あやま)” の例文
「可哀想ぢやないか、あんな結構な太夫を殺して、——あやまちでちたのかと思つたら、こめかみへ吹矢が突つ立つてゐたんだつてネ」
譬えば日本の子供に対しては、このコップを見せて、「お前がこのコップをもてあそんではならぬ、もしあやまって壊したら、人に笑われるぞ」
教育の目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
『列車はあやまって軌道レールを滑り出したのち、数百ヤードの間軌道レールに沿うて流れておるランカシアー運河の中へ陥没してしまったものだろう』
先で偽者とあやまられなかったのも、思うに、彼にはこんな場合もあろうかと、とくに心をつかってくれたらしい母の添文そえぶみのお蔭だった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
学べば大したあやまちはなかろうとおっしゃいました、孔夫子の聖を以てすらが、それでございます、凡人のあとうところではござりませぬ
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼は生きたしかばねにも等しい人を抱いてしまった。罪で罪を洗い、あやまちで過ちを洗おうとするようなかなしい心が、そこから芽ぐんで来た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その晩、出帆したミル爺さんの船は、印度洋のまん中であらしに会い、いつのまにか航路をあやまって、暗礁にのり上げてしまったのです。
海からきた卵 (新字新仮名) / 塚原健二郎(著)
いかに時頼、人若ひとわかき間は皆あやまちはあるものぞ、萌えづる時のうるはしさに、霜枯しもがれの哀れは見えねども、いづれか秋にはでつべき。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
おとがい細く、顔まろく、大きさ過ぎたる鼻の下に、いやしげなる八字髭はちじひげの上唇をおおわんばかり、濃く茂れるを貯えたるが、かおとの配合をあやまれり。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかしおよそ光明授受に向って進む道程は常にこれである。この微細なる点をあやまたず描きしヨブ記は、偉大なる書といわざるを得ない。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
その数年間、年に一二度は往復している途であるが、一歩をあやまれば生死のはかられない道であるから思うようには急げなかった。
陳宝祠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
露国も独逸ドイツあざむかれたため、真に露国人に愛国心が起って日本を敵としなくなった。戦い半ばに於てあやまてるということを悟ったのである。
吾人の文明運動 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
その瞬間、泉原はてっきりその女をグヰンだと思った。しかしそれはあやまりで、背恰好せいかっこうや顔立は見違える程似ているが、全くの別人であった。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
モシあやまッテソレラノドレカ一ツノ血管内ニキシロカインガ這入ッタリスレバ、或ハ空気ガ這入ッタヾケデモ、患者ハ忽チ呼吸困難ニ陥ル
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
われ平生より人の骨相を見るにけ、界隈の人に請はるゝまゝに、その吉凶禍福を占ひ、過去現在未来の運命を説くに一度もあやまつ事なし。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それ東去西来の二舟子をしてともに順風の沢に浴せしめんとするは全知全能の上帝すら、これをなすあたわざるにあらずや。論者あやまてり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
丈「三千円返して、証文のおもてに利子を付けるという事はないが、此方こちらの身にあやまりがあるから、利子まで付けてったが、ほかに何があるえ」
心掛らるゝことなれば久八があやまつて縊殺しめころせしと云ひ無證據むしようこのことなるを自訴じそせしにて赤心せきしんあらはれたれば如何にもして助け遣はし度と心を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
或日それをひそかに持出しコツコツ悪戯して遊んで居たところ、重さは重し力は無し、あやまって如何なる機会はずみにか膝頭を斬りました。
少年時代 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
権勢があるために知らず知らず一部分の人をしいたげることもできてくるものであるが、女院にはそうしたおあやまちもなかった。
源氏物語:19 薄雲 (新字新仮名) / 紫式部(著)
群集をもう一度見てつかわしもされずに、侯爵閣下は座席にり返って、あやまって何かのつまらぬ品物を壊したが、それの賠償はしてしまったし
技法ぎはふ尖鋭せんえい慧敏けいびんさは如何いかほどまでもたふとばれていいはずだが、やたらに相手あひて技法ぎはふ神經しんけいがらして、惡打あくだいかのゝしり、不覺ふかくあやまちをとが
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
雲哲 さうだらうなあ、むやみにあいつに繩をかけて、どうなることかと心配してゐたが、これがあやまちの功名と云ふのかな。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
罪を犯さぬつもりでいるあやまちのない傲慢ごうまんな者より救われやすいという意味が、罪その物を肯定する教と見なされたことも当然なことであったが
一度はあやまって罪を犯したが、彼等は今ではすっかり後悔して、神様に贖罪をお祈りしている、本当に気の毒な人達である。
お蝶夫人 (新字新仮名) / 三浦環(著)
それに今の文学者は多く我慢の癖がある。自分のあやまちを遂げ非を飾りたいという癖がある。それから嫉妬しっと偏執へんしゅうの癖がある。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
