冷淡れいたん)” の例文
父はおこツてゐる、母夫人は冷淡れいたんだ。周三は何處にも取ツて付端つきはが無いので、眞個まつたく家庭を離れて了ツて、獨其のしつに立籠ツて頑張ツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
フェアファックス夫人は編物をたたみ私は紙挾かみはさみを取上げた。私たちは彼にお辭儀をすると、冷淡れいたん會釋ゑしやくを返され、そのまゝ引退ひきさがつた。
いったい日本人は花のにおいに冷淡れいたんで、あまり興味をかないようだが、西洋人と中国人とはこれに反して非常に花香かこう尊重そんちょうする。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
でもそれすら、かくしにかの女のためのキャンデーか、みかんの一つ持ち合わせないときには、冷淡れいたんにそっぽを向いてしまった。
「どうせ、乞食こじきだもの。」とおもっていたので、かわいそうとも、おかしいとも問題もんだいにしなかったほど、冷淡れいたんでありました。
長ぐつの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それにしても、その頃の江戸の町人連は、今の人が考へるやうな冷淡れいたんなものではなく、五人組や月番が主になつて、何くれと世話をして居ります。
まま母ははじめから口もださず手もださず、きわめて冷然れいぜんたるものであった。老人は老妻ろうさい冷淡れいたんなるそぶりにつき、二ことことなじるような小言こごとをいうたにたい
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
うしておつぎは卯平うへいむかつてかれ幾分いくぶんづゝでも餘計よけい滿足まんぞく程度ていどにまでこゝろつくすことが、善意ぜんいもつてしてもむし冷淡れいたんであるがごとえねばならなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
今さら、君にこんなことを言う必要もないと思うが、友愛塾は、どんな相手に対しても冷淡れいたんであってはならないんだ。あたたかな空気、それが塾の生命だからね。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
父のわたしに対する態度は、いわば冷淡れいたんやさしさにすぎなかったし、母は母で、わたしのほかに子供がないにもかかわらず、ほとんどわたしを構ってくれなかった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
しかし克巳の目は、知らない人を見るように冷淡れいたんでした。おれたちが、松吉、杉作なことが、まだ、わからないのかなと、松吉は思いました。歯がゆい感じでした。
いぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
女は主人公が部屋のじょうをあけたときに、声をかけた。そして無理やりに泊っていったという。これでみると、Yという女は、気の毒にも主人公から冷淡れいたんにあつかわれている。
脳の中の麗人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
で、まちでは病院びやうゐん這麼有樣こんなありさまらぬのではく、一そう棒大ぼうだいにして亂次だらしいことを評判ひやうばんしてゐたが、これたいしては人々ひと/″\いたつて冷淡れいたんなもので、むし病院びやうゐん辯護べんごをしてゐたくらゐ
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
あのあまくしてやはらかく、たちまちにして冷淡れいたん無頓着むとんちやくな運命の手にもてあそばれたい、とがたい空想にられた。空想のつばさのひろがるだけ、春の青空が以前よりも青く広く目にえいじる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
啓吉は、当局者の冷淡れいたんな、事務的な手配と、軽佻な群衆とのために、屍体が不当に、さらし物にされている事を思うと、前より一層の悲憤ひふんを感じた。笑っている群衆も、群衆である。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
れば瘠我慢の一主義はもとより人の私情にいずることにして、冷淡れいたんなる数理より論ずるときはほとんど児戯じぎに等しといわるるも弁解べんかいなきがごとくなれども、世界古今の実際において
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「さうですか。でも、ありやあ眠氣覺ねむけざましですよ‥‥」と、かれ冷淡れいたんこたへた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
叔父をぢんだ。叔母をば安之助やすのすけはまだきてゐるが、きてゐるあひだけた交際つきあひ出來できないほど、もう冷淡れいたんかさねて仕舞しまつた。今年ことしはまだ歳暮せいぼにもかなかつた。むかふからもなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
どんな大至急だいしきふ要用えうようでもふうといふをつたことく、つまとは木偶でくのばうがお留守居るすゐしてるやうに受取うけとり一通いつゝう追拂おひはらつて、それは冷淡れいたんげていたものなれば、旦那だんなさまの御立腹ごりつぷくはでものこと
