“超:こ” の例文
“超:こ”を含む作品の著者(上位)作品数
夏目漱石11
吉川英治10
紫式部6
谷崎潤一郎4
野村胡堂4
“超:こ”を含む作品のジャンル比率
文学 > ドイツ文学 > 小説 物語10.9%
芸術・美術 > スポーツ・体育 > 戸外レクリエーション4.4%
文学 > 日本文学 > 日本文学1.4%
(注)比率=対象の語句にふりがなが振られている作品数÷各ジャンルの合計の作品数
静かなる前後と枯れ尽したる左右を乗りえて、暗夜やみよを照らす提灯ちょうちんの火のごとく揺れて来る、動いてくる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
むかしハンニバルがアルプス山をえる時に、路の真中に当って大きな岩があって、どうしても軍隊が通行上の不便邪魔をする。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
時をえ他の一切のかぎりを超え、己が無窮の中にありて、その心のまゝに己をば諸〻の新しき愛のうちに現はせり —一八
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
三氏の私城にして百雉ひゃくち(厚さ三じょう、高さ一丈)をえるものにこうせいの三地がある。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「死ぬもじょう、生きるも定。——どうせ生死をすならば、俺らの御大将まかせだ。筑前守様にいてこそ行け!」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんな夕も万をえる勤労者大衆が、日比谷で反政府のどよめきをあげ、警視庁の黒いトラックがおほりばたに列をなしていた。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし今ようやく五十一二とすると、昔自分が相見しょうけんの礼をった頃はまだ三十をえたばかりの壮年だったのである。
初秋の一日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
佐藤一斎、古賀侗庵こがとうあんの門人で、学殖儕輩せいはいえ、かつて昌平黌しょうへいこうの舎長となったこともある。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
まるで話に熱中しすぎて度をした、あるいは少なくとも、自分が度を超したということはありうることだ、といわんばかりであった。
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
どうして、かよわい小娘がこんな所を? ……と、あやしみすらえた好奇心に、たれも眼を燃やしたのもむりではない。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と請ひ問ふ、所謂いはゆる自然に帰るとは何ぞや、人既に世に生れたり、自然と離れたり、自然の上をへて立てり。
もうあと二人足りないけれども定員ていいんえたことにしてけんへは申請書しんせいしょを出したそうだ。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
日本にプレスされないのがもう一枚あり、合唱も管弦楽も常識をえて美しく、良いものであったが惜しいことをした。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
そうして習慣にしばられた、かつ習慣を飛びえたなまめかしい葛藤かっとうでもそこに見出したかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
従来親子共に役にいているものがあれば、子は賢くても父にえることはできなかったのがふるい規則だ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
入浴時間は十五分をゆべからずなどと云う布告ふこくめいたものがまだ入口に貼付けてある通りの構造である。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何もも、ことごとく「損得」の打算、すなわち「有所得」の心持で動かずに、時には打算をえた「無所得」の心持になりたいものです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
かくのごとく、彼のす所——目を傳ひてわが心の内に入りたる——よりわが爲す所いで、我は世の常をえて目を日に注げり 五二—五四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
美貌の源氏が紫を染め出したころの白菊をかむりして、今日は試楽の日にえて細かな手までもおろそかにしない舞振りを見せた。
源氏物語:07 紅葉賀 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「その式は全然駄目です。」と私共の背後の聲が附加へた。「私はこの主張を證明する地位にあります。え難い障害がこの結婚にはあります。」
よしやそこに、あるものをえるまでの強い力が結ばれなくても、ふたりの世界、楽しい旅が、お綱にはある。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こう思い直した彼の度胸はたちまち回復した。すでに驚ろきの上をえる事のできた彼の心には、続いて、なに客でも構わないという余裕が生れた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
湯に入らんとするには、頸をえ、足をみて進まざれば、終日側に立ちて待てども道開かぬことあり。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「では……」と、息のはずむのを隠して、お綱は弦之丞の側へヒタと寄りついた。もう、羞恥しゅうちというようなものをえた懸命である。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
