くじら)” の例文
するとロッセ氏は、とつぜん吾れにかえったらしく、ふーっと、くじらのようにふかい溜息ためいきをついた。そして私にかじりついたものである。
毎年冬になるとくじらの味噌漬のたるがテンコツさんからの到来ものだった。大橋の下へ船がついたからとりにいってくれといってよこした。
夏山 夏野 夏木立なつこだち 青嵐 五月雨さみだれ 雲の峰 秋風 野分のわき 霧 稲妻 あまがわ 星月夜 刈田 こがらし 冬枯ふゆがれ 冬木立 枯野 雪 時雨しぐれ くじら
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
無事ぶじであつてなによりじや。そのくろおほきなやまとは、くじらぢやつた。おそろしいこと、おそろしいこと、いただけでもぞつとする」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
佐伯さえき伊太知いたちとか、大伴おおともくじらおおし黒鯛くろだいなどは史上にも見える人物だし、丹念にさがせば、そんな類の名は、まだいくらでもあるだろう。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紀州の熊野の太地たいじ辺でも、旧十月十五日のこの神祭の供物には、この割菜とくじらの皮とを入れた味噌汁を、今でも必ず供えることにしている。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
日本はくじらの系統ばかりだから——ピエルロチーといふ男は、日本人のは、あれでうしてけるだらうなんてひやかしてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「ひらめやかれいに付き合いはないよ。うなぎという字と、くじらという字なら看板で見て知ってるが、それでも間に合わせるわけには行かねエのか」
「これは、くじらにくだな。そうだ、南極なんきょくからきた冷凍肉れいとうにくだ。人間にんげんとおなじく、あかちゃんをかわいがる哺乳動物ほにゅうどうぶつにくなんだ。」
太陽と星の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
するとくじらが怒って水を一つぐうっと口からきました。ひとではみんな顔色を変えてよろよろしましたが二人はこらえてしゃんと立っていました。
双子の星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
チビ狒狒どもも前へ出ろい! 下総の十五郎がかけつけたからにゃ、もう御前様にゃ、指一本ささせるもんじゃねえぞ。九十九里の荒浜でゴマンとくじら
海豚いるか』『くじら』『竜巻たつまき』『黒潮くろしお』『海賊かいぞく』『コロンブス』——この六隻はA国海軍が自慢する大潜水艦で、『八島』や『千代田』に負けぬほど強いやつだ。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
くじらなんてやつも東西に逃げ走って、漁の船も、やあれ、おきなが来たぞう、と叫び合って早々に浜にもどり、やがて、おきなが海の上に浮んで、そのさまは
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私もおくれまいと足を早めました。案内者をあわせて十人の人間は、くじらに呑まれるいわしの群れのように、石門の大きな口へだんだんに吸い込まれてしまいました。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
薄く、長く引いた眉の下に、くじらのような眼が小さく並んで、その中にヨボヨボの老人か、又は瀕死ひんしの病人みたような、青白い瞳が、力なくドンヨリと曇っていた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
疲れた時には舟の小縁へ持って行ってきりを立てて、その錐の上にくじらひげを据えて、その鬚に持たせたまたいとをくいこませて休む。これを「いとかけ」と申しました。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
くじらの群れが大洋の表面に浮かんだり沈んだりしている時、そのあいだに凸形の陸地を有して数マイルを隔てているにもかかわらず、ある時には同じ刹那に泳ぎ出して
そこには、細長い、見なれない型のボートが一艘、くじらのようにくろぐろとした体を横たえていた。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
寒帯にもみ熱帯にも棲むという動物は必ず皮膚の下に脂肪を蓄えてちょうど脂肪の皮をかぶっているようです。くじらもあの通りな脂肪ですし、豚もやっぱり脂肪沢山です。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
いわしくじらの餌食となり、雀が鷹の餌食となり、羊が狼の餌食となる動物の世界から進化して、まだ幾万年しかへていない人間社会にあって、つねに弱肉強食の修羅場を演じ
死刑の前 (新字新仮名) / 幸徳秋水(著)
どじょう、なまずすっぽん河豚ふぐ、夏はさらしくじら——この種の食品は身体の精分になるということから、昔この店の創始者が素晴らしい思い付きの積りで店名を「いのち」とつけた。
家霊 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それは、この島々のまわりには、魚や鳥が、多くいるにちがいないから、そのようすを、よく調査するのと、もう一つは、昔は、このへんの島近くに、まっこうくじらが多くいた。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
遠くから見ると、くじらが海面に背を出したように見える。もう二、三年もしたら、すっかり埋ってしまうであろう。そして百年後には、誰か飛行機を発掘する人があるかもしれない。
白い月の世界 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
椴松とどまつの伐りっぱなしの丸太の棒が、一本ずつ、続々つぎつぎに、後から後から、ふかのごとく、くじらのごとく、さめのごとく、生き、動き、揺れ、時には相触れ、横転しつつ、二条のレールの間を
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
はも河豚ふぐ赤魚あかお、つばす、牡蠣かき、生うに、比目魚ひらめの縁側、赤貝のわたくじらの赤身、等々を始め、椎茸しいたけ松茸まつたけたけのこかきなどに迄及んだが、まぐろは虐待して余り用いず、小鰭こはだ、はしら、青柳あおやぎ
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
