とうと)” の例文
すると新羅しらぎ使者ししゃの中に日羅にちらというとうとぼうさんがおりましたが、きたないわらべたちの中に太子たいしのおいでになるのを目ざとく見付みつけて
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
若い時から、このとうとい時間というものを惜しんで働いたものは、どうして福々しい身の上にならずに終わることがありましょう。
女中訓 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
自分の家の一番とうとい所でありますから、汚さないように大事にしたいと思っておりますが、さてどれが一番高い山だかわからないのです。
コーカサスの禿鷹 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
それは彼女の美とその徳とをたたえて、この世のいかなる財宝も、そのとうとさには到底比べられないとの意を詠じたものであった。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
さるにても暢気のんき沙汰さたかな。我にへつらい我にぶる夥多あまたの男女を客として、とうとき身をたわむれへりくだり、商業を玩弄もてあそびて、気随きままに一日を遊び暮らす。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それは、あなたよりも、もっととうとい神さまが出ていらっしゃいましたので、みんなが喜んでさわいでおりますのでございます」
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
『五山ノ称ハいにしえニ無クシテ今ニアリ。今ニアルハ何ゾ、寺ヲとうとンデ人ヲ貴バザルナリ。古ニ無キハ何ゾ、人ヲ貴ンデ寺ヲ貴バザルナリ。』
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
しかし、その日その日の、一ページずつが集まって、結局、とうとい人生の書物になるんだ。ただし、その書物の最後の奥付は墓石だ
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
兵は神速をとうとぶ。しかし御両人、悉皆すっかり安心して、話し/\歩くから、此方は困る。ツカ/\と追い越すのは当てつけるようですいかない。
冠婚葬祭博士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ねえさん、なにをおいいなさるのですか。人間にんげんは、かおや、かたちよりも、たましい大事だいじなのです。たましいうつくしいほうが、どれほど、とうといかわかりません。
木と鳥になった姉妹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
客の口から、国々の風土人情、一芸一能の話に耳を傾けて、時々会心かいしんえみらす丹後守のかおには聖人のようなとうとさを見ることもあります。
世人せじんはタチバナの名にあこがれて勝手にこれを歴史上のタチバナと結びつけ、とうとんでいることがあれど、これはまことに笑止千万しょうしせんばん僻事ひがごとである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
わたくして、これはきっととうとかみさまだとさとり、丁寧ていねい御挨拶ごあいさついたしました。それがつまりこの瀑布たき白竜はくりゅうさまなのでございました。
材料の精選とともに材料の原味を殺さぬこと、その味というものは、科学や人為じんいでは出来ないものでありますから、それをとうとぶのであります。
日本料理の基礎観念 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「そしたらもう悲しみなさいませんか。それでもう十分におなりになりますか。私たちのとうとい友情で満足できるようにおなりになりますか?」
三蔵法師は、大きなものの中における自分の(あるいは人間の、あるいは生き物の)位置を——その哀れさととうとさとをハッキリ悟っておられる。
阿房たわけものめが。いわ。今この世のいとまを取らせる事じゃから、たった一本当の生活というものをとうとばねばならぬ事を、其方そちに教えて遣わそう。
いわゆるニルヤりがありカナヤ望月もちづきが、冉々ぜんぜんとして東の水平を離れて行くのを見て、その行く先になお一つのよりとうとい霊地の有ることを認め
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
金のとうといこともいくらか知るが、今日のところでは幸い後顧こうこうれいがないだけになったから、なんだこの金はと思う気が常に僕の頭を去らない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
反乱もとうとい義務とまで高まりゆく場合がないであろうか。目前の戦いに身を投じても、ポンメルシー大佐の子として恥ずべき点がどこにあろう。
あの、筆をもてば、倏忽たちどころに想をのせて走るとうとい指さきは、一寸の針をつまんで他家の新春の晴着はれぎを裁縫するのであった。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「昔、しん左思さしが作った三都さんとの賦は十年してできあがりました。文章は巧みなのをとうとんで、速いのを貴びません。」
織成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
まずいやしからずとうとからずらす家の夏の夕暮れの状態としては、生き生きとして活気のある、よい家庭である。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
たとい一合の水を注ぐともこの深さをたすには足らぬ。思うに水盂すいううちから、一滴の水を銀杓ぎんしゃくにて、蜘蛛くもの背に落したるを、とうとき墨にり去るのだろう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先ず今日、とうとばれるのは、印刷術発明後一四八〇年に至る幼年期の書籍で、之をインクナブラと呼んでいる。
愛書癖 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
これらの文学もおのずから人の心をよろこばしめずいぶん調法なるものなれども、古来、世間の儒者・和学者などの申すよう、さまであがめとうとむべきものにあらず。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そして、あの水道や井戸の中にいくらでもある、すこしのねうちもないような水が、どんなにとうといものかということが、ハッキリわかったような気がしました。
