かしら)” の例文
ギヨオテの鬼才を以て、後人をして彼のかしら黄金こがね、彼の心は是れ鉛なりと言はしめしも、其恋愛に対する節操全からざりければなり。
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
そして例の舌と鬚をもつた怖ろしげなかしらが、恰度音吉とわたしが向き合つて酒などを酌み交す囲炉裡の真上に赤い口腔くちをあけてゐた。
山峡の凧 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
拳骨を振つて囲を衝いて、かしらの傍へ来た。「ねえ、親方。防火栓をお抜かせなさい。あれが好い。冷やして好い。きつと利きます。」
防火栓 (新字旧仮名) / ゲオルヒ・ヒルシュフェルド(著)
大道具のかしらの外に、浅草では作曲家S氏とわたくしの作った歌劇『葛飾情話』演奏の際、ピアノをひいていた人も死んだそうである。
草紅葉 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
手のさきを握っていると冷くなっている。親方はかしらと二人で平吉を抱き起した。一同の顔は不安らしく、平吉の上にさしのべられた。
ひょっとこ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一ツの羽子をならびたちてつくゆゑに、あやまちて取落とりおとしたるものははじめに定ありて、あるひは雪をうちかけ、又はかしらより雪をあぶする。
かしら、すまないが、ここの小屋根のトタン板をひッぺがして、風が通るようにしてくれんか。これじゃ、臭くて入って行けないから」
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そして天児屋根命あめのこやねのみこと太玉命ふとだまのみこと天宇受女命あめのうずめのみこと石許理度売命いしこりどめのみこと玉祖命たまのおやのみことの五人を、お孫さまのみことのお供のかしらとしておつけえになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
「何しろどこだ知らん。薄気味悪さに、かしらもたげて、じっと聞くと……やっぱり、ウーと呻吟うなる、それが枕許のその本箱の中らしい。」
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
弟子たちはみな涙ぐまれるような心持で、神のように尊い師の前にかしらをさげた。一種悲壮な空気が安倍晴明の子孫の家にみなぎった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
琉球りゅうきゅうの旧王室では、以前地方の祝女のろかしらたちが拝謁に出たときに、必ず煙草の葉をもって賜物たまわりものとせられたことが記録に散見している。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
と熊のかしらを撫で/\、「さア/\」と熊をうしろに向けて促しますと、のそり/\歩き出しましたから、其の後姿を見送り、手を合せて
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ふたりが揃ってかしらを下げると、金褘きんいはその間に、黙って席を立ってしまった。そして、ちょうどそこへ、召使いが茶を運んでくると
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしには、まだそんな気持きもちはありません。」と、まんは、かしらをふりました。それには、はやいからという意味いみばかりではありません。
万の死 (新字新仮名) / 小川未明(著)
婦人は鼻をつまらせつつしみじみ話す。自分は床柱とこばしらにもたれてぼんやりきいている。さいかしらをたれている。日はいつか暮れてしもうた。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
或婦人の生みし子、獅子のかしらを有し居りしが、其婦人は妊娠して七箇月目に母と良人とに伴はれて獅子使ひの見世物を見物せし由に候。
私が早く自分の配偶者つれあいを失い、六歳をかしらに四人の幼いものをひかえるようになった時から、すでにこんな生活は始まったのである。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
苦しきに堪えかねて、われとわがかしらを抑えたるギニヴィアを打ち守る人の心は、飛ぶ鳥の影のきが如くに女の胸にひらめき渡る。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これを言出いひいでたるのち、いのちをはり、又これを言出でたるあとは、かしらを胸にれて、あたかも老僧が聖祭せいさいを行ひつゝ絶命する如くならむ。
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
時次郎 一両ありゃ、お七夜に、鯛という訳にも行くめえが、おかしらつきで祝えるよ。じゃおきぬさん、あっしは一両の口をきめてくる。
沓掛時次郎 三幕十場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
で、翌日は、早くから、同勢十二人がお茶の水駅へ集合し、そこから省線で吉祥寺まで行き、ぞろぞろとかしら公園へ繰り込んだ。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
徳市は吃驚びっくりしてかしらを上げた。いた腹を撫でまわしてあたりを見まわした。眼の前に立派な家が立っていた。何気なくその表札を見た。
黒白ストーリー (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
巨勢はわたの如き少女が肩に、我かしらを持たせ、ただ夢のここちしてその姿を見たりしが、かの凱旋門がいせんもん上の女神バワリアまた胸に浮びぬ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
そしてかしらを挙げた時には、蔵海はしきりに手を動かしてふもとの方の闇を指したり何かしていた。老僧は点頭うなずいていたが、一語をも発しない。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「ことに、あの太刀先が難剣じゃ。じっと青眼に構えて、ちっとも動かず、相手の出るかしらを待って打つという流儀と見受け申した」
