)” の例文
汝等にこそわが魂は、これを己がもとに引くその難所をばゆるにふさはしき力をえんとて、今うや/\くしく嘆願なげくなれ 一二一—一二三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
同日は室堂むろどうより別山をえ、別山の北麓で渓をへだたる一里半ばかりの劍沢を称するところで幕営し、翌十三日午前四時同地を出発しましたが
越中劍岳先登記 (新字新仮名) / 柴崎芳太郎(著)
美貌の源氏が紫を染め出したころの白菊をかむりして、今日は試楽の日にえて細かな手までもおろそかにしない舞振りを見せた。
源氏物語:07 紅葉賀 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「では……」と、息のはずむのを隠して、お綱は弦之丞の側へヒタと寄りついた。もう、羞恥しゅうちというようなものをえた懸命である。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして君の人生の目標であるらしいような冗談をはるかにえていたものだったということを、みとめないではいないだろうよ。
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
そうっと覗き込んでみると、推察の通り、いつの間にか眼を開けている。その眼は私の顔をえて、もっと向うの方を見ている。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
日本にプレスされないのがもう一枚あり、合唱も管弦楽も常識をえて美しく、良いものであったが惜しいことをした。再プレスを待つ。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
そのおほきな體躯からだすこかきかゝりながら、むねから脚部きやくぶまだらゆきびてた。荒繩あらなはかれけてよこ體躯からだえてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その裡に群衆は、ますますえて行った。千人をした群衆が、この橋を上流下流、四五十間の間ぎっしりと詰めかけている。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
たびグレーの講義を聞くものは皆語学の範囲をえてその芸術的妙趣を感得し、露西亜文学の熱心なる信者とならずにはいられなかった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
しかし聖霊の子供たちはいつもかう云ふ人生の上に何か美しいものを残して行つた。何か「永遠にえようとするもの」を。
西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
静かなる前後と枯れ尽したる左右を乗りえて、暗夜やみよを照らす提灯ちょうちんの火のごとく揺れて来る、動いてくる。小野さんは部屋の中を廻り始めた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今日こんにち世界せかい最大さいだいふねながさ二百三十ヤード、すなはちやうにして二ちやうゆるものもある、本船ほんせんごときもその一で、競走レース前部甲板ぜんぶかんぱんから後部甲板こうぶかんぱんへと
大抵は皆成ろう事ならうちに寝ていたい連中れんじゅうであるけれど、それでも善くしたもので、所謂いわゆる決死連の己達おれたちと同じように従軍して、山をえ川を
彼は自分の机を並べる同僚が互いのい立ちや趣味をえて、何一つ与えようともせず、また与えられようともしないと気がついた時に失望した。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかし彼が、作家の内部に儼存げんぞんすることそのことで、形あるもの以上に形があり、時空をえてひろがる可能性をもつたものだといふことができる。
なんらかの事由じゆうのために各自の重荷おもには十貫目をえてはならぬ規定のある場合には、十一貫目以上をになえとはすすめぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しかれども小説中に料理法を点綴てんていするはその一致せざること懐石料理に牛豚の肉を盛るごとし。厨人ちゅうじんの労苦尋常にえて口にするもの味を感ぜざるべし。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
二人で三十分もかかってようやくそれらしいものを探しあてる。下ってまた登り、一小隆起をえて、小高い山の右側を廻り、ちょっとした鞍部に出る。
皇海山紀行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
そもそもかく身分ある者までが、自ら好んで賤民の列に落ちるというのはどういう訳かと申しますと、当時の語に、「一人のまたに入りて万人のこうべえる」
と請ひ問ふ、所謂いはゆる自然に帰るとは何ぞや、人既に世に生れたり、自然と離れたり、自然の上をへて立てり。
もう一つか二つ耕地をえると道を横ぎつて門に屆く位であつた。まあ、まがきは薔薇で一ぱいだこと! しかし何も摘む暇がない。私はあの家に着きたいのだ。
よわいは五十をえたるなるべけれど矍鑠かくしゃくとしてほとんと伏波将軍ふくはしょうぐん気概きがいあり、これより千島ちしまに行かんとなり。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
などと歌ってきかせているのも、単なる昔なつかしの情をえて、我々を教訓しまた考えさせる。火もらいは燧石ひうちいしの普及よりも、もう一つ以前の世相であった。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
農鳥のうとりでもない、大井川をえて赤石あかいしが見えるのかとも思った。後に聞いたら赤石山系の悪沢わるさわ岳であった。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
今日学校へ行って武田たけだ先生へ行くとってとどけたら先生も大へんよろこんだ。もうあと二人足りないけれども定員ていいんえたことにしてけんへは申請書しんせいしょを出したそうだ。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
