突然いきなり)” の例文
そこまでがほんとの話で、突然いきなり、まつはつらいとみなおしゃんすけれどもなア——とケロケロとうたいだすのだった。そして小首をかしげて
停車場ステエションうしろは、突然いきなり荒寺の裏へ入った形で、ぷんと身にみるの葉のにおい、鳥の羽ででられるように、さらさらと——袖が鳴った。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして果せる哉、本統ほんとうに伊勢鰕のように真赤な顔になった。乃公おれは困ったと思うと、富田さんが突然いきなり乃公の手を捉えたのには喫驚びっくりした。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それから、彼は窓の障子をあけて、土蜘蛛の押絵をあちこちから眺めすかしていたが、突然いきなり背伸びをして、右眼の膜を剥ぎ取った。
後光殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
と云いながら、突然いきなり國藏のむなぐらを取って、奥座敷の小間へ引摺り込みましたが、此の跡はどう相成りましょうか、明晩申し上げます。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と言ふより早く、智恵子の手は突然いきなり男の肩に捉つた。強烈はげしい感動が、女の全身に溢れた。強く/\其顔を男の二の腕にこすり付けて
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
先刻さっき突然いきなり這入ッて来て、今朝慈母おッかさんがこうこう言ッたがどうしようと相談するから、それから昨夜ゆうべ慈母さんが言た通りに……」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「——切下げ髪にして、黒いはかま穿いてネ。突然いきなり入って来たかと思うと、説教を始めました。恐しい権幕けんまくでお雪を責めて行きましたッけ」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「どうしてって、本堂で和尚おしょうさんと御経を上げてると、突然いきなりあの女が飛び込んで来て——ウフフフフ。どうしても狂印きじるしだね」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると美留藻は乱暴にも、突然いきなり馬を紅矢に乗りかけて、逃げる間もなく踏みにじり蹴散らして、大怪我をさせてしまいました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
小柄こがらぢいさんは突然いきなりたゝみくちをつけてすう/\と呼吸いきもつかずにさけすゝつてそれからつよせきをして、ざら/\につたくちほこり手拭てぬぐひでこすつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ビアトレスは軽く会釈をして、手をかけた把手ハンドルを廻しながら、扉を開けた瞬間、背後うしろに立っていた給仕が突然いきなり躍りかかった。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
その当時の事だから、祖父おじいさんも腰に刀をしていたので、突然いきなりにひらりと引抜ひきぬいて、背後うしろから「待てッ」と声をかけた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彦は何かぶつぶつ口の中で呟きながら表の板戸をてようとしていた時、その彦兵衛の足をすくわん許りに突然いきなり一匹の大きな四つ足が飛び込んで来た。
お浪は呆れ且つ案ずるに、のつそり少しも頓着せず朝食あさめし終ふて立上り、突然いきなり衣物を脱ぎ捨てゝ股引腹掛つけにかゝるを、飛んでも無い事何処へ行かるゝ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
家近くの露地で相島は突然いきなり雪の上にすべつた。彼れは元氣よく起き上つて手袋を脱いで腰の雪を拂ひかけた途端
半日 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
半死半生になっていたのですって。可哀相に、何でも突然いきなり、後ろから来て縛られちゃったので、どんな奴にやられたのか少しも分からないというのです。
ニッケルの文鎮 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
それを倒れていた小虎がそっと取った。抜くや、突然いきなり、お鉄の横腹へ突立てた。お鉄の悲鳴は唯一声であった。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
息も出来ないで夢中に木立を抜けた私は縁側から座敷へ馳け上ると突然いきなり端近に坐っていた母のふところにひしとすがって声も惜しまずに泣いた。涙が尽きるまで泣いた。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
琢次が起きて帰った後で、宵から薬師堂で通夜をしていた隣村の男が、朝になって帰って見ると寝床があったので突然いきなりその中にもぐり込んで寝たところであった。
不動像の行方 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼等は寄ってたかって無礼な振舞に及ぼうとする時に、妙詮寺みょうせんじの角から突然いきなり飛び出して来た強そうな男。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
来たのは工事専用の汽車で、それがまだ普請中ふしんちゆうのステーションの側でとまると、屈強な機関手と其見習が機関車を飛降りて、突然いきなり飯屋へ駈付ける。ほかの連中も其例にならふ。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
ながかく突然いきなり御尋問おたづね申せば御不審ごふしん御道理ごもつともなれど私しは彦兵衞がせがれにて當年たうねん十五歳に相成一人のはゝ御座ござところ彦兵衞御仕置おしおきに成しと聞て打驚うちおどろもとより正直なる父彦兵衞人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そして読み終るとすぐさま手紙を懐中へねじ込んで、まるで蹴飛ばされたように急いで雪駄をつっかけると突然いきなり駈け出した。寺の門のところでちょっと振りかえって見た。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
せんの人が死んだのはわたしが攻殺したやうなものだと言つたり、こんどはわたしが殺される番だと言つたりして、突然いきなり蒲団の上に坐り直つて泣出したりするんださうです。
来訪者 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