歌道や茶の友には、礼儀のほかに、階級をえた心と心の親しいものがある。行祐ぎょうゆうはすこし仰山ぎょうさん手真似てまねで答えた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一つの技法がその技法の限界をえると、その技法はかえってよくならずに死滅してしまうものである。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
今日こんにち世界せかい最大さいだいふねながさ二百三十ヤード、すなはちやうにして二ちやうゆるものもある
「とても、」といふ答だつた。「私はえ難いと云ひました。そして私は熟慮した上で云ふのです。」
わたしたちに最も恐ろしい事実はわたしたちのついにわたしたちをえられないということである。
十本の針 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
馬答うらく、我足はやく心驍勇ぎょうゆうで衆人にえた智策あるは汝能く知る、しかるに愚人ら古法通りに我を待遇せぬ故活きいるつもりでないと。
「あんた、火夫さんですか!」と、まるでそのことがあらゆる期待をえていたようにうれしそうに叫んで、ひじをついてその男をもっと近くながめた。
火夫 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
しかし彼が、作家の内部に儼存げんぞんすることそのことで、形あるもの以上に形があり、時空をえてひろがる可能性をもつたものだといふことができる。
剣山へ行くまでの——この苦難の途中だけが、わずかに楽しい恋の時間だ。自分の恋のゆるされる道のりだ。そしてその恋も、あるものをえてはならない恋。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
などと歌ってきかせているのも、単なる昔なつかしの情をえて、我々を教訓しまた考えさせる。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
荒繩あらなはかれけてよこ體躯からだえてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ただ復古の夢を実顕するためには、まっしぐらに駆けり出そうとするような物を企つる心から、時には師の引いた線をえてらちの外へ飛び出したものもあった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
天禀うまれつきの才能に加えて力学衆にえ、早くから頭角を出した。
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
たびグレーの講義を聞くものは皆語学の範囲をえてその芸術的妙趣を感得し
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
フリーダはこのきっかけをはるかにえて、ここにいてくれとしきりとKに頼むのだった。
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
進むに、死をえしめ、退くに、乱れなきよう、粛たるものを感じさせなければならない。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
下ってまた登り、一小隆起をえて、小高い山の右側を廻り、ちょっとした鞍部に出る。
皇海山紀行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
不断ふだん黒節くろぶしの上を三寸とはえない底に、長いが、うつらうつらとうごいて、見ても奇麗きれいな流れであるのに、今日は底から濁った。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
子供の時別れて、五年前母親の臨終りんじゆうとこで、久振りに逢つた父親ですが、それから五年の間の愛育は、世の常の五十年の恩にもえて深いものでした。
葉子は紹介者の庸太郎も乗りえて、すでにその青年と心持の接触を感じていたらしい折なので、風呂へ入っている庸太郎の方へも何か愛嬌あいきょうを振りまいていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
農鳥のうとりでもない、大井川をえて赤石あかいしが見えるのかとも思った。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
陥穽の周囲にちかかる道義の縄はみだりに飛びゆべからざるを知る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
西洞院にしのとういんエタトコロデ、僕ハ彼女ニモウ尾行シテイナイヿヲ知ラセルタメニ電車通リヲ北側ヘ渡ッテ、ワザト彼女ニ見エルヨウニ彼女ヲ追イ越シテ進ンダ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
また三つには、国際生活の緊密化に伴って、政治家もせまい一国の限界をえて、大地域的または国際的な行動力と組織力を得ることが、たいせつな資質となりつつある。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
一頁五十銭をゆべからず、一ヵ月五十頁を超ゆべからずと申し渡されてある。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうしているとまたつい独身ものの気弱さというようなものにも、襲われがちで、まだ記憶の新しい亡き妻の思い出をえて、ずっとその奥の方にぼやけている亡き愛嬢の面影や
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
これは道義観さええていろいろな未来の夢さえ描くものを心に持っていた。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
即ち女の美醜びしうめるのさへ百分の四以上をえないらしい。
耳目記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
