いまし)” の例文
平穏無事のときに悟空の行きすぎを引き留め、毎日の八戒の怠惰たいだいましめること。それだけではないか。何も積極的な役割がないのだ。
一喝いっかつして首筋をつかみたる様子にて、じょうの内外一方ひとかたならず騒擾そうじょうし、表門警護の看守巡査は、いずれも抜剣ばっけんにて非常をいましめしほどなりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
家康の一行が、信楽しがらきから伊賀へと向って来たときあとから追いついて来た家士の一名が、そのいましめともなる生々しい一事件を告げた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いましめてから私は平常の通り診察にかかったが、彼女は別にお見舞に行こうとする私をいて止めようとする気色も見せなかった。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
が、前囘に於いて、既に女の夜遊びを懇々いましめて置いた言葉を破つたのを憤り切つてゐたので、何等の返事をもする氣にならなかつた。
『人はパンのみにて生くる者に非ず、唯神の凡のことばによる』といふ主の御いましめ、或は『若し爾曹なんぢら我が爲に飢ゑかわく事あらば爾曹なんぢら幸なり』
いましめらる然れば今年も參向さんかう公家衆くげしうは御三方にして例年の如く御先は花山院くわざんゐん中納言有信卿菊亭大納言定種卿勅使は日野大納言定立卿なり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「ださうだね。なにしろ、ふねまはるか、富山とみやまのぼらないぢやあ、松島まつしま景色けしきろんずべからずと、ちやんといましめられてるんだよ。」
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
われ/\は子供こども時分じぶんにはをしへられた。最初さいしよ地震ぢしんかんじたなら、もどしのないうち戸外こがい飛出とびだせなどといましめられたものである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
今まで失策しくじった社員は大抵それである。あにいましめざるべけんやというのが鳧さんの訓諭の一節で、堀尾君は正にそれに当っていた。数日後
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そういった妖女は、青竜王の身近くによると、いましめの縄をズタズタに引き切った。しかし青竜王は覆面をとられたことさえ気がつかない。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
よく裁判の話の時に、引き合いになる格言ですが、「たとい九人の有罪者を逸するとも、一人の冤罪者えんざいしゃを作ることなかれ」といういましめです。
若杉裁判長 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そして伊藤一刀斎なども、詭計をもって敵を計ると云う事を極意の一つにしているし、敵のこのはかりごとに己が心の乗らぬように常にいましめている。
巌流島 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
若いうちは色気から兎角了簡の狂いますもので、血気いまだ定まらず、これをいましむる色にりと申しますが、すこぶ別嬪べっぴんが膝にもたれて
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かほどまでにのものからの影響を瑕瑾かきんとしていましめているわたくしのこころには、もはや、わたくしというものは無くなって
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
われは、けふさる戲言ざれごといふことかはといましめつゝも、心の中にその笑顏の涙を掩ふ假面めんなるをおもひて、ひそかに友の情誼に感じぬ。
くれぐれもその短気を起すことをいましめられているにかかわらず、短気を起してしまいます。無暗に喧嘩を買ってしまいます。
花嫁に戒告 その娘に対するところの戒告者かいこくしゃというものがある。それはまず花嫁の前に立って格言で組み立てたところのいましめを告げるのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
このことは国民一般が相いましめねばならぬことは勿論であるが、政府にもまた或程度までこれに対する用意があって欲しい。
私娼の撲滅について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
そして、寺に帰った和尚は、本堂の前を深く掘らせて、の鉄鉢を埋めさし、永劫えいごうあいだ世に出ることをいましめたのであった。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その標語モットー——芸妓貞鑑げいしゃていかんは、みな彼女が実地にあって感じたことであり、また古来の名妓について悟ったいましめなのであった。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
親が、子供のいう事を聞かぬ時は、二十四孝にじゅうしこうを引き出して子供をいましめると、子供は閉口へいこうするというような風であります。
教育と文芸 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
娘たちをいましめて、その晩は早く寝床に就いたが、表に風の音がきこえるばかりで、ここの家には何事もなかった。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかし、誤りがあっても、そう決めて置く方が簡単であり、次郎のいましめにもなると、二人は考えていたのである。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
此時鎮守の森の陰あたりから、夜をいましめる柝木ひやうしぎの音がかち/\と聞えて、それが段々向ふヘ/\ととほざかつて行く。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
もしかようなものがわれわれの民族的特質であるとするなら、それはややもすればわれわれを偸安とうあん的に導くものとして大いにいましめねばならないと思われる。
日本文化と科学的思想 (新字新仮名) / 石原純(著)
