羅刹らせつ)” の例文
それに蛮軍の大将沙摩柯しゃまかの勇猛さはまるで悪鬼か羅刹らせつのようだったので、ほとんど、生き残る者もないほどな大殺戮だいさつりくに会ってしまった。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
刀をとりに行ったものであろう左手に長い刀を下緒さげおといっしょに引っつかんで、その面相羅刹らせつのごとく、どうも事態じたいがおだやかでない。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
これまた、御本尊ごほんぞん羅刹らせつに申上て候。今日ほとけうまれさせまします時に、三十二の不思議あり、此事、周書異記云文しうしよいきといふふみにしるしけり。
奥方様の花のようなお顔が、醜い般若はんにゃ形相ぎょうそうとなって物の云いよう立ち居振舞い羅刹らせつのように荒々しくなりお側へ寄りつくすべもないとは……
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……はたで見ます唯今の、美女でもって夜叉やしゃ羅刹らせつのような奥方様のお姿は、老耄おいぼれの目には天人、女神をそのままに、尊く美しく拝まれました。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
唄〽ときに不思議や、一天にわかに掻きくもり、うしおはどうどうと怒り立ち、百千の悪鬼羅刹らせつは海の底よりあらわれたり。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
隊長は羅刹らせつのような憤激で、荒れ狂い怒りたけって、草むらに隠現した。馬の汗ばんだ腹には草の実がまびれていた。
シベリヤに近く (新字新仮名) / 里村欣三(著)
はげしい斉射につづいて斬って出る城兵のすさまじいたたかいぶりは悪鬼とも羅刹らせつとも云いようがない、それがどの攻め口をついてもおなじだった。
日本婦道記:笄堀 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
く息さえも苦しくまた頼もしかった時だ——「鬼よ、羅刹らせつよ、夜叉の首よ、われを夜伽よとぎの霊の影か……闇の盃盤はいばん闇を盛りて、われは底なき闇に沈む」
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
(月雲にかくる)あゝ信頼のぶよりの怨霊よ。成親なりちかの怨霊よ。わしにつけ。わしにつけ。地獄じごくに住む悪鬼あっきよ。陰府よみに住む羅刹らせつよ。湿地しっちに住むありとあらゆる妖魔ようまよ。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
是を以て九天邪を斬るの使を設け、十地悪を罰するの司を列ね、魑魅魍魎ちみもうりょうをして以てその奸を容るる無く、夜叉やしゃ羅刹らせつをして、その暴をほしいままにするを得ざらしむ。
牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
史詩『羅摩衍那ラーマーヤナ』の中に現われる羅刹らせつ羅縛拏ラーヴァナも、十のかしらを振り立て、悪逆火天となって招かれると云うのだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
圖の下の端なる死人の起つあたり、ふなよそひせる羅刹らせつの罪あるものをき去るあたりは、早や暗黒裡に沒せるに、基督とその周匝めぐりなる天翔あまがける靈とは猶金色に照されたり。
とてものことに、現世ながら、魂を地獄におとし、悪鬼羅刹らせつ権化ごんげとなり、目に物見せてつかわそう——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
小町 あなたはおにです。羅刹らせつです。わたしが死ねば少将も死にます。少将のたねの子供も死にます。三人ともみんな死んでしまいます。いえ、そればかりではありません。
二人小町 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「細川の手の者が隣の羅刹らせつ谷に忍んでいる。ここは間もなく戦場になるぞ。そなたも早く落ちたがよい。俺も今度こそは安心して近江へ往く。これを取って置け」と小柄こづか
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
羅刹らせつ等住み最下第七処パタラに多頭ヴァスキ竜王諸竜をべて住むというは地底竜宮で『施設論』六に〈山下竜宮あれば、樹草多きに及ぶ、山下竜宮なかれば、樹草少なきに及ぶ〉とあり
広い世界にただ一つや二つの悪鬼羅刹らせつの姿を増そうとも、仏の御目にそれが何のさわりをなすものぞ。それは微塵みじんの身を以て蒼天を包み取らんとする働きに等しい。果敢はかなき限りである。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
四大しだいのあらび、忌々ゆゝしかる羅刹らせつ怒號どがう
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
オヽおまへ留守るす差配さはいどのがえられてといひさしてしばたゝくまぶたつゆ白岡鬼平しらをかきへいといふ有名いうめい無慈悲むじひもの惡鬼あくき羅刹らせつよと蔭口かげぐちするは澁團扇しぶうちはえんはなれぬ店子共たなこども得手勝手えてがつて家賃やちん奇麗きれいはらひて盆暮ぼんくれ砂糖袋さたうぶくろあましるさへはしかばぐる目尻めじり諸共もろとも眉毛まゆげによぶ地藏顏ぢざうがほにもゆべけれど
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いかれる獅子ししのまえにはなにものの阻害そがいもない。忍剣はいま、さながら羅刹らせつだ、夜叉やしゃだ、奸譎かんけつ非武士ひぶし卑劣ひれつ忿怒ふんぬする天魔神てんましんのすがただ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家をつくり、塔を組む、番匠なんどとは事變りて、これはしやうなき粗木あらきを削り、男、女、天人、夜叉、羅刹らせつ、ありとあらゆる善惡邪正ぜんなくじやしやうのたましひを打ち込む面作師。
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
おおそれまでによく申したぞ! 改心なさば助けんものと理を尽くして訓すといえど益〻修羅の怨念おんねんを燃やし悪鬼羅刹らせつの毒舌を揮い、この世をけがすというからには
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「細川の手の者が隣の羅刹らせつ谷に忍んでゐる。ここは間もなく戦場になるぞ。そなたも早く落ちたがよい。俺も今度こそは安心して近江へ往く。これを取つて置け」と小柄こづか
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