和女おことも並み並みの婦人おんなに立ちえて心ざまも女々しゅうおじゃらぬから由ない物思いをばなさるまい。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
只管ひたすら写真機械をたづさへ来らざりしをうらむのみ、いよ/\溯ればいよ/\奇にして山石皆凡ならず、右側の奇峰きばうへて俯視ふしすれば、豈図あにはからんや渓間けいかんの一丘上文珠もんじゆ菩薩の危坐きざせるあり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
また三つには、国際生活の緊密化に伴って、政治家もせまい一国の限界をえて、大地域的または国際的な行動力と組織力を得ることが、たいせつな資質となりつつある。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
このためには、現在魯侯よりも勢力をつ季・叔・孟・三かんの力をがねばならぬ。三氏の私城にして百雉ひゃくち(厚さ三じょう、高さ一丈)をえるものにこうせいの三地がある。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
白昼はくちゅうでもまず十キロのあたりでは、空が暗青色あんせいしょくとなり、それからだんだん暗さを増して、暗紫色となり、二十キロをえるころには黒紫色となり、それ以上は黒灰色になって
成層圏飛行と私のメモ (新字新仮名) / 海野十三(著)
庸三はちょっと聞いただけで、新聞をのぞく気にもなれなかった。好いにしろ悪いにしろ、その記事が彼と葉子のあいだに、いずれからもえがたい一線を引いたはずであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
今、たとえば一九三〇年ころに出版されて十万部をえる部数を出した詳細なドイツ現代文学史を開いてみると、そのなかでカフカについて書かれているのはわずか十数行にすぎない。
一つの技法がその技法の限界をえると、その技法はかえってよくならずに死滅してしまうものである。油絵には油絵だけが持つ生命があり表情がありその能力にも限界がそなわっている。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
何もも、ことごとく「損得」の打算、すなわち「有所得」の心持で動かずに、時には打算をえた「無所得」の心持になりたいものです。ほんとうの人間らしい心になりたいものです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
「春まけてかく帰るとも秋風に黄葉もみづる山をざらめや」(巻十九・四一四五)、「夜くだちに寝覚めて居れば河瀬かはせこころもしぬに鳴く千鳥かも」(同・四一四六)という歌があり
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
その隆準りゅうじゅんなるを以ての故に、抽斎は天狗てんぐと呼んでいた。佐藤一斎、古賀侗庵こがとうあんの門人で、学殖儕輩せいはいえ、かつて昌平黌しょうへいこうの舎長となったこともある。当時弘前吏胥りしょ中の識者として聞えていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
私と三枝との関係は、いつしか友情の限界をえ出したように見えた。
燃ゆる頬 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
馬答うらく、我足はやく心驍勇ぎょうゆうで衆人にえた智策あるは汝能く知る、しかるに愚人ら古法通りに我を待遇せぬ故活きいるつもりでないと。掌馬人これを聞いて王に勧め、古法通り智馬を遇せしめた。
二年経つと、貯金が三百円を少しえた。蝶子は芸者時代のことを思い出し、あれはもう全部はろうてくれたんかと種吉に訊くと、「さいな、もう安心しーや、この通りや」と証文出して来て見せた。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
夜寒よさむ白の小屏風ゆとしてつら出す鼠声落ちにけり
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
野を、水を、時間をえて、彼處かしこ
わが見し美は、あにたゞ人の理解さとりゆるのみならんや、我誠に信ずらく、これを悉く樂しむ者その造主つくりぬしの外になしと 一九—二一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
それはかんばしい汗と獰猛どうもうな征服欲との闘いといってもいい。西門慶の予想は、はるかに期待をえていた。不覚にも彼さえつかれはてていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし今ようやく五十一二とすると、昔自分が相見しょうけんの礼をった頃はまだ三十をえたばかりの壮年だったのである。それでも老師は知識であった。
初秋の一日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この点を怠らなければ、訴訟は最初の段階をえて進むことはないということを、十分確実に認めることができます。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
子供の時別れて、五年前母親の臨終りんじゆうとこで、久振りに逢つた父親ですが、それから五年の間の愛育は、世の常の五十年の恩にもえて深いものでした。
即ち女の美醜びしうめるのさへ百分の四以上をえないらしい。しかもこれは前に言つたやうに教育なり趣味なりの程度の似よつた人びとのあひだだけである。
耳目記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
端麗な容貌ようぼうで、普通の美にえた姫君であった。姉君は静かな貴女きじょらしいところが見えて、容貌にも身のとりなしにもすぐれた品のよさのある女王であった。
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
西洞院にしのとういんエタトコロデ、僕ハ彼女ニモウ尾行シテイナイヿヲ知ラセルタメニ電車通リヲ北側ヘ渡ッテ、ワザト彼女ニ見エルヨウニ彼女ヲ追イ越シテ進ンダ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)