と言い出した。その様子に常にえた親しみの見えるのが薫はうれしくて、
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
強い身体と勇気とはなお頼めるとしても、彼は年五十をえていた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今、たとえば一九三〇年ころに出版されて十万部をえる部数を出した詳細なドイツ現代文学史を開いてみると、そのなかでカフカについて書かれているのはわずか十数行にすぎない。
やがて右へ切れて堤のようなものをだらだらと下りる心持がしたが、それも六七歩をえると、靴を置く土の感じが不断ふだんに戻ったので、また平地ひらちへ出たなと気がついた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私と三枝との関係は、いつしか友情の限界をえ出したように見えた。
燃ゆる頬 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
厨人ちゅうじんの労苦尋常にえて口にするもの味を感ぜざるべし。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
大抵は皆成ろう事ならうちに寝ていたい連中れんじゅうであるけれど、それでも善くしたもので、所謂いわゆる決死連の己達おれたちと同じように従軍して、山をえ川を
夜寒よさむ白の小屏風ゆとしてつら出す鼠声落ちにけり
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
平次も齒を食ひしばります。惡徳と僞善ぎぜんとを憎み拔く名御用聞の血は沸々としてたぎりますが、えることの出來ない階級制度は、十手も捕繩も何うすることも出來なかつたのです。
光琳の梅にいたっては、世界人の審美眼をえたものといえよう。
梅ちらほら (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次は併し、娘の死骸を側に置いて、多勢の前で訊くことは、この程度をえてはならぬことを知つて、八五郎にソツと眼くばせして、もう一度隣りの部屋——娘が殺された四疊半に歸りました。
されば両親も琴女をること掌中しょうちゅうたまのごとく、五人の兄妹達にえてひとりこの寵愛ちょうあいしけるに、琴女九歳の時不幸にして眼疾がんしつを得
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
端麗な容貌ようぼうで、普通の美にえた姫君であった。
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
の四名を引率して登山の途に就き、同日は室堂むろどうより別山をえ、別山の北麓で渓をへだたる一里半ばかりの劍沢を称するところで幕営し、翌十三日午前四時同地を出発しましたが
越中劍岳先登記 (新字新仮名) / 柴崎芳太郎(著)
そもそもかく身分ある者までが、自ら好んで賤民の列に落ちるというのはどういう訳かと申しますと、当時の語に、「一人のまたに入りて万人のこうべえる」ということがありました。
鞍馬くらまのおくをりてから、きょうまでいくたびも生死のさかいをえてきたが、ほんものの刀をとって、てき刃交はまぜするのは竹童きょうがはじめての経験けいけんである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またそれをえた境地が絶大な強さともなるのであった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この人の養母名はおひで、八十をえて今も達者なり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その眼は私の顔をえて、もっと向うの方を見ている。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
二年経つと、貯金が三百円を少しえた。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
年は四十の上を少ししたくらいだろう。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
四日、初めて耕海入道と号する紀州の人と知る。よわいは五十をえたるなるべけれど矍鑠かくしゃくとしてほとんと伏波将軍ふくはしょうぐん気概きがいあり、これより千島ちしまに行かんとなり。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
唯「永遠にえんとするもの」である。
西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
何か「永遠にえようとするもの」を。
西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
伏しておもんみれば関節がゆるんで油気がなくなった老朽の自転車に万里の波濤はとうえて遥々はるばると逢いに来たようなものである、自転車屋には恩給年限がないのか知らんとちょっと不審を起してみる
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
年齢は百歳をもえていよう。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
路幅十間をえて人通多からず、左右はゆかしく住みなせる屋敷ばかりなり、東洋の名士が自転車から落る稽古けいこをすると聞いて英政府が特に土木局に命じてこの道路を作らしめたかどうだかその辺はいまだに判然しないが
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
といって、女王は几帳きちょうを引き寄せて横になるのであったが、平生にえて心細い様子であるために、どんな気持ちがするのかと不安に思召おぼしめして、宮は手をおとらえになって泣く泣く母君を見ておいでになったが
源氏物語:41 御法 (新字新仮名) / 紫式部(著)
