さき)” の例文
もつちやんだつて屹度きつと何とかしてくれるに違ひない。」と私はさきに久しぶりで佐賀へ青服を着て帰つて来た友達をも頼みにしてゐた。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
主人の君も我を愛し給ふ。この愛は、さきはからずも我母上を、おのが車のわだちにかけしことありと知りてより、愈〻深くなりまさりぬ。
◯ヨブのさきの地位をもってしては、彼はむしろ友の多きに苦しんだであろう。しかしこれらの友は皆彼の零落れいらくと共に彼を離れたであろう。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
さきにその忠勇を共にしたる戦死者負傷者ふしょうしゃより爾来じらい流浪者るろうしゃ貧窮者ひんきゅうしゃに至るまで、すべて同挙どうきょ同行どうこうの人々に対していささ慙愧ざんきの情なきを得ず。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
癇癪持の蜜蜂は、羽をならしながら憎々にくにくしそうに言いました。さきの日のことを思うと、今になってもまだ腹に据えかねるのでした。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
余がさきに愛山生の文章を評論したる事あるを以て、此題目に於て再び戦を挑まんの野心ありなど思はゞ、此上なき僻事ひがごとなるべし。
是はさきに錦橋等の事を説いて、未解決の問題をのこして置いたので、新に得た材料に由つてこれが解決を試ようとしたためである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
さきの勞働者の唄ね、きみは何うおもふからないけれど、あれを聽いてゐて、僕はにつまされて何んだかきたくなるやうな氣がしたよ。」
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
さき、母から十日の内には死ぬと云い聞かされた時には、彼は心ひそかにお葉というものを頼みにしていた。が、それも希望のぞみの綱が切れた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
益〻無々君の言文一致の説に感じ、文章の言語にかざるをわきまえ、且さきに無々君が圓朝氏の技を賛する過言に非るを知る。
松の操美人の生埋:01 序 (新字新仮名) / 宇田川文海(著)
直覚は直に直接の判断である。余がさきに仮定なき知識の出立点として直覚といったのはこの意義において用いたのである。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
今道余録を読むに、姉と友との道衍を薄んじてこれにくむも、また過ぎたりというべし。道余録自序に曰く、余さきに僧たりし時、元季げんきの兵乱にう。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
只管ひたすらに現状打破を望む性急焦躁しょうそうのものが、くべき方向の何たるかを弁ずるをえずして、さきにコンムュニズムに狂奔し今はファッシズムに傾倒す。
二・二六事件に就て (新字新仮名) / 河合栄治郎(著)
ジョヴァンニがさきにバグリオーニ教授に逢ってからは、かなりに時日が過ぎた。ある朝、彼は思いがけなく、この教授の訪問を受けて不快に思った。
て、私はさきに、恰も私は、終日終夜堅く外出もしないやうに述べたのであるが、然し私は、一定の時間には必ず一度、外出しなければならなかつた。
それは、さきに不親切にして、今親切なる青バスの女車掌、大西冬子嬢から僕に来た手紙を読んで貰えばわかる。——
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)
またも中川様の来たまへしかば、これに少しは人心地つきたれど。見ればさきの日には似ぬ力なきお顔色いぶかしきに。
葛のうら葉 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
こいつは困ったと思いましたけれど、さきにネパールでギャア・ラマと逢った手続もあるから、そんなに驚かずに相手にしてみますと案外シナ語が出来ない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
これ山田やまだ前年ぜんねんすでに一二の新躰詩集しんたいししうおほやけにして、同会社どうくわいしやつてえんからこゝ持込もちこんだので、この社はさき稗史出版会社はいししゆつぱんくわいしや予約よやく八犬伝はつけんでん印刷いんさつした事があるのです
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
さきに三河国の某女が、下駄がけを以て富士登山の先駆をなし、野中千代子が雪中一万二千尺の山巓さんてんに悲壮なる籠居ろうきょを敢てせし以来、奈良朝の昔、金峰山の女尼が
女子霧ヶ峰登山記 (新字新仮名) / 島木赤彦(著)
さてなにがしぼくしたが我家わがやをさしてかへみちすがらさき雲飛うんぴが石をひろつた川とおなじながれかゝつて居るはしまで來ると、ぼくすこかたやすめるつもりで石を欄干らんかんにもたせてほつ一息ひといき
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
さきには専ら田園の趣味を伝えしもの、這度このたびは山野に則り、忽ちにして森林、忽ちにして沼池、一径尽くるところ橋ありて通じ、湖海ひろがるところ丘陵峙つの概
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
余は是まで聞き「グラニル」とはさきに余が刺された時、其の刃に塗って有った毒薬である事を思い出し
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
奏し国民の歓喜何ものかこれかんさきに宣戦の大詔煥発たいしょうかんぱつせらるるや義勇公に奉じたる将士は久しく万里の異境にりてく寒暑の苦難を忍び一意戦闘に従事しめい
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
伊太利亜イタリアに三人、英吉利イギリスに四人、独逸ドイツに七人、プロヴァンスに一人、しかして仏蘭西フランスには十四人の多きに達し、さきの高踏派と今の象徴派とに属する者その大部を占む。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
わしがさきZ・F・Pツェー・エフ・ペー誌に発表したとおり、わしは興奮を其の種類によって分析することに成功したのじゃ。これは何しろと通りやた通りの苦心ではなかった。……
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)
