瑠璃色るりいろ)” の例文
かげから、すらりとむかうへ、くまなき白銀しろがねに、ゆきのやうなはしが、瑠璃色るりいろながれうへを、あたかつき投掛なげかけたなが玉章たまづさ風情ふぜいかゝる。
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
何日も見て居乍ら、何時見ても目さむる様の心地せらるゝは、朝顔形に瑠璃色るりいろの模様したる鉢に植ゑし大輪の白薔薇なり。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ぽつねんと独り待っているうちに、初夏の軽い雨が降り出し、瑠璃色るりいろのタイルで張られた露台に置きならべられた盆栽が、見る間に美しくれて行った。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
遠くまでたなびき渡して、空は瑠璃色るりいろ深く澄みつつ、すべてのものが皆いきいきとして、おのおのその本能を発揮しながら、またよく自然の統一に参合している。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
この朝顔はね、あの婆の家にいた時から、お敏さんが丹精たんせいした鉢植なんだ。ところがあの雨の日に咲いた瑠璃色るりいろの花だけは、奇体に今日までしぼまないんだよ。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あお天鵞絨ビロードの海となり、瑠璃色るりいろ絨氈じゅうたんとなり、荒くれた自然の中の姫君なる亜麻の畑はやがて小紋こもんのようなをその繊細な茎の先きに結んで美しい狐色に変った。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
青焔せいえんに揺れる大海原が瑠璃色るりいろの空と続くあたりは、金粉を交えた水蒸気にぼかされて白く霞んで見えた。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
むつまじく畑に並んだ老母と嫁の手に、がれた茄子なすは、七ツ、十、二十といつか籠を瑠璃色るりいろに埋めた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もろもろの陰は深い瑠璃色るりいろに、もろもろの明るみはうっとりした琥珀色こはくいろの二つに統制されて来ると、道路側のかわら屋根の一角がたちまち灼熱しゃくねつして、紫白しはく光芒こうぼう撥開はっかい
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
瑠璃色るりいろの羽をした鳥や、孔雀くじゃくのように羽を広げた鳥などが、岩屋の前をおりおりいて通った。河野はふとじぶんが気絶したときにまされた不思議な薬のことを思いだした。
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
是公の家の屋根から突出つきだした細長い塔が、瑠璃色るりいろの大空の一部分を黒く染抜いて、大連の初秋はつあきが、内地では見る事のできない深い色の奥に、数えるほどの星をきらつかせていた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
打晴れたる空は瑠璃色るりいろ夕栄ゆふばえて、にはかまさこがらしの目口にみて磨鍼とぎはりを打つらんやうなるに、烈火の如き酔顔を差付けては太息嘘ふといきふいて、右に一歩左に一歩とよろめきつつ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
牝牛めうしさん、いてください。わたし可愛かはいいばうたちはね。きつとうつくしい瑠璃色るりいろをしてゐて、薔薇ばらはなみたいによいにほひがしますよ。そしてすゞをふるやうなよいこゑでちる/\とうたひますよ。
お母さん達 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
雪のはだえは瑠璃色るりいろにしっとり湿気を含んで、二九まさるはたちばかりの今ぞ色濃き春のこころは、それゆえにひとしおあだめかしい髪のくし巻き姿とともにいちだんのふぜいを添えて
瑠璃色るりいろの南国の青空が色ガラスのように眼に映った。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
美女 でも、貴方あなた、雲が見えます、雪のような、空が見えます、瑠璃色るりいろの。そして、真白まっしろな絹糸のような光がします。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
綺麗に掃除されたラムプの油壷は瑠璃色るりいろのガラスで、その下には乳色のガラスの台がついていた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「いえ。およそお使者の旨は、分っておりますから、あわてるには及びません。……少し茄子をいで、朝露のつややかな瑠璃色るりいろを、信長公のお目にかけようかと存じまして」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが水天一枚の瑠璃色るりいろの面でしばしば断ち切れて、だんだん淡く、蜃気楼しんきろうの島のように中空に映りかすんで行く。たゆげな翼を伸した鳥が、水に落ちようとしてたゆたっている。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
伏屋貝ふせやがいかと浜道へこぼれていて、朽ちて崩れた外流そとながしに——見ると、杜若かきつばたの真の瑠璃色るりいろが、濡色に咲いて二三輪。……
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その狭い井の口から広大に眺められる今宵こよいの空の、何と色濃いことであろう。それを仰いでいると、情熱の藍壺あいつぼに面を浸し、瑠璃色るりいろ接吻せっぷんで苦しく唇を閉じられているようである。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
空の蒼々あおあおしたのが、四辺あたり樹立こだちのまばらなのに透いて、瑠璃色るりいろの朝顔の、こずえらんで朝から咲き残った趣に見ゆるさえ、どうやら澄み切った夜のよう。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
遠い水は瑠璃色るりいろにのして、表面はにこ毛が密生しているように白っぽくさえ見える。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
白菊しらぎくころ大屋根おほやねて、棟瓦むねがはらをひらりとまたいで、たかく、たかく、くもしろきが、かすかうごいて、瑠璃色るりいろ澄渡すみわたつたそらあふときは、あの、夕立ゆふだち思出おもひだす……そして
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
瑠璃色るりいろに澄んだ中空なかぞらの間から、竜が円い口を張開いたような、釣鐘の影のなかで、そっと、美麗なおんなの——人妻の——写真をた時に、樹島きじまは血が冷えるように悚然ぞっとした。……
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
折々をり/\そら瑠璃色るりいろは、玲瓏れいろうたるかげりて、玉章たまづさ手函てばこうち櫛笥くしげおく紅猪口べにちよこそこにも宿やどる。龍膽りんだういろさわやかならん。黄菊きぎく白菊しらぎく咲出さきいでぬ。可懷なつかしきは嫁菜よめなはなまがきほそ姿すがたぞかし。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
だから、日向で汗ばむくらいだと言った処で、雑樹一株隔てた中には、草の枯れたのに、日がすかと見れば、何、瑠璃色るりいろに小さくった竜胆りんどうが、日中ひなかも冷い白い霜をんでいます。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
棟瓦むねがわらをひらりとまたいで、高く、高く、雲の白きが、かすかに動いて、瑠璃色るりいろ澄渡すみわたった空を仰ぐ時は、あの、夕立の夜を思出おもいだす……そして、美しく清らかな母の懐にある幼児おさなごの身にあこがれた。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
殺さぬまでに現責うつつぜめに苦しめ呪うがゆえ、生命いのちを縮めては相成らぬで、毎夜少年の気着かぬ間に、振袖に扱帯しごきおびした、つらいぬの、召使に持たせて、われら秘蔵の濃緑こみどりの酒を、瑠璃色るりいろ瑪瑙めのうつぼから
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
せままちまぐろしい電線でんせんも、ぎんいといたやうで、樋竹とひだけけた蜘蛛くもも、今朝けさばかりはやさしくえて、あを蜘蛛くも綺麗きれいらしい。そら朝顏あさがほ瑠璃色るりいろであつた。欄干らんかんまへを、赤蜻蛉あかとんぼんでる。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)