眉間みけん)” の例文
三木はよろよろ立ちあがって、こんどは真正面から、助七の眉間みけんをめがけ、ずどんと自分の頭をぶっつけてやった。大勢は、決した。
火の鳥 (新字新仮名) / 太宰治(著)
見違えるほど痩せ細って、頬骨ほおぼねとがり、目は青隈あおぐまをとったよう、眉間みけんにも血、腕にも血、足にも血……。ふた目とみられぬ姿である。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつも穏やかな、微笑を含んでいるような唇が曲り、眉間みけんにするどいしわが立ち、両頬の肉が切りそがれたように落ちくぼんでみえた。
刀は、惣七の額部ひたいをかすめて、むかし女のことで惣七が眉間みけんに受けた傷のうえにもう一つ傷を重ねて、血が流れたのを、お高は見た。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
苦労の中にもたすくる神の結びたまいし縁なれや嬉しきなさけたねを宿して帯の祝い芽出度めでたくびし眉間みけんたちましわなみたちて騒がしき鳥羽とば伏見ふしみの戦争。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
(男達、女達、銘々に石を投げる。女悲しげに歌いながら、石に打たれていたが、それが一つ眉間みけんに当るとくずれるように倒れてしまう)
世評(一幕二場):A morality (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「で、どこを目掛けましょう?」「人間の急所はまず眉間みけんだ。眉間を目掛けて投げてこい」「それじゃ思いきって投げますべえ」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
烏帽子のふち金で辛うじて眉間みけんに迫った切先をうけとめたものの、しかし頭から吹き出る血は早くも顔に流れ、浅黄の紋服に沁みわたった。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
力持のおせいさんはこれに励まされて、持っていた莚をほうり出し、素手すでになって、登り来る折助ばら鼻向はなむき眉間みけん真向まっこうを突き落し撲り落す。
何処どこかへ発散して行くと同時に、壁画は、一層、白昼の大胆な凜々りりしさとなまめきとの魅惑を拡大して、宗右衛門の眉間みけんに迫つて来たのであつた。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
するついに春琴は「阿呆あほう」と云いさまばちをもってった弾みに眉間みけんの皮を破ったので利太郎は「あ痛」と悲鳴を挙げたが
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
辰つアんは、さう言つて、急に、例の眉間みけんの瘤の周圍に、恐ろしい狂暴性きやうぼうせいを浮ばせ、おきみと周三へ言ひかゝつて來た。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
黙つて此様を見て居た忠志君の顔には、胸にある不愉快な思が、自づと現れて来るのか、何様渋いくもが漲ツて、眉間みけんの肉が時々ピリ/\と動いた。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「ふん」と言った数馬の眉間みけんには、深いしわが刻まれた。「よいわ。討死するまでのことじゃ」こう言い放って、数馬はついと起ってやかたを下がった。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
仁右衛門は右手に隠して持っていたおの眉間みけんを喰らわそうと思っていたが、どうしてもそれが出来なかった。彼れはまた馬をいて小屋に帰った。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
が、その眉間みけん白毫びゃくごう青紺色せいこんしょくの目を知っているものには確かに祇園精舎ぎおんしょうじゃにいる釈迦如来しゃかにょらいに違いなかったからである。
尼提 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お〆さんにも多少の感慨はあるか、金の義歯いればのチラリと光る歯で、四分一の細い吸口すいくちをくわえたまま、眉間みけんにたてしわを二本よせて、伏目になっていた。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
たま/\學校から歸つて來て見ると、老爺さんは鏡に向つて眉間みけんこぶを氣にして居ます。なんでも其瘤は非常に大きなニキビの塊だといふことでした。
ただベロヴゾーロフだけは、眉間みけんに八の字を寄せて腹立たしげな様子で、だんだんすみっこへ引っ込みがちになった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
視線は毒矢のごとくくうつらぬいて、会釈えしゃくもなく余が眉間みけんに落ちる。はっと思う間に、小女郎が、またはたと襖を立て切った。あとは至極しごく呑気のんきな春となる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
平和は体つきは母親似で、たいへん大柄ですが、顔はおやじ似で、むっとした表情で眉間みけんかげをたたえています。
凡人凡語 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
眉間みけんの傷に名代を誇る主水之介の家門家格は、実に又江戸徳川名代を誇るそのお影組百騎の中の一騎なのでした。
不意に組まれて、彼もうろたえたらしかったが、ふところに持っていた一本のさし(銭四百文)をとり出して、それを得物にして相手の眉間みけんを強くった。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「斜視睨みの男は自分の助手に言つたさうだ。おい、俺は牛の眉間みけんどやしつけようと思つてる。だから、うまく牛を持つてゐて呉れなくつちや困るつて。」
無精髯ぶしょうひげが伸びほうだいに顔じゅうにはびこり、陽に焼けた眉間みけんや頬に狡猾こうかつの紋章とでもいうべき深い竪皺たてじわがより、ほこりあかにまみれて沈んだ鉛色なまりいろをしていた。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
悪口あっこうのみならず盃を取って文治郎のひたえに投付けましたから、眉間みけんへ三日月なりの傷が出来、ポタリ/\と染め帷子へ血の落ちるのを見ますると、真赤になり
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
