附着くッつ)” の例文
こう三人と言うもの附着くッついたのでは、第一わしがこの肥体ずうたいじゃ。お暑さがたまらんわい。衣服きものをお脱ぎなさって。……ささ、それが早い。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
チッバ おれ附着くッついてう、彼奴等きゃつらだんじてくれう。……(ベンヺーリオーらに)諸氏かた/″\機嫌きげんよう。一ごんまうしたうござる。
あなた紋がそっくり附着くッついて居やすが、おやすく何うか廉くお買いなすって下さりア有難てえんですがな、わっちが質屋なんぞに持ってきますと手数が掛っていけませんや
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「斯うして居ないと、附着くッついて了ってよ」、といって皆を笑わせる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
わきの袋戸棚と板床の隅に附着くッつけて、桐の中古ちゅうぶるの本箱が三箇みっつ、どれも揃って、彼方むこう向きに、ふたの方をぴたりと壁に押着おッつけたんです。……
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
買いてえと思っても堪忍してやれと云って半分にして置く、それが倹約のもとだ、それを天地に預けて置けば利が附着くッついて来る、其の時は五めいでも十めいでも一に着られるようになるから
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お妙は扉に附着くッついたなりで、入口を左へ立って、本の包みを抱いたまま、しとやかに会釈をしたが、あえてそれよりは進まなかった。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
久藏ねぶったかえ……あれまア締りのねえ戸だ、叩いてるより開けてへいる方がい、よっぱれえになって仰向あおむけにぶっくりけえってそべっていやアがる、おゝ/\顔にあぶ附着くッついて居るのに痛くねえか
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お信たちのいうのでは、玉子色の絹の手巾ハンケチで顔を隠した、その手巾が、もう附着くッついていて離れないんですって。……帯をしめるのにも。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
婢「そう/\、あゝ知れませんよ、時々さじで出して甜めました事がありましてね、一遍知れたよ、私が口のはた附着くッついていて、少しの間板の間に坐らせられた事が有りましたよ………大層結構な、これは福寿庵の、大層お上手ですこと」
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お三輪も、こわいには二階が恐い、が、そのまま耳のうといのと差対さしむかいじゃなお遣切やりきれなかったか、またたもとが重くなって、附着くッついてあがります。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「堪忍してやれ、神月はもう子爵じゃあない。」といいながら腕組をして外壁に附着くッついたままで居る。柳沢は椅子をずらして
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
境は、今の騒ぎで、取落した洋傘こうもりの、寂しく打倒ぶったおれた形さえ、まだしも娑婆しゃば朋達ともだちのような頼母たのもしさに、附着くッついて腰を掛けた。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちょうどその時、通用門にひったりと附着くッついて、後背うしろむきに立った男が二人居た。一人は、小倉こくらはかまかすり衣服きもの、羽織を着ず。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と云う、煙草よりさきに、蔵造りの暗い方へ、せな附着くッつけ、ずんぐりと小溝を股に挟んで大きくしゃがみ、帽子のうちから、ぎろぎろと四辺あたりを見た。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
われら式、……いや、もうここで結構と、すぐその欄干に附着くッついた板敷へ席を取ると、更紗さらさ座蒲団ざぶとんを、両人に当てがって
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
せいせい呼吸いきを切って駈けまして、それでどうかすると、背後うしろから、そのお客の身体からだが、ぴったり附着くッつきそうになりまする。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
腰附、肩附、歩行あるふりっちて附着くッつけたような不恰好ぶかっこう天窓あたまの工合、どう見ても按摩だね、盲人めくららしい、めんない千鳥よ。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
貴郎あなた油断をしちゃ厭ですよ、と云った——お蔦の方が、その晩毛虫に附着くッつかれた夢を見た。いつも河野のその眉が似ていると思ったから。——
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いた声ですかすがごとく、顔を附着くッつけて云うのを聞いて、お妙は立留まって、おとなしくうなずいたが、(許す。)の態度で、しかも優しかった。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白い身体からだをぴッたり附着くッつけて、突当りのその病室の方をのぞいてね、憂慮きづかわしそうにしているから、声をかけて閉めて貰って
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
次第に因ったら、針もつけず、餌なしに試みていのじゃけれど、それでは余り賢人めかすようで、気咎きとがめがするから、成るべく餌も附着くッつけて釣る。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さわらないで、じっ柔順おとなしくしてさえいれば、元の通りに据直すわりなおって、が明けます。一度なんざ行燈が天井へ附着くッつきました。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一足先へ駈出して、見覚えた、古本屋の戸へ附着くッついたが、店も大戸おおども閉っていた。寒さは寒し、雨は降ったり、町はしんとして何処どこにもの影は見えぬ。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
附着くッつくようにして、床の間の傍正面わきしょうめんにね、丸窓を背負しょって坐っていた、二人、背後うしろが突抜けに階子段はしごだんの大きな穴だ。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あかり無しで、どす暗い壁に附着くッついたくだんの形は、蝦蟆がまの口から吹出すもやが、むらむらとそこで蹲踞うずくまったようで、居合わす人数の姿より、羽織の方が人らしい。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