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
何もできもしない百姓の分際ぶんざいで、金があるからといって、生意気な奴だと思った。初めての教員、初めての世間への首途かどで、それがこうした冷淡れいたんな幕で開かれようとはかれは思いもかけなかった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
だがお別れもせず、一言か二言お禮や挨拶の言葉も云はせずぢやいけない、つまりそんなぶつきら棒な冷淡れいたんなやり方ぢやいけませんよ。
そしてなにかわたしにわからないことを言うと、夫はふふんとわらった。かの女の冷淡れいたんと、わたしの父親の嘲笑ちょうしょうとがふかくわたしの心をきずつけた。
乞食こじきは、しくしくきだしました。まちへいって、みんなに冷淡れいたんにされているほうが、まだよかったようにおもいました。
長ぐつの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
源四郎はもちろん妻のしぶりに同情どうじょうしているが、さりとてまま母の冷淡れいたん憤慨ふんがいするでもない。だまって酒を飲み、ものを食っている。雨はいよいよ降りが強くなってきたらしい。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
で、まちでは病院びょういんのこんな有様ありさまらぬのではく、一そう棒大ぼうだいにして乱次だらしいことを評判ひょうばんしていたが、これにたいしては人々ひとびといたって冷淡れいたんなもので、むし病院びょういん弁護べんごをしていたくらい
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
これが死ぬほど自分を愛している者に対する態度だろうか。かりに彼女の父があからさまに真実を語ったとしたらどうだろう。それでも彼女はそうした冷淡れいたんな態度に出られるのだろうか。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
ではございますが、あなたは道夫に対し、たいへん冷淡れいたんでいらっしゃいます。
新学期行進曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
先生も生徒も、一日か二日は冷淡れいたんにあなたを眺めるかも知れないけれど、心の中には親切な氣持ちが隱してあるのよ。
こうなると、いままで、すくってもらったものが、まったくべられなくなって、餓死がししたものもあります。世間せけんでは、きゅうに、金持かねもちの冷淡れいたんめました。
船でついた町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたしは自分を芸人げいにんだとはちっとも思ってはいなかったけれど、見物のひどい冷淡れいたんさがわたしをがっかりさせた。
「あんたはなにか冷淡れいたん仕打しうちをしたのですか」
脳の中の麗人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もらってから、すのでは、なんだか冷淡れいたんのようながする。いっそ、二人ふたりのところへたずねてゆこうかしらんとかんがえたが、お正月しょうがつは、めいわくだろうとおもってやめた。
ある少年の正月の日記 (新字新仮名) / 小川未明(著)
おばさんがわたしたちにあたえた冷淡れいたん待遇たいぐうは、わたしたちにふたたびあのうちへもどる勇気ゆうきうしなわせたので、六時すこしまえにマチアとカピとわたしは、鉱山こうざんの入口に行って
母親 あなたはあまりに冷淡れいたんです。
新学期行進曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのたび、ほこりでよごれたたてがみが、くものようになみうちました。あつまった人々ひとびととおまきして、見物けんぶつしました。自分じぶん関係かんけいのないことは、たいていのひとは、冷淡れいたんなものです。
道の上で見た話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「わたしのようないぼれになんの技術ぎじゅつがありますものか」とかれは冷淡れいたんに答えた。
あるかれは、今日きょうこそうつくしい嫁御よめごたいものだとおもって、さけいにゆきましたが、やはりられなかったばかりでなく、番頭ばんとうから、冷淡れいたんにされて、かなしんでうちかえると
赤いガラスの宮殿 (新字新仮名) / 小川未明(著)
親方は冷淡れいたん婦人ふじんにあいさつをした。
あれほど、母親ははおやは、自分じぶんをかわいがってくれたのに、そして、んでからもああして自分じぶんうえまもってくれたのに、自分じぶんはそれにたいして、あまり冷淡れいたんであったことに、こころづきました。
牛女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
けれど、バケツは、冷淡れいたんに、からからとわらってとりあいませんでした。
ねずみとバケツの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その博労ばくろうは、もっと、まえおとこよりも冷淡れいたんでありました。
百姓の夢 (新字新仮名) / 小川未明(著)