橄欖かんらん)” の例文
貝殻の代りに橄欖かんらんの葉即ちペタラ(Petala)を用いたので、その名もペタリズムス(Petalismus)といったとか。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
大きな椰子やしや、橄欖かんらんや、ゴムの樹の植木鉢の間に、長椅子だのマットだの、クッションだの毛皮だのが大浪おおなみのように重なり合っている間を
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼は、精を窮め、微に入り、面に睟れ、背に盎き白鹿洞はくろくどうの先生に非ず。彼は、宇宙を呑み、幽明を窮むる橄欖かんらん林の夫子ふうしに非ず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
殊にナブルスの谷は、清泉処々しよ/\に湧きて、橄欖かんらん無花果いちじゆくあんず、桑、林檎、葡萄、各種野菜など青々と茂り、小川の末にはかはづの音さへ聞こえぬ。
庭の橄欖かんらん月桂げっけいは、ひっそりと夕闇に聳えていた。ただその沈黙がみだされるのは、寺のはとが軒へ帰るらしい、中空なかぞら羽音はおとよりほかはなかった。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
無限の残忍なる風に橄欖かんらんの木立ちの震える頃、星をちりばめた大空のうちに、影をしたたらせ暗黒にあふれてる恐るべきさかずきが前に現われた時
楊、橄欖かんらんの林であった。イエスはその中へ入って行った。そこへは月光は射さなかった。禁慾行者の禅定のような、沈黙ばかりが巣食っていた。
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それも、そのはずで、みなみからくるのは、橄欖かんらんはやしや、かおりのたかい、いくつかの花園はなぞのをくぐったり、わたったりしてきます。
大きなかしの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
段丘に橄欖かんらんの林、赤い屋根、白い砂ばかりの川。右のメッシナの横にエトナ火山が見える筈だのに雲の中に隠れている。
欧洲紀行 (新字新仮名) / 横光利一(著)
朱泥をなすり付けたような赤赭色の岩塊は、少しも滑る憂がないので非常に歩きよい。斯様かような色の岩は今迄見たことがない、橄欖かんらん岩であるという。
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
「昔しさる好事家こうずかがヴィーナスの銅像を掘り出して、が庭のながめにと橄欖かんらんの濃く吹くあたりにえたそうです」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
遥か橄欖かんらんと糸杉の森の彼方では、侍女のオルフィスやピエラたちが、蕃紅花サフランの花を摘んでは銀皿に盛って、この紫のインキをしぼっていてくれるのです。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そして青い橄欖かんらんの森が、見えない天の川のこうにさめざめと光りながらだんだんうしろの方へ行ってしまい、そこからながれて来るあやしい楽器がっきの音も
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
パレスチナにおいても、橄欖かんらんの如きはかくしてこれを老衰より少壮によび戻し得るのである。樹には復活あり人には復活なし、これヨブの悲歎なげきであった。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
これは普通火山で見受ける、あかく焦げた熔岩とは思えないので、道者連は真石と称えているが、平林理学士に従えば、橄欖かんらん輝石富士岩に属しているそうだ。
高山の雪 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
水色の壁に立てけけた真白な石膏細工の上にパレットが懸って布細工の橄欖かんらんの葉が挿してある。隅の方で小僧が二人掛け合いで真似事の英語を饒舌しゃべっている。
まじょりか皿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その右に竪琴と橄欖かんらんの葉で飾られたI・S・Rという三つの赤い頭文字があり、左に、C・G・T・Uと四つの頭文字が同じ竪琴とローレルに飾られてある。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
華大媽もまた眼のふちを黒くしていたが、この時にこにこして茶碗と茶の葉を持って来て、茶碗の中に橄欖かんらんの実を撮み込んだ。老栓はすぐにその中に湯をさした。
(新字新仮名) / 魯迅(著)
この主張はいかなる観念を伝えるか? もし穀物や橄欖かんらんや葡萄酒や羊毛が英国よりもスペインにおいてより低廉な価格にあるならば、それらの貨物で測定すれば
ヂオゲンは勿論もちろん書齋しよさいだとか、あたゝか住居すまゐだとかには頓着とんぢやくしませんでした。これあたゝかいからです。たるうち寐轉ねころがつて蜜柑みかんや、橄欖かんらんべてゐればれですごされる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
アメリカの曠野に立つかしフランスの街道に並ぶ白楊樹はくようじゅ地中海の岸辺に見られる橄欖かんらんの樹が、それぞれの姿によってそれぞれの国土に特種の風景美を与えているように
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
洋燈らんぷひかり煌々くわう/\かゞやいて、何時いつにか、武骨ぶこつなる水兵等すいへいらが、やさしいこゝろ飾立かざりたてた挿花さしばなや、壁間かべに『歡迎ウエルカム』と巧妙たくみつくられた橄欖かんらんみどりなどを、うつくしくてらしてる。
赤煉瓦の古ぼけた教室の近くにある一株の橄欖かんらんが、小さい真っ赤な実を結んでいる頃であった。
青木の出京 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
橄欖かんらんというの実、木の皮をしぼって作ったという、においのよい、味のいい、すばらしい油——富みたるものは、それを皮膚はだのくすりとして塗りもすれば、料理にも使って
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
めざましい焔色ほのおいろに塗り立てたモンテ・カルロ行きの乗合自動車は、橄欖かんらんの林と竜舌蘭りゅうぜつらんと別荘を浮彫りにしてフエラの岬を右に見て、パガナグリア山のすそ纒繞てんじょうする九折つづらおりの道を
