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燻
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くゆ
ふりがな文庫
“
燻
(
くゆ
)” の例文
伊勢屋新兵衛は吐き出すように言い終って、線香をもう一と掴み
燻
(
くゆ
)
らし、さて平次の方を振り返ってピョコリとお辞儀をするのです。
銭形平次捕物控:143 仏喜三郎
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
信一郎の心が、不快な動揺に悩まされてゐるのを
外
(
よそ
)
に、秋山氏は、今火を
点
(
つ
)
けた金口の煙草を
燻
(
くゆ
)
らしながら、落着いた調子で云つた。
真珠夫人
(新字旧仮名)
/
菊池寛
(著)
小夜子はまた
口籠
(
くちごも
)
る。東京が好いか悪いかは、目の前に、西洋の
臭
(
におい
)
のする煙草を
燻
(
くゆ
)
らしている青年の心掛一つできまる問題である。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
面白く
発
(
はや
)
りし一座も
忽
(
たちま
)
ち
白
(
しら
)
けて、
頻
(
しきり
)
に
燻
(
くゆ
)
らす
巻莨
(
まきたばこ
)
の煙の、
急駛
(
きゆうし
)
せる車の
逆風
(
むかひかぜ
)
に
扇
(
あふ
)
らるるが、飛雲の如く窓を
逸
(
のが
)
れて
六郷川
(
ろくごうがわ
)
を
掠
(
かす
)
むあるのみ。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
アルセーヌ・ルパンはとある
東亭
(
あずまや
)
の中で、煙草を
燻
(
くゆ
)
らしていたが、やおら身を起すと桟橋の端近く水面を覗き込むようにして
水晶の栓
(新字新仮名)
/
モーリス・ルブラン
(著)
▼ もっと見る
煙管
(
きせる
)
を取って、すぱっと一ぷく
燻
(
くゆ
)
らしながら、ゆうべ打粉を与えて措いた枕元の腰の刀を見ると、さすがに体が
緊
(
し
)
まって来た。
御鷹
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
灰吹の口が奇麗に擦れて父の気に入ったときは、父は有難うと言ってそれを莨盆にさし込み、煙管を
燻
(
くゆ
)
らしながら言った。
東海道五十三次
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
七兵衛の接待心を兵助は有難く受取って、二人が仲よく一ぷく
燻
(
くゆ
)
らしたかと思うと、兵助は草鞋のかかとで吸殻をはたき
大菩薩峠:38 農奴の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
必死の闘いの直後において、この光景に接したばかりか、例の芳香に
燻
(
くゆ
)
らされたのであった。小次郎に何の意識があろう。
娘煙術師
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
この談話は、主税が立続けに巻煙草を
燻
(
くゆ
)
らす間に、食堂と客室とに挟まった、その幅狭な休憩室に、差向いでされたので。
婦系図
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
大月は
巻煙草
(
シガレット
)
を
燻
(
くゆ
)
らしながら、
恰
(
あたか
)
もこの事件に対して深い興味でも覚えたかの如く、暫くうっとりとした冥想に陥っていたが、軈て夫人に向って
花束の虫
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
白いシーツのように見えていたのがそれで、静かに立ち
騰
(
のぼ
)
っている煙は男がベッドで
燻
(
くゆ
)
らしている葉巻の煙なんです。
ある崖上の感情
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
そして煙草が半分ばかし
燻
(
くゆ
)
つた頃を見計らつて、盃のなかにその吸殻を叩き込んで、ぐつと一息に
煽飲
(
あふ
)
りつけるのだ。
茶話:03 大正六(一九一七)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
彼は、ぱふりぱふりと煙草を
燻
(
くゆ
)
らしながら、和尚の生活の
淫
(
みだ
)
らなことや、