僅少わずかたたみへりばかりの、日影を選んで辿たどるのも、人は目をみはつて、くじらに乗つて人魚が通ると見たであらう。……素足すあしの白いのが、すら/\と黒繻子くろじゅすの上をすべれば、どぶながれ清水しみず音信おとずれ
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
源介は濁声だみごえで一喝した。「ところもあろうに江戸の真ん中で、女悪戯てんごうとは何事だ、くじらの源介が承知ならねえ! 俺の縄張りを荒らしやがって、いいかげんにしろ、いいかげんにしろ!」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「なるほど、鰻や鱒よりも大きい……まさかまぐろくじらがいるわけでもあるまいな」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あい万筋結城まんすじゆうきに、黒の小やなぎの半えり、唐繻子とうじゅす媚茶博多こびちゃはかたくじら仕立ての帯を、ずっこけに結んで立て膝した裾のあたりにちらつくのは、対丈緋ついたけひぢりめんの長じゅばん……どこからともなく
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
村のとっつきの小さな波止場はとばでは、波止場のすぐ入り口で漁船がてんぷくして、くじらの背のような船底ふなぞこを見せているし、波止場にはいれなかったのか、道路の上にも幾隻いくせきかの船があげられていた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
水戸は徳川三家の居城でありましたから、昔は色々の手仕事が栄えたことと思いますが、今は衰えてしまいました。馬乗提灯うまのりぢょうちんくじらの筋を用いた出来のよいのを売りますが、昔の名残りであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
財産ではなくくじらだったね、いつのことかわからないがこの浜へ一頭の鯨があがった、それを三人の漁師がみつけて三等分したんだな、そのとき頭のほうを取ったのがあたま、尻尾しっぽを取ったのがしっぽ
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
くじらに呑まれるように、腹の中へ呑まれたいと思った。
女妖:01 前篇 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
菜の花やくじらも寄らず海くれ
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
「では、僕はくじらと行こう」
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
沖でくじらは潮を吹く
ペンギン鳥の歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
遠洋へ乗り出してくじらの群を追ひ廻すのは壮快に感ぜられるが佃島つくだじま白魚舟しらうおぶねかがりいて居る景色などは甚だ美しく感ぜられる。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
と、くちびるを噛んでつぶやくと高麗村の次郎、山にくじらを見つけでもしたように、モリを持ち直し道端へかがまりました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くじらの肉の油を取ったあとを、古くから炒り殻といっていたが(浪花聞書)、本来はこれだけには限らなかったらしく、東北は石巻いしのまき大槌おおつちなどでも
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「もう、いかんぞ。どうも、くさい。いやにくさい。きさまは、からだが大きいせいか、くじらの油みたいな脂を出しよる」
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
すると、魚屋さかなやは、まえとおなじところにあって、だいはかわいて、もうそのうえには、くじらにくあたりませんでした。
太陽と星の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
東作はくじらのように飲みました。逃げ腰のお富は、彦兵衛に眼で叱られて、観念しきった手に銚子ちょうしを挙げるのです。
汽車のふえの音を形容して喘息ぜんそくみのくじらのようだと云った仏蘭西フランスの小説家があるが、なるほどうまい言葉だと思う間もなく、長蛇のごとく蜿蜒のたくって来た列車は
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おおかめさんの風貌ふうぼうを、もすこしくわしくいえば、体の大きさと眼との釣合はくじらを思えばよかった。鼻は、眼との均衡がよいほどだが、たてに見えるほどの穴が実に大きい。
くじらうさぎかえる、あざらし、あり、ペリカン、この七つの中で、卵から生まれるものは何々でしょう、という問題に就いて、ちょっと頭をひねってみたり、それもつまらなくなり
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
四千三百兆大カロリーとか何とか大体出て参りましょう。今度は牛羊、豚、馬、鶏くじらという工合に今の通りやります。合計二千三百兆大カロリーとか何とか出て来ましょう。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
アメリカ捕鯨帆船ほげいはんせんに乗り組んで、くじらを追い、帰朝後、ラッコ船の船長となって、北方の海に、オットセイやラッコをとり、それから、報効義会ほうこうぎかいの小帆船、龍睡丸りゅうすいまるの船長となられた。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
芋莄ずいきなびく様子から、枝豆の実る処、ちと稗蒔ひえまき染みた考えで、深山大沢しんざんだいたくでない処は卑怯ひきょうだけれど、くじらより小鮒こぶなです、白鷺しらさぎうずらばん鶺鴒せきれいみんな我々と知己ちかづきのようで、閑古鳥よりは可懐なつかしい。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いと易いことでございますよ。それにあらかた今日までに、おおよそのところは調べ上げました。ただ私といたしましては、細かい雑魚ざこなどはどうでもよい、大きなくじらをにがしたくないので。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
くじら鑵詰 六二・二六 二九・一六 三・六五 四・七九
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)