ひも)” の例文
友染いうぜんきれに、白羽二重しろはぶたへうらをかさねて、むらさきひもくちかゞつた、衣絵きぬゑさんが手縫てぬい服紗袋ふくさぶくろつゝんで、そのおくつた、しろかゞや小鍋こなべである。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
室内に張られたひもには簡単着の類が乱雑に掛けられ(島民は衣類をしまわないで、ありったけだらしなく干物ほしもののように引掛けておく)
ネネムのすぐ前に三本の竿さおが立ってその上に細長いひものようなぼろ切れが沢山たくさん結び付けられ、風にパタパタパタパタ鳴っていました。
ひもも、紙鳶に相応ふさはしい太いいとだし、それがかれてあるわくも、子供では両手で抱へてゐなければならぬ程、大きな立派なものである。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
羽織のひもの長きをはづし、ゆわひつけにくるくると見とむなき間に合せをして、これならばと踏試ふみこころむるに、歩きにくき事言ふばかりなく
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その太鼓を、梁にかけた下締したじめの下へ置いて、そうして身繕みづくろいをして、そのひもへ両手をかけた時には、なにかしら涙があふれて来ました。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
甲斐の唇が一本のひものようにひき緊り、額に深く皺が刻まれた。甲斐はそれをひらき、書かれてある文言と、二人の署名を入念に見た。
本堂はそばに五重の塔を控えて、普通ありふれた仏閣よりもさびがあった。ひさし最中まんなかからさがっている白いひもなどはいかにも閑静に見えた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
女等をんならみな少時しばし休憩時間きうけいじかんにもあせぬぐふにはかさをとつて地上ちじやうく。ひとつにはひもよごれるのをいとうて屹度きつとさかさにしてうらせるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
窓のひもを引いて厚い黒繻子くろしゅすのカーテンを閉め、部屋を暗室にすると、幻燈内の電燈を点火し、靴箆を器械に挿入して、ピントを合せた。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そのために、結びひもがとけ、紙片が飛び散り、従僕たちはすべてをふたたび整理するために大いに骨を折らなければならなかった。
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
御客様は茶の平打ひらうちひもを結んで、火鉢の前にべたりと坐って御覧なさいました。急に、ついと立ってまたその御羽織を脱ぎ捨てながら
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
とあやしまれたがのちによく見れば、独楽こま金輪かなわの一たんに、ほそい金環きんかんがついていて、その金環から数丈すうじょうひも心棒しんぼうにまいてあるのだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不在のときには、きわめて巧妙に、細枝でつくったひもでしっかりとドアの取っ手をしばりつけ、鎧戸よろいどには心張棒がかってあった。
ただわら製のツグラだけにしか残っていないが、以前は埴土はにつちひもをぐるぐると輪に重ねて行って、すべての円い器物を造っていた。
和州地名談 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ただその式で姫君が袴のひもを互いちがいに襷形たすきがたに胸へ掛けて結んだ姿がいっそうかわいく見えたことを言っておかねばならない。
源氏物語:19 薄雲 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と、今まで気がかなかった天井から垂れている青いワナになったひもが、ちらと眼にくとともにそれがふわりと首にまつわった。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
なおも部屋の中を探した平次は、机の抽斗ひきだしから、綺麗に重ねて半紙に包んで、ひもまでかけた手紙を二十四本も見つけ出しました。
その一つを拾った万平は、向うの壁に干してある、誰かの越中褌えっちゅうふんどしで包んでシッカリとひもゆわえて、大切そうに袖の間へシッカリと抱えた。
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
おやそさんが、漬物桶つけものおけと同居して死んだ時、十本の指に十本、手首にも結びつけていたひもがある。その紐はみんな寐床の下から出ていた。
インディアンは屋根にうがった穴の上にかけられひもで動かすことのできる筵によって風の具合を調節する程度まで進歩していた。
多少あかになった薩摩絣さつまがすりの着物を着て、観世撚かんぜよりの羽織ひもにも、きちんとはいたはかまにも、その人の気質が明らかに書きしるしてあるようだった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彼は、一枚二枚脱いでいって、そいつを丁寧ていねいに草の上でたたむ。靴のひもを結び合わせ、それをまた、いつまでもかかってほどく。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
斯くて鳥の地に落ちたる時は、捕鳥者は直ちに其塲にけ獲物をおさひもくなり。石鏃とちがひて此道具は幾度にても用ゐる事を得。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
無論むろんうしてひもつながれているのは、まだ絶息ぜっそくらないときで、最後さいごひもれたときが、それがいよいよそのひとんだときでございます。
急いで自分のへやに上がって行き、旅行用のフロックと首にかけていた黒いひもとを脱ぐが早いか、すぐに水泳場へ出かけて行った。
