逃出にげだ)” の例文
竜子は母の枕元で話をしながらシュウクリイムを一口頬張ほおばった所なので、次の逃出にげだして口のはたと指先とをふいたのち静に元の座に立戻った。
寐顔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
パリスカスは、全身のはだあわを生じて、逃出にげだそうとする。しかし、彼の足は、すくんでしまう。彼は、まだ木乃伊の顔から眼をはなすことが出来ない。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
勿論もちろんわたくし不束ふつゝかながらも一個いつこ日本男子につぽんだんしであれば、そのくにたいしても、かゝ塲合ばあひだい一に逃出にげだこと出來できぬのである。
とんさんは、手拭てぬぐひ喧嘩被けんくわかぶり、白地しろぢ浴衣ゆかた尻端折しりぱしよりで、いま逃出にげだしたとかたちだが、いて……はなかつた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それで三にん相談さうだんするやうかほをして、一端いつたん松林まつばやしまで退しりぞき、姿すがた彼等かれら視線しせんからかくれるやいなや、それツとばかり間道かんだう逃出にげだして、うらいけかたから、駒岡こまをかかた韋駄天走ゐだてんばしり。
丁度ちょうど抜きさえすれば切先きっさきの届く位すれ/\になったところで、身をひるがえして逃出にげだしたのは誠にエライ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
と云いながら真青まっさおになって夢中で逃出にげだし、白翁堂勇齋のところこうと思って駈出かけだしました。
貴方あなた如何どうしたらからうと有仰おつしやるが。貴方あなた位置ゐちくするのには、こゝから逃出にげだす一ぱうです。しかれは殘念ざんねんながら無益むえきするので、貴方あなた到底たうていとらへられずにはらんです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
私は椅子から飛上って部屋の外へ逃出にげだしたかった。けれども私の身体からだは不思議な力で椅子に密着して、ひたすらに戦慄を続けているばかりであった。耳をふさぐ事すら出来なかった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
考へ居たりしが大概おほよそ丑刻やつ時分じぶんとも思ふ頃そつと起上り寢床ねどこにて甲懸かふがけ脚絆きやはん迄も穿はきいざと云へば逃出にげだすばかりの支度をなし夫より後藤がたるそばさしより宵の酒宴さかもりの時見て置きたる胴卷の金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
石突いしづきを握って、フラフラとくり出すと、家の中にはあかりいているんだから、苦もなく相手に逃出にげだされる、——待てよ、もういちど提灯を持って来てくれよ、俺はここで待っているから
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
寧そ室を逃出にげださうかと思ツて
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
いはく==陰陽界いんやうかい==とあつたので、一竦ひとすくみにちゞんで、娑婆しやば逃出にげだすばかりに夢中むちう此處こゝまでけたのであつた。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
此方こなたは生きたる心地もなくしげりし草むらの間にもぐり込み、様子如何いかにうかがいをり候処、一人のさむらい無理りに年頃の娘を引連れ参り、すきを見て逃出にげださむとするを草の上に引据ひきす
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
此時このとき車中しやちうのこしていた猛犬稻妻まうけんいなづまきふ吼立ほえたてるので、かしらめぐらすと、いましも爐裂彈ばくれつだん逃出にげだしたる獅子しゝ一群いちぐんが、今度こんど非常ひじやういきほひで、彼方かなたもりから驀直まつしぐら襲撃しふげきしてたのである。
貴方あなたはどうしたらよかろうと有仰おっしゃるが。貴方あなた位置いちをよくするのには、ここから逃出にげだす一ぽうです。しかしそれは残念ざんねんながら無益むえきするので、貴方あなた到底とうていとらえられずにはおらんです。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
し例の奴等やつらに踏込まれた時に、うまく逃げられゝばいが、逃げられなければ揚板から床の下に這入て其処そこから逃出にげだそうと云う私の秘計で、今でも彼処あすこの家はうなって居ましょう。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
どうしてお浪は國藏のたれるのを見て、とっくに跣足はだし逃出にげだして仕舞って居りませんから、國藏は文治に厚く礼を述べて立帰たちかえりましたが、此の國藏が文治の云う事を真に感じ、改心致して
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
真にコソコソと庵の外へ逃出にげだしてしまったのです。
逃出にげだすとときに、わがへの出入でいりにも、硝子がらす瀬戸せとものの缺片かけら折釘をれくぎ怪我けがをしない注意ちういであつた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
不図ふとした事から馴れ染め、人目を忍んで逢引あいびきをして居ると、その婦人が懐妊したので堕胎薬おろしぐすりを呑ました所、其の薬にあたって婦人はたってのくるしみ、虫がかぶってたまらんと云って、僕の所へ逃出にげだして来て
麹町かうぢまち番町ばんちやう火事くわじは、わたしたち鄰家りんか二三軒にさんげんが、みな跣足はだし逃出にげだして、片側かたがは平家ひらや屋根やねからかはら土煙つちけむりげてくづるゝ向側むかうがは駈拔かけぬけて、いくらか危險きけんすくなさうな、四角よつかどまがつた
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と云いながら刀を拾って逃出にげだしましたから
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さつしあれ、知己ちき方々かた/″\。——わたし下駄げたひきずつて横飛よことびに逃出にげだした。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)