かん)” の例文
というのは、この犬は首に鉄のかんをハメられて、首が二重に麻の太縄で結えてある。それを外してやろうとしてもがいているのです。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
レールを二本前の方にぎ足しておいて、鉄のかんに似たものを二つ棺台のはしにかけたかと思うと、いきなりがらがらという音と共に
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
寐床の側の畳に麻もて箪笥たんすかんの如き者を二つ三つ処々にこしらへしむ。畳堅うして畳針とおらずとて女ども苦情たらだらなり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
十五匁程の鉛錘おもり進退しんたいかんによりて、菅絲すがいとに懸る。綸は太さ三匁其の黒き事漆の如く、手さわりは好くして柔かなるは、春風になびく青柳の糸の如し。
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
棒の先のかんから長いくさりが垂れていて、その鎖の端には、ぶんと振れば、人間の頭蓋骨を砕くに足る鉄の球がついている。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしはたいていその土堤をつたって村に出るので、いわばこのかんによって世間とむすびつけられているのである。
と云うのは、開閉器スイッチの直下に当る床の上に、和装の津多子以外にはない、羽織紐のかんが一つ落ちていたからだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
翌朝よくあさ自分の眼をさました時、伯母おばはもう次のに自分の蚊帳かやたたんでいた。それが蚊帳のかんを鳴らしながら、「多加ちゃんが」何とか云ったらしかった。
子供の病気:一游亭に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
(13)ring-bolt ——綱などを結びつけるために甲板に取り付けられたかんのついた螺釘ねじくぎ。環釘。
「お町を手に入れる力さえない」くちびるがブルブルふるえ出した。手もふるえているのだろう、カラカラカラカラと音がする。鉄杖についているかんである。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これはつかあたまのところがかんかたちをして、そのなかとりけだものや、あるひははなかたちがついてゐるものであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
お江戸の町々を呼歩く蚊帳売かやうりの声と定斎売じょうさいうりかんに、日盛ひざかりの暑さは依然として何の変りもなかったが、とにかく暦の表だけではいよいよ秋という時節が来ると
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と、ウルスキーは上着の下からピカピカ光る人の顔ほどある黄金おうごんかんを出して、博士の方に見せた。
見えざる敵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
折悪しくその第七番目の鰐口わにぐちに刺さっていた鉄棒ピンが、ドウした途端はずみか六番目の炭車トロッコ連結機ケッチンかんからはずれたので、四台の炭車トロッコが繋がり合ったまま逆行して来て、丁度
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かつらたるやうにくしけづりたりし彼の髪は棕櫚箒しゆろぼうきの如く乱れて、かんかたかたげたる羽織のひもは、手長猿てながざるの月をとらへんとするかたちして揺曳ぶらぶらさがれり。主は見るよりさもあわてたる顔して
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
持って通った場合もあろうが、多くは寺子屋の壁に掛けておいたようである。上部両端にかんがつきひもが添えてあるのが多い。板の左右には端喰はしばみを附ける。そりを妨ぐためである。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
左様さいで、ござりません。仁丹がうござりますやろ。」と夕間暮ゆうまぐれ薬箪笥くすりだんすに手を掛ける、とカチカチと鳴るかんとともに、額の抜上った首を振りつつおおきな眼鏡越にじろりとる。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
霜柱の研究といっても、先ず手始めにコロイドの性質にれようというので、M君の仕事は、硝子ガラス板の上にゼラチンを流して、リーゼガングかんを作ることから手をつけることになった。
オモリはタナゴの両かん針素はりすもタナゴの絹の吸い込み一寸五分くらいで、針は袖型のジク長四、五厘ほど。餌は上等のイソメを針いっぱいに切って、針素のほうへ送り込むようにする。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
金属のかんを結びつけて足がかりとした、一本の紐に過ぎないのだから、昇るのにもコツがあって、なかなかむずかしいのだが、老探偵は一匹の猿の様に、スルスルと、見事に昇って行った。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
上部につけられたかんの金属音が、鈴を鳴らすように、金五郎の耳に、こころよくひびいた。それよりも、彼の眼を奪ったものは、窓外のすばらしい青空である。指をさしだせば染まりそうに濃い。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
かんくぎへ掛けても、まだダクンダクンしてる……笑ったにも何にも……
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
クラカトア火山の爆破の時に飛ばされた塵は、世界中の各所に異常な夕陽の色を現わし、あるいは深夜の空にうかぶ銀白色の雲を生じ、あるいはビショップかんと称する光環を太陽の周囲に生じたりした。
塵埃と光 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
玄碩のはじめさい某氏には子がなかった。後妻こうさい寿美すみ亀高村喜左衛門かめたかむらきざえもんというものの妹で、仮親かりおや上総国かずさのくに一宮いちのみやの城主加納かのう遠江守久徴ひさあきらの医官原芸庵はらうんあんである。寿美が二女を生んだ。長をかんといい、次を鉄という。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「だからおれは、あいつを外してしまって、その代りにこのかんを首へはめて、細引で松の枝へつるしておいて仕事にかかりてえと思うのだ」