幹太郎は王の眼から、眉間みけんを打たれた瞬間の屠殺される去勢牛のように、人のいい、無抵抗なものを感じた。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
「いや、もう、そんなことは過ぎたことですから」と修一は言下に打消したが、冠つたまゝの黒の中折の下の、眉間みけんしわけはしく、眼の剣は無気味に鋭かつた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
ライオンはほうばのげたのまま、かれの眉間みけんをはたとけった。阪井はぐっと頭をそらして倒れそうになったがじっと姿勢をもどして片手を大地からはなさない。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
私が真青になって、部屋の隅に縮込ちぢこんでしまった時、見る見る諸戸の眉間みけんに、取返しのつかぬことをしたという、後悔の表情が浮んだ。そして喉につまった声で
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし、いねはアグリの産後いっさいの物音に頭がめ、生家の隠居所にしをしていた。眉間みけんにいつも深い立皺たてじわをよせ、あおい顔をして手拭で鉢巻をしていた。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
梟眼きょうがんかっみひらけば、お丹も顔色あおずみて真白きおもて凄味すごみを帯び、眉間みけんとお癇癪筋かんしゃくすじ、星眼鋭くきっにら
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けれども異教徒席の中にだってみんな神学博士ばかりではありませんでした。丁度ヘッケルのような風をした眉間みけんに大きな傷あとのある人がにわかに椅子いすを立ちました。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
罫紙にならべて行くうちに眉間みけんが劇しく痛んで、疲れのために、字のかくは離れ離れになり、字と字の間から、種々なまぼしい光線が出て、こちゃこちゃに入り混って
栄蔵の死 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
しかるに彼の精神をみ得るものは、彼が眉間みけんに傷をうけ、しかもそれを茶坊主輩の手よりうけながら、なお泰然自若たいぜんじじゃくとしていたのを見て、心ある者は泣かずにおられぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
喜三郎の眉間みけんに当れば、まなこくるめき飛び退き様、横に払ひし虚につけ入りたる虹汀、喜三郎の腰に帯びたる小刀のつかに手をかくるとひとしく、さらば望みに任せするぞと
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「おう……られてる……殺られてる……やっぱり殺られてる! 眉間みけんを撃たれてるぞう!」
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
かがみのおもてにうつした眉間みけんに、ふかい八のせたまま、ただいらいらした気持きもち繰返くりかえしていた中村松江なかむらしょうこうは、ふと、格子戸こうしどそとひとおとずれた気配けはいかんじて、じッとみみすました。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
アーストロフ そんなに撃ちたいんなら、いっそのこと、自分の眉間みけんをぶち抜くがいいさ。
もう五回から撞き続けている憎々しい眉間みけんに大きな黒子ほくろのあるもじりの男と、それから新しい相手の、どこか南洋へでも行っていたらしい色のくろい男との勝負を見守っていた。
撞球室の七人 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
長面で頬がやつれていて眉間みけんの中央に目立って大きい黒子ほくろがある。それが神々しく感ぜられる。唇にはいつも寂しい微笑を含ませ、眼差まなざしにはいつも異様なひらめきを見せている。
引拔ひきぬき彌七の眉間みけんより眼へかけて切付たれば彌七はヤレ人殺し/\とてにげんとするをたゝみかけて右の腕を切落きりおとすにどうたふるゝ處を太七はふるへながら取て押へる中町内より人々立出樣子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
頬のこけた蒼白の顔の上部、両のびんと額とは大火傷の痕の如く赭黒く光つてひつつれてゐる。そして眉間みけんと、左右の米噛みの処に焼け火箸で突いた程の穴の痕が残つてゐるのである。
それから歯と耳と足は短きを欲し、胸と額と眉間みけんは広きを欲し、上の口と腰と足首は狭きを欲し、しりももふくらはぎは大なるを欲し、指と髪と唇は細きを欲し、乳と鼻と頭は小さきを欲す。
眉間みけんの皺が日一日と深くなるように思われたし、また威張った素振りで、片手を上着の折返しへ差し入れることも、もうしなくなって、一体に沈んだいらいらした内気な風を見せていた。
道化者 (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
牛若うしわかはひょいとはし欄干らんかんにとびがって、こしにさしたおうぎをとって、弁慶べんけい眉間みけんをめがけてちつけました。ふいをたれて弁慶べんけいめんくらったはずみに、なぎなたを欄干らんかんてました。
牛若と弁慶 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
その時、今まで反耶の横に立って、卑弥呼の顔を見続けていた彼の弟の片眼の反絵はんえは、小脇に抱いた法螺貝ほらがいを訶和郎の眉間みけんに投げつけた。訶和郎は蹌踉よろめきながら剣の頭椎かぶつきに手をかけた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
寿枝の眉間みけんには深いしわが出来、母性を疑はれた不快さがぐつと来たのだつた。
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
尖が十字形になっている剣で、第一の剣でうまく行かなかった時はそれで眉間みけんを突くと即死する。しかし、それを使わないうちに牛は斃れた。もがいて斃れるのを見るのはよいものではない。
闘牛 (新字新仮名) / 野上豊一郎(著)
それから買ったあとの九十五体の観音はどうで焼けてしまうのだから、その玉眼と白毫びゃくごう眉間みけんめてある宝玉、水晶で作ったもの)が勿体もったいない。私が片ッ端から続目つぎめを割って抜き取りました。