かたど)” の例文
「その白砂糖をちょんびりと載せたところが、しゅうの子を育てた姥の乳のしたたりをかたどったもので、名物の名物たる名残なごりでござりまする」
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
望みをばこの高き處に響き渡らすべし、汝知る、イエスが、己をいとよく三人みたりに顯はし給ひし毎に、汝のこれをかたどれるを。 三一—三三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
インドの羅刹鬼に翅ありとするは幾分蝙蝠にかたどったるべきも、右に引いた経文で見ると、多分はコルゴに根源すというべし。
七天、七星、七海などにかたどった七つの輪を有し、世の中の出来事はことごとくこれに映して見ることができたといわれる。
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
更に進みて仙童に言はせたる予言のうちに、「今このやつの子をのこせり。八はすなはち八房の八をかたどり。又法華経のまきかずなり。」
アルレスのバジリカ式の寺院をかたどつた、聖トロフイヌスの納骨箱でさへ黄金こがねの響を、微かな哭声こくせいにして発したのである。
クサンチス (新字旧仮名) / アルベール・サマン(著)
あなは、仏体の胎内たいないにでもかたどってあるのか、口はせまく、行くほどに広くなり、四壁には、諸仏、菩薩ぼさつ、十二神将などの像が、りつけられてある。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
恋の重荷を負いながらその重量おもさに耐えかねて、死んで女御にょうごたたったという、山科荘園の幽霊に、かたどり作った仮面である。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
光悦はあゝいふ洒落者だけに、本法寺の門前を流れてゐる水を、その一水いつすいかたどつて、わざとさうしたのだといふ事だ。
河原崎座は天地人にかたどつて、天は天一坊、地は地雷太郎、人は人麿お六であつた。天一坊は当時の河竹新七が小団次のために書卸したものであつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
最初腕調こてしらべとして御覧に入れまするは、露にちょうの狂いをかたどりまして、(花野のあけぼの)。ありゃ来た、よいよいよいさて
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蝋燭は拾八世紀の燈明であったからじゃ、銅鉄製の豆機械というのは、ルイ十六世の錠前道楽をかたどったものじゃ。
あの厭はしいヰッテムベルヒのまちにルッテル、メランクトンの異端邪説を生み出した驕慢と淫樂とをかたどる花か。
欝金草売 (旧字旧仮名) / ルイ・ベルトラン(著)
台は二匹の海蛇をかたどった、糸のようにほそい白金の鎖、全長五十四インチある。重さは正確なことはわからぬが、この偽物にせものと掛けた感じはまったく、同一である。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
間に十二因縁をかたどった十二のはこを置かした。十二の筐の蓋には白いれが取り付けてあり、筐を繋ぎ並べると、一すじの白い道が通っているように見える。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
蛇紋石じゃもんせきを刻み込んだ黄金の屋根に黄金の柱で希臘ギリシャ風の神殿をかたどり、柱の間を分厚いフリント硝子ガラスで張り詰めた奥には、七宝細工の文字板と、指針があって
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
新月形の金に星をかたどったダイヤを加えてる、いやに女々しい趣味のものだった。それにちらと眼を留めた時から、彼の正義観念は反感の色に染められていった。
電車停留場 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
誰だか知らないが白い衣を著たへんな人がうしこく参りをして、私にかたどった人形ひとがたに呪いと共に瞋恚しんいの釘を打ち込んでいるのではあるまいかという妄想に襲われたりした。
西隣塾記 (新字新仮名) / 小山清(著)
回教では新月形を記章とする事あたかも基督キリスト教の十字架のごとくである。これは無論三日月にかたどったものだろうと思われていたが、だんだん調べてみるとそうでない。
話の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
又その四隅には白木の三宝さんぼうを据えて、三宝の上にはもろもろの玉串たまぐしが供えられてあった。壇にのぼる者は五人で、白、黒、青、黄、赤の五色ごしきかたどった浄衣じょうえを着けていた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
乏しい日光にかたどられる幽かな影繪は、あるひは私の頭であつたり、あるひは肩であつたりした。
闇への書 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
もとかたどったもので、わしが、考案したが、如何であろうかな。真中の朱は、太陽のつもりだが、いろいろと考えた末、物は、簡単なのがええと思うて、あれにした」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
皇孫日向の高千穂たかちほの峯に天降あまくだり給ひしにかたどるの心ならんと嘿翁いへり。なほせつありしがはぶく。
子をそだつれども愛に溺れ、ならはせ悪しく愚なる故に、何事も我身をへりくだりて夫に従べし。いにしえの法に女子を産ば三日床の下にふさしむるといへり。是も男は天にたとへ女は地にかたどる。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
トレスタイヨン(訳者注 過激王党の首領の一人)は世に高名となった。オルセー河岸の兵営の正面に太陽をかたどった石の光線のうちには、多頭制に劣らずの箴言しんげんが再び現われた。
奥の方一面谷の底よりい上りし森のくらやみ、測り知らず年を経たるが、下手しもてようようにこずえ低まり行きて、明月の深夜をかたどりたる空のあお色、すみかがやきて散らぼえるも見ゆ。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
