うな)” の例文
「ぢや、ねいさんは何方どちらすきだとおつしやるの」と、妹は姉の手を引ツ張りながら、かほしかめてうながすを、姉は空の彼方あなた此方こなたながめやりつゝ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
初秋はつあき日脚ひあしは、うそ寒く、遠い国の方へかたむいて、さびしい山里の空気が、心細い夕暮れをうながすなかに、かあんかあんと鉄を打つ音がする。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うるはしき淑女はたゞ一の表示しるしをもて我をうながし彼等につゞいてかの梯子はしごを上らしむ、その力かくわが自然に勝ちたりき 一〇〇—一〇二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
平次は手を振つてそれをこばみましたが、結局は麻井幸之進の熱意に打ち負かされて、八五郎をうなしながら、一應引揚げる外はなかつたのです。
麓の方で晩鐘いりあいが鳴り出した。其鐘のうながさるゝかの如く、からす唖〻〻あああと鳴いて、山の暮から野の黄昏たそがれへと飛んで行く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
いずれにしてもひめはそのゆうべ両親りょうしんうながされ、盛装せいそうしておそばにまかりで、御接待ごせったいあたられたのでした。
うながすように言いかけられて、ハタと行詰ゆきつまったらしく、ステッキをコツコツとまたたきひとツ、唇を引緊ひきしめた。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三日みつかりても音沙汰おとさたきにさとしこヽろもだえ、甚之助じんのすけるごとにれとなくうながせば、ぼくもらつてりたけれど姉樣ねえさまくださらねばと、あはいたばさみにりてこまりしてい
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
すなわち周囲が死をうながす、ゆえに見事にぬ。しかし長らく病疾びょうしつにかかりてなお帰るがごとくたおるるは容易の業ではない。強き人はよく耐える。よく耐える人を強者という。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それからドドをいれて扉に鍵をおろすと、座間はカークをうながしながら戸外へ出ていった。やがて本土とのあいだが二町ばかりにせまっている、有名なマラガシュの入江に出た。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ことさらに父母の死をうながすがごときは、情においてしのびざるところなり。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
やがてグリフォンが海龜うみがめふには、『もつときをサ!はやくしないとくれるよ!』うながされてやうやかれは、『まつたく、わたしどもはうみなか學校がくかうつたのです、お前方まへがたしんじないかもれないけど—』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
致せしおぼえ更に是なしと云に家主はコレサ此處ここにて何を云ともやくには立ず覺えなければ早くたり御奉行樣の前にて辯解いひわけいたされよと家主は吉五郎をうながして名主の玄關へ同道なせしに正面しやうめんには大岡殿を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
とまたしても中川の長広舌ちょうこうぜつうながす。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
と、人目をおそれてうながした。
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、再びうながされたので
「梅ちやん、松島さんのおさかづきですよ」と徳利差し出して、お熊のうながすを、梅子は手をひざに置きたるまゝ、目を上げて見んとだにせず
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
みんなは話に気を取られて浴衣ゆかたを着換えるのを忘れていた。兄は立って、のりの強いのを肩へ掛けながら、「どうだい」と自分をうながした。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
徳庵先生は、鐵拐仙人てつかいせんにんのやうな長い息を吐くのです。慈姑くわゐの取手に山羊髯やぎひげ、それも胡麻鹽ごましほになつて、世に古りた姿ですが、昔は斯ういふ醫者が信用されました。平次が默つて後をうながすと
他の点はこの一源泉より流露するのであるから、この源頭に向って工夫を下せば他はことごとく刃を迎えて向うから解決をうながす訳である。
写生文 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
日露両国の間、風雲うたた急を告ぐるに連れて、梅子の頭上には結婚の回答をうながすの声、愈々いよ/\切迫し来れり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
平次は靜かにうながしました。
こう解釈した時、誰も彼の精神生活を評してつまらないとは云うまい。コムトは倦怠アンニュイをもって社会の進歩をうながす原因と見たくらいである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「さあ、もう御膳おぜんを下げたら好かろう」と細君をうながして、先刻さっき達磨だるまをまた畳の上から取って、人指指ひとさしゆびの先へせながら
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ところへ事務所のものが御仙の傍へ来て、用意が出来ましたからどうぞとうながしたので、千代子は須永を呼びに裏手へ出た。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「恐れ入ります」と小野さんはちょっと笑ったがすぐ眼をそらした。向側むこうがわ硝子戸ガラスどのなかに金文字入の洋書が燦爛さんらんと詩人の注意をうながしている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「さあ、もう御膳おぜんげたらからう」と細君さいくんうながして、先刻さつき達磨だるままたたゝみうへからつて、人指指ひとさしゆびさきせながら
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
