つま)” の例文
学科も一番出来なかつた。かうして、人間の世界では、すぐれた者と劣つた者とが、ともにつまはじきにされることが度々あるものだ。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
親仁おやぢわめくと、婦人をんな一寸ちよいとつてしろつまさきをちよろちよろと真黒まツくろすゝけたふとはしらたてつて、うまとゞかぬほどに小隠こがくれた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼はそれで少し救われたような心持ちになって、草履ぞうりつまさきを、上皮だけ播水まきみずでうんだ堅い道に突っかけ突っかけ先を急いだ。
卑怯者 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
真澄は怪しい犬に悟られまいと思って、跫音あしおとのしないように足をつまだてて歩いた。そして小松のある処ではその下の方を歩いた。
岐阜提灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ラ・ベルは、あたまのてっぺんから、足のつまさきまで、ぶるぶるふるわせながら、それでもいやということはできません。
同じき中にも身の楽なれば、こんな事して日を送る、夢さら浮いた心では無けれど言甲斐いひがひのないお袋とあの子は定めしつまはじきするであらう
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
龍造寺主計は、かたなのつまびきをつづけながら、また口をひらいた。こんどもうたかと思うと、今度は、ことばであった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私がさように嫌う蜘蛛でさえ手にまるめ込んで愛撫するかの如くつまくる人もあるからおかしい、もし蜘蛛の男女が恋をしたとしたらやはり野の花よとか
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
それにしても、この可憐で内氣らしい娘が、世のあざけりも人のつま彈きも覺悟の前で、好いた男と世帶を持つ氣になつたのは、並大抵ではない決心だつたでせう。
もっとも、それも大きな耳環が隠れてしまうほどにはしていなかったが。彼女の編物がその前にあったが、彼女はそれを下に置いてつま楊枝で歯をほじくっていた。
私の名前は長々ながながと申します。私がちょいと、こうつまちをしますと、すうッと天まで手がとどきます。それから一と足で一里さきまでまたげます。このとおりです。
ぶくぶく長々火の目小僧 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
貴様、そういうようなへつらった真似をするから、みんなからもつまはじきされるんじゃ。女将も女将じゃ。
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
夫にとっては久かたぶりの平地の生活が、妻にとっては想像することもできない明るい町が、そのつまさき遠くにはひろがっており、二人をまっていてくれる筈である。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
どこまで書きましたかしら? ああさうさう、「あのかた」といふ文句で千恵はつまづいたのでした。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
こんなに皆からつまはじきされるとは心外です。私はいったいどんな悪い事をしたのでしょう。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
えり浅黄あさぎと美くしくなずんで、やさしく前にかさねた手の、そのつまはずれのものなつかしさ!
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
いうまでもなく、その事件は、つまはじきをするのも余儀ない人妻の「心中事件」である。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
足袋二枚はきて藁沓わらぐつつま先に唐辛子とうがらし三四本足をやかため押し入れ、毛皮の手甲てっこうしてもしもの時の助けに足橇かんじきまで脊中せなかに用意、充分してさえこの大吹雪、容易の事にあらず、吼立ほえたつ天津風あまつかぜ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一三庁上ひとまなる所に許多あまたこがねならべて、心をなぐさむる事、世の人の月花にあそぶにまされり。人みな左内が行跡ふるまひをあやしみて、吝嗇りんしよく一四野情やじやうの人なりとて、つまはじきをしてにくみけり。
二人の女兄弟おんなきょうだいが苧を績んで着物を織ったが、姉さんのほうはたんねんな辛抱しんぼうづよい気質で、できるだけ糸をほそくして、じゅうぶんな布を織りあげたから、とっぷりと頭からつまさきまで
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
足のつまさきまでうつるすがたみでも、それはむやみにたくさんあって、むやみにぴかぴか光って、きれいなので、たれもかれも、ただもう、かんしんして、ふうと、ため息をつくだけでした。
青ひげ (新字新仮名) / シャルル・ペロー(著)
さも私をうらむようにつまはじきなどなさりながら、なおしばらく無言で控えて入らしったが、頭の君がそうお思いになって居られるならそれでもいい、と私が更らに物を言わずにいたものだから
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
つまさきからぞっと総毛立った、父がなにかいったらしい、けれどそれも耳に入らず、ただすさまじい斬合いの気配に全身をしばりつけられていたが、——なかば夢中でふらふらと軒先へ出て行った。
峠の手毬唄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