草鞋を穿いた足のこうへも落ちた上へまたかさなり、並んだわきへまた附着くッついて爪先つまさきも分らなくなった、そうしてきてると思うだけ脈を打って血を吸うような
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黒親仁は俺をおぶって、ざぶざぶとながれを渡って、船に乗った。二人の婦人おんなは、柴に附着くッつけて売られたっけ、毒だ言うて川下へ流されたのがげて来ただね。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
申訳にもと、思いますから、——私も、無理に附着くッつけたらしいかも知れませんが、螢の留ったお話をしたんです。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
店の左手ゆんでに飾った硝子戸がらすどの本箱に附着くッつけて、正面から見えるよう、雑誌、新版、絵草紙、花骨牌はながるたなどを取交ぜてならべた壇の蔭に、ただ一人居たお夏は
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
急な雨の混雑はまたおびただしい。江戸中の人を箱詰はこづめにする体裁ていたらく。不見識なのはもちにでっちられた蠅の形で、窓にも踏台にも、べたべたと手足をあがいて附着くッつく。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
梓の羽織の袖に、まげ摺合すれあうばかり附着くッついて横坐よこずわりになったが、鹿爪しかつめらしく膝に手を置き、近々と顔を差寄せて
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お蔦 でも、たまには一所に連れて出て下さいまし。夫婦いっしょになると気抜きぬけがして、意地もはりもなくなって、ただ附着くッついていたがって、困った田舎嫁でございます。
湯島の境内 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
紙屋は黙って、ふいと離れて、すぐ軒ならびの隣家となりの柱へ、腕で目をおさえるように、帽子ぐるみ附着くッついた。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
足の指に力はないが、気に打たれたか、ひょいと腰、ひょろり板の間の縁が放れて、腰障子へふッと附着くッつく。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
早速さそくに一人が喜助と云う身で、若い妓の袖に附着くッつく、前後あとさきにずらりと六人、列を造って練りはじめたので、あわれ、若い妓の素足の指は、爪紅つまべにが震えて留まる。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はて、何んであろうと、親仁殿おやじどのが固くなって、もう二、三度穿り拡げると、がっくり、うつろになったので、山の腹へ附着くッついて、こうのぞいて見たそうにござる。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その反対の、山裾やますそくぼに当る、石段の左の端に、べたりと附着くッついて、溝鼠どぶねずみ這上はいあがったように、ぼろをはだに、笠もかぶらず、一本杖いっぽんづえの細いのに、しがみつくようにすがった。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ほこりを黄色に、ばっと立てて、擦寄って、附着くッついたが、女房のその洋傘こうもりからのしかかって見越みこし入道。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
怪訝けげんな様子で、チチと鳴き鳴き、其処そこらをのぞくが、その笠木のちょっとした出張でっぱりののどに、頭が附着くッついているのだから、どっちを覗いても、上からでは目に附かない。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
下駄が浮くと、引く手が合って、おなじく三本の手が左へ、さっと流れたのがはじまりで、一列なのが、廻って、くるくるとともえ附着くッついて、開いて、くるりと輪に踊る。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大崩壊おおくずれまで見通しになって、貴女あなたの姿は、蜘蛛巣くものすほども見えませぬ。それをの、透かし透かし、山際に附着くッついて、薄墨引いた草の上を、跫音あしおとを盗んで引返ひっかえしましたげな。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とお言いのなり、三味線を胸に附着くッつけて、フイと暗がりへ附着いて、黒塀をきなさいます。……
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
花は夏咲く、丈一尺ばかり、こずえの処へつぼみを持つのはほかの百合も違いはない。花弁はなびらは六つだ、しべも六つあって、黄色い粉の袋が附着くッついてる。私が聞いたのはそれだけなんだ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
壁際に附着くッつけば、上から蜘蛛くもがすっと下りそうで、天窓あたますくめて、ぐるりと居直る……真中まんなかに据えた座蒲団ざぶとん友染模様ゆうぜんもようが、桔梗ききょうがあってすすきがすらすら、地が萌黄もえぎの薄い処
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黒板塀に附着くッつけて売物という札をってあった、屋台を一個ひとつ、持主の慈悲で負けてもらって、それから小道具を買揃えて、いそいそ俵町にいて帰ると、馴れないことで
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真紅まっかな椿も、濃い霞に包まれた、おぼろも暗いほどの土塀の一処ひとところに、石垣を攀上よじのぼるかと附着くッついて、……つつじ、藤にはまだ早い、——荒庭の中をのぞいている——かすりの筒袖を着た
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
飛騨ひだの山で見た日には、気絶をしないじゃ済むまいけれど、伊勢というだけに、何しろ、電信柱に附着くッつけた、ペンキぬりの広告まで、土佐絵を見るような心持のする国だから
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なまりおもりかとおもう心持、何か木の実ででもあるかしらんと、二三度振ってみたが附着くッついていてそのままには取れないから、何心なく手をやってつかむと、なめらかにひやりと来た。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうすると、あかるくなって、いわ附着くッついた、みんなの形が、顔も衣服きものも蒼黒くなって、あの、おおきまぐろが、巌に附着いておりますようで、打着ぶつかります浪のしぶきが白くかかって見えました。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)