くわ)” の例文
濁酒に限らず、イチゴ酒でも、くわの実酒でも、野葡萄のぶどうの酒でも、リンゴの酒でも、いろいろ工夫くふうして、酔い心地のよい上等品を作る。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
せい一は、勇気ゆうきして、くさけてはいっていきました。くわえだろうとすると、じゅくしきったあかが、ぽとぽととちました。
芽は伸びる (新字新仮名) / 小川未明(著)
けれども今日は、こんなにそらがまっさおで、見ているとまるでわくわくするよう、かれくさもくわばやしの黄いろのあしもまばゆいくらいです。
イーