つた)” の例文
壁にはつたくずがはい茂り、庭は雑草にうずもれて、秋でもないのに、さながら秋の野のように草ぶかく荒れはてた家の様子であった。
向うへ、小さなお地蔵様のお堂を建てたら、お提灯ちょうちんつたの紋、養子が出来て、その人のと、二つなら嬉しいだろう。まあきまりの悪い。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
松やもっこくやの庭木を愛するのがファシストならば、つたや藤やまた朝貌あさがお烏瓜からすうりのような蔓草を愛するのがリベラリストかもしれない。
KからQまで (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
宇野さんの通りをT字型につきあたった処につたの這った碁会所ごかいじょのような面白い家があって、貸家札がさげてあるのが眼にはいった。
貸家探し (新字新仮名) / 林芙美子(著)
その門から一二間の広さでゆるやかに曲りながら十四五間ほど小砂利が敷かれて、其処にまたつたのからんだ古びた冠木かぶき門がある。
村住居の秋 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
續いて藝者のおりんとお袖、おつたは呑む眞似だけ。大方からつぽになつた徳利は、杯を添へてとものお燗番かんばんのところに返されました。
杉の生垣いけがきをめぐると突き当たりの煉塀ねりべいの上に百日紅ひゃくじつこうみどりの空に映じていて、壁はほとんどつたで埋もれている。その横に門がある。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
鋭い岩壁のそそり立つ二た峰の山懐に、さながらつたでも生え上るように、小さな民家が下から上へと重り合って、まつわり着く。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
だんだん密林が深くなり、巨大な樹が多くなり出した。樹々の幹肌に寄生木やどりぎが蒼黒い葉を茂らせ、つたが梢をおおって這っていた。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
そして人気なく寂然として、つるつたの壁にうた博士邸の古びた入り口にたたずんで待つことしばし、やがて奥にしわがれた声が聞えたかと思うと
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
規矩男の家は松林を両袖にして、まるで芝居の書割のように、真中の道を突き当った正面にポーチが見え、つたに覆われた古い洋館である。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
群生した樹々は唯々ただただ、ひらけた空に向って、光を求めて争って伸びて行ったのだ。トド松はこけに喰い附かれ、つたにからまれて立っていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
空地あきちの正面の突当つきあたりは大きい家の塀で、其処そこの入口は料理店のぐ左にあるのである。塀にはつたが心地よくひまつはつて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
みるまにちょうど三、四十人、つたのかけはしみわたって、あたかも落花らっかるように、咲耶子のいる向こうのかいけてくる!
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寺院の崩れかかった廃墟はいきょにはつたがはいまわり、村の教会の尖塔せんとうは、近くの丘の上にぬきでている。どれもこれも、いかにもイギリスらしい。
船旅 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
つたのからまった小さなほこらのあるのを認めると共に、その祠の側の杉の大樹の下に、人が一人立っているのをさとらないわけにはゆきません。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼女の怜悧れいりな指先は一々見分けていた。枯れつたの幹や色せたすみれなどを静かに引き抜いた。立ち上がる時に、彼女は板石の上に手をついた。
駅から一丁ほど田圃道たんぼみちを歩いて、撮影所の正門がある。白いコンクリートの門柱につたの新芽が這いのぼり、文化的であった。
花燭 (新字新仮名) / 太宰治(著)
太平洋に面した奥州一帯には、これをつたの年越とか、小松正月とかいう名が残っているが、その意味はまだはっきりしない。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「駿河の国にいたりぬ、宇津の山にいたれば、つたかえではえ茂りて道いと細う暗きに、修行者に逢いたり。かかる道をば——」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
一本の菩提樹ぼだいじゅの木がその切り取られた壁の断面の上から枝をひろげており、またポロンソー街の方では壁の上につたがいっぱいからみついていた。
砂利と落葉とを踏んで玄関へ来ると、これもまた古ぼけた格子戸かうしどほかは、壁と云はず壁板したみと云はず、ことごとつたに蔽はれてゐる。
漱石山房の秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
壁に掛けた小さな額縁には、つたからんだバルコニーの上にくっきりとあおい空がのぞいていた。それはいつか旅で見上げた碧空のように美しかった。
美しき死の岸に (新字新仮名) / 原民喜(著)
その坂の降り口に見える古い病院の窓、そこにある煉瓦塀れんがべい、そこにあるつたつる、すべて身にしみるように思われてきた。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
マヌエラは足もとをすくわれてずでんと倒れたが、夢中でつたにすがりつきほっと上をみると、今しも森が沈んでゆくのだ。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それ等は神秘じんぴな強い生命の力で、黒い目をして夜のしおから出て岸に上り——または毛深い耳を立てて、つたにかくれて身を伸してはいないでしょうか。
