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陰鬱
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いんうつ
ふりがな文庫
“
陰鬱
(
いんうつ
)” の例文
それは雪国の旧家というものが特別
陰鬱
(
いんうつ
)
な建築で、どの部屋も薄暗く、部屋と部屋の
区劃
(
くかく
)
が不明確で、迷園の如く陰気でだだっ広く
石の思い
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
この道を奥の方へと荷馬車の通うのにも
出逢
(
であ
)
ったが、人里がありそうにも思えない
荒寥
(
こうりょう
)
たる感じで、
陰鬱
(
いんうつ
)
な樹木の姿も粗野であった。
縮図
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
敬太郎は婦人の着る着物の色や
縞柄
(
しまがら
)
について、何をいう権利も
有
(
も
)
たない男だが、若い女ならこの
陰鬱
(
いんうつ
)
な
師走
(
しわす
)
の空気を
跳
(
は
)
ね返すように
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
陰鬱
(
いんうつ
)
な事件です、人心が
溷濁
(
こんだく
)
し、血で『一掃する』という文句が到るところに引用され、全生活が
安逸
(
コムフォート
)
を旨とする現代のでき事です。
罪と罰
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
もうきたなくなって、だれにも顧みられず、いやな姿で
傲然
(
ごうぜん
)
と控えていて、市民の目には醜く、思索家の目には
陰鬱
(
いんうつ
)
に見えていた。
レ・ミゼラブル:07 第四部 叙情詩と叙事詩 プリューメ街の恋歌とサン・ドゥニ街の戦歌
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
▼ もっと見る
土台柱は、みんな白蟻が
蝕
(
く
)
ったように腐っていた。建ってから一世紀以上は経っている——じわじわした
陰鬱
(
いんうつ
)
な闇が顔をつつむ。
銀河まつり
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
ベートーヴェンをほめるのに、その作品には悪ふざけや
淫蕩
(
いんとう
)
な肉感があると言っていた。
陰鬱
(
いんうつ
)
な思想中にもみやびな
饒舌
(
じょうぜつ
)
を見出していた。
ジャン・クリストフ:07 第五巻 広場の市
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
S村は四方を山にとざされ、
殆
(
ほとん
)
ど
段畑
(
だんばたけ
)
ばかりで暮しを立てている様な、
淋
(
さび
)
しい寒村であったが、その
陰鬱
(
いんうつ
)
な空気が、探偵小説家を喜ばせた。
鬼
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
「いや保養と云う訳ではありませんが、どうも頭がわるくって。」と云いながら、青年の表情は暗い
陰鬱
(
いんうつ
)
な調子を帯びていた。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
波
(
なみ
)
、
波
(
なみ
)
、
波
(
なみ
)
は、一
面
(
めん
)
に
陰鬱
(
いんうつ
)
に、三
角
(
かく
)
に
立
(
た
)
つて、
同
(
おな
)
じやうに
動
(
うご
)
いて、
鱗
(
うろこ
)
のざわ/\と
鳴
(
な
)
る
状
(
さま
)
に、
蠑螈
(
ゐもり
)
の
群
(
むらが
)
る
状
(
さま
)
に、
寂然
(
せきぜん
)
と
果
(
はて
)
しなく
流
(
なが
)
れ
流
(
なが
)
るゝ。
十和田湖
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
父祖は、ずっと東方のバクトリヤ辺から来たものらしく、いつまでたっても都の
風
(
ふう
)
になじまぬすこぶる
陰鬱
(
いんうつ
)
な
田舎者
(
いなかもの
)
である。
木乃伊
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
ただでさえ
陰鬱
(
いんうつ
)