黒いはかまに白い上衣うわぎをきて、ひもを大きく胸のあたりにむすんだのが、歩くたびにゆらりゆらりとゆれる。右腕に古びたつぼを一つ抱えている。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
ところが、片足が凧のひもにひっかかっていました。凧の四隅よすみや中程についてる紐が一つにまとめてあるその真中に、足をふみこんだのです。
椎の木 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
使ってたよ。そうすると昼のように明るかった。こっちでもそうするといい。一つで家じゅう明るくならあ。そして長いひもで八方へ引張るさ
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
上州じょうしゅう伊香保千明いかほちぎらの三階の障子しょうじ開きて、夕景色ゆうげしきをながむる婦人。年は十八九。品よき丸髷まげに結いて、草色のひもつけし小紋縮緬こもんちりめん被布ひふを着たり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
つまり佐渡ヶ島は、「工」の字をさかさにしたような形で、二つの並行した山脈地帯を低い平野がひもで細く結んでいるような状態なのである。
佐渡 (新字新仮名) / 太宰治(著)
画きたい画きたいと、一度は三脚のひもを解いたが、帰り道の崖崩れを思うと、何となく急き立てられるようで、終に筆を採らずにしまった。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
と、挨拶すると、老人は、信祝が合図のひもを引いて、鈴を鳴らすのも待たないで、ふすまをあけた。一間ひとまへだたった所にいた侍が、周章あわてて立つと
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
間もなく私は瀬戸物屋を暇取って、道修どしょう町の薬種問屋に奉公しました。瀬戸物町では白いひもの前掛けだったが、道修町では茶色の紐でした。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
岸の叢の中には、それを着もののひもにつけると物を忘れることができるという萱草わすれぐさも生えていたが、翁はそれも摘まなかった。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
庸三は少しうとうとしかけたところだったが、目をあげて見ると、彼女は青いペイパアにくるんでひもで結わえたはこ枕元まくらもとへ持ち込んで来て
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
K横町のとっつきの片隅に、夫婦づれの町人がテーブルを二つ並べ、糸だの、ひもだの、更紗さらさ頭巾ずきんだの、そういった風の雑貨を商っていた。
蒲団が重たさうだと思へば軽い蒲団に替へてやるとか、あるいは蒲団にひもをつけて上へ釣り上げるとかいふやうなことをする。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
その頃お兄様は絵をお書きになったので、その笠には墨で蘭が画いてありました。赤い切で縫った太いひもが附いていて、あごで結ぶのでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
あけて内より白木しらきはこ黒塗くろぬりの箱とを取出し伊賀亮がまへへ差出す時に伊賀亮は天一坊に默禮もくれいうや/\しくくだんはこひもとき中より御墨附おんすみつきと御短刀たんたうとを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
おのが至高の職をも緇衣の分をもおもはず、また帶ぶるものいたく瘠するを常とせしひものわが身にあるをも思はず 九一—九三
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
それから枕許まくらもとから携帯電灯けいたいでんとうと水兵ナイフをとって、ナイフは、そのひもを首にかけた。そして足ばやにこの部屋をでていった。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「あの、電車の切符を置いてってくださいな」靴のひもを結び終わった夫に帽子を渡しながら、信子は弱よわしい声を出した。
雪後 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
顔じゅうのひもをといて、あけっぱなしで笑っているのがその証拠だが、このポスターは、いまでは見たくないものの一つだ。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
しばらくひもでつないでおこうかと言っていたが、連れて来た人がそれはかわいそうだからどうか縛らないでくれというのでよしたそうである。
ねずみと猫 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
小さいおもりのついたひもが、この島からおろされると、下にいる人民は、それに手紙をくゝりつけます。そして、紐はすぐまたり上げられます。
秋の小鳥の中でも百舌が高音を張り上げて鋭い声で鳴く、その声は堪忍袋のひもをきらしたような鳴きようだというのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
しかしそのうしろに立てた六枚屏風ろくまいびょうぶすそからは、ひもたばねた西洋の新聞か雑誌のようなものの片端かたはしが見えたので、私はそっと首を延して差覗さしのぞくと
彰義隊はきっと直立して両手をはかまのひもの間にはさみ、おそろしく大きな声でどなった。会衆はわっとわらいだしたがすぐしずかになった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
そしてかごの上に結んである緋縮緬ひぢりめんのくけひもをひねくりながら、「こんなひもなぞつけて来るからなおいけない、露見のもとだ、何よりの証拠だ」
あの時分 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)