吝
(
けち
)
で、彼には卵を食わせないこと、煙草も買ってくれないことなどを話した。
再度生老人
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
今日
(
きょう
)
しも盆の十三日なれば、
精霊棚
(
しょうりょうだな
)
の
支度
(
したく
)
などを致して仕舞ひ、
縁側
(
えんがわ
)
へ
一寸
(
ちょっと
)
敷物を敷き、
蚊遣
(
かやり
)
を
燻
(
くゆ
)
らして新三郎は
牡丹灯籠 牡丹灯記
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
父親は明子の姿を見ると、満足さうにちよいと頷いたが、それぎり連れの方を向いて、又葉巻を
燻
(
くゆ
)
らせ始めた。
舞踏会
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
主人も昼寝から起きて来て、囲炉裏の傍に胡坐をかいて、うまさうにプカプカ煙草を
燻
(
くゆ
)
らしたりした。
旅から帰つて
(新字旧仮名)
/
田山花袋
、
田山録弥
(著)
苦虫を噛み
潰
(
つぶ
)
したような顔で葉巻を
燻
(
くゆ
)
らせていた私が心の中で考えていたことは、もちろんホセの話がほんとうか嘘かを思案していたわけなぞでは毛頭もなかった。
陰獣トリステサ
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
「ほろりとも降らで月澄む」の十二字を以て、大旱の夜の空気を現した
伎倆
(
ぎりょう
)
は尋常でない。蚊遣は
片靡
(
かたなび
)
きもせず、作者の座右に細々と
燻
(
くゆ
)
りつつあるものと想像する。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
その他、停車場特有の貨物の匂、
燻
(
くゆ
)
らす葉巻、ふくらかな
羽毛襟巻
(
ボア
)
、強烈な香水、それらの凡てが私の疲れきつた官能にフレツシユな刺戟を与へたことは無論である。
新橋
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
マン中の鉄火鉢の前に椅子を引き寄せた小使らしい
禿頭
(
はげあたま
)
が、
長閑
(
のどか
)
に煙草を
燻
(
くゆ
)
らしているだけだ。
山羊髯編輯長
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
ちょっとしゃれた作りになっている横戸の口に、黄色の
生絹
(
すずし
)
の
袴
(
はかま
)
を長めにはいた愛らしい童女が出て来て随身を招いて、白い扇を色のつくほど
薫物
(
たきもの
)
で
燻
(
くゆ
)
らしたのを渡した。
源氏物語:04 夕顔
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
博士が、六人に一本ずつ巻煙草をくばると、おしいただいてから、ゆっくりと
燻
(
くゆ
)
らしはじめた。
地底獣国
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
母親の顔を見るさえきまり悪く、やけくそに夜寒の井戸端でザブザブ水を浴びると圓朝は、そのまま自分の寝床へ入って、煎餅蒲団を引っかぶり、
燻
(
くゆ
)
み返って寝てしまった。
小説 円朝
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
あだに費やすべきこの後の日数に、心慰みの一つにても多かれ。美しき獲物ぞ。とのどかに
葉巻
(
シガー
)
を
燻
(
くゆ
)
らせながら、しばらくして、資産家もまた妙ならずや。あわれこの時を失わじ。
書記官
(新字新仮名)
/
川上眉山
(著)
食事が済むと煙草を
燻
(
くゆ
)
らす暇もなく、父は監督に帳簿を持って来るように命じた。
親子
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
われらはまだ
煖
(
ぬく
)
まらぬ
臥床
(
ふしど
)
を降りて、まどの
下
(
もと
)
なる小机にいむかひ、
烟草
(
タバコ
)
燻
(
くゆ
)
らすほどに、さきの笛の音、また窓の外におこりて、
乍
(
たちま
)
ち断えたちまち続き、ひな
鶯
(
うぐいす
)
のこころみに鳴く如し。
文づかひ
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
マルコオ、ルガノと
名告
(
なの
)
ると共に、戸はあきて、我等は暗黒なる一室の中に立てり。
聖母
(
マドンナ
)
を畫けりと覺しき小幅の前に捧げし燈明は既に
滅
(
き
)
えて、燈心の猶
燻
(
くゆ
)
るさま、一點の血痕の如し。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
立出で夫より松戸の渡しも
漸々
(
やう/\
)
通り越
小金
(
こがね
)
が
原
(
はら
)
に差掛りけるに扨
物淋
(
ものさび
)
しき原中ゆゑ先腰なる
摺燧
(
すりひうち
)
を
取出
(
とりいだ
)
し松の根に
尻
(
しり
)
打掛
(
うちかけ
)
煙草
燻
(
くゆ
)
らす折柄
後
(
あと
)
より
尾來
(
つけきた
)
りしと見えて一人の大の男腰に
長刀
(
なががたな
)
を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
旅の家族とおぼしい女交りの一連が、窮窟そうにギッシリ詰まっているが、屋根の上にはチョッキ一枚になって、シガアを
燻
(
くゆ
)
らしている荒くれ男たちが、不行儀に、
臀
(
しり
)
や
脛
(
すね
)
をむき出しに
火と氷のシャスタ山
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
といひながら臭き煙草を一ぷく
燻
(
くゆ
)
らし、これも吹殻より煙の立つやうな不始末な吸ひやうはせず。吹かしたる煙の末をも篤と見済まして、あはれこれをも軒より外へは出しともなげなり。
心の鬼
(新字旧仮名)
/
清水紫琴
(著)
喫烟室
(
スモーキングルーム
)
へ
行
(
ゆ
)
くも
面倒
(
めんだう
)
なり、
少
(
すこ
)
し
船
(
ふね
)
の
規則
(
きそく
)
の
違反
(
ゐはん
)
ではあるが、
此室
(
こゝ
)
で
葉卷
(
シユーガー
)
でも
燻
(
くゆ
)
らさうと
思
(
おも
)
つて
洋服
(
やうふく
)
の
衣袋
(
ポツケツト
)
を
探
(
さぐ
)
りて
見
(
み
)
たが一
本
(
ぽん
)
も
無
(
な
)
い、
不圖
(
ふと
)
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
したのは
先刻
(
せんこく
)
ネープルス
港
(
かう
)
を
出發
(
しゆつぱつ
)
のみぎり
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
清冽
(
せいれつ
)
掬
(
きく
)
するに堪えたる涙泉の前に立って、我輩は巻煙草を
燻
(
くゆ
)
らしながら得意にエジェリヤの
昔譚
(
むかしものがたり
)
を同行の諸氏に語りつつ、時の移るを忘るるほどであったが、いざ帰ろうという時になって
法窓夜話:02 法窓夜話
(新字新仮名)
/
穂積陳重
(著)
数多の興行中明治二十五、六年頃、浅草六区で一世一代の「西南戦争」は大道具大仕掛け、招ぎの場面は山上の西郷隆盛、遥かに熊本城を望んで悠然と葉巻を
燻
(
くゆ
)
らし、口より煙を吐いて見せる。
明治世相百話
(新字新仮名)
/
山本笑月
(著)
わたしはその晩、旧友
並山
(
なみやま
)
副領事の自宅に招かれて久しぶりに日本料理の
馳走
(
ちそう
)
になった。食事のあとでハバナを
燻
(
くゆ
)
らしながら
安楽椅子
(
あんらくいす
)
に腰を下ろしたわたしは、金門公園の不思議な青年の話をした。
謎の街
(新字新仮名)
/
松本泰
(著)
男子
(
をのこ
)
と
燻
(
くゆ
)
りて、
雙手
(
もろて
)
、見よ、
披
(
ひら
)
けり。
機縁:(友なる画家の画稿に題す)
(新字旧仮名)
/
蒲原有明
(著)
お六は煙草
燻
(
くゆ
)
らしつ
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
燻
(
くゆ
)
らしていたが
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
信一郎の心が、不快な動揺に悩まされているのを
外
(
よそ
)
に、秋山氏は、今火を
点
(
つ
)
けた金口の
煙草
(
たばこ
)
を
燻
(
くゆ
)
らしながら、落着いた調子で云った。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
荒つぽいことを言ひながらも、平次はとぐろをほぐしさうもなく、
自棄
(
やけ
)
に煙草盆を引寄せて、
馬糞
(
まぐそ
)
臭いのを二三服立てつゞけに