夕方、庄亮の主宰する橄欖かんらん社の小樽支部の人たちや、此処で出している『原始林』の同人たちが五、六人で迎えに来る。私の仕事はそこでひとまず明日の出帆前のことにする。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
こは畫工のえうつさぬところなるべく、また敢て寫さぬものなるべし。あめ色の地に、橄欖かんらん(オリワ)の如く緑なる色の雲あるをば、樂土の苑囿ゑんいうに湧き出でたる山かと疑ひぬ。
默想に心をたらはしつゝ、橄欖かんらんしる食物くひもののみにて、輕く暑さ寒さを過せり 一一五—一一七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
何という真正直なろうま人の努力!——なんかと感心してる僕の視線を、ほるとがる荒野の石塀とコルクの樹とゆうかりと橄欖かんらんと禿山と羊飼いとその羊のむれが、瞬間に捉えて離した。
橄欖かんらんみどりしたたるオリムピアがすでにむかしに過ぎ去ってしまった証拠しょうこには、みんなの面に、身体に、帰ってからの遊蕩ゆうとう、不節制のあとが歴々と刻まれ、くもり空、どんよりにごった隅田川すみだがわ
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「有りましたよ。いや。仲々沢山に有りましたよ。——先ず、多量の玻璃はり質に包まれて、アルカリ長石、雲母うんぼ角閃石、輝石等々の微片、それから極めて少量の石英と、橄欖かんらん岩に準長石——」
気狂い機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
すみれ——おや、あたしたちはみんな橄欖かんらん章をもらってるのね。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
二もとの橄欖かんらんしげる琅玕らうかんの亭の四方を船かよひけり
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
二十八葉橄欖かんらん冠で包んである不思議な図案だった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ユダ橄欖かんらんの林を歩める時、悪魔彼に云ひけるは、「イエスを祭司のをさたちにわたせ。すれば三十枚の銀子ぎんすを得べし。」
LOS CAPRICHOS (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
女が橄欖かんらんの下にえてある大理石の長椅子に腰をかけた時に、男は椅子の横手に立って、上から女を見下みおろした。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こんな橄欖かんらんの園を建設し終せたことに、どんなにおどろくでしょう、自分たちが、人間に創られたものであったという身の程を、どんなにひしと感じたことでしょう。
ジオゲンは勿論もちろん書斎しょさいだとか、あたたか住居すまいだとかには頓着とんじゃくしませんでした。これはあたたかいからです。たるうち寐転ねころがって蜜柑みかんや、橄欖かんらんべていればそれですごされる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
右手一面に橄欖かんらんの林に取りかこまれた墓地の場面なのでありますが、この辺まで読み進んでまいりました時には、もはや、羅馬という観念は疑いをさしはさむ余地もないまでに
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そのをか中腹ちうふくにて、櫻木大佐等さくらぎたいさら手巾ハンカチーフり、帽子ぼうしうごかして姿すがたも、やが椰子やし橄欖かんらんがくれにえずなると、それから鐵車てつしや全速力ぜんそくりよくに、はずやまはず突進つきすゝ
椰子やし橄欖かんらん、パプラ、バナナ、いちじくなどの珍らしい木々、獅子ししだの虎だの麒麟きりんだのの、見事な動物も住んでおります。妾の領地でございます。経営の手を待っております。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
まだ角も生えねえ柔弱やわな奴でしたが、親の恨みは通うものか、朝は早くから野山羊と角押しする、郵便配達を追いかけるワ、橄欖かんらん畑を蹴散らすワ、一心に修業に心を打ち込む有様というものは
そして青い橄欖かんらんの森が見えない天の川の向うにさめざめと光りながらだんだんうしろの方へ行ってしまいそこから流れて来るあやしい楽器の音ももう汽車のひびきや風の音にすりらされてずうっとかすかになりました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ゲツセマネの橄欖かんらんはゴルゴタの十字架よりも悲壮である。クリストは死力を揮ひながら、そこに彼自身とも、——彼自身の中の聖霊とも戦はうとした。
西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しまがツ。』とわたくし蹴鞠けまりのやうに跳起はねおきてると、此時このときてんまつたけて、朝霧あさぎりれたるうみおも端艇たんていこと三海里さんかいりばかりの、南方なんぽうあたつて、椰子やし橄欖かんらん青〻あほ/\しげつて
陽気な、疲れることなどをまるで知らないニムフの踊りの輪から、ようようぬけた彼は、涼しさを求めて、ズーッと橄欖かんらんの茂り合った丘を下り、野を越えて、一つの谿間たにまに入りました。
地は饒なり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
しかも眼を挙げて一歩窓外を眺むれば、そこには真昼の陽光が燦々さんさんと降りそそいで彼方の昼なお暗き鬱蒼たる糸杉や、橄欖かんらんの森を背景に、一面の繚乱眼もくらまんばかりあやな花園であった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
ニサン十三夜の朧月は、棕樹そうじゅ橄欖かんらん無花果いちじくの木々を、銀鼠色に燻らせていた。
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
丘には橄欖かんらんが深緑りの葉を暖かき日に洗われて、その葉裏にはもも千鳥ちどりをかくす。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると、その翌日の日没後、つかつかと部屋に入って来た四人のコルシカ人、驚きあわてる二人の腕を左右からとり、部落まで引きずっていって乏しい橄欖かんらん畑のそばの一軒の山小屋の中へ押し入れた。