貞之進の肚裡はらのうちは一層二層三層倍に沸返にえかえって、突然いきなりその手紙を取って丸め、丸めたのを噛んで前なる川へほうり込み、現在封を破った上で、持って帰ればいゝとはどこがいゝ
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
「インデアナの美貌の寡婦」が、例の広告へ「応募」した一人に過ぎない、一面識もないアンドルウ・ヘルグラインへ、かれの照会に対して突然いきなりこんな手紙を寄越したのだ。
斧を持った夫人の像 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
突然いきなり叫び声が響いて来た。内陣の奥から響いたのである。ザワザワと群集はざわめき出した。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
昨日きのふの朝東京を立つて、晩は京都へ着き、祇園ぎをんの宿に一泊して、今日の正午過ひるすぎには、大阪の停車場ステーシヨンの薄暗い待合室で、手荷物を一あづけにしやうとしてゐるところを、突然いきなり背後うしろから
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
と声をかけながら、気付を呑ませるとようよう息を吹き返したと思えば突然いきなり
月世界競争探検 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
恰度その時、彼等のかたわらを空車が二三台通りかかりました。と、見るや、突然いきなり彼女はその一つを止めて、急いで扉を開けました。その敏捷すばやさに男は面喰って彼女を止める暇がありませんでした。
耳香水 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
すると浜野はあつけに取られたやうに私の顔を視詰めましたが、突然いきなり
嘆きの孔雀 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
ある時、高等小学の修身科で彼は熱心に忍耐を説いて居たら、生徒の一人がつか/\立って来て、教師用の指杖さしづえを取ると、突然いきなりはげしく先生たる彼のせなかなぐった。彼はしずかに顧みて何をると問うた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
けれども亜米利加アメリカ人が往来を歩いた靴のまま颯々さっさつあがるから此方こっちも麻裏草履でその上にあがった。上ると突然いきなり酒が出る。徳利の口を明けると恐ろしい音がして、ず変な事だと思うたのはシャンパンだ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
義男は突然いきなり、手の傍にあつた煙草盆をみのるに投げ付けた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
すると、仕事師の一人が、突然いきなり、私を突き飛ばして
彼は盃をあげて突然いきなり
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
じれったいから突然いきなり肩に手を懸けると、その女中は苦しくッてか、袷もとおすような汗びっしょり、ぶるぶる震えているんでしょう。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし海岸は遠浅で、岩角が沢山有りますから思うように舟が出ませぬ。是幸いに文治は突然いきなり海へ飛込み、カノーの小縁こべりに取付きました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
渠は突然いきなり其硝子戸を開けて、腰を屈めて白木綿を潜つたが、左の肩を上げた其影法師が、二分間許りも明瞭くつきり垂帛カーテンに映つて居た。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「さあ、此方こっちへお入りなさい。遠慮しないでね、家にいる積りで何でもしてお遊びなさい」と云ったから、乃公は突然いきなり鯱鉾立しゃちほこだちをしてやった。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
が、空しく戻って来ると、法水に鋭く訊ねた。すると、法水は突然いきなり窓際へ歩み寄って行き、そこから窓越しに、前方の噴泉を指差して云った。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
こうえたって、と云って、だらりと首を垂れてしまうかと思うと、突然いきなり思い出したように、人間だいと大きな声を出す。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もうもうこらえきれないという御様子で、突然いきなり、奉書を鷲掴わしづかみにして、寸断々々ずたずたに引裂いて了いました。啜泣すすりなきの涙は男らしい御顔を流れましたのです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
白いあごえりへうずめて、侍は上眼使いにびを送る。いやな野郎だな、と思うと、文次はかあっとなった。そして突然いきなりそこにあるからの鎧櫃を指さした。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
神保町じんぼうちょうの停留場で我々は降りた。その辺の迷路にも似た小路こじを、あちこちと二三丁歩いて、ある建物の前に来た時に、彼は立止って突然いきなりその呼鈴ベルを押した。
真珠塔の秘密 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
それをお浪が知っていようはずは無いが、雁坂を越えて云々しかじかと云いあてられたので、突然いきなりするどい矢を胸の真正中まっただなか射込いこまれたような気がして驚いたのである。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しろにはとりはおしなあしもとへちよろ/\とけてなにさうにけろつと見上みあげた。おしな平常いつものやうににはとりなどかまつてはられなかつた。おしな戸口とぐち天秤てんびんおろして突然いきなり
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
にらめば後家ごけお深はこらへず悴惣内を押伏せ打擲ちやうちやくなせば源藏は堪り兼逃出す所を九助が親より召使ひの三五郎飛で出突然いきなり襟髮えりがみつかんで捻倒ねぢたふしコリヤヽイ源藏汝はよくも/\己が旦那を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
お千代も先刻から聞くともなしに耳をすましていたと見え、突然いきなり慶三の横腹を軽く突いて
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)