討死うちじに)” の例文
権太夫の長男太郎長俊ながとしと次子次郎長世ながよとは承久しょうきゅうの乱に京方の供をなして討死うちじにし、三子四郎兵衛尉宗俊ひょうえのじょうむねとしは同じ合戦に関東方にくわわった。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
君の御馬前に天晴あつぱれ勇士の名をあらはして討死うちじにすべき武士ものゝふが、何處に二つの命ありて、歌舞優樂の遊にすさめる所存の程こそ知られね。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
「しかし、この魚にとりまかれた肺病院は、この魚の波に攻め続けられている城である。この城の中で、最初に討死うちじにするのは、俺の家内だ。」
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
鎌倉時代、富山城より二十四年おくれて、小さな城が築かれ、天正六年に姉崎和泉守が、水橋城で討死うちじにしてから廃城した——と伝へられてゐる。
念仏の家 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
ましてや、武田たけだ四郎勝頼、伊那丸いなまるの父である。事実、天目山てんもくざん討死うちじにしていなかったとすれば、天下の風雲、さらに逆睹ぎゃくとすべからざることになる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
がかりなくもは、くろかげで、晴天せいてんにむら/\といたとおもふと、颶風はやてだ。貴女あなた。……だれもおばあさんの御馬前ごばぜん討死うちじにする約束やくそくかねいらしい。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
昔の侍の討死うちじになどは大抵たいてい戯曲的或は俳優的衝動の——つまり俗に云ふ芝居気しばゐぎの表はれたものとも見られさうぢやないか?
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
平家の一門同じ枕に討死うちじにツてつた様な幕サ、考へて見りや何の為めに生れて来たんだか、一向いつかう合点がてんが行かねエやうだ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
くつわをならべて、討死うちじにさせなければ、この若松に、いつまで経っても、市民の平和と幸福とは実現しないのであります
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
一心寺に元和げんな往時むかし、天王寺で討死うちじにした本多忠朝たゞともと家来九人を葬つたつかのある事は、誰もがよく知つてゐる筈だ。
私の想像する道筋は六筋、その一は帰順朝貢に伴なう編貫へんかんであります。最も堂々たる同化であります。その二は討死うちじに、その三は自然の子孫断絶であります。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
のち金兵来寇するに及び、所部四百騎もて十余戦せるも、大将王権はまずのがれ、武将戴皐たいこうは来りすくわず、興ついに馬とともに討死うちじにせるを朝廷憫んで廟を建てた。
たとい一日にても家の運命を長くしてなお万一を僥倖ぎょうこうし、いよいよ策つくるに至りて城を枕に討死うちじにするのみ。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
松本藩の家老水野新左衛門みずのしんざえもんという人の討死うちじに、そのほか多数の死傷に加えて浪士側に分捕ぶんどりせられた陣太鼓、鎗、具足、大砲なぞのうわさは高遠藩を沈黙させた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
天界橋てんがいばしより攻め入る大敵を引受け、さんざんに戦われましたのち、大将はじめ一騎のこらず討死うちじにせられたのでございますが、戦さ果てても御遺骸いがいを収める人もなく
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
討死うちじにと覚悟きめて、母のたつた一つの形見の古い古い半襟を恥づかしげもなく掛けて店に出るほど、そんなにも、せつぱつまつて、そこへ須々木乙彦が、あらはれた。
火の鳥 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
惣領のおあにいさまは上野の戦争で討死うちじにをなすったということを聞いたが、お母さんは未だ御存生ごぞんしょうかえ
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
靖国神社やすくにじんじゃ神殿しんでんまえへひざまずいて、清作せいさくさんは、ひくあたまをたれたときには、すでに討死うちじにして護国ごこく英霊えいれいとなった、戦友せんゆう気高けだか面影おもかげがありありと眼前がんぜんにうかんできて
村へ帰った傷兵 (新字新仮名) / 小川未明(著)
良人は宇都宮うつのみやからだんだん函館はこだてまでまいり、父は行くえがわからなくなり、弟は上野で討死うちじにをいたして、その家族も失踪なくなってしまいますし、舅もとうとう病死をしましてね
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
貞奴に惜しむのは功なり名遂げてという念をおこさずに、何処までも芸術と討死うちじにの覚悟のなかった事である。努力が足りなかったと思う。わたしのいう努力とは、勢力運動のことではない。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「森蘭丸? 森蘭丸というのは、織田信長の家来けらいでしょう。そして、明智光秀が本能寺に夜討ようちをかけたとき、槍をもって奮戦し、そして、信長と一緒に討死うちじにした小姓こしょうかなんかのことでしょう」
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
……それから少時は敵味方が舞台で混乱をきはめて幕になつたが、倒れて居るわたしがそのまゝ起上らないので、男衆はじめ道具かたが駈けよつて見ると討死うちじにをした死骸は鼾を立てゝ眠つて居た。……
(新字旧仮名) / 喜多村緑郎(著)
その許しもないのに死んでは、それは犬死いぬじにである。武士は名聞みょうもんが大切だから、犬死はしない。敵陣に飛び込んで討死うちじにをするのは立派ではあるが、軍令にそむいて抜駈ぬけがけをして死んでは功にはならない。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
と内藤さんは昔なら君公のご馬前で討死うちじにをする覚悟かくごがある。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
掃部殿も討死うちじにありしなり。
討取うちとりなほ三の柵片原町なる大學だいがく持場迄もちばまで此勢このいきほひにくづれんとする處へ本城より加勢かせいとして木村長門守重成きむらながとのかみしげなり後藤ごとう又兵衞基次もとつぐ秀頼公のおほせに隨ひ繰出くりいだしたりとよみて彦兵衞莞爾につこわらひながら是よりは佐竹樣大負おほまけと成て御家老衆ごからうしう討死うちじに致され佐竹左中將義宣公よしのぶこうも危い處へ佐竹六郎殿駈付かけつけて討死致されたればこそ佐竹樣危き命を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