一匹の畜生が——その仲間のやつを私は傲然ごうぜんと殺してやったのだ——一匹の畜生が私に——いと高き神のかたちかたどって造られた人間である(2)私に——かくも多くの堪えがたい苦痛を
黒猫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
景彦の姿はにわかにおぼろげになって、遠くかすんで行った。幽微な雰囲気が、そのあたりに棚引たなびいている。ほのかな陽炎かげろうが少しずつ凝集する。物がまたかたどられてゆらめくように感ぜられる。
あたかもかの現実にある物にかたどってでなければ作られ得ぬところの絵に画かれた像のごときものであること、従って少くともこの一般的なもの、すなわち、眼、頭、手、また全部の身体は
氷川なる邸内には、唐破風造からはふづくりの昔をうつせるたちと相並びて、帰朝後起せし三層の煉瓦造れんがづくりあやしきまで目慣れぬ式なるは、この殿の数寄すきにて、独逸に名ある古城の面影おもかげしのびてここにかたどれるなりとぞ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その裏面にはフランネルのような白い毛が、おもての緑と対照するために、密やかにいている、恰度ちょうど一枚の葉で、おもては深淵の空を映し、裏は万年雪をかたどったようである、卵形の白い花が八弁
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
老僧の寺は十丁ほど東にあつて、私の家から其の天臺にかたどつたといふ二重屋根の甍がよく見えるし、老僧の庫裡くりの窓から、私の方のお宮の杉木立や、檜皮葺ひはだぶきの屋根や、棟の千木ちぎまでが見えたりした。
ごりがん (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
というのは中央に神社や鳥居を編み出したものを時折見かけ、これには皆矢が添えてある。魔を射る矢か、勝をかたどる矢か、希願の的に当る矢か、ともかくこれらの意味を有つと考えられぬことはない。
蓑のこと (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
紫苑しをん基督キリスト御最後ごさいごのおんかたどるせつない花。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
かたどれる御姿みすがたなり。5875
須弥しゅみ三十三天をかたどって、その主天とし、以下四天王を一楼一楼に組み、その一つを多聞天たもんてんの閣とよび、多聞櫓たもんやぐらを築き出している。総五重層の楼である。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こいつも大いに謹まなければならない。さて最後に間取りだが、こいつが一番むずかしい。陰陽五行相生相剋、こいつにかたどって仕組まなければならない。
天主閣の音 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
眞志屋の紋は、金澤蒼夫さうふさんのことに從へば、マの字にかたどつたもので、これも亦水戸家の賜ふ所であつたと云ふ。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
古アテネで娼妓を牝鶏と綽名あだなした。これは婉転えんてん反側して男客をつの状にかたどり、またカワセミと称えたは路傍に待ちいて客人を捉うるの手速きに拠ったのだ。
巴里パリーに隠れておられる父君ウラジミル大公……仮名ルセル伯爵の膝下しっかに帰って日本名をかたどったユリエ嬢と名乗り仏蘭西の舞踏と、刺繍と、お料理の稽古を初められた。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
絡み合った二匹の海蛇ショウ・オルムかたどった精巧な白金の鎖に百何十個もちりばめてあるという、評判であった。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
雪は活物いきたるものにあらざれどもへんずるところ活動はたらきの気あるゆゑに、六出りくしゆつしたるかたち陰中いんちゆう或はやうかたど円形まろきかたちしたるもあり。水は極陰ごくいんの物なれども一滴ひとしづくおとす時はかならず円形ゑんけいをなす。
ふじ、あやめ、菊、はす。桜もかえでも桃も、次ぎ次ぎに季節々々の盛りを見せた。寺の周囲を見事、極楽画の一部にかたどり、結構華麗に仕立て上げた。けれども宗右衛門の心は矢張り慰まなかつた。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
そのひたひは尾をもて人を撃つ冷やかなる生物いきものかたどれる多くのたまに輝けり 四—六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
これはたぶん商工業の繁昌を象徴する、例えば西洋の恵比須大黒えびすだいこくとでも云ったような神様の像だろうと想像していたが、近頃ある人から聞くと、あれは男女の労働者をかたどったものだそうである。
鑢屑 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
(2)旧約全書創世記第一章第二十六—二十七節、「神いい給いけるは我儕われらかたどりて我儕のかたちのごとく我儕人を造り……と、神その像のごとくに人を創造つくりたまえり。すなわち神の像の如くに之を造り云々うんぬん
黒猫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
彼らはやはり五色ごしきかたどった浄衣じょうえをつけていた。泰親の姿は白かった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
また魚とならば、御子みこ頭字かしらじかたどりもし
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
しかみなうつくしいをんな姿すがたかたどる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
十二因縁にかたどった十二のひだの頭巾を冠り、柿の篠懸すずかけの古きを纏い、八目やつめ草鞋わらじを足に取り穿き、飴色のおいを背に背負い、金剛杖を突き反らした筋骨逞しい大男。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)