枝葉えだは)” の例文
枝葉えだはがしげっていて、このなかまれたボールは、どこかにっかかるとみえて、それぎり、したちてこなかったのでした。
すずめの巣 (新字新仮名) / 小川未明(著)
貴婦人は差し向けたる手をしかと据ゑて、目をぬぐふ間もせはしく、なほ心を留めて望みけるに、枝葉えだはさへぎりてとかくに思ふままならず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
へばふほど枝葉えだはしげつて、みちわかれてたにふかく、ひろく、やまたかつて、くもす、かすみがかゝる、はて焦込じれこんで、くうつて
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
僕はそのゑんじゆの若木を見、そのどこか図案的な枝葉えだは如何いかにも観世音菩薩くわんぜおんぼさつの出現などにふさはしいと思つたものである。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そしておおせのたちばなの実の、枝葉えだはのままついたのを八つ、実ばかりのを八つもぎ取って、また長い間かかって、ようよう都へ帰って来ました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
クリスマスの裝飾さうしよくもちゐた寄生木やどりぎおほきなくすだまのやうなえだが、ランプのひかり枝葉えだはかげせて天井てんじやうつるされてゐる。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
わっしの本役は蝶々の一件で、お近や幸之助の方はまあ枝葉えだはのような物なんですが、不意にこんな掘出し物をすると、ついそっちが面白くなって……。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「いや、お身のことは、枝葉えだはに過ぎない。原因はもっと遠いところにあるのです。小次郎とこの武蔵との間に」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、よるになると森林しんりんは、枝葉えだは土地とちをおほつてゐますから、その地面じめん空氣くうきと、𤍠ねつ放散ほうさんするのをさまたげるので、そこの空氣くうきかたすくないことになります。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
おもひのまゝ枝葉えだはひろげた獨活うど目白めじろあつまつてくのが愉快ゆくわいらしくもあれど、なんとなくいそがしげであつて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
彼女の話しぶりは、繰り返すごとに、少しも危険のない枝葉えだはをつけ加えながら、いよいよたくみになっていった。克彦さえ、その演戯力にはあきれ返るほどであった。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
朗快な太陽の光は、まともに庭の草花を照らし、花の紅紫も枝葉えだはの緑も物のわずらいということをいっさい知らぬさまで世界はけっして地獄でないことを現実に証明している。
紅黄録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
タングルウッドと湖水との間の低地の、こんもりとした木森きもりや林の縁廻りなどは、山腹の木の枝葉えだはよりもひどく霜を受けたと見えて、大抵は金色か焦茶色に紅葉していた。
と、声をあげて呼んでみたが、林の枝葉えだはを吹く風の音ばかりで人声ひとごえはしなかった。そして、幾等いくら呼んでも返事がないので、隠れ家へ帰ろうと思って呼ぶことをよして歩いた。
赤い土の壺 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
つまり上手じようずどうしが、みな肝腎かんじんてんよりもごく枝葉えだはにわたるところに苦勞くろうをして、それをおたがひにほこりあつたゝめに、それがかさなり/\して、いけないことがおこつてました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
知らぬものは真の文雅ぶんがとおもひ、とひよるさへも多ければ、たちま諸国しよこくにもそのの名をかほらせ、枝葉えだはさかえ、それのみか、根堅ねがた名園めいゑんのこして年々ねん/\繁昌はんじやう、なみ/\の智恵ちゑ
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
それにあなたは枝葉えだはの方ばかし氣にして大事な本文を忘れてゐるぢやありませんか。
匂は木犀の枝葉えだはにたゆたひ、匂は木犀の東にたゆたひ、匂は木犀の西にたゆたひ、匂は木犀の南にたゆたひ、匂はまた木犀の北にたゆたひ、はては靡き流れて、そことしもなく漂ふうちに
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
自然の力あまりありて人間のたくみを加へざる處なれば、草といふ草、木といふ木、おのがじし生ひ榮ゆるが中に、蘆薈、無花果いちじゆく、色紅なる「ピユレトルム、インヂクム」などの枝葉えだはさしかはしたる
お前様にも清さんにもさとられ候こともなく打ち過ぎ候ふに、昨日三谷さんやさんのお座敷にて、ふとした常談に枝葉えだはがさき、清さんを呼んで下され、呼んで遣らうといはれた時の嬉しさいかばかりぞ
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
われ素足に青き枝葉えだはの薔薇を踏まむ悲しきものを滅ぼさむため
樹木とその葉:03 島三題 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
そなたの鬱蒼うつさうたる枝葉えだは
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
と言ふ/\、枝葉えだはにざわ/\と風を立てて、しかも、音もなく蘆の中に下立おりたつたのは、霧よりも濃い大山伏おおやまぶしの形相である。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
どうせ縁日物えんにちものだから、大した植木がある訳じゃないが、ともかくも松とかひのきとかが、ここだけは人足ひとあしまばらな通りに、水々しい枝葉えだはを茂らしているんだ。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして、孝吉こうきちが、屋根やね植木台うえきだいからたのは、このいただきでありました。それが、はるになって、わったらしく、だいぶ枝葉えだはあいだがすいてられたのでした。
すずめの巣 (新字新仮名) / 小川未明(著)
こないだの關東かんとう大震災だいしんさいのときには、淺草あさくさ觀音かんのんのおどううらのいてふの片側かたがは半分はんぶんけても、半分はんぶん枝葉えだはのためにがおどうえうつるのをふせぎました。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
それでも、それらの木は、根を深く土におろして生えていて、その大きくひろがった枝葉えだはが、邸宅の正面一杯に影を落していました。一本は樫の木で、他の一本は菩提樹でした。
ここで、お話は、そのヒノキの上の枝葉えだはのしげった中にうつります。
超人ニコラ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そんな枝葉えだはの問題じゃない、大体、おまえの肚——性根——根本の考えかたが間違っているから、一つ二つさむらいらしい真似をしても、何もならんのみか、かえって正義だなどと、りきめば力むほど
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
、ときならぬはなびらの、かぜかれたごとく、木々きぎ枝葉えだはがとまっていたのです。それは、また、ちょうど、りかかった、つめたいゆきのようにもられました。
北海の波にさらわれた蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「これぞ、自然おのずからなる要害、樹の根の乱杭らんぐい枝葉えだは逆茂木さかもぎとある……広大な空地じゃな。」
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
森林しんりんでおほはれてゐる土地とちは、日光につこう枝葉えだはさへぎられて、地面じめんあたゝめることがすくないのと、もうひとつは、日光につこう直射ちよくしやによつてめん水分すいぶん蒸發じようはつするときに、多量たりよう潜熱せんねつ必要ひつようとします。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
が、そんな事は話の枝葉えだはじゃ。康頼やすよりと少将とは一心に、岩殿詣でを続け出した。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ねえ、ねえ、おきよ、あれ、りうちやん——りうちやん——しつかりおし。お手紙てがみにも、そこらの材木ざいもく枝葉えだはがさかえるやうなことがあつたら、夫婦ふうふつてるツていてあるぢやあないか。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)