本三位の卿の擒となりて京鎌倉に恥をさらせしこと、君には口惜しう見え給ふほどならば、何とて無官の大夫が健氣けなげなる討死うちじにを譽とは思ひ給はぬ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
このへんに討死うちじにしているやつらは、おおかた滝川一益たきがわかずますの家来で、ツイきのうまでは、桑名城くわなじょうでぜいたく三昧ざんまいなくらしをしていた者ばかりだからな。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このとき神通じんづうあらはして、討死うちじに窮地きうちすくつたのが、先生せんせい紹介状せうかいじやう威徳ゐとくで、したがつて金色夜叉夫人こんじきやしやふじんなさけであつた。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
天界橋てんがいばしより攻め入る大敵を引受け、さんざんに戦はれましたのち、大将はじめ一騎のこらず討死うちじにせられたのでございますが、戦さ果てても御遺骸いがいを収める人もなく
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
討死うちじにと覚悟きめて、母のたった一つの形見の古い古い半襟を恥ずかしげもなく掛けて店に出るほど、そんなにも、せっぱつまって、そこへ須々木乙彦が、あらわれた。
火の鳥 (新字新仮名) / 太宰治(著)
近世の武人などは、主君長上に対して不満のある場合に、無謀に生命をかろんじ死を急ぎ、さらば討死うちじにをして殿様に御損を掛け申すべしと、いったような話が多かった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「まあ、おとっさん。わたしに言わせると、浪士も若いものばかりでしたら、京都まで行こうとしますまい。水戸の城下の方で討死うちじにの覚悟をするだろうと思いますね。」
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
姿なりの拵えが野暮でござえます、お屋敷さんで殿様が逝去おかくれになって仕舞ったので、何でも許嫁いいなずけの殿様が戦争いくさ討死うちじにをして、それから貞操みさおを立てるに髪を切ろうと云うのを
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その口吻こうふんにいわく、「貧は士の常、尽忠報国」またいわく、「その食をむ者はその事に死す」などと、たいそうらしく言い触らし、すはといわば今にも討死うちじにせん勢いにて
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
もう夢のようになりましてそのからだを抱いているうちに、着いたのが良人が討死うちじに電報しらせでした
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「困るのなら、私の方が誰よりも困っています。しかしどうしても、これで行けるところまで行くよりほかはない。そう思って、私はこのごろ八犬伝と討死うちじにの覚悟をしました。」
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
旦那様だんなさまが鹿児島の戦争で討死うちじにをなされた後は、賃機ちんはた織つて一人の御子息を教育なされたのが、愈々いよ/\学校卒業と云ふ時に肺結核で御亡おなくなり、——大和君のいへと越後の豪農です
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
いたずらに最後の決戦をいそいで、千や二千の小勢こぜいをもって、東海道とうかいどうめのぼったとて、とちゅうの出城でじろ関所せきしょでむなしく討死うちじにするのほかはない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、結構ですとも。恋で死ぬ、本望です。この太平の世に生れて、戦場で討死うちじにをする機会がなけりゃ、おなじ畳の上で死ぬものを、こがれじにが洒落しゃれています。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おまけに相手は防長征討軍のにがい経験をなめ、いったん討死うちじにの覚悟までした討幕の急先鋒きゅうせんぽうだ。このしり押しには、英国公使パアクスのようなロセスの激しい競争者もある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
古来日本にて討死うちじにせし者も多く切腹せし者も多し、いずれも忠臣義士とて評判は高しといえども、その身を棄てたる所以を尋ぬるに、多くは両主政権を争うの師に関係する者か
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
小国より登る山口にも八幡太郎はちまんたろう家来けらい討死うちじにしたるを埋めたりという塚三つばかりあり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
千々岩安彦はみなしごなりき。父は鹿児島かごしまの藩士にて、維新の戦争に討死うちじにし、母は安彦が六歳の夏そのころ霍乱かくらんと言いけるコレラにたおれ、六歳の孤児は叔母おば——父の妹の手に引き取られぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
なあに君、虎が三匹枕を並べて討死うちじにしたまでの話さ。……
三つの挿話 (新字旧仮名) / 神西清(著)
もしやがて、織田軍が伊丹城へせかけて来たおりに自分が討死うちじにしたら、その約束は元よりないものとしてどこへなりと、お菊どのの好きな家へ嫁ぐがいい。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むかしから、落人おちうど七騎しちき相場さうばきまつたが、これは大國たいこく討手うつてである。五十萬石ごじふまんごくたゝかふに、きりもちひとつはなさけない。が、討死うちじに覺悟かくごもせずに、血氣けつきまかせて馳向はせむかつた。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ヨナタンのペリシテ人と戦ふて討死うちじにせし処
郷党の知己、縁者、誰の兄、誰の弟と、思い出さるる幾多の面々は、どこに戦い、どこに討死うちじにしたろうか。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これ、佐藤次信さとうつぎのぶ忠信たゞのぶ兄弟きやうだいつま二人ふたりみやこにて討死うちじにせしのち、はゝ泣悲なきかなしむがいとしさに、をつと姿すがたをまなび、ひたるひとなぐさめたる、やさしきこゝろをあはれがりてときひと木像もくざうきざみしものなりといふ。
甲冑堂 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)