)” の例文
が、道行みちゆきにしろ、喧嘩けんくわにしろ、ところが、げるにもしのんでるにも、背後うしろに、むらさと松並木まつなみきなはていへるのではない。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私はたとえば、彼女が三人のごろつきの手からげられるように、であるとか、又はすぐ警察へ、とでも云うだろうと期待していた。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
泳ぎの上手なMも少し気味悪そうに陸の方を向いていくらかでも浅い所までげようとした位でした。私たちはいうまでもありません。
溺れかけた兄妹 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
すると子供らは、その荒いブリキ色の波のこっち側で、手をあげたり脚を俥屋くるまやさんのやうにしたり、みんなちりぢりにげるのでした。
イギリス海岸 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
海尊げ去りて富士山に入る、食物無し、石の上にあめの如き物多し、之を取りて食してより又飢うること無く、三百年の久しき木の葉を
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼は、裏口へげようとしては、不審の面持おももちで耳を澄した。だが、彼の予期するような爆弾投下の爆音は、一向に、響いてこなかった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そうお云いなさると、さも私が難題でもいいだしたように聞こゆるけれども、なにもそうげなくッてもいいじゃないか? そんな事を
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
伊弉諾神いざなぎのかみは、そのありさまをご覧になると、びっくりなすって、怖ろしさのあまりに、急いでげ出しておしまいになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
二人はびっくり致しまして、あと退き、女はあわてゝ開き戸を締めて奥へく。の春部という若侍も同じく慌てゝお馬場口の方へげて行く。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
尤も、よく馴れたわれわれの手をげる遁げ方と時々屋前を通る職人や旅客などを逃避する逃げ方とではまるでにげ方が違う。
高原 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「チックヮラケー。」とうたひました。けれどもその声がいかにも力がなくて、例の疱瘡はうさうの神もげ出すほどの勢がありません。
孝行鶉の話 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
さて谷本博士は、『古事記』に、品地別命ほむじわけみこと肥長比売ひながひめと婚し、ひそかに伺えば、その美人おとめごおろちなり、すなわちかしこみてげたもう。
わたくしはハツトおもつて一時いちじ遁出にげださうとしたが、今更いまさらげたとてなん甲斐かひがあらう、もう絶體絶命ぜつたいぜつめい覺悟かくごしたとき猛狒ゴリラはすでに目前もくぜん切迫せつぱくした。
「さては寒行の行者ぎょうじゃ修験者しゅげんじゃが、霧の中を通って行くと見える。天の与えじゃ、がしてはならぬ。声を揃えて呼んで見ようぞ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
女たちは仰天してきゃッと悲鳴を上げながらげ転んでゆく。新九郎は壁を後ろに飛び退いて、愛刀を素迅く横に抱えながら闇を見透した。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だけど現に気違いでない僕には、到底あんなところにいられませんよ。だから今朝看護人のすきを見てげだして来たんです、ざまあみやがれだ
自殺 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
婚礼の当夜、盃事がすむと同時に、花嫁は家をげ出て、森や神山(御嶽オタケと言う)や岩窟などにかくれて、夜は姿も見せない。
最古日本の女性生活の根柢 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
とうていその顔付からげ出すことのできない宿命じみた蒼白い顔付——それが春夜にもなお電燈の下に座っている——。
しゃりこうべ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ついがしてしまった、もっとも羚羊は跛足を引いていたから、たしかに銃丸たまが、足へ当ったろうとは後で言っていたが。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
這箇こつちは気が気ぢやないところへ、もう悪漆膠わるしつこくてたまらないから、病気だとつて内へげて来りや、すぐ追懸おつかけて来て、附絡つきまとつてゐるんでせう。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ところがね君、僕はあすこからげ出すのには、決して大した苦労はしなかったのだ。と云うのは、実は僕は、あの中に落っこちはしなかったのさ
時には外にいても慌てて裏の方にげ込んで息もつかずに隠れていると、その声をききつけた祖母は腹立たしそうに出て行ってこう言うのだった。
孔明は事実すでに死んでいるのであるが、司馬仲達は誤って孔明のなお生くると聞くや、倉皇そうこう軍を収めてげ去った。
若しかして叔母に、遊んで行けとでも言はれると、不承不承に三分か五分、遊ぶ真似をして直ぐげて帰つたものだ。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
写真師は顔を真赤にしてげ出した。そしてあとゆつくり考へてみると、成程米国の副統領には顔は一つしか無かつた。ちやう屠牛所とぎうしよの牛と同じやうに。
「そんだがお内儀かみさん、そのあますぐげてつちめえあんしたね、いまぢやなんとかつてだらかまあねえさうでがすね」