前の日まで中気で寝ていた源さんは、その日無理をして仕事に出ため工場であやまって右腕に肉離れをしてしまったのです。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
だからこの心がけは学徒の心がけとして最もふさわしいのである。あやまてばすなわち改むるという心がけも、学問における進歩のために必須である。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
それが、白昼の、かほど、けざやかな太陽の下の遭遇でなかったならば、彼はそれを不慮の死を遂げた青年の亡霊と思いあやまったかも知れなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しかりといえども、この編もしあやまりて専門学者のまなこに触るることあらば、おそらく荒唐無稽こうとうむけいのそしりを免れざらんか。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
あいちやんはすでに三にん競技者プレーヤーが、その順番じゆんばんあやまつたために、女王樣ぢよわうさまから死刑しけい宣告せんこくくだされたとふことをきました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
然し、憎悪心の行使がその方向をあやまる時、我れ我れは其処に初めて、恐る可き破綻を見るのである。職工とミサ子との場合は全くその好適例であろう。
職工と微笑 (新字新仮名) / 松永延造(著)
取設け置てあやまちの償ひとせんと心に思ひて中津川の橋力はしりきに着けば一封の置手紙あり即ち兩氏の名にして西京にて會せんとあり憮然としていだすべきことばなし
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
あの方の過去については決して御詮索ごせんさくなさいますな。……たとえ何かあやまちがございましたにしても、若い時代の過ちは許して上げなければいけませぬ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
八つの年初めてお目見得に上って、お茶との御所望があったとき、あやまってお膝の上にこぼしたら、ほほう水撒みずまきが上手よのう、と仰せられた程の殿である。
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
何も会津塗だけのあやまちではありませんが、もう少し親切な仕事をすれば、この塗の名誉は高まるでありましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
すでに他を憐れむの心を生ずれば、おのずからあやまちを悔い、おのずから胆を落として、必ず改心するに至るべし。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「併し、夫人が山野氏があやまって実子を殺したものと信じたのは、決して無理ではなかったのです」明智が続けた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
而もこのあやまちはいつでも私が苦しい困惑から逃れ出る爲めに機敏な言葉とか尤もらしい口實とかゞ特別に必要なと云ふやうな迫つた場合に起るのである。
いまうへにはにくくし剛慾がうよくもの事情じじやうあくまでりぬきながららずがほ烟草たばこふか/\あやまりあればこそたゝみひたひほりうづめて歎願たんぐわん吹出ふきいだすけむりして
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
銀色の玉がころがり出るのを上手に扱うのです。あやまったら大変です。そこら一面に銀色の小粒が拡がるのですから。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
ある時あやまってランプの火が油壺あぶらつぼに移り、大火傷おおやけどをしたのが原因で、これも死んでしまってから、独り取り残された彼女は、親類へ預けられることになった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
従来幾多の此の如き新(?)文学運動の完全な失敗は、「新らしさ」を誤らしめ、同時に文学をあやまらしめた。
新らしき文学 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
じょちゅうげなんあやまちをしでかして、主婦に折檻せっかんせられるような時には、嬰寧の所へ来て、一緒にいって話してくれと頼むので、一緒にいってやるといつもゆるされた。
嬰寧 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
ほんたうに、もしあやまつてその人の脳天に熊手の光る鉄爪を打ち込んだとしたら、私は何んとしたらいゝだらう? 一瞬私の全身には湯気の立つ生汗が流れた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
あやまつ事なかれとて錫杖にてあばえりけれどついに情なく食いたてまつるとはるかになん聞えしとこそ書きたれとある、弘仁元年に三十七歳とは誤写で確か七
あやまちて野中の古井ふるゐに落ちたる人の、沈みも果てず、あがりも得為えせず、命の綱とあやふくも取縋とりすがりたる草の根を、ねずみきたりてむにふと云へる比喩たとへ最能いとよく似たり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
この食糧品の暴騰から来る生活難をすくふには、朝鮮米をき渡らせるのもよからうし、方針をあやまつた仲小路なかこうぢ氏を農相の椅子から引きずりおろすのもよからうが
今は貴嬢あなた真正ほんたうに貴嬢の一心を以て、永遠の進退を定めなさるべき時機である、——愛の子か、のろひの子か——けれど君の姉さんが此際、撰択せんたくの道をあやまつ如き
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
この間の心持ちはたとえ様が無い。アア幾千年来、天文学者の計算は一度も誤った事が無いのに、この場合のみはあやまったのだ、過ったらしい、過っていれば好い。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)