きわまるこの隠れ家のうちに、腐るような雨の音を聞いて竜之助は、仰向けに寝ころんでいるのであります。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
この不幸な世の中を、ただいっそう
陰鬱
(
いんうつ
)
にするだけの事だ。他人を責めるひとほど陰で悪い事をしているものではないのか。
パンドラの匣
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
うっとうしいと言う言葉は、用い処はほぼもっさりと似ているが、も少し
陰鬱
(
いんうつ
)
であり深刻な味を
有
(
も
)
ち多少のうるささを持つ。
めでたき風景
(新字新仮名)
/
小出楢重
(著)
多くの人は、
陰鬱
(
いんうつ
)
なのでこんな絵はいやだ、と拒まれますが、でもほかの人々には、あなたもその一人ですが、その陰鬱なのをこそ好かれます
審判
(新字新仮名)
/
フランツ・カフカ
(著)
しかし間もなくこの
陰鬱
(
いんうつ
)
な
往来
(
おうらい
)
は
迂曲
(
うね
)
りながらに少しく
爪先上
(
つまさきあが
)
りになって行くかと思うと、片側に赤く塗った
妙見寺
(
みょうけんじ
)
の塀と
すみだ川
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
無邪気で、あどけなくて、内気な、
陰鬱
(
いんうつ
)
なところがあって、こんなガサツな、生意気な女とは似ても似つかないものだった。
痴人の愛
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
この雪に
埋
(
うずも
)
れた不安な生活の上に、
陰鬱
(
いんうつ
)
な日々がただ明け暮れて行くのを、じっと我慢して春を待つより仕方がなかった。
イグアノドンの唄:――大人のための童話――
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
暗い夜を好み、暗い日を好み、家内でも薄暗いところを好むようになると、当然の結果としてかれは
陰鬱
(
いんうつ
)
な人間となった。
影を踏まれた女
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
そして、私の足もとの、深い、どんよりした沼は、「アッシャー家」の破片を、
陰鬱
(
いんうつ
)
に、音もなく、
呑
(
の
)
みこんでしまった。
アッシャー家の崩壊
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
その街並は、皆大きな
陰鬱
(
いんうつ
)
な
煉瓦建
(
れんがだて
)
でした。その一つの家の、正面の扉の上に、
真鍮
(
しんちゅう
)
の名札が輝いていました。そこに黒でこう彫ってありました。
小公女
(新字新仮名)
/
フランシス・ホジソン・エリザ・バーネット
(著)
しかし三人とも声は立てずに死のように静かで
陰鬱
(
いんうつ
)
だった。クララは芝生の上からそれをただ眺めてはいられなかった。
クララの出家
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
私は
二十歳
(
はたち
)
過ぎまで
旧
(
ふる
)
い家庭の
陰鬱
(
いんうつ
)
と窮屈とを極めた空気の中にいじけながら育った。私は昼の間は
店頭
(
みせさき
)
と奥とを一人で掛け持って家事を見ていた。
鏡心灯語 抄
(新字新仮名)
/
与謝野晶子
(著)
なんとなく
陰鬱
(
いんうつ
)
として不快を感ずるがごとき場合に鳴き出すものにして、長く病床に
吟呻
(
しんぎん
)
せる病人も、かかる天候激変のときに絶命するものである。
おばけの正体
(新字新仮名)
/
井上円了
(著)
駄洒落
(
だじゃれ
)
を聞いてしらぬ顔をしたり眉をひそめたりする人間の内面生活は案外に空虚なものである。軽い
笑
(
わらい
)
は真面目な
陰鬱
(
いんうつ
)
な日常生活に
朗
(
ほがら
)
かな影を投げる。
偶然の産んだ駄洒落
(新字新仮名)
/
九鬼周造
(著)
「ハッハッハ……。まさか——」とわたしも叔父に合せて笑ったが、笑いが消えないうちに
陰鬱
(
いんうつ
)
な気に閉された。
地球儀
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
その
陰鬱
(
いんうつ
)
な体操が済んで休む時でも、片脚で一方の止り木をしっかり握り締めて止りながら、もう一つの脚で、機械的に、その同じ止り木を捜している。
博物誌
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
一週間ばかりの
陰鬱
(
いんうつ
)
な冬の旅に明はすっかり疲れ切っていた。ひどい咳をしつづけ、熱もかなりありそうだった。
菜穂子
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
夜は戸外が真暗で
陰鬱
(
いんうつ
)
なので、炉の火があたたかく輝いている部屋にはいると、心はのびのびとふくらむのだ。
クリスマス
(新字新仮名)
/
ワシントン・アーヴィング
(著)
また病人は病苦に
喘
(
あえ
)
ぐ事を描いた文芸に接する事によって、その病苦を慰む事が出来る。考え様に
依
(
よ
)
れば人生は
陰鬱
(
いんうつ
)
なもの悲惨なものとも見る事が出来る。
俳句への道
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
八つ頃から空は次第に
薄鼠色
(
うすねずみいろ
)
になつて来て、
陰鬱
(
いんうつ
)
な、人の頭を押さへ附けるやうな気分が市中を支配してゐる。
大塩平八郎
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
ぼくを
仇敵視
(
きゅうてきし
)
するのではないだろうか? それとも、彼もここでの無為で
陰鬱
(
いんうつ
)
な日常に退屈して、あんなお芝居じみた暗黙の協定、おたがいの秘密を、内心
煙突
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
ちょうど三月の初めのころであった、この日は大空かき曇り北風強く吹いて、さなきだにさびしいこの町が一段と物さびしい
陰鬱
(
いんうつ
)
な寒そうな光景を呈していた。
忘れえぬ人々
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
道は沼に沿うて、
蛇
(
へび
)
のように
陰鬱
(
いんうつ
)
にうねっていた。その道の上を、生きた
人魂
(
ひとだま
)
のように二人は飛んでいた。
死屍を食う男
(新字新仮名)
/
葉山嘉樹
(著)
中は六疊程、疊も敷いてあり、息拔もありますが、大地の下の
陰鬱
(
いんうつ
)
さと、カビ臭さがムツと鼻を打ちます。
銭形平次捕物控:247 女御用聞き
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
雨はいよいよ
繁
(
しげ
)
く、
悒
(
いぶ
)
せさは二人にとって何か突然な出来事の期待をかけるほど、
陰鬱
(
いんうつ
)
に
陥
(
お
)
ち入らせた。
姫たちばな
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
子供の頃は
痩
(
や
)
せて弱そうな子であった判事が、今では身体の丈夫な、しかし、非常に
寡黙
(
かもく
)
な、むしろ
陰鬱
(
いんうつ
)
に近い性格の人であるということなぞもその一つでした。
棚田裁判長の怪死
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
今でも気をつけて見るとこの伝説は、幾つもの筋から
辿
(
たど
)
って行かれそうに思うが、我々の来世観は本来はそう
陰鬱
(
いんうつ
)
な、また一本調子のものでなかったようである。
海上の道
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
褐色
(
とびいろ
)
の
薔薇
(
ばら
)
の花、
陰鬱
(
いんうつ
)
な
桃花心木
(
たうくわしんぼく
)
の色、
褐色
(
とびいろ
)
の
薔薇
(
ばら
)
の花、免許の快樂、世智、用心、先見、おまへは、ひとの
惡
(
わる
)
さうな眼つきをしてゐる、
僞善
(
ぎぜん
)
の花よ、
無言
(
むごん
)
の花よ。
牧羊神
(旧字旧仮名)
/
上田敏
(著)
いや、その
内
(
うち
)
どちらにしろ、
生
(
い
)
き
殘
(
のこ
)
つた
男
(
をとこ
)
につれ
添
(
そ
)
ひたい、——さうも
喘
(
あへ
)
ぎ
喘
(
あへ
)
ぎ
云
(
い
)
ふのです。わたしはその
時
(
とき
)
猛然
(
まうぜん
)
と、
男
(
をとこ
)
を
殺
(
ころ
)
したい
氣
(
き
)
になりました。(
陰鬱
(
いんうつ
)
なる
興奮
(
こうふん
)
)
藪の中
(旧字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
