長靴ながぐつ)” の例文
乗ってるものはみな赤シャツで、てかてか光る赤革あかかわ長靴ながぐつをはき、帽子ぼうしにはさぎの毛やなにか、白いひらひらするものをつけていた。
黄いろのトマト (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
北氷洋の白熊は結局、カメラも鉄砲もなわも鎖もウインチも長靴ながぐつも持っていなかったために殺され生け捕られたに過ぎないように思われる。
空想日録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「どこかふくの下にでもまぎれこんではおらんかな、え? ひょっとしたら、長靴ながぐつの中にナイフがちてるかも知れんぞ、え?」
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
ゆきつかねたやうですが、いづれも演習行軍えんしふかうぐんよそほひして、眞先まつさきなのはたうつて、ぴたりとむねにあててる。それが長靴ながぐつたかんでづかりとはひる。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
黒猫はさう言つたかと思ふと、すぐどこへか行つて、長い外套ぐわいたうと、長靴ながぐつと、三味線さみせん竿さをの短かいのとをもつて来ました。
幸坊の猫と鶏 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
少量のブランデーと薬品を二三種類ポッケットに入れ、長靴ながぐつりたので半靴にニッカアズボンを穿いて、又出かけた。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
丁度ちやうど其日そのひ夕方ゆうがた、ドクトル、ハヾトフはれい毛皮けがは外套ぐわいたうに、ふか長靴ながぐつ昨日きのふ何事なにごとかつたやうなかほで、アンドレイ、エヒミチを其宿そのやど訪問たづねた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
彼は寝床の下から、長いこと、そこにつっこんであった、破れたゴムの長靴ながぐつをとり出して、それにながめ入っていた。白い粉のように、塩がフイていた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
あいちやんはなになんだか薩張さつぱり道理わけわからず、『長靴ながぐつにもなれは半靴はんぐつにもなる!』と不審いぶかしげな調子てうし繰返くりかへしました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
三人連は矢張やはり話しながら新屋敷の方へ向いて行く。坂の途中からは真暗であるが、慣れた道と見えて巧に水溜みづたまりをけて行く。うしろから見れば長靴ながぐつの拍車が光る。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
市民は花のようだったし、侯爵は宝石のようだった。脚絆留きゃはんどめをつけたり長靴ながぐつをつけたりはしなかった。
灰色の外套がいとう長くひざをおおい露を避くる長靴ながぐつは膝に及びかしらにはめりけん帽のふち広きをいただきぬ、顔の色今日はわけて蒼白あおしろく目はあやしく光りて昨夜の眠り足らぬがごとし。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
かれはさっきから目のまえの草のうえに、二あし長靴ながぐつをきちんとならべて、つくづくと見いっていた。
風邪かぜをひかないようにほっぽこ頭巾ずきんをすっぽりかぶり、足にはゴムの長靴ながぐつ穿いて。何という変てこな恰好かっこうの芸人だろう。だが木之助には恰好などはどうでもよかった。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
自分の長靴ながぐつ爪先つまさきを、ばらばらの土のなかに半分埋まっていた大きな鉄のかんにひっかけたのだ。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
自分は着物を着換えながら、女中に足駄あしだを出すようにと云った。そこへ大阪のN君が原稿を貰いに顔を出した。N君は泥まみれの長靴ながぐつをはき、外套がいとうに雨のあとを光らせていた。
子供の病気:一游亭に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
農場の男たちすらもう少し空模様を見てからにしろとしいて止めるのも聞かず、君は素足にかちんかちんに凍った兵隊長靴ながぐつをはいて、黒い外套がいとうをしっかり着こんで土間に立った。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
イタリーの地形ちけい長靴ながぐつのようだとよくいはれてゐることであるが、その爪先つまさきいしころのようにシシリーとうよこたはつてをり、爪先つまさきからすな蹴飛けとばしたようにリパリ火山群島かざんぐんとうがある。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
たぬきが薄汚いゴム長靴ながぐつなどはいて来て、このクラスには四年から受ける人が何人いるかね、手を挙げて、と言うから、ハッとして思わずちょっと手を挙げたら、僕ひとりだった。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
毎晩、長靴ながぐつへ一ぱいづゝ土を入れて、昼間みんなが仕事に出たすきまに、外の往来へあけるんだ。おい、おぢいさん、だまつてゝくれ。穴さへあければおまいもにげられるんだから。
ざんげ (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
これが、おまえの毛の長靴ながぐつだよ。これから、うんと寒くなるからね。だけど、マフはもらっておくよ。とってもきれいなんだもの。といったって、おまえに寒い思いはさせないから。
雨の日には泥濘でいねいの深い田畝道たんぼみちに古い長靴ながぐつを引きずっていくし、風の吹く朝には帽子を阿弥陀あみだにかぶって塵埃じんあいを避けるようにして通るし、沿道の家々の人は、遠くからその姿を見知って
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
おじさんがひょいとまたをひろげると、おじさんの長靴ながぐつうしろ昨夜ゆうべの雨蛙がんやりした眼をしてきょとんとしています。より江は雨蛙をどこか水のあるところへ放してやろうとおもいました。
(新字新仮名) / 林芙美子(著)
ロミオの下人げにんバルターザー長靴ながぐつ旅裝りょさうにて出る。
それから署長は押し入れからふだん魚釣りに行くときにつかふ古いきゅうくつな上着を出して着ておまけに乗馬ズボンと長靴ながぐつをはいた。
