで、梅林の枝を渡っているのだろう。その声は遠くなり近くなり、ややしばらく聞えていた。
食卓には朝の光がさし込み、庭にはうぐいすが鳴いてる。「揃ふて」という言葉によって、一家団欒だんらんのむつまじい平和さを思わせる。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
武蔵野にもようやく春の訪れが来た。遠くにみえる秩父ちちぶの山の雪も消えてかしらの梅はいま満開である。庭さきへうぐいすが来てしきりにさえずって行く。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
私に獅子ししの役をやらしてください。ひなをやる女鳩めばとのように、私はやさしくえてみせます。うぐいすかと思われるように、私は吼えてみせます。
一語なくして家に帰る。虚子路より去る。さらでも遅きあゆみは更に遅くなりぬ。懐手のままぶらぶらとうぐいす横町に来る時小生の眼中には一点の涙を
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
鴻雁こうがんは空を行く時列をつくっておのれを護ることに努めているが、うぐいすは幽谷をでて喬木きょうぼくうつらんとする時、ぐんをもなさず列をもつくらない。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私は今朝けさの目覚めに戸の透間すきまからさす朝の光りを眺めて、早くうぐいすが夢をゆすりに訪れて来てくれるようになればよいと春暁の心地よさを思った。
豊竹呂昇 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
うぐいす山雀やまがら、目白、文鳥、十姉妹じゅうしまつなどの籠の上に載っていたウソをその時はじめて詳しく観察した。さっきの声はそのウソの鳴音だったのである。
木彫ウソを作った時 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
私たちは毎日打連れて猿にお米をくれに行ったり、若草山に登ったり、遠いうぐいすの滝の方までも散歩したりして日を暮した。
遊動円木 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
鳴くうぐいすの声も力なく老いていた。上皇の胸には、われ知らず去年の盛儀が思いだされてきた。正月六日、朝覲ちょうきんのための法住寺殿への行幸である。
欧羅巴ヨーロッパの野菜料理てのはうぐいすのスリのようなものばかりだから、「ヴェジテラニヤン・クラブ」へ出入するやつは皆青瓢箪あおびょうたんのようなつらをしている。
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
沈黙してたたずんでいると、うぐいす鳴き、ホトトギス鳴き、カケスが鳴き、眼覚めた鳥が、一せいに声を合せて鳴き立てる。虫の声がその間に交る。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
前途ゆくさき期待まちもうけのある身に取っては物思う暇のないほど嬉しいことはない、一月も二月も夢のように過ぎて、南郊の春は早く梅もうぐいすもともに老いた。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
「いえ、このメリンスの模様ね、梅の花に、うぐいすがとんでいる模様なんだけど、あたし、この模様に何だか見覚みおぼえがあるわ」
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
集め春琴時代よりかえって門下がにぎわっていた滑稽こっけいな事は佐助が弟子に教えている間春琴は独り奥の間にいてうぐいすの啼く音などに聞きれていたが
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しばらくしてから娘が二階へ上がって来て「オヤ、これどうしたの」と言いながら縁側から拾い上げて持って来たのを見ると一羽のうぐいすの死骸である。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
つがいのうぐいすであったけれども、その値段も法外であったように思う。法外でなくとも、私の庭には小鳥が多いのだから、買い求める必要もないのである。
庭の眺め (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
飛びくくうぐいす」とあるのは動詞の例です。これを「潜る」という語を聯想して「くぐ」と読んでおりますが、これは「くく」で濁らないのです。
古代国語の音韻に就いて (新字新仮名) / 橋本進吉(著)
働き出し玉う御容貌ごきりょうは百三十二そうそろ御声おんこえうぐいす美音錠びおんじょう飲ましたよりまだ清く、御心ごしんもじ広大無暗むやみ拙者せっしゃ可愛かわゆがって下さる結構づくゆえ堪忍ならずと
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
蓑笠みのかさ」という対句ついくは、丁度「梅にうぐいす」の如くほとんどつきものとして日本ではしばしば歌にさえよまれたが、この言葉も既に早く支那にあったことが分る。
蓑のこと (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ただ夕陽が法林の樹枝に映って美しき緑光が放って居るばかりで……。がうぐいすの声でもないに何の声であろう。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
うぐいすやみそさざい、ひわやまたかけすなどからだが小さく大へんかるい。そのぶときはほんとうによく飛ぶ。
なんだか鬱陶うっとうしいので、次郎左衛門はまた起って障子をあけると、どこかで籠のうぐいすの声がしめって聞えた。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
うぐいす時鳥ほととぎすの卵を育てゝえすというが、その事は彼等の世界には、何等の悲劇ももたらさないのだろうか。
そこらじゅう一面にベタベタと花が咲いてね、まるで理髪店とこやの壁紙のように派手なことになっちまうんです。そのなかでまたうぐいすがのべつにピイチク・ピイチク鳴く。
千枝子と定雄は中に清をはさんで、固そうな雪の上を選びながら渡っていった。ひやりと肌寒い空気のほおにあたって来る中で、うぐいすがしきりに羽音を立てて鳴いていた。
比叡 (新字新仮名) / 横光利一(著)
床の間には、赤々した大きい花瓶に八重桜やえざくらが活けられて、庭のはずれのがけからはうぐいすの声などが聞えた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
かすかにうぐいす遠音とおねが、話のあいの様に聞えて来たりした。昔を語るにふさわしい周囲の情景だった。
二癈人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
たかしは掃除をすました部屋の窓を明け放ち、とうの寝椅子に休んでいた。と、ジュッジュッという啼き声がしてかなむぐらの垣の蔭に笹鳴ささなきのうぐいすが見え隠れするのが見えた。
冬の日 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
「今のはかごの中でのうぐいすですが、今度は谷わたり」けきょ、けきょ、けきょ、ほうほけきょう! それから引き続いて松虫、鈴虫、轡虫くつわむしの声。また、からす、ひばり、うずら。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
時折、うぐいすが鳴き、行く手の道を、せきれいが、ヒョイヒョイと、つぶてのように横切って飛んだ。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
うぐいす等は山や谷を越え、今は野の上の小高いところで鳴くようにでもなったか、というので、一般的な想像のように出来て居る歌だが、不思議に浮んで来るものがあざやかで
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
児太郎は、新参の大隅という、二つ年下の、うぐいすのような声音こわねをしている小姓仲間を思い出した。
お小姓児太郎 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
春になるといつも、窓の正面にあるアカシアの茂みに、うぐいすがやってきます。二カ月の間も続いております。その鶯の巣がおへやの左にあって、私どものが右手にあるわけです。