つね)” の例文
旧字:
ももしきの美濃にかさば、山をおり国きかれば、かくばかり遠くは見えじ。しかあらばここの御憩みいこひ、つねよりも長くいまさな。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これが傍に坐し、左の者の傍には、恩を忘れ心つねなくかつそむやすき民マンナに生命いのちさゝへし頃かれらをひきゐし導者坐す 一三〇—一三二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「おや、太夫、お前さん、つねならねえ、顔をしていなさるねえ——何があんなすったのか? さあ、すぐに話しておくんなさい」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
その時大師、もしこの竜王他界に移らば、池浅く水減じてつねひでりし常に疫せんといった由(『大師御行状集記』六九—七一)。
しかれども日葵ひまわりつねに太陽に向う如く、磁針が恒に北を指す如く、川流の恒に海に入る如く、彼の心は恒に家庭に向ってはしれり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
それから顔を上げおろしをするたびに、つね何処どこにかかくして置くらしい、がツくりくぼんだ胸を、のばすくめるのであつた。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しんあまねくし衆を和するも、つねここおいてし、わざわいを造りはいをおこすも、つねここに於てす、其あくに懲り、以て善にはしり、其儀をつつしむをたっとぶ、といえり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
而して「現在」はつねに生き来るものなり。「過去」は運命之を抱きて幽暗なる無明に投じ、「現在」は暫らく紅顔の少年となりて、希望のたもとすがる。
国民と思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
あはれ、この少女のこころはつねに狭き胸の内に閉ぢられて、こと葉となりてあらはるる便たつきなければ、その繊々せんせんたる指頭ゆびさきよりほとばしり出づるにやあらむ。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
冗費を節して、つねの産を積んで、まさかの時節ときに内顧のうれいのないようにするのは、そらあ当然さ。ねエ浪さん。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
この故に人をしてその任務のある所を尽さしめんとせば、先ずこれにつねの産を与うるの道を講ぜざるべからず。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
こぶしほどなるを三銭にうる、はじめは二三度賞味せしがのちには氷ともおもはざりき。およそ物のがたきはめづらしく、得易えやすきはめづらしからざるは人情にんじやうつねなり。
死の後は即ち生の前なり、生の前は即ち死の後なり。而て吾が性の性たる所以は、つねに死生の外に在り、吾れ何ぞ畏れん。夫れ晝夜は一なり、幽明いうめいは一理なり。
これらの人をつらねて、五〇貨殖伝くわしよくでんしるし侍るを、其のいふ所いやしとて、のちの博士はかせ筆を競うてそしるは、ふかくさとらざる人のことばなり。五一つねなりはひなきは恒の心なし。
姉は僕の顔つきから直覚的に影響を受けたらしい心細さを額にきざんで、「つねさん、先刻さっき市蔵がこちらへ上った時、何か様子の変ったところでもありゃしませんでしたかい」
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……この不幸なくにがらに絶えず中心となっておわすのが天皇だ、誰が覇権を握ろうと、誰が政治を執ろうと、天皇だけはそれに関わりなく、つねに国民ぜんたいの中心に在す
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
もとより、いつもつかむものは強い力をもち、かよわいものが折り伏せられるのはつねだが——
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
否、かえって余に取っては、これらの道理はつねに同一不易のものであるから、余の従前自ら主張し、尊重しておったことは、今もなお余の同じく主張し尊重するものであるのだ。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
鷲津毅堂は安政戊午の秋その妻佐藤氏を喪いやがて継室川田氏をめとったのであるが、その年月を詳にしない。しかし長女ゆうの生れた後、この年文久辛酉の九月四日には次女つねが生れた。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
つねに自然に対していれば私の心は決して飢える事はありません。
つねに覚めゐむ事をねがふ。窓をすかひとみ大海おほうみ彼方かなたを待望まねど
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
つねなる光は彼に輝かんことを。」
つねちやん……。
驟雨(一幕) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
かつ彼の一生をぼくするに、彼つねに身を以て艱難かんなんを避けざるのみならず、みずから艱難を招くもの、その例、即ちこの亡邸の一挙において観るべし。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
スペインでも三月末の数日は風雨いたく起るがつねだ。伝えて言う、かつて牧羊夫が三月に三月中天気を善くしてくれたら子羊一疋進ぜようと誓うた。
「……おつね——じゃ兄さんのお気に入るまいと思ってね、いえ、不断も、もうずッと奉っています。……でも、時々……お恒——とやる事。……」