税務署長の冒険 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
めっかりました、先生せんせい。エピファーノフが自分で持ってたんです。ポケットにあながあいてたもんですから、ナイフも銀貨ぎんか長靴ながぐつん中へ落ちてたんです。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
丁度ちょうどその夕方ゆうがた、ドクトル、ハバトフはれい毛皮けがわ外套がいとうに、ふか長靴ながぐつ昨日きのう何事なにごとかったようなかおで、アンドレイ、エヒミチをその宿やど訪問たずねた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
海底かいてい長靴ながぐつ半靴はんぐつは』とグリフォンが重々おも/\しいこゑつゞけて、『胡粉ごふんけてる。うだ、わかつたらう』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
春の日のさした往来をぶらぶら一人ひとり歩いてゐる。向うから来るのは屋根屋の親かた。屋根屋の親かたもこの節は紺の背広に中折帽なかをればうをかぶり、ゴムか何かの長靴ながぐつをはいてゐる。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そのシャツの下には、泥まみれのズボンが見え、また足指のはみ出た長靴ながぐつも見えていた。
長靴ながぐつおとがぼつくりして、ぎんけんながいのがまつすぐにふたツならんでかゞやいてえた。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そして弁当を元どおりに包んで腰にさげ、スケッチ帳をふところにねじこむと、こそこそと入り口に行って長靴ながぐつをはいた。靴の皮は夕方の寒さにこおって、鉄板のように堅く冷たかった。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
片方かたほうはいままではいていた長靴ながぐつで、片方はさっきもらったばかりの長靴だ。
クレヨンの包みを受けとると木之助はあわてて、ゴムの長靴ながぐつを鳴らしながら、さっきの古物屋の方へひっかえしていった。あいつを手離してなるものか、あいつは三十年の間私につれそうて来た!
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「ひどく一同を手こずらせた」と探険隊長の演説の中でも紹介されているが、これは子熊の立場からは当然のことであろう。あばれる子熊の横顔へ防寒長靴ながぐつをはいた人間の足がいくつも飛んで来る。
空想日録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
場所ばしよ長靴ながぐつかたちたとへられたイタリーのあし中央部ちゆうおうぶあたつてゐる。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
「もうつかれてあるけない。あしさきがくさり出したんだ。長靴ながぐつのタールもなにももうめちゃくちゃになってるんだ。」
月夜のでんしんばしら (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
いやらん、もうぬまで、ズボンや、チョッキ、長靴ながぐつにはよういのかもれん。しかし奇妙きみょう成行なりゆきさ。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
下水掃除人らの長靴ながぐつも、よく知られてるある地点より先へは決して踏み込まなかった。
三人の盗人ぬすびとが宝を争っている。宝とは一飛びに千里飛ぶ長靴ながぐつ、着れば姿の隠れるマントル、鉄でもまっぷたつに切れるけん——ただしいずれも見たところは、古道具らしい物ばかりである。
三つの宝 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
『それは長靴ながぐつにもなれば短靴たんぐつにもなる』とグリフォンがすこぶおごそかにこたへました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
のゝしるか、わらふか、ひと大聲おほごゑひゞいたとおもふと、あの長靴ながぐつなのが、つか/\とすゝんで、半月形はんげつがた講壇かうだんのぼつて、ツと一方いつぱうひらくと、一人ひとりまつすぐにすゝんで、正面しやうめん黒板こくばん白墨チヨオクにして
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
シューラの身体からだはぐるぐるまわされたり、さぐりちらかされたりして、くまなく検査けんさされた。おまけに少しずつはだかにされた。小使こづかい長靴ながぐつをぬがして、ふるって見た。万一のために、靴下くつしたもはいでみた。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
「どちらも長靴ながぐつだが、ふるぼけてるな」
長靴ながぐつくようにしていそいでって、少しびっこを引きながら、そのまっ暗なちらばった家にはね上って行きました。
ガドルフの百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
いやらん、もうまで、ヅボンや、チヨツキ、長靴ながぐつにはよういのかもれん。しか奇妙きめう成行なりゆきさ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
第一が千里飛べる長靴ながぐつ、第二が鉄さえ切れるけん、第三が姿の隠れるマントル、——それを皆献上けんじょうすると云うものだから、欲の深いこの国の王様は、王女をやるとおっしゃったのだそうだ。
三つの宝 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
赤い縁取りと鈴ボタンのついてる青い上衣、延べ金の腕章、緑皮の股衣、尾を結んだノルマンディー馬への掛け声、にせの金モール、塗り帽子、髪粉をつけた変な頭髪、大きなむち、および丈夫な長靴ながぐつ
着物はまるで厚い壁のくらゐ着込み、馬油を塗つた長靴ながぐつをはきトランクにまで寒さでひびが入らないやうに馬油を塗つてみんなほう/\してゐました。
氷河鼠の毛皮 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
その満足まんぞくかおひと見下みさげるような様子ようすかれんで同僚どうりょうことばふか長靴ながぐつ此等これらみな気障きざでならなかったが、ことしゃくさわるのは、かれ治療ちりょうすることを自分じぶんつとめとして
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)