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
清三は静かな廊下の曲角の蔭で不意に立止まると、手を伸ばして女の指を握った、康子の瞳が驚いて男を見た、清三はげるように女の前から去った。
須磨寺附近 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それが如何どうした? 此上五六日生延びてそれがなにになる? 味方は居ず、敵はげた、近くに往来はなしとすれば、これは如何どうでも死ぬにきまっている。
余り小癪こしやくに触るつて言ふんで、何でも五六人ばかりで、なぐりに懸つた風なもんだが、巧にその下をくゞつて狐のやうに、ひよん/\げて行つて了つたさうだ。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
突当りは便所で行止りであるし、屋根裏へげる梯子も見当らなかったので、又部屋へ戻ってガリガリと古戸棚を開けたりした。寝台の下へ潜ろうとした。
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
「四月十一日。石清水行幸の節、将軍家御病気。一橋ひとつばし様御名代のところ、攘夷じょういの節刀を賜わる段にておげ。」
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一方勢至丸の父の仇定明は、ここをげてから隠居して罪を悔い念仏往生の望みを遂げ、その子孫は皆法然上人の余流を受けて浄土門に帰したということである。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ぎゃっ、とおめいて、げ出す供男。雪之丞は、ひらりとかわすと、じっと身をそばめて、気配をうかがった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
春桃は、向高と自分とは天地も拝せず三々九度の盃も交さず、ただ故郷の兵火に追われて偶然げのびて来た道づれの男女が、とも棲みしているばかりだと主張していた。
春桃 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「しまった。しっぽのさきに大きな毛があったのを、まだ抜かなかったから、げて往ったのだ」
劉海石 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
機会を取りがしてしまったことは、極度の嫉妬しっとに燃え、復讐心に駆られていた雄吾にとって、前歯で噛みつぶしたいような経験だった。残念で、口惜しくてたまらなかった。
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「さア。貴様はおとなしくうちへ帰れ。な。親方は心配してら。大事な玉がげちやつたつて。」
管仲かんちゅうが戦場でげたからとてただちにこれを卑怯ひきょうと批評し臆病者おくびょうものと判断し、しかして勇敢ゆうかんなれと忠告した者があったならば、おそらく彼は腹の底で笑うのみであったろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「どうだ、凄い顔になっただろう。まるで昔の面影があるまい。おや、お前もうげるのか」
暗中の接吻 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
芳太郎はまだ庭でとり折打せっちょうしていた。鶏は驚きと怖れに充血したような目をして、きょときょとと木蔭をそっちこッちげ廻った。木の下や塀の隅はもう薄暗くなっていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その日、弟が鬼にあたって、兄と彼女とが手をたずさえてげた、弟は納屋なやの蔭に退いて、その板塀にもたれながら、あおく澄んだ空へ抜けるほどの声で一から五十まで数をかぞえ初めた。
青草 (新字新仮名) / 十一谷義三郎(著)
荷車が驚いて道側みちばた草中くさなかける。にわとり刮々くわっくわっ叫んであわてゝげる。小児こどもかたとらえ、女が眼をまるくして見送る。囂々ごうごう機関きかんる。弗々々ふっふっふっの如くらすガソリンの余煙よえん
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
危険が切迫したので雷門も戸をめてしまったから、いよいよ一方口になって、吾妻橋の方へ人は波を打って逃げ出し、一方は花川戸、馬道方面、一方は橋を渡って本所へとげて行く。
君の禿頭はげあたまの手前に対してもげ口上は許さないと、強引に持ちかけられましてな
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そして両足は不意に判断力を失った脳の無支配下で、顫える京子の体躯を今迄通りにやっと支え、げ込んで来た血の処置に困って無軌道にあがく心臓は、殆ど京子を卒倒させるばかりにした。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
新婦の王はしゅうとが出ていって庭にはだれもいないと思ったので、自分でいって菊を摘んでいた。林児が走り出て来て戯れかかった。王はげようとした。林児は王を小脇に抱えて室の中へ入った。
田七郎 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
「おい、小山田のげた原因わけが分ったぞ」と、声をひそめてささやいた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
そんな背を向けて欺きげるようなたちの悪い女ではないはずである。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
と侍を打据えにかかると、うるさくなったものか侍は大手を拡げて闘意のないことを示したが、それも一瞬、いきなり脱兎だっとのようにげだした。足を狙って辰が杖を投げた。それが絡んでどうと倒れた。
畢竟ひっきょう負借まけおしみの苦しいげ口上で取るに足らない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)