芳子は
午飯
(
ひるめし
)
も夕飯も食べたくないとて食わない。
陰鬱
(
いんうつ
)
な気が一家に
充
(
み
)
ちた。細君は夫の
機嫌
(
きげん
)
の悪いのと、芳子の煩悶しているのに胸を痛めて、どうしたことかと思った。
蒲団
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
実に
陰鬱
(
いんうつ
)
な、頭の上から何か
引冠
(
ひきかぶ
)
せられているような気のするところだ。土地の人が信心深いというのも、偶然では無いと思う。この町だけに二十何カ処の寺院がある。
千曲川のスケッチ
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
たまに
霽
(
は
)
れたかと思えば
曇
(
くも
)
り、むらにぱらぱらと降って来ては暗くなり、
陰鬱
(
いんうつ
)
なことであった。
幕末維新懐古談:19 上野戦争当時のことなど
(新字新仮名)
/
高村光雲
(著)
火は燃え上がり始めんとしていた。
陰鬱
(
いんうつ
)
な灰色のうちに沈んでいたヨーロッパが、今や火の
飼食
(
えじき
)
となろうとしていた。国民的大戦争はただ偶然の口火を待つのみであった。
ジャン・クリストフ:01 序
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
一方、兄の急死によって
陰鬱
(
いんうつ
)
さを増した赤耀館では、雇人が続々と暇を願い出ました。嫂も百合子も、盛んに慰留しましたが、彼等はどうしても
止
(
とど
)
まろうとは申しません。
赤耀館事件の真相
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
三菱
(
みつびし
)
へ学徒動員で通勤している二人の中学生の
甥
(
おい
)
も、妙に黙り込んで
陰鬱
(
いんうつ
)
な顔つきであった。
壊滅の序曲
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
その翌日の、忘れもしない十四日の朝、それは
時時
(
ときどき
)
うすれ日の射す何となく
陰鬱
(
いんうつ
)
な曇り日だつたが、私は疲れてゐる妹を
宿
(
やど
)
に
殘
(
のこ
)
して一人
當別村
(
たうべつむら
)
のトラピスト修道院へ向つた。
処女作の思い出
(旧字旧仮名)
/
南部修太郎
(著)
貢さんが
覗
(
のぞ
)
いたのは
薄暗
(
うすぐら
)
い
陰鬱
(
いんうつ
)
な世界で、
冷
(
ひや
)
りとつめたい手で撫でる様に
頬
(
ほ
)
に
当
(
あた
)
る空気が
酸
(
す
)
えて
黴臭
(
かびくさ
)
い。一
間程前
(
けんほどまへ
)
に竹と
萱草
(
くわんざう
)
の葉とが
疎
(
まば
)
らに
生
(
は
)
えて、
其奥
(
そのおく
)
は能く見え無かつた。
蓬生
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
(著)
女はその時そこにいるのがもうたまらないと云うようにして
起
(
た
)
ちあがった。
単衣
(
ひとえ
)
の上に
羽織
(
はお
)
った
華美
(
はで
)
なお
召
(
めし
)
の
羽織
(
はおり
)
が
陰鬱
(
いんうつ
)
な
室
(
へや
)
の中に
彩
(
あや
)
をこしらえた。順作はそれに気をとられた。
藍瓶
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
果敢
(
はか
)
ない
煙草入
(
たばこいれ
)
の
叺
(
かます
)
の
中
(
なか
)
を
懸念
(
けねん
)
するやうに
彼
(
かれ
)
は
數次
(
しばしば
)
覗
(
のぞ
)
いた。
陰鬱
(
いんうつ
)
な
狹
(
せま
)
い
小屋
(
こや
)
の
中
(
なか
)
で
覗
(
のぞ
)
く
叺
(
かます
)
の
底
(
そこ
)
は
闇
(
くら
)
かつた。
僅
(
わづ
)
かに
交
(
まじ
)
つた
小
(
ちひ
)
さな
白
(
しろ
)
い
銀貨
(
ぎんくわ
)
が
見
(
み
)
る
度
(
たび
)
に
彼
(
かれ
)
の
心
(
こゝろ
)
に
幾
(
いく
)
らかの
光
(
ひかり
)
を
與
(
あた
)
へた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
陰
常用漢字
中学
部首:⾩
11画
鬱
常用漢字
中学
部首:⾿
29画
“陰鬱”で始まる語句
陰鬱症
陰鬱険峻