普請ふしん)” の例文
五条大橋以南の森には、当今流行の普請ふしん工事のいろめきもしてないし、武者風俗も一般に地味で、さかんなのは、蝉の啼き声だった。
普請ふしんは上出来で、何処どこ彼処かしこも感心した中に特に壁の塗りの出来栄えが目に止まった。そこで男は知人に其の塗り方を訊いてみた。
愚かな男の話 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
槌・鋸は普請ふしんに欠くべからざる道具なれども、その道具の名を知るのみにて家を建つることを知らざる者はこれを大工と言うべからず。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
彼は最後の八年を神戸でついやしたあと、その間に買っておいた京都の地面へ、新らしい普請ふしんをして、二年前にとうとうそこへ引き移った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その次が仏堂を普請ふしんするとかあるいは仏陀ぶっだ供養くようする。そのために随分金が沢山かかる。そういうようなところに多く用いられて居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
阿波屋の離れ座敷を普請ふしんすることになって、あっしがその建前たてまえをあずかったんでございます。……このほうにはべつに話はございません。
顎十郎捕物帳:24 蠑螈 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
口にいえば江戸前の普請ふしん、江戸前の客扱い、瀟洒しょうしゃな、素直な、一すじな、そうしたけれんというものの、すべてのうえに
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
ヨウさんが小半をひかせる事に話をきめ妾宅しょうたく普請ふしんに取かかったのはそれから三月みつきほど後のことである。その折の手紙を見ると
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
凝った普請ふしんだが住み荒らした庵のうち、方来居と書いた藤田東湖ふじたとうこ扁額へんがくの下で、玄鶯院がお盆をかむって新太郎をあやしている。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
小さいが普請ふしんの良い塗籠ぬりごめが一つあり、廊下で母屋おもやに續いて、その母屋がまた、素晴らしい木口で、どつしりと四方をにらんでゐるのでした。
普請ふしんも粗末だったが、日当ひあたり風通かぜとおしもよく、樹木や草花のおびただしくうえてあるのをわがものにして、夫婦二人きりの住居にはこの上もなく思われた。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
当時、長島藩では治水工事に関して面倒な事件が起こり、普請ふしん、材木、勘定の三奉行ぶぎょうと重職とのあいだに、三年越しの吟味が行われていた。
饒舌りすぎる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
また京都にすら多く見出し難い普請ふしんの立派な酒屋もあって、京都から遊士の出かけること頻繁であったので、実隆も江州には時々出向いた。
神尾主膳の邸ではこの頃普請ふしんが始まりました、建増しをしたり、手入れをしたりするために、大工や左官が幾人も入りました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
幸いに彼の家や隣家の伏見屋は類焼をまぬかれたが、町の向こう側はすっかり焼けて、まっ先に普請ふしんのできた問屋といや九太夫くだゆうの家も目に新しい。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
幸「どうか願います、お近いから近日柳島の宅へ一度来てください、漸々よう/\此間こないだ普請ふしんが出来上ったばかりだから、種々誂えたいものがあります」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
よく行った松の湯は新しく普請ふしんをして見違えるようにりっぱになった。通りの荒物屋にはやはり愛嬌者あいきょうもののかみさんがすわって客に接している。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
先々代の家が隆盛の頂にあつた時裏の欅山けやきやまを坊主にして普請ふしんしたこの家の棟上式むねあげしきの賑ひは近所の老人達の話柄になつて今も猶ほ傳へられてゐる。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
普請ふしんが荒くて、戸に穴のすきなどもあったのを、だれが来てのぞくことがあろうと安心してふさがないでおいたものらしい。
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
震災で傷んだまゝの貸家を、更に住み荒すだけ住み荒したといふ状態だが、普請ふしんは流石に大がかりで、床柱一つでも、なかなか堂々としたものだ。
医術の進歩 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
それは普請ふしんしてからそう年数がたっていないせいもあろうが、一つにはこの山間の空気の類なく清澄なせいなのである。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
たし屋敷方やしきがた普請ふしんばかりにても二千兩まうけありしとなりしかれども彼の加賀屋長兵衞かがやちやうべゑより借請かりうけし二百兩の事はちう八が算盤そろばん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
夜中になるとさういふ重い病気のくせに、通りに出て、通りからはいつた大工の普請ふしん小屋の鉋屑のなかに寝てゐた。
鉄の死 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
残してくれるだろうと、あなたは信じていられるのですか。あなたの普請ふしん場にはもう虫がくいこんでいますよ……。
かれこれするうちに、指導役しどうやくのおじいさんからは、おみや普請ふしんが、大分だいぶん進行しんこうしてるとのお通知しらせがありました。——
隣の普請ふしんにかしましき大工左官の声もいつしかに聞えず、茄子なすの漬物に舌を打ち鳴らしたる夕餉ゆうげの膳おしやりあへぬほどに、向島むこうじまより一鉢の草花持ち来ぬ。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