妻はさきに一人家に帰り、すでに父母ちちははとよろしからず。七月我更に父母のもとに帰り、またわが妻とよろしからず。我は貧し、貧しけれども、我をしてかく貧しからしめしは誰ぞ。
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
A 面白おもしろいぢやないか。『世界改造せかいかいざう』が講和會議かうわくわいぎのモツトーになつてる。ウヰルソン大統領だいとうりやうさきにドイツ國民こくみんたいして國家組織こくかそしき改造かいざう要求えうきうして、とう/\あの革命かくめい勃發ぼつぱつさせた。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
忘れず今我等かく困窮こんきう零落れいらくせしをさつし廿五兩の金子を工面くめんして持來りしは天晴頼母敷たのもしきこゝろざしとは云へ共さきに某し一たんめぐみし金子を今さら請取うけとつては我等が一分立ず是に依てかたことわりを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それは何事かと云うとさきに甲賀氏が書かれた「夢野久作君に問う」という一文と、本号の「甲賀三郎氏に答う」と書いた一文を読まれた読者諸賢は、恐らく甲賀氏が私に何を云われ
甲賀三郎氏に答う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
三藏はさきに玄關で美しと見た尼の顏を今は軒淺く、殊に雪の上を辷つて來る明るい光りで高からぬ鼻薄い眉やや大きな口光澤の無い皮膚等をあらはに見て最早美しいとは思はなかつた。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
博士重野某職を史官に奉じその徒と共に考索する所あり。さきに児島高徳楠木正成僧日蓮の事蹟を云々し頃日けいじつまた武蔵坊弁慶を称して後人の仮託に出づとなし公会において之を演じたり。
史論の流行 (新字旧仮名) / 津田左右吉(著)
さきの煌々たる光はどこへやら、地球の人民のそれと等しく、僅かに大塊の一部分から、微弱なる光熱を放射するに過ぎぬ、ああ数千億年の昔しより、常に宇宙の一辺にたりし太陽も
太陽系統の滅亡 (新字新仮名) / 木村小舟(著)
この二人の夜店商人は申すまでもなく、大抵御推察になりましたろうが、これはさきに吟味与力吉田駒二郎から長二郎一件の探偵方を申付けられました、金太郎繁藏の両人でございます。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
子鳥はどつちも毛が十分に延びて居る。巣は思ひの外に粗末で草がだらけ出して居る。さきに出て見たので見つかつたことと思つたに相違ないのだ。早合點をしてあんなことをいつたのだ。
炭焼のむすめ (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
予がさきに「我が我ならぬ我となりたり」といひ、「霊的活物とはたと行き会ひたり」と言へるが如き言葉の、ほやゝ疎雑ルーズの用法ならざるとの疑ひ、読者にあらんかとも思ひたれば也。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
すなわち僅々きんきん一、二カ月前の、総理大臣としての広田氏から生まれ出た「浩々居」は著しき心境の動きによって(?)断然さきの「鬱々含晩翠」とは人間を異にし、書能を一変してしまった。
現代能書批評 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
予がさきに諸君に向いて、凄まじきものの経験を有せりと謂いしはここなり。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その子供はさきに申した皇子でありました。
拾うた冠 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
歡樂よろこび——それはさきの日の
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
でぬ約束やくそくつじゆきかへりつてどもまてども今日けふはいかにしけんかげえずれにかんもうしろめたしなにとせんかならたまふな我家わがいへられんははづかしとて丁所ちやうどころつげたまはねどさき錦野にしきのにてそれとなくきしはうろおぼえながらおぼえありしおいかりにふれゝばそれまで
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
この上ははり山へ向うより他は無い。で、さきに巡査等が登ったみちとは方角を変えて、西の方から山路やまみち分入わけいろうとする途中に、小さい丘が見えた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わたくしはさきに寺僧のことを聞いた時、壽阿彌が幸にして盛世碑碣ひけつやくを免れたことを喜んだ。然るに當時寺僧は實を以てわたくしに告げなかつたのである。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
さきには合理説の代表者としてクラークをあげたが、クラークはこの説の理論的方面の代表者であって、実行的方面を代表する者はいわゆる犬儒学派であろう。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
さきにはおん身一たび翼を張りて飛ばんとせしを、われ強ひて抑留し、おん身をして久しく樊籠はんろうの中にあらしめき。そは我過あやまちにはあらざりしか。人各〻意志あり。
さきには桜癡あうち居士の文壇より入りて歌舞伎座の作者となりしが如き、近く又美妙氏の野心勃々ぼつ/\として禁じ難く、明年早春を以て、念入りの脚本をだすべしと聞けば
劇詩の前途如何 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
爾来じらい富山はますます傾慕してかず、家にツィシアンの模写と伝へて所蔵せる古画の鑒定かんていを乞ふを名として、さき芝西久保しばにしのくぼなる居宅に請じておろそかならずもてなす事ありければ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
上手にいひまわしたまふそのお口こそは、さきの日に我をたぶらかしたまへるお口よと。
葛のうら葉 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
大蔵大臣勝田主計しようだかずへ氏がさきに大臣に親任されて、螺旋仕掛ぜんまいしかけの人形のやうな足取で、ひよこ/\宮中から退出して来ると、そこに待受けた新聞記者が一斉に、「おめでたう」と浴びせかけた。
ところで一番困ったのはさきに申したダアワ(月という意味)という娘である。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)