燻
(
くゆ
)
らします。
銭形平次捕物控:230 艶妻伝
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
金煙管
(
きんぎせる
)
の
莨
(
たばこ
)
の
独
(
ひと
)
り
杳眇
(
ほのぼの
)
と
燻
(
くゆ
)
るを手にせるまま、満枝は
儚
(
はかな
)
さの
遣方無
(
やるかたな
)
げに
萎
(
しを
)
れゐたり。さるをも見向かず、
答
(
いら
)
へず、
頑
(
がん
)
として石の如く
横
(
よこた
)
はれる貫一。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
「それでようやく安心した」と甲野さんは、くつろいだ片足を上げて、残る
膝頭
(
ひざがしら
)
の上へ
載
(
の
)
せる。宗近君は巻煙草を
燻
(
くゆ
)
らし始めた。吹く煙のなかから
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
肌を脱いで煙草を
燻
(
くゆ
)
らしながら語り合っていた彼等は、
周章
(
あわて
)
気味にそそくさと着物に手を通し、無言で深く腰を
屈
(
かが
)
めた。そしてそこへまた腰をおろした。
熊の出る開墾地
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
女持
(
をんなもち
)
の
銀煙管
(
ぎんぎせる
)
で、
時々
(
とき/″\
)
、
庭
(
には
)
を
指
(
さ
)
し、
空
(
そら
)
の
雲
(
くも
)
をさしなどして、
何
(
なに
)
か
話
(
はな
)
しながら、
靜
(
しづか
)
に
煙草
(
たばこ
)
を
燻
(
くゆ
)
らす。
松の葉
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
駕籠行燈
(
かごあんどん
)
は隅に遠く隔ててある。床の
香炉
(
こうろ
)
には、いいつけない香が
燻
(
くゆ
)
らしてあった。梅の花に香のにおいは似ていた。又、彼女のそこはかとない衣ずれの匂いにも紛らわしい。
新編忠臣蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
そのあとのロマネスクの茶亭に腰掛けて真佐子は何を考えているか、常人にはほとんど見当のつかない
眼差
(
まなざ
)
しを
燻
(
くゆ
)
らして、寂しい冬の日の当る麻布の台をいつまでも眺めていた。
金魚撩乱
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
向側の歩道に、
丈
(
せい
)
の低い頑丈な、その癖
服装
(
みなり
)
の小綺麗な男が立っていた。彼は薄暗い街燈の光を身に浴びながら時々それとなく
此方
(
こっち
)
の窓を見上げて、切りにパイプを
燻
(
くゆ
)
らしていた。
赤い手
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
七草
(
ななくさ
)
の
夜
(
よ
)
、
牧野
(
まきの
)
が妾宅へやって来ると、お
蓮
(
れん
)
は早速彼の妻が、訪ねて来たいきさつを話して聞かせた。が、牧野は案外平然と、彼女に耳を借したまま、マニラの葉巻ばかり
燻
(
くゆ
)
らせていた。
奇怪な再会
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
許宣も本堂の前で香を
燻
(
くゆ
)
らし、
紙馬紙銭
(
しばしせん
)
を焼き、赤い
蝋燭
(
ろうそく
)
に灯を
点
(
とも
)
しなどして両親の冥福を祈った。そして、寺の本堂へ往き、客堂へあがって
斎
(
とき
)
を
喫
(
く
)
い、寺への布施もすんだので山をおりた。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
頬にピリつく、嘉代吉や人夫も、偃松の間の石饅頭に、腰を卸して、
烟菅
(
キセル
)
を取り出し、スパスパやりはじめた、その煙が蒼くうすれて空に
燻
(
くゆ
)
ってゆくのを、私はうっとりと眺めていたが、耳のわきで
谷より峰へ峰より谷へ
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
燻
漢検1級
部首:⽕
18画
“燻”を含む語句
一燻
燻肉
蚊燻
燻蒸
黒燻
松葉燻
燻腿
燻製
燻銀
燻占
空燻
燻製鰊
余燻
燻々
銀燻
坐燻
股燻製
突燻
燻鰊
燻香
...