温泉場をんせんば普請ふしんでもときには、下手へた大工だいく真似まねもする。ひまにはどぜうしやくつてくらすだが、祖父殿おんぢいどんは、繁昌はんじやうでの、藩主様とのさま奥御殿おくごてんの、お雛様ひなさまこさへさしたと……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さすれば政府において一意気身きしんいれて御世話があらば内外債はおろかなこと、皇宮こうぐうの御新築でも、諸官省の御普請ふしんでも、華族・士族の禄債でも、鉄路でも、電線でも
禾花媒助法之説 (新字新仮名) / 津田仙(著)
家の普請ふしんをしたり、庭の手入をしたり、そんなきわめて泰平な事で一生涯を終ってしまうのである。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
間〻當時普請ふしんの半ばなりし家ありて、彫りさしたる大理石塊、素燒の模型などそのかたはらに横れり。
簡單かんたん普請ふしんには大工だいくすこのみ使つかつただけその近所きんじよ人々ひと/″\手傳てつだつたので仕事しごとたゞにちをはつた。なが嵩張かさばつた粟幹あはがら手薄てうすいた屋根やねれも職人しよくにんらなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
後で知ったところにると、この地域では大概の家がぺしゃんこに倒壊したらしいのに、この家は二階も墜ちず床もしっかりしていた。余程しっかりした普請ふしんだったのだろう。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
何時どこが何うなったということはいえないが、何度か普請ふしんをやり直して、外観もよくなったと同時に、内部もずっと広くなり綺麗にもなり、すべての設備も段々とよくなった。
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
この精神から眺むれば、桂離宮が単純、高尚であり、東照宮が俗悪だという区別はない。どちらも共に饒舌であり、「精神の貴族」の永遠の観賞には堪えられぬ普請ふしんなのである。
日本文化私観 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
元來この地所は昨年まで桃畑であつたので普請ふしんをする時殘しておけば幾本でも殘しておけたのだが癪にさはる事がありみな伐つてしまつた。それでも隅々に十本位ゐは殘つてゐる。
たべものの木 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
親父おやじが死んでから春木町を去って小石川の富坂とみざかへ別居した。この富坂上の家というは満天星どうだん生垣いけがきめぐらしたすこぶる風雅な構えで、手狭てぜまであったが木口きぐちを選んだ凝った普請ふしんであった。
この銭はあるいは土蔵の普請ふしんの時に埋めたものが、石の祠を立てる際に土を動かして上の方へ出たか、又は祠そのものの祭のためにも、何かそういう秘法が行なわれたかも知れぬと
幻覚の実験 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
わたしの家と申しましても、三度目の火事に遇つた後は普請ふしんもほんたうには参りません。焼け残つた土蔵を一家の住居すまひに、それへさしかけて仮普請を見世みせにしてゐたのでございます。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし工場のところへ、ほとんど埋立地に等しい少しばかりの土地を、数年かかってそこを地盤としている有名な代議士の尽力で許可してもらい、かさかさした間に合わせの普請ふしん
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
炭三両二分ばかり、大根漬一両三分ばかり、菜蔬さいその料家具の料十四、五両、衣服の料また十七、八両、普請ふしんの料六、七両、給金きゅうきん八、九両、地代二十二、三両、都合百両余を費すべし。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
祠は間口まぐち九尺に足りない小さい建物であるが、普請ふしんは相当に堅固に出来ていると見えて、二十年以上の雨風に晒されているにも拘らず、柱や扉などは案外にしっかりしているらしかった。
半七捕物帳:58 菊人形の昔 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
細そりした華奢きやしや普請ふしんの階子段から廊下に、大きな身体を一杯にして、ミシ/\音をさせながら、頭のつかへさうな低い天井を気にして、源太郎は二階の奥の方の鍵の手に曲つたところへ
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
僕も今家の中を見たけれども普請ふしんが新しくって間取が好くって実に申分がない。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
普請ふしんには打ってつけだな。(時計を出してみて、ドアの口へ)皆さん、よろしいですか、発車までに四十七分しかありませんよ! すると、二十分したら停車場へお出かけになるわけです。
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
壁の中にも鉄棒のしんの入れてある念入りの普請ふしんを、父親は残しておいた。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
殊にその寺は普請ふしんをするために本堂に足場をかけておるというのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
みねしゆう白金しろかね臺町だいまち貸長屋かしながやの百けんちて、あがりものばかりにじやう綺羅きら美々びゝしく、れ一みねへの用事ようじありてかどまできしが、千りやうにては出來できまじき土藏どざう普請ふしんうらやましき富貴ふうきたりし
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
タラス王の御殿はそのままで、普請ふしんはちっともはかどりませんでした。
イワンの馬鹿 (新字新仮名) / レオ・トルストイ(著)
外に板囲いのしてあるのを思い合せて、普請ふしん最中だなと思う。
普請中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「おや、また普請ふしんしたぞい……」
麦の芽 (新字新仮名) / 徳永直(著)