つひ)” の例文
左右は千丈の谷なり、ふむ所わづかに二三尺、一脚ひとあしをあやまつ時は身を粉砕こなになすべし。おの/\忙怕おづ/\あゆみてつひ絶頂ぜつてうにいたりつきぬ。
唯その人を命として、おのれも有らず、家も有らず、何処いづこ野末のずゑにも相従あひしたがはんと誓へるかの娘の、つひに利の為に志を移さざるを得べきか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
彼等が悟を説くや、到底城見物の案内者が、人を導きて城の外濠そとぼり内濠をのみ果てしなくめぐり廻りて、つひに其の本丸に到らずしてめる趣きあるなり。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
かう言つて、二三日のひまを貰つて行つたが、日限が来ても、そのばゝあつひに帰つて来なかつた。二人目も五六日でいとまを乞ひに世話人のもとにやつて来た。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
万葉の「太み」は、つひに継承する者がなかつた。ますらをぶりを叫んだ真淵以後も、さうした試みをした人がない。
何事に就いても之と同樣で、つひには、失望しないために、初めから希望をつまいと決心するやうになつた。
かめれおん日記 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
垂し鰻屋の臭に指をくはへるたぐひなり慾で滿ちたる人間とて何につけてもそれが出るには愛想が盡る人生居止きよしを營むつひ何人なんぴとの爲にぼくするぞや眺望ながめがあつて清潔な所を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
定め其處よ彼處かしこと思へ共つひに其日は捨兼て同じ宿なる棒端ぼうばな境屋さかひやと云旅籠屋はたごやに一宿なして明の朝此所の旅店やどやを立出て人の往來ゆきゝの無中にすてなんとおいつ其場所がらを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
〔譯〕人一生ふ所、險阻けんそ有り、坦夷たんい有り、安流あんりう有り、驚瀾きやうらん有り。是れ氣數きすうの自然にして、つひまぬがるゝ能はず、即ち易理えきりなり。人宜しく居つて安んじ、もてあそんでたのしむべし。
吾人はつひに我劇の整合の弊を、如何ともするなきを知る。我邦劇の前途、に多難ならずや。
劇詩の前途如何 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
而して聽者のその空想の力をつくして自ら描出する所のものは、つひにわが目撃せし所の美に及ばざるなるべし。蓋し自然の空想圖ははるかに人間の空想圖の上にあるものなればなり。
而して身外の水も亦、味を解きて人に伝ふるの大作用をなす。譬へば青黄赤黒の色も畢竟水の力を得てしろを染むるが如し。水無ければ、絢爛の美、錦繍のあやつひに成らざるなり。
(新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
永冷ひようれい歯に徹し、骨に徹し、褞袍どてら二枚に夜具をまで借着したる我をして、あごを以て歯を打たしむ、つひに走つて室に入り、夜具引きかづきて、夜もすがら物のに遇ひたる如くにおのゝきぬ。
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
いたづらに材料を他に示すことを惜んでつひにその材料を烏有ういうに帰せしめた学者の罪はつづみを鳴らして攻むべきである。大野洒竹おほのしやちくの一生の苦心に成つた洒竹しやちく文庫の焼けせたけでも残念で堪らぬ。
てんの・善人ぜんにん報施はうしする、如何いかん(四九)盜跖たうせき(五〇)不辜ふこころし、(五一)ひとにくかんにし、(五二)暴戻恣睢ばうれいしきたうあつむることすうにん天下てんか横行わうかうせしが、つひじゆもつをはれり。
東坡もとより牧之の詩をぬすむ者に非ず、然かもつひに是れ前人已に之をへるの句、何んすれぞ文潜之を愛するの深きや、豈に別におもふ所あるか。いささか之を記し以て識者をつ。(老学庵筆記、巻十)
つひに私は耕やさうとは思はない!