およそまつりごとを行いおしえく、まず信を人に得るにあり。信ぜられてしかるのちに令おこなわれ、教立つ。いまだ信ぜられずんば、令して行れず、いましめ守られざるなり。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
且つは素朴に過ぎたる追随をいましめる必要があると思って、今日はその一つの見本のような話をする。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これを止めたならば誰でもただちに失敗をして再び社会に勢力を得ることの出来ないようになってしまうのである。まずこの一言を以て諸君をいましめておきます(大喝采)。
それこの引上げが大事なところ、あせらぬように用心しろといましめ合ってそろりそろりと引上げるが、人間が乗ったにしてはどうも手応えが軽すぎる。どうも、おかしい。
土の中からの話 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
けれどもこの文章を読み、(紫式部の科学的教養は体質の相違に言及するほど進歩してゐなかつたにしろ)はるかに僕をいましめてゐる谷崎氏を感じずにはゐられなかつた。
けれど、ありはけっして、子供こどもらにかってのぼっても、あかまっていいとはいいませんでした。やはり、むかし、おとうさんや、おかあさんが自分じぶんたちをいましめたように
三匹のあり (新字新仮名) / 小川未明(著)
それは界隈に隱れもない噂の種で、若い者をいましめる、年寄りの一つの話にもなつてをりました。
商人の妻になったものが八百屋を呼捨にして横柄だと悪くいわれたり、軍人の妻になったものが魚屋さーんと丁寧に言って良人おっといましめられたり、色々な奇談がございますよ。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
寝小便やおきうのことばかり夢みてゐたので、こゝへ来てから長いあひだの経験か父親のいましめかで、夜になると湯水をこらへてゐたせゐで、一度も失敗しくじつたことのなかつたのが
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
殺生を厳しくいましめられている、その逸見多四郎にこんな姿を——抜身をひっさげているこんな姿を、こんなところで見られるということが、面伏せに思われたからであった。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かみとしてもっといましむべきは怠慢たいまん仕打しうち同時どうじもっとつつしむべきは偏頗不正へんばふせい処置しょちである。怠慢たいまんながるるときはしばしば大事だいじをあやまり、不正ふせいながるるときはややもすれば神律しんりつみだす。
「氷が溶けるのは、当然ではないか。周章あわててはいけない」老博士は、人々をかえりて、こういましめるが、刻々に迫る死を怖れて、人々は、なおも、右往左往して悲鳴をあげている。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
「金を遺したい、というイクジのない、そんなものはドウにもなるから、君は福音のために働きたまえ」というていましめられた。しかし私はその決心を変更しなかった。今でも変更しない。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
喬生は袞繍橋てんしゅうきょうのほとりに住む友達の家をたずねて、そこで酒を飲んで帰る途中、酔ったまぎれに魏法師のいましめを忘れて、湖心寺の前を通りかかると、寺の門前には小女の金蓮が立っていた。
世界怪談名作集:18 牡丹灯記 (新字新仮名) / 瞿佑(著)
何のためにこんな道を通るか、とか、この先、どこへ行くつもりか、とか、いろいろしちくどく訊問されたうえ、乾板を没収され、懇々こんこんと将来をいましめられて放免されたのは夕方の六時ごろ。
植物に対してだってそれをあわれみいたましく思うことは勿論です。印度インドの聖者たちは実際ゆえなく草をり花をふむこともいましめました。しかしながらこれは牛を殺すのと大へんな距離きょりがある。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
と兄姉はその度にいましめ合ひ、あらためて彼の小肥りに肥つた様子を罵つた。
鳥羽家の子供 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
常に無用の談話を避け、松陰兄弟に向いても「話す暇があるなら本を読め」と常々いましめたり。のち仕官して家計やや豊かなるに到っても、ついに魚肉をわず、食前必らず謝礼せざれば食わず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
一 およそ婦人の心様こころさまの悪き病は、やわらしたがわざると、いかりうらむと、人をそしると、ものを妬むと、智恵浅きと也。此五のやまいは十人に七、八は必ず有り。是婦人の男に及ざる所也。自らかえりみいましめてあらためさるべし。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「この女に気をゆるしてはならない。恐らく、俺の事業に取って、最大の敵はこの女に相違ない」彼は、ある刹那には歯を食いしばる様にして、自分自身をいましめなければならなかったのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
先ずその地の気象を調査すること最大要務なりとす、従て平素より気象なるものに注意し、これが観念を養うを要す、しからざればあるいは失敗に帰するに至るべきなり、あにいましめざるべけんや。
新しい試みをさんとする青年を歓迎する。しかし新しいからいいわけではない。畸形児きけいじとして誕生しつつあるものもある。それはいましむべきである。また必ずしも諦観を諷うのみが俳句ではない。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
彼は学生に向っても、常に奢侈しゃしいましめて質素を説き、生活を簡易化することの利得を説いた。贅沢ぜいたくくらしをするほど、生活が煩瑣はんさに複雑化して来て、仕事に専念することができなくなるからである。
彼は私に、「病気は快うなつたんか?」と一言訊いたばかりで、「よく来たな」とも言つて呉れなかつた。それは如何にも冷やかな、まるで道楽息子でもいましめて居る時の様な厳めしい態度であつた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)