妙齢の女性のいる家であるから、出入りする若い男で、自身をよく見られたいと願わぬ人はないのであるが、容貌の美しいのは始終来る蔵人少将、感じのよい貴人らしいえんな姿のあることはこの四位の侍従にえた人もなかった。
源氏物語:46 竹河 (新字新仮名) / 紫式部(著)
のう、忍藻、おこととおれとは一方ならぬえにしで……やがておれが功名して帰ろう日はいつぞとはよう知れぬが、和女おことも並み並みの婦人おんなに立ちえて心ざまも女々しゅうおじゃらぬから由ない物思いをばなさるまい。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
こんなことをお言いになりながらも、姫君たちの人並みをえたりっぱさがお思われになって、宝玉を埋めているような遺憾もお覚えにならぬではなく、源宰相中将という人を、できるなら婿としてみたいが、かれにはそうした心がないらしい
源氏物語:48 椎が本 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「理も技もえたものです。理と考えれば、理念にとらわれ、技と考えれば、体にとらわれる。いったい人間の真体というものは、それ二つしかないものでしょうか。……否とはすぐにお気づきになろう。然らば、理にあらず、技にもあらぬ体は何か」
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
血なまぐさい世は、避けられるだけ避けたい。そこをえなければ、次の世に出られない時だけ乗り超えるのが武士の修羅道だ。それを、あの僧の如きは、持って生れた痼疾こしつのように、時を選ばず、所をきらわず、猛々たけだけしいことのみ吠えておる。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今の教部省が神祇省と言った一つの時代を中間に置いて、以前の神祇局に集まった諸先輩の意気込みを想像するたびに、彼は自分の机を並べる同僚が互いのい立ちや趣味をえて、何一つ与えようともせず、また与えられようともしないと気がついた時に失望した。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
悪きことはさいを見ておのの臆病心おくびょうしんにあるのだから、その温順寡慾かよくなる羊質をもちながら、なおとら驍悍勁厲ぎょうかんけいれいなる質を修めたら、すなわち廉毅忠果れんきちゅうかの性格となりてこれにゆる人格はなかろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
かなりの被告を弁護はするんですが、被告の意志ではどうにもならないし、彼らが弁護しようと思う者たちだけを弁護するんです。だが、彼らが引受ける事件というのは、きっと下級裁判所をえたものにちがいありません。ともかく、彼らのことを考えないほうがよいでしょう。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
つまり多くの人々は、この話は誰にも門番について批判を下す権利を与えていない、と言うんだ。門番がわれわれにとってどう見えようとも、彼は掟に仕える者であり、したがって掟に属し、したがってまた人間の批判をえる。また、門番は男の下位にある、ということも信じてはならない。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
下から成層圏へのぼっていくと、白昼はくちゅうでもまず十キロのあたりでは、空が暗青色あんせいしょくとなり、それからだんだん暗さを増して、暗紫色となり、二十キロをえるころには黒紫色となり、それ以上は黒灰色になって、われわれが普段見ている晴れた夜空と同じようになる。
成層圏飛行と私のメモ (新字新仮名) / 海野十三(著)
或る日の午後、河内介は例の如く石崖の下のさびしい場所へやって来て、木の根に腰をかけながら茫然としていたが、彼の眼は自らその石崖の上にそびえ立つ土塀をえて、鬱蒼うっそうおゝいかぶさっている奥庭の森のこずえに、その梢の間に隠見する建物の屋根に注がれた。
街道は川の岸をうてぐにび、みたところ平坦へいたんな、楽な道であるが、上市から宮滝、国栖、大滝、さこ、柏木を経て、次第に奥吉野の山深く分け入り、吉野川の源流に達して大和と紀井の分水嶺ぶんすいれいえ、ついには熊野うらへ出るのだと云う。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この歌の近くに、「春まけてかく帰るとも秋風に黄葉もみづる山をざらめや」(巻十九・四一四五)、「夜くだちに寝覚めて居れば河瀬かはせこころもしぬに鳴く千鳥かも」(同・四一四六)という歌があり、共に家持の歌であるが、やはり同様の感傷の細みが出来て来ている。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
もっともになっても身体に差支さしつかえなく、またために全体に悪影響あくえいきょうの及ぶうれいがなければ、それも差支さしつかえあるまいけれども、なんらかの事由じゆうのために各自の重荷おもには十貫目をえてはならぬ規定のある場合には、十一貫目以上をになえとはすすめぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しかるに各課担任の教師はその学問の専門家であるがため、専門以外の部門に無識にして無頓着むとんじゃくなるがため、自己研究の題目と他人教授の課業との権衡けんこうを見るの明なきがため、往々おうおうわが範囲以外に飛びえて、わが学問の有効を、他の領域内に侵入してまでも主張しようとする事がある。
作物の批評 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
真を発揮するの結果、美を構わない、善を構わない、荘厳を構わないまではよいが、一歩をえて真のために美を傷つける、善をそこなう、荘厳を踏みつぶすとなっては、真派の人はそれで万歳をあげる気かも知れぬが美党、善党、荘厳党は指をくわえて、ごもっともと屏息へいそくしている訳には行くまいと思います。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)