吐息といき)” の例文
多いが上にまた子どもができるといっては、吐息といきを突いて嘆息したものが、今は子どもに死なれて、生命もそこなうばかりに泣いた。
去年 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そういって伯爵隊長は、吐息といきをつき、胸をおさえた。昨日来、伯爵はおどろき又おどろきで、心臓の工合が少々変調をきたしている。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
吐息といきともき声ともつかぬものういをほっと洩らすと共に、彼はまた身を屈めて仕事をし出したが、やがて沈黙はまた破られた。
思わず洩れる吐息といきが、すぐと力ない咳に変わって、弥生はたもとに顔を押し包んで、こほん! こほん! とつづけざまに身をふるわせた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
鹿しかがひどくくのを聞いていて、「われ劣らめや」(秋なれば山とよむまで啼く鹿にわれ劣らめやひとる夜は)と吐息といきをついたあとで
源氏物語:40 夕霧二 (新字新仮名) / 紫式部(著)
お濱は語り終つて吐息といききました。何か娘心では脊負ひ切れない、大きな恥のかたまりをおろして、ホツとしたやうな心持でせう。
それで私はよろよろしている母を助けて土手の縁までつれて行くと、果して、母はほっと吐息といきをついて私の肩にぐったりと倒れかかった。
そして、深窓しんそう処女おとめには、あまりに強烈すぎるものへむかったように、まばゆげな眼をそらして、ひとにも分かるような吐息といきをついた。
きたにはゴビの大沙漠だいさばくがあつて、これにもなに怪物くわいぶつるだらうとかんがへた。彼等かれらはゴビの沙漠さばくからかぜ惡魔あくま吐息といきだとかんがへたのであらう。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
その上少し時候はづれの暖さで、体さへ動かせば、すぐじつとりと汗がにじむ。勿論さう云ふ陽気だから、水の上にも、吐息といき程の風さへない。
世之助の話 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
これは母の言うところよって迷信をおさえ神経を静める方法もあろうかと思ったからです。すると母はしばらく考えてましたが、吐息といきをして声をひそ
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「ほんとですか。それはほんとに有難う。これでたすかった」と僕は安堵の吐息といきをつきました。「それで、あなたには?」
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
風が静かな吐息といきを送って、苜蓿うまごやしの薄い葉をひるがえすと、蒼白あおじろいその裏が見える。そして、畑一面に身ぶるいが伝わる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
モン長 げに、幾朝いくあさも/\、まだつゆなみだ置添おきそへ、くもには吐息といきくもくはへて、彷徨うろついてゐるのを見掛みかけたとか。
少女の寝息とも……牛乳の香気においとも……萎れた花の吐息といきともつかぬ、なつかしい、甘ったるい匂いが、又もホノボノと黄絹の帷帳の中から迷い出して来た。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
鏡子はなさけなささうに云つて、おとがひをべたりと襟に附けて、口笛を吹くやうな口をして吐息といきをした。お照がなにと云つて慰めたものかと思つて居ると、俄に鏡子が
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「私には出來ません。私は疲れて氣持が惡いのです。水を少し下さい。」彼は、わなゝくやうな吐息といきをついて、私を腕に抱きかゝへて、階下へ連れて行つた。
樺の木は又何とか返事しようとしましたがやっぱり何か大へん重苦しくてわずか吐息といきをつくばかりでした。
土神ときつね (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
考えて居る間も、他の百姓の様に、故意わざとらしい吐息といきをついたり、悲しい顔付をして見せるでもなく、只、ボンヤリ気抜けの仕た様に考え込んで仕舞うのである。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
あな疎忽そこつ吐息といきいでたり。気にかけそ、何といふ事もあらぬを。また妻よ、ほうじてむ玄米の茶を。来む春の話、水仙の話、やがて生れむ子のことなども話してむ。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
流石さすがありそうみのおきてまたりてつながめにかねど吐息といきされて八重やへはマアなんおもふぞとひとことば
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
思わず、ハッと吐息といきして、羽織の袖を、ひとしく清く土に敷く、お町の小腕こがいな、むずと取って、引立てて
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「今年の春」と梅子はかすかに吐息といき洩らして「浅墓あさはかの頃をわたしはホンたうに耻づかしく思ひます、世をて人を逃れた古人の心に、私は、篠田さん、今ま始めて真実同情を ...