たちまち、なにおそろしいことでもきふおもしたかのやうに、かれかしらかゝへるなり、院長ゐんちやうはうへくるりとけて、寐臺ねだいうへよこになつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
銅兵衛という杉窪のおさと、将右衛門という木地師のかしらだ。……そのうち原の城は落ちてしまった。二人の家来からはたよりがない。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「実は、一つ厄介な仕事があるんでね、これは、植木屋にも棟梁にも手に負えまいから、かしらに引き受けて貰いたいんだが、どうだろう。」
古木:――近代説話―― (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
八歳をかしらに四人の男の子があるというその仮り親の家でのひと月足らずのあけ暮れは赤ん坊にとっては憂うつ極まるものであったらしい。
一つ身の着物 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
それに逸平は三島の火消しのかしらをつとめていたので、ゆくゆくは次郎兵衛にこの名誉職をゆずってやろうというたくらみもあり
ロマネスク (新字新仮名) / 太宰治(著)
十八をかしらに赤子の守子もりこを合して九人の子供を引連れた一族もその内の一群であった。大人はもちろん大きい子供らはそれぞれ持物もちものがある。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
が、恐ろしい惨劇さんげきが始まろうとする刹那、少女はいちはやく土人のかしららしい老人の前に身を投じた。それは、少女の父であるらしかった。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
さような人物になると座席など決して贅沢ぜいたくはいわない。いつも鯛でいえばおかしら尖端せんたんか、尻尾しっぽの後端へじりついて眺めている。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
全體ぜんたいつき何々なに/\といふふうに、かしらいてゐるために、幾分いくぶんうた上調子うはちようしになつてゐるが、眞底しんそこにはやはりよいものがあります。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
梅子は大和に導かれて篠田の室に入り来りぬ、肉やゝ落ちて色さへいたく衰へて見ゆ、彼女かれは言葉は無くて慇懃いんぎんかしらを下げぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
また鋳物のかたがあり、染物のかたがみからくるのに『重井筒』の「代々伝はる紺屋の型と、共に禿げたるかしらをおろし………」
うつす (新字新仮名) / 中井正一(著)
岩壁から長々と沖へ彎曲した太い航跡ウエーキに泡も消えて、流されてゆく波紋のかしらに時々白い空が揺れた、小さな船が、広い航跡を横切つてゆく。
海の霧 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
そのニンフの彫物ほりものは、主人の太い、荒々しい手で握つてゐる杖のかしらに附いてゐて、指の間からはそれを鋳た黄金わうごんがきら附いてゐるのである。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
かれをやすくすかしよせて、これをもてかしら打被うちかずけ、力を出して押しふせ給え、手弱たよわくあらばおそらくは逃去らん」と云った。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
青年の語る所を聞き終って、警部はかしらを傾けた。青年のげんが事実とすれば、実に妙な事件である。この時ふと警部の頭に浮んだ事があった。
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
やがて「忘れましょう、忘れましょう、いくら考えてもどうなる話ではないのですから」と迷夢からめたようにかしらを振った。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「お梅さんどうかしたのですか」と驚惶あわただしくたずねた。梅子はなおかしらを垂れたまま運ばす針を凝視みつめて黙っている。この時次の
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
二人は二十五、六、一人は四十がらみで、半纏のえりには「かしら」という字が染め抜いてあった。町内の頭だな、と栄二は思った。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
武蔵野にもようやく春の訪れが来た。遠くにみえる秩父ちちぶの山の雪も消えてかしらの梅はいま満開である。庭さきへうぐいすが来てしきりにさえずって行く。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
へええ、かしらの力でも、そうですかねえ。なんだそうでげすナ。小さな長屋の柱のまがったのなんざあ、あの泰軒先生が一つ腰を
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
びますと、くまかしらに、鹿しかさるやうさぎがのそのそ出てました。金太郎きんたろうはこの家来けらいたちをおともれて、一にち山の中をあるきまわりました。
金太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
しかしおんなすえよりずる者がサタンのかしらを砕くであろうと、その時すでに神は宣言せられたのであった(創世記三の一五)。
その高きに過ぐるかしらを取って押さえ、男女なんにょ両性の地位に平均を得せしめんとするの目的を以て論緒ろんしょを開き、人間道徳の根本は夫婦の間にあり
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
かしららしい日本人も、傷ついたところをつかまえて、銃殺したのである。彼は大胆な男で、銃の前に立っても、最後まで顔の色をかえなかった。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
「近所のてまえがありまさあね、夜中に自動車をブウブウやられちゃあね、町内のかしらなんだから、一寸でも風評が立つと、うるさくてね……」
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)