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、突きつけたその顔には、つねよりやつれたおとろえがすわり、目隈めくまが青く、唇が歪んで世にもすさまじい、三十おんなの恨みの表情が、一めんにみなぎっている。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
こぶしほどなるを三銭にうる、はじめは二三度賞味せしがのちには氷ともおもはざりき。およそ物のがたきはめづらしく、得易えやすきはめづらしからざるは人情にんじやうつねなり。
人間の事つねに「己」をめぐりて成れり、己を去つて人間の活動なし、然るを熱意は往々にして「己」を離れ、身を軽んじて、「他」の為に犠牲とならしむる事あり。
熱意 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
左僉都御史させんとぎょし景清けいせいいつわりて帰附し、つねに利剣を衣中に伏せて、帝に報いんとす。八月望日、清緋衣ひいして入る。これより先に霊台れいだい奏す、文曲星ぶんきょくせい帝座を犯す急にして色赤しと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
つねさんなければ恒の心なく、ひんすればらんすちょう事は人の常情じょうじょうにして、いきおむを得ざるものなり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
張物はりものも五百がものさしを手にして指図し、布目ぬのめごうゆがまぬように陸に張らせた。「善く張ったきれは新しい反物たんものを裁ったようでなくてはならない」とは、五百のつねことばであった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
呂昇の日常は、つねにおだやかなものであるという。彼女の心静かに住みなす家には、召使いの一両人が、彼女の思念を乱さぬようにとつつましやかに仕えているという事である。
豊竹呂昇 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
鳥々はつねに変らず鳴き
わがひとに与ふる哀歌 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
周密詳細モ亦決シテ失フ可ザルモノニシテ之ニ忍耐ヲ添加シテ其功正ニ顕著ナリ精細之ヲ別テ両トナス心ト事ト是ナリ解剖試験比較記載ヨリ以テ凡百ノコトニ至テ皆一トシテ此心ノ精ヲ要セザルナク又事ノ精ヲ要セザルナシ故ヲ以テ此心ヲシテつねニ放逸散離セシメザレバ一睹いっとスル者此ニ瞭然一閲スル者此ニ粲然
彼は野山の獄中にありて、つねに象山に惓々けんけんたりき。彼は象山に対して師弟のよしみあるのみならず、知己の感すこぶる深かりき。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
長者つねに供養の時至るごとに一人をして辟支仏に往き請ぜしめた。この使い一狗子いぬい日々伴れて行った。
看よ人間の歴史は、つねに善き事をなして、恒に悪しき事を為すにあらずや。恒に真理に近づき、恒に真理にとほざかるにあらずや。恒に進歩して、恒に退歩するにあらずや。
頑執妄排の弊 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
時は十二月のはじめなりしが数日の雪も此日はれたれば、両人かたをならべてこゝろのどかにはなしながらすでつかの山といふ小嶺ちひさきたふげにさしかゝりし時、雪国のつねとして晴天せいてんにはか凍雲とううんしき
明史に称す、孝孺は文芸を末視まっしし、つねに王道を明らかにし太平を致すを以ておのが任と為すと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「悪魔にも、鬼にもならねば——この世の望みは、いかにたやすいことも成らぬのがつねじゃ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
妾らここに見るあり曩日さきに女子工芸学校を創立して妙齢の女子を貧窶ひんるうちに救い、これにさずくるに生計の方法を以てし、つねさんを得て恒の心あらしめ、小にしては一身いっしんはかりごとをなし
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
そうした敬虔けいけんな心持ちは、彼女の胸にいつまでもりへらされずに保たれていたゆえ、彼女がつくらずして可憐であり初々しいのだ。彼女の胸にはつねに、少女心おとめごころを失わずにいたに違いない。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
これらのことを聞いたのちに、抽斎の生涯を回顧すれば、誰人たれひともその言行一致を認めずにはいられまい。抽斎はうち徳義を蓄え、ほか誘惑をしりぞけ、つねおのれの地位に安んじて、時の到るを待っていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
出家学道昼夜精進して貧苦下賤の衆生を慈愍じびんし、つねにこれを福度し、法のために世に住する摩訶迦葉とはこの人これなりとするので一同睾丸縮み上って恐れ入る。
時は十二月のはじめなりしが数日の雪も此日はれたれば、両人かたをならべてこゝろのどかにはなしながらすでつかの山といふ小嶺ちひさきたふげにさしかゝりし時、雪国のつねとして晴天せいてんにはか凍雲とううんしき
新聞紙の伝うる所に依れば、先ず博文館の太陽が中天に君臨して、樗牛ちょぎゅうが海内文学の柄をって居る。文士のつねことに、樗牛は我に問題を与うるものだと云って、嘖々乎さくさくことして称してまないらしい。
鴎外漁史とは誰ぞ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ここを以て治めば、やまい愈えずということなし、という。果して言うところのごとくに、治めてえずということなし。得志、つねにその針を以て柱のうちに隠し置けり。
どもをやしな主人あるじもこゝにきたて、したがへたる料理人にしたる魚菜ぎよさい調味ていみさせてさらにえんひらく。是主人このあるじ俗中ぞくちゆうさしはさんつね文人ぶんじん推慕したふゆゑに、この日もこゝにきたりて面識めんしきするを岩居がんきよやくせしとぞ。
得志、つねにその針を以て柱のうちに隠し置けり。後に、虎、その柱をりて、針を取りて走去げぬ。