華陀かだは、薬嚢やくのうを寄せて、中から二つの鉄のかんを取り出した。一つの環を柱に打ち、一つの環に関羽の腕を入れて、縄をもって縛りつける準備をした。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女は白き手巾ハンケチで目隠しをして両の手で首をせる台を探すような風情ふぜいに見える。首を載せる台は日本の薪割台まきわりだいぐらいの大きさで前に鉄のかんが着いている。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なほ玉類たまるいのほかにからだへつけた裝飾品そうしよくひんには、金鐶きんかんといふどうにめっきをしたかんがありまして、これはたいてい一對いつゝひづゝるので、多分たぶん耳飾みゝかざりなどに使つかつたものとおもはれます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
映写幕の上には、大きな丸いかんが、いくつもうつってそれがゆるやかに下から上へ動いていく。
三十年後の世界 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ですから法水さん、私がもしデイシャス(沙翁の「ジュリアス・シーザー」の中でブルタスの一味)でしたら、さしずめこの場合は、羽織のかんにこう申すところでしょうよ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
純白の髪を肩へたれ、純白の行衣ぎょういを身にまとい、一尺ばかりの一本歯の下駄、そいつをはいた修験者で、かんのついた鉄杖てつじょうをつき、数間すうけんのかなたを人波を分け、悠々と歩いて行くのである。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
例のゆがめる口をすぼめて内儀は空々そらぞらしく笑ひしが、たちまち彼の羽織のひもかたかたちぎれたるを見尤みとがめて、かんの失せたりと知るより、あわて驚きて起たんとせり、如何いかにとなればその環は純金製のものなればなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その道具というのは、一束の細引と、鉄製のかんと、大小幾通りの庖丁ほうちょうと、小刀と、小さなのこぎりなどのたぐいであります。
御米はまた立ち上って、洋灯を手にしたまま、あいふすまを開けて茶の間へ出た。暗い部屋が茫漠ぼんやり手元の灯に照らされた時、御米は鈍く光る箪笥たんすかんを認めた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そういいながら、鎖に手をかけたが、わしの足にはめられたくろがねかんも、またふとい鎖もれればこそ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それはいしかん一方いつぽうけたようなかたちのものや、つゞみかたちをした土製品どせいひんで、まへまをした石器時代せつきじだい墓場はかばから、よく人骨じんこつみゝのあたりで發見はつけんされるのであります。(第四十一圖だいしじゆういちず
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
夫人おくさん、この羽織紐のかんは、ひとまずお返ししておきましょう。しかし、たぶん貴女あなたなら、この開閉器スイッチひねったのが誰だか——御存じのはずですがね」とまず津多子をんで
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「なにをやかましいことをいうんだ。黄金おうごんかんはちゃんとお前の手に返っているじゃないか」
見えざる敵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
巨大なかんが付いている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
呉の周魴しゅうほうが初めから陸遜りくそんしめし合せていたことなので、呉はこの好餌を完全に捕捉殲滅ほそくせんめつし去るべく、くから圧倒的な兵力をもって包囲かんを作りつつあったのである。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手燭てしょくをつけて一匹ずつ焼くなんて面倒な事は出来ないから、釣手つりてをはずして、長くたたんでおいて部屋の中で横竪よこたて十文字にふるったら、かんが飛んで手のこうをいやというほどった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「これから錫杖しゃくじょうの頭と、六大ろくだいかんを刻めば、あとは開眼かいげんじゃ」
岩壁がんぺきの一たんに、ふとい鉄環てっかんが打ちこんであり、かんに一本の麻縄あさなわむすびつけてあった。で、そのなわはしをながめやると、大きな丸太筏まるたいかだが三そう、水勢すいせいにもてあそばれてうかんでいる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昨夕ひもを通したかんが、どうした具合か抜けている。井深はそのついでに額の裏を開けて見た。すると画と背中合せに、四つ折の西洋紙が出た。開けて見ると、印気インキで妙な事が書いてある。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
はしなくも燦然さんぜんたる一将を見かけた。天目将軍てんもくしょうぐん彭玘ほうきにちがいない。三尖刀さんせんとうと称して四ツのあなに八つのかんがさがっている大刀に血のしたたりをみせ、千里駿足の黄花馬しろかげをせかせながら
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はその中に、支那から帰った友達にもらった北魏ほくぎ二十品にじっぴんという石摺いしずりのうちにある一つをり出して入れた。それからその額をかんの着いた細長い胡麻竹ごまだけの下へら下げて、床の間のくぎへ懸けた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
机をてたお延は、すぐ本箱の方に向った。しかしそれを開けようとして、手をかんにかけた時、抽斗は双方とも何の抵抗もなく、するすると抜け出したので、お延は中を調べない先に、まず失望した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
閉めたり開けたりする抽斗ひきだしかんの音がだんだん荒っぽくなる。
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昔しは舟のともづなをこのかんつないだという。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
奥では用箪笥ようだんすかんの鳴る音がした。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)