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
とうとい地位にあった人がいやしい身分に落ちぶれたりする、こうした人々やその住家の移り変りの極りない事はあたかも朝顔の花に置く朝露と、その花との様なものである。
現代語訳 方丈記 (新字新仮名) / 鴨長明(著)
貴人なるがゆえにとうとまず、貧賤だからといっていやしまない。たとえ愚鈍であろうと、愚鈍のうちに人間の光を見れば、みずからうて拝すことさえ惜しまなかった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一、月並風つきなみふうに学ぶ人は多く初めより巧者を求め婉曲えんきょくを主とす。宗匠また此方より導く故についに小細工に落ちて活眼を開く時なし。初心の句は独活うど大木たいぼくの如きをとうとぶ。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ことさら、浪路さまは、今夜こそお微行しのびなれ、大奥の御覚え第一、このお方の御機嫌さえ取って置こうなら、どんなとうといあたりにも、お召しを受けることも出来よう。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ちんが統治する陸奥の少田おた郡からはじめて黄金を得たのを、驚き悦びとうとびたもう旨が宣せられてある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
容貌ようぼうなども今が盛りなようにもととのっているのであるから、高雅な最もとうとい若い朝臣あそんと見えた。
源氏物語:33 藤のうら葉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
あの時の火事で入道さまが将軍家よりおあずかりのとうとい御文籍も何もかもすっかり灰にしてしまったとかで、御所へ参りましても、まるでもうほうけたようになって、ただ
鉄面皮 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それゆえわたくしどもも、このうえなくとうといお客人たるあなたにつつしんでお礼を申し上げます
いかにや聴水。かくわれが計略に落ちしからは、なんじが悪運もはやこれまでとあきらめよ。原来爾は稲荷大明神いなりだいみょうじん神使かみつかいなれば、よくその分を守る時は、人もとうとみてきずつくまじきに。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
とうとい薬品をつくったりすること、地熱を利用して、発電したり、物をあたためたりすること、建築用の水成岩すいせいがんを掘りだして切って石材せきざいにすること……かぞえていくと、きりがありません
ふしぎ国探検 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そうだ、老人ろうじんの言ったことはほんとうであった。とうと経験けいけんから出た訓言くんげん(教訓)であった。でもその訓言よりももっと力強い一つの考えしか、わたしはそのとき持っていなかった。
三斎公聞召きこしめされ、某に仰せられ候はその方が申条一々もっとも至極しごくせり、たとい香木はとうとからずとも、このほうが求め参れと申しつけたる珍品ちんぴんに相違なければ大切と心得候事当然なり
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「意志だよ、自分自身の意志だよ。これは、権力までも与えてくれる。自由よりもっととうとい権力をね。ほっする——ということができたら、自由にもなれるし、上に立つこともできるのだ」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
その寺々にはそれぞれ古い仏体が沢山あって、とうとく拝まれる。その古い仏たちの沢山ある奈良に行った時の心持は、清高なる菊の香をぐ時の心持と似通ったところがある、というのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
四階の殿楼でんろうを昇りその上に着きますと、誠に綺麗きれいな一室の中央にひかえて居りますとうとき御方のそのそばに大王殿下が坐をかまえ、二、三の将校は外の方に座り数名の侍従官は外側に立って居るです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
彼はとうといあたりから差し廻される馬車にも、時には納まる身分であった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
金の価値のとうと田舎いなかでは、何よりも先にこれから信用がくずれて行った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
おのれを生身しょうじん普賢ふげんになぞらえまたあるときはとうと上人しょうにんにさえ礼拝されたという女どものすがたをふたたびこの流れのうえにしばしうたかたの結ばれるが如く浮かべることは出来ないであろうか。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
監獄と、船中においては、甘いものは、ダイアモンドよりもとうとかった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
旅の男 (おごそかに。)金の塊よりもとうとい物が収めてあるのです。
青蛙神 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それゆえにこの学校に三、四十人の教授がいるけれども、その三、四十人の教師は非常にとうとい、なぜなればこれらの人は学問を自分で知っているばかりでなく、それを教えることのできる人であります
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
昔を知って居りますからとうとく思いまして
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
『五山ノ称ハいにしえニ無クシテ今ニアリ。今ニアルハ何ゾ、寺ヲとうとンデ人ヲ貴バザルナリ。古ニ無キハ何ゾ、人ヲ貴ンデ寺ヲ貴バザルナリ。』
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)