ひづめの足でしたから、どんなやぶでもつきぬけられました。すると、いばらつたが、大木にからみあつてる茂みの先に、少し打開うちひらけてる場所に出ました。
悪魔の宝 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
隣はぬしのない家と見えて、め切った門やら戸やらにつたが一面にからんでいる。往来を隔てて向うを見ると、ホテルよりは広い赤煉瓦あかれんがの家が一棟ひとむねある。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
したゝめ吉三郎盜賊人殺しに相違さうゐなきむねうつたへんとて番頭へも其趣そのおもぶき申きけければ妻のおつたをつといさめ吉三郎は勿々なか/\然樣さやうの事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
下りられねえってうかして下りられるだろう、待ちねえあの杉だか松だかかしわだかの根方に成って居るとこ藤蔓ふじつるつたや何か縄の様になってあるから
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
たましいをむしりたいほど退屈なパアム街のなかほどに、109という番号字のげかかった茶煉瓦れんがの立体が、赤く枯れたつたをいっぱいに絡ませて
そういうと、おひるころに又来るからと言い、「このつたはぜひ分けて貰いたいですな。」と夏に言って出て行った。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
どうせ任せたつたかつらと、田舎いなかの客の唄う濁声だみごえは離れたる一間より聞えぬ。御療治はと廊下に膝をつくは按摩あんまなり。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
ただ氏の最も得意とする異常心理の描写物は、つたのようにしっかりと人生にからみついている必要があると思う。
『心理試験』を読む (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
また、女の頭髪かみのけの乱れたようなつたなどが下っているところもあった。赤い、烏瓜からすうりの吊下っているところもあった。
過ぎた春の記憶 (新字新仮名) / 小川未明(著)
黒きつたの葉の鳥なんどの如く風に搖らるゝも見ゆ。我は十字を切りて眠に就きぬ。き母上、聖母、刑せられたる盜人の手足、皆わが怪しき夢に入りぬ。
家は腰高こしだか塗骨障子ぬりぼねしょうじを境にして居間と台所との二間のみなれど竹の濡縁ぬれえんそとにはささやかなる小庭ありとおぼしく、手水鉢ちょうずばちのほとりより竹の板目はめにはつたをからませ
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
箱のふたかえでつた紅葉もみじを敷いてみやびやかに菓子の盛られてある下の紙に、書いてある字が明るい月光で目についたのを、よく読もうと顔を寄せているのが
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それには一面に青いつたが這い、その間をこれは又鉄の蔦の様な螺旋らせん階が、ネジネジと頂上まで続いているのですが、その螺旋階をよじ昇ることもありました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
家は腰高こしだか塗骨ぬりぼね障子を境にして居間いまと台所との二間ふたまのみなれど竹の濡縁ぬれえんそとにはささやかなる小庭ありと覚しく、手水鉢ちょうずばちのほとりより竹の板目はめにはつたをからませ
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そんな感じをもちながら、入口のつたの這ったポーチに腰かけて太郎のやる花火を見物したりしていました。
その年の春頃から、その彫金師の、それまでは家人だけの出入り口になっていた、つたなどのからんだくぐり戸に「古流生花教授」という看板がかかるようになった。
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
このへんかえでが割合いに少く、かつひと所にかたまっていないけれども、紅葉こうようは今がさかりで、つたはぜ山漆やまうるしなどが、すぎの木の多い峰のここかしこに点々として
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
棧橋かけはしや命をからむつたかつら、芭蕉翁の過ぎし頃は、其路、其溪、果して如何いかんの光景を呈したりけむ。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
木にからつたといへどもかの者の身にまつはれる恐ろしき獸のさまにくらぶれば何ぞ及ばん 五八—六〇
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
つたかずらをじて登り着くと、そこには良い樹を植えならべて、そのあいだには名花も咲いている。緑の草がやわらかに伸びて、さながら毛氈もうせんを敷いたようにも見える。
昔の栄華えいがを語る古城のほとり、朽ちかけた天守閣にはつたかずらがからみ、崩れかけた石垣にはいっぱいこけが生え、そのおほりに睡蓮の花が咲いていたら、私達は知らぬ間に
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
下から這い上ったつたや、葛蔓くずかずらとからみ合って、夜目にもアリアリと森のように茂り重なっていた。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
周囲にめぐらした土塀どべいも崩れ、山門も傾き、そこにつたがからみついて蒼然そうぜんたる落魄らくはくの有様である。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
突き刺すように、右手で指さしたのを見ると、白い洋服の上から、つたのようなつるでぐるぐるに縛りあげられた三人の白人が、あらあらしく皆の前に引き出されて立っていた。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)