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
左右は千丈の谷なり、ふむ所わづかに二三尺、一脚ひとあしをあやまつ時は身を粉砕こなになすべし。おの/\忙怕おづ/\あゆみてつひ絶頂ぜつてうにいたりつきぬ。
もしやと聞着けし車の音はやうやちかづきて、ますますとどろきて、つひ我門わがかどとどまりぬ。宮は疑無うたがひなしと思ひて起たんとする時、客はいとひたる声して物言へり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ルクレティウスをつひに開かないまゝに、私は腰を上げる。海の上の烟つた灰色の中から、汽笛がしきりに聞えてくる。傾斜した小徑を私はそろ/\下り始める。
かめれおん日記 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
祇園祭りや祇園ばやしなどが、国々に、ますます盛んになつて行くに連れて、物見の人までが、我も/\と異風をして出かけた。つひに、日常の外出にさへ行はれ出した。
見ざる所を信ずる信をして信たらしむるもの、是れやがて既に幾分か見たる所の或物を根柢とせるが故にあらずや。勿論もちろん詮議せんぎを厳にしていはば、見はつひに信に帰著すべし。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
何故なぜ、あの時、あの女はあの子を抱いて井戸に身を投じたであらうか。何故? 何故?」かうかれは心の中に絶叫して、長い間その答を待つたが、つひにその答はやつて来なかつた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
定め此婚姻こんいんさまたげんとたくみ奸計かんけいに當りつひにお光が汚名をめいかうむ赤繩せきじようたえたる所より白刄しらはふるつてかん白洲しらす砂石しやせきつかむてふいと爽快さうくわいなる物語はまたくわいを次ぎ章を改め漸次々々に説分くべし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
めざるもの誰ぞ、悟らざるもの誰ぞ。損喪そんさうせざるものつひ何処いづこにか求めむ。
富嶽の詩神を思ふ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
つひ蜜柑みかんの色のみだつた? ……
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
争ひ得ずしてつひに貴婦人の手をわづらはせし彼の心は、あふるるばかり感謝の情を起して、次いではこの優しさを桜の花のかをりあらんやうにも覚ゆるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
すでに一じんの薪となるべきを、幸にしる者にあひひて死灰しくわいをのがれ、韻客ゐんかくため題詠だいえい美言びげんをうけたるのみならず、つひには 椎谷侯しひやこうあいほうじて身を宝庫ほうこに安んじ
外来魂がつひに還らぬものと定まると、この世の実在でないと言ふ自覚を、死者に起させようとかゝる。死者の内在魂に対して、唱へ聴かす詞章がなくてはならぬ。此がつぎであつた。
夏になり秋になつても、娘はつひに家に帰らなかつた。後には、その父母は娘の雑用ざふようの米やら衣類やらを其処に運んで行かなければならなかつた。母親もやがてはその信者の群の一人になつた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
劇内の制度旧式が新に生れんとする劇詩に大なる障碍しやうがいをなしつゝありし事は、今更之を言ふに及ばず。美妙氏はつひに彼の制度と調和する事を得んと思はるゝにや、或は一時止むことなければとにや。
劇詩の前途如何 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
尋問たづねられしかば憑司はぐつ/\こたふるやう私し少し間違まちがひにて村の持山もちやまきりしゆゑ退役いたし其跡にて傳吉儀役人中へ色々つひに村長と相成しが傳吉段々我儘わがまゝ押領あふりやう等の筋之有るやにて又私しへ村長を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
すでに一じんの薪となるべきを、幸にしる者にあひひて死灰しくわいをのがれ、韻客ゐんかくため題詠だいえい美言びげんをうけたるのみならず、つひには 椎谷侯しひやこうあいほうじて身を宝庫ほうこに安んじ
毎号まいがう三千さんぜんづゝもるやうなわけで、いまつとめて拡張かくちやうすれば非常ひじやうなものであつたのを、無勘定むかんじやう面白半分おもしろはんぶんつてために、つひ大事だいじらせたとはのちにぞ思合おもひあはされたのです
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それで尊貴族は、つひに表面に現れないで、他氏が力を振ふやうになつた。
古代人の思考の基礎 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
かう何遍思ひ立つてその窓の白い紙の前に行つたか知れなかつた。しかしつひに竟にそれは出来なかつた。臆病か。卑怯か。それともまたさうした恋心を日常の空想にして楽しんでゐるだけなのか。
赤い鳥居 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
われさへや つひに来ざらむ。とし月のいやさかりゆく おくつきどころ
歌の円寂する時 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
○さてわが駅中えきちゆうに稲荷屋喜右エ門といふもの、石綿を紡績はうせきする事に千思せんしりよつひやし、つひみづからその術を得て火浣布を織いだせり。又其頃我が近村きんそん大沢村の医師黒田玄鶴げんくわくも同じく火浣布を織る術をたり。
諸君、自然はつひに自然に帰つた!
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
○さてわが駅中えきちゆうに稲荷屋喜右エ門といふもの、石綿を紡績はうせきする事に千思せんしりよつひやし、つひみづからその術を得て火浣布を織いだせり。又其頃我が近村きんそん大沢村の医師黒田玄鶴げんくわくも同じく火浣布を織る術をたり。