うたた更に堅く著す、国王夫人たる宝女地中より生じ、十頭の羅刹らせつのために大海を将ち渡され、王大いに憂愁するを智臣いさめて、王智力具足すれば夫人の還るは久しからざる内にあり
及ばずながら私が光子様をおかばい申せば、夜叉やしゃ羅刹らせつかり集めて、あなた方と喧嘩けんかをしてなりと毛頭御渡し申しませんが、事を好んでするではなし。ナニ、おのぞみならば差上げましょう。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
世の常心じょうしんをもって測ることのできない、それは羅刹らせつそのものの凝慾地獄ぎょうよくじごくであった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それは不退転の象徴だった、悪鬼羅刹らせつの旗じるしともみえたのである。
青竹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
四大したいのあらび、忌々ゆゆしかる羅刹らせつ怒号どごう
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
夜はつめたいいその岩かげに組んだ小屋にねる。だが、そのあいださえ、羅刹らせつのような手下は、交代こうたい見張みはっているのだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家をつくり、塔を組む、番匠ばんしょうなんどとは事変りて、これはしょうなき粗木あらきを削り、男、女、天人、夜叉、羅刹らせつ、ありとあらゆる善悪邪正のたましいを打ち込む面作師。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ならぬ!」と卜伝はにべもなく、「活ける人間の五臓を取って、薬を製するとは天魔羅刹らせつ、南蛮人なら知らぬこと、本朝ではおのれ一人! 云い訳聞こう、あらば云え!」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
護摩壇ごまだんむかつて、ひげかみおどろに、はりごと逆立さかだち、あばらぼねしろく、いき黒煙くろけむりなかに、夜叉やしや羅刹らせつんで、逆法ぎやくはふしゆする呪詛のろひそう挙動ふるまいにはべくもない、が、われながらぎんなべで、ものを
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
櫛まきお藤ともあろうものが小むすめやからに男を奪られて人の嘲笑わらいをうけてなろうか——身もこころも羅刹らせつにまかせたお藤は胸に一計あるもののごとく、とっぷりと降りた夜のとばりにまぎれて
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
おう、みなまだいたのか。いかに悪鬼羅刹らせつせいでも、女子供までは殺すまいに。……そうだ、そなたたちは、高時のさいごを見たら、東勝寺のおくに姿を
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「すべての妖はみずからおこるのでなく、人に因って興るのである。あなたは人に知られない悪念をいだいているので、その心の影が羅刹らせつとなって現われるのではあるまいか」
「纐纈城を逃げ出せよ。羅刹らせつ巣窟そうくつを遁がれ出よ。汝悪魔纐纈城主よ!」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あかねいろの都の空にまたしても悪鬼あっき羅刹らせつのよろこび声が聞える時の迫りつつあるのではないかと戦慄した。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
悪鬼あっき羅刹らせつよりも物凄い。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「いや尼前あまぜ、六波羅にいた頃とは、大変りだ。其許そこたちの目から見たら、今の尊氏のすがたなど羅刹らせつのように見えようがな。……生きるか死ぬかだ。はははは」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
外道、羅刹らせつの名をもってして、まだいいたらぬ気がするわ! それでもおぬしは人間か、いや、この国の山ざくら花とついわれるさむらいといえるかどうじゃ
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「先には、十禅師じゅうぜんじ神輿しんよをさえ、にじった、あの羅刹らせつどもが、祈願をしたとて、何のかいがあるものか」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わが子可愛さにひとの子には、鬼となっていたか……お通よ、其方そなたにも、親はあったものにのう。親御から見たらこのばばは、子のかたきじゃ、羅刹らせつじゃ、……。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
呼へばたちまち、夜叉やしゃ、悪鬼、羅刹らせつ、あらゆる魔のすがたは、この一すじの上へ降りて来るだろう。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
木鹿軍の兵は、その顔も皮膚も真っ黒で、まるで漆塗うるしぬりの悪鬼羅刹らせつことならない。しかも大王のうしろには、つながれた猛獣の群れが、尾を振り、雲を望んでえていた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
例の馬春堂先生が、桃源の夢こまやかであッたり、地獄の羅刹らせつうなされたりしながらも、どうしても逃げ口がない八方ふさがりの密室! いわば暗剣殺あんけんさつ居所いどころであります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、玄徳は、身によろいを重ね、宝剣をき、悪鬼あっき羅刹らせつも来れと、心をすえて更に駒をすすめた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その刹那には、敵と名のついた者は、人にもあらぬ悪鬼か羅刹らせつの如き感じがするものだった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
羅刹らせつといえどそんなことのできるものではない。命に接した諸将は実に戦慄したのだった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幾多の人をあやめ、羅刹らせつにひとしい血をあびて、功名を争った者どもが、こうして、無事安心のすがたをの下に見合うことができたのは、さいわいといおうか、めでたいといおうか
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)