代助はだまつて椅子へこしを卸した。果してためはちの水を呑んだのか、又は生理上の作用にうながされて飲んだのか、追窮する勇気もなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
夫人に対する義理と気兼きがねも、けっして軽い因子ではなかった。彼は何度も同じ言葉を繰り返して夫人の説明をうながした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その衝立には淡彩たんさいの鶴がたった一羽たたずんでいるだけで、姿見のように細長いその格好かっこうが、普通の寸法と違っている意味で敬太郎の注意をうながした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女はここへ来て急に口籠くちごもった。不敏な僕はその後へ何が出て来るのか、まださとれなかった。「御前に対して」となかば彼女をうながすように問をかけた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼はすぐたもとに入れてあるリチネを取り出して、飲みにくそうに、どろどろした油の色を眺めた。すると、客間でも時計の音にうながされたような叔父の声がした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人々にんにん力をここに致すとき、一般の幸福をうながして、社会を真正の文明に導くが故に、悲劇は偉大である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
代助は、其当時そのとうじ平岡から、あにの会社に周旋してくれと依頼されたのを、其儘にして、断わりもせず今日こんにちほうつて置いた。ので、其返事をうながされたのだと受取つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「そろそろ出かけようか。夜の急行は込むから」ととうとう自分の方で三沢をうながすようになった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一年ぐらい暇を貰って遊んで来てはどうですとうながして見たら、そりゃ無論やってもらえる、けれどもそれは好まない。私がもし日本を離れる事があるとすれば、永久に離れる。
ケーベル先生 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
主人は「嘘をつけ」と腹の中で言ったまま、ぷかぷか煙草たばこをふかす。迷亭は天井を見ながら「君、ありゃ雨洩あまもりか、板の木目もくめか、妙な模様が出ているぜ」と暗に主人をうながす。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
余がかくのごとく回想しつつあった時に例の婆さんがどうです下りましょうかとうながす。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すべての感情が多くの場合において意志をうながすもの、または意志に変化する傾向のあるものとの学説に従えば、この二範疇はんちゅうはある点においていっしょに出合うものでしょうが
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
騒動のあったあくる朝、何かの必要にうながされて、あばらの左右に横たえた手を、顔の所まで持ってようとすると、急に持主でも変ったように、自分の腕ながらまるで動かなかった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その決心は多大の努力を彼女にうながした。彼女の努力は幸い徒労に終らなかった。彼女はついにむくいられた。少なくとも今後の見込を立て得るくらいの程度において酬いられた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
惘然もうぜんとして煙草の煙を眺めている。恩賜の時計は一秒ごとに約束の履行をうながす。そりの上に力なき身を託したようなものである。手をこまぬいていれば自然と約束のふちすべり込む。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
月は正面からおれの五分がりの頭から顋のあたりまで、会釈えしゃくもなくてらす。男はあっと小声に云ったが、急に横を向いて、もう帰ろうと女をうながすが早いか、温泉の町の方へ引き返した。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
余のるところにては、彼の青年は美の一字のために、捨つべからざる命を捨てたるものと思う。死そのものはまことに壮烈である、ただその死をうながすの動機に至っては解しがたい。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただ自分の書いたものが自分の思う様な体裁で世の中へ出るのは、内容の価値如何いかんに関らず、自分だけうれしい感じがする。自分に対しては此事実が出版をうながすに充分な動機である。
寒月君はもうい加減な時分だと思ったものか「どうも好い天気ですな、御閑おひまならごいっしょに散歩でもしましょうか、旅順が落ちたので市中は大変な景気ですよ」とうながして見る。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただ吐いているうちはよかったが君表のどぶへきんとんを掘りに行きましょうとうながすに至っては僕も降参したね。それから二三日にさんちするとついに豚仙になって巣鴨へ収容されてしまった。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御宅おたくからの様です。灯火あかりつてませうか」とうながす如くに注意した。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
向後日清戦役もしくは日露戦争のごとき不規則なる情操の勃張ぼっちょううながす機会なく日本の歴史が平静に進行するときは、情操は久しからずして科学的精神の圧迫をこうむる事は明らかでありますから
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大学の外国文学科は従来西洋人の担当で、当事者は一切の授業を外国教師に依頼してゐたが、時勢の進歩と多数学生の希望にうながされて、今度いよいよ本邦人の講義も必須課目として認めるに至つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)