和尚おしょうさまも御存ごぞんじのとおり、このごろおかみのおいつけで、みやこねこのこらずはないになりましたので、つみのないわたくしどもの仲間なかまで、毎日まいにち毎晩まいばんねこするどつまさきにかかっていのちとすものが
猫の草紙 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
二三歩あるいたとき、つまさきで、なにかかたいものを、けとばした。
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
にわ金魚鉢きんぎょばちに、なにかかくしているとがついてからは、近所きんじょからもつまはじきされている老人ろうじんたいし、ことさら親切しんせつにしてやつて、そのかくしているものがなにかということをるのにつとめたのでした。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
せいじいろのつまかはからこぼれてゐるまるいなめらかなかかとは
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
オルガは手品を使う前の小手調しらべのように、しばらくの間淡紅色に輝いたパルパラチャンの指環を眺めたり、耳環をつまさきではじいてみたりしていてから、深い呼吸を面に幾回も繰り返して黙っていた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
汚れた足袋をぬぎすてた足のつまはずれなどが、なまめいて見えた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
こころあるものはひそかにつまはじきしてそしりあいしとかや。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
Kは雑誌をつまさぐりながら、あごで向うを指し示して
(新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
といった。つつましく、数珠ずずつまぐっていた禅勝が
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
据ゑ、やをらつま立ちぬ、おぢが肩より
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
持左の手に水晶すゐしやう念珠ずずつまぐりくつ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
仏像をつまんで見ると軽かった
鶴彬全川柳 (新字旧仮名) / 鶴彬(著)
波の穗がしらつまじろに
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
つまさき立ちで退場)
満面につまあとたちぬ。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
つまさぐりに、例の上がり場へ……で、念のために戸口に寄ると、息が絶えそうに寂寞ひっそりしながら、ばちゃんと音がした。ぞッと寒い。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
章一は電車通りで自動車をおりてつまさきあがりになった狭い横町よこちょうを往って、やしろの裏手の樹木の下になったその家を叩いた。
一握の髪の毛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
おななかにもらくなれば、此樣こんことしておくる、ゆめさらいたこゝろではけれど言甲斐いひがひのないおふくろさだめしつまはじきするであらう
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
肩など張り板のように真っ四角なのが、大きな眼をすごく光らせ、いま言った大刀釣瓶落しを下段に構え、白足袋の裏に庭土を踏んで、ソッとつまだちかげん……。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
縱やの字に三つ指、つまはづれの尋常さ、これが神樂坂でさゝやかに暮した、背負小間物屋の娘でせうか。平次は妙にチグハグな心持で、この娘をもう一度見直しました。
村内の心ある者にはつまはじきせらるゝをもかまわずついに須原の長者の家敷やしきも、むなしく庭うち石燈籠いしどうろうに美しきこけを添えて人手に渡し、長屋門のうしろに大木のもみこずえ吹く風の音ばかり
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
象牙ぞうげの、丸味のある、外側を利用して、裂断さいた面の方に、幾分のくぼみを入れ、外側は、ほとんど丸味のあるままで、そして、つまさきの厚味は四分しぶもあるかと思われる、厚い、大きな爪だ。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
色あかきつまくれなゐの花。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
とちょっと低声こごえに呼んだ——つまはずれ、帯のさま、肩の様子、山家やまがの人でないばかりか、髪のかざりの当世さ、鬢の香さえも新しい。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこにも川のむこうへ渡る二本の丸太を並べて架けた丸木橋があったが、彼はそれを渡らずに台地の方へつまさきあがりの赭土を踏んであがって往った。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
有がたう御座いますと済まして行く顔つきせいさへあれば人串談ぢようだんとてゆるすまじけれど、一寸法師の生意気とつまはぢきして好いなぶりものに烟草たばこ休みの話しの種成き。
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それを対馬守、つまさきでなおしながら、あっちへ行っておれ!……と、ついて来た者へ眼くばせです。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)