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
吐息といきをついた駒井甚三郎は、やがて両の手をかおに当て、卓子にひじをついて俯向うつむいていました。
版元鶴屋は襟元えりもとの汗をばそっと手拭てぬぐいで押拭うと、国貞も覚えずほっと大きな吐息といきを漏して
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし家に帰りついてみると、精神にまたゆるみを生じて、しばらく忘れていた疲労が体をくずおれさした。かれはなさけないと思ったが、悩む脚をなげだして、吐息といきをついた。
それは安堵あんど吐息といきともつかず、これまで以上の深い苦悶くもんの吐息ともつかないものだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
なす失果うせはてて立歸りしが氣もむすぼとこへ這入て忘れんと目睡まどろむゆめの其中に水をくれしを見たりしがさて寢言ねごとを言たるか面目なしと計りにて一一什しじふを語りけるをきゝ忠兵衞はあきはて吐息といき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
真直まつすぐ突当つきあたつてと云はれた道が何処どこ迄も果ての無い様に続いて居る様なので、自分は男達におくれない様にして歩きながら時時ときどき立留たちとまつて汗を拭いては吐息といきさへもつかれるのであつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
稲妻が空を縫って走る時には、それが自分の痛みが形になって現われたように見えた。少し痛みが退くとほっと吐息といきをして、助けを求めるようにそこに付いている医員に目ですがった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
つるぎつゑに。松陰まつかげの。いはほさゝへて。吐息といきつく。時哉をりしも見ゆる。若武者わかむしやは。そもいくさの。使つかひかや。ればころもの。美麗うるはしさ。新郎はなむことかも。あやまたる。其鬚髯そのほうひげの。新剃にひそりは。秋田あきたを刈れる。刈稻かりしねの。そろへるさまに。
「西周哲学著作集」序 (旧字旧仮名) / 井上哲次郎(著)
日頃ひごろ眺むる東京の煙も、此四五日は大息おおいき吐息といきの息巻荒くあがる様に見える。然し此処ここは田舎である。都の師走しわすは、田舎の霜月しもつき冬枯ふゆがれの寂しい武蔵野は、復活の春を約して、麦が今二寸に伸びて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
と、一人が吐息といきをした。「オイ観世、ひどい目にあったな?」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
嗚呼ああ吐息といきかれることだ、悲しいことだ、というのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
わたしは 吐息といきに吐息をかさねて
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
一同はほっと安心の吐息といきをついた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
吐息といきのやうにとぎれては続きます
ジンタ (新字旧仮名) / 森川義信(著)
狂ほしきハルモニカの吐息といきの如く
吐息といきをつきながら、匙を運んだ。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
木の葉は淡き吐息といきをもらし
かの日の歌【二】 (新字旧仮名) / 漢那浪笛(著)
と、子家鴨こあひる吐息といきをついて
吐息といきためいきとめあへず
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
復一は吐息といきをした。そして
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
吐息といきかすらめ、あまをとめ。
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
汝がせはしげなる吐息といき
十番目の吐息といきをすると
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
なぜか、房枝は、しずかな夕暮の空を、ひとりぼっちでながめるのがたまらなく好きだ。そしていつも心ぼそく吐息といきをついてしまうのである。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ただ、離亭の辺の、黒い山吹の茂みと、さざ波もない池水を見まもりながら、ほっと、自分の気の弱い吐息といきに、気がついていたに過ぎまい。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
返辞のできることでもなくて、玉鬘たまかずらがただ吐息といきをついているのが美しく感ぜられた時に、中将の心にはおさえ切れないものがき上がってきた。
源氏物語:30 藤袴 (新字新仮名) / 紫式部(著)
十六人の女たちは、ほとんど正体しょうたいもないらしかった。彼等の口から洩れるものは、ただ意味のない笑い声か、苦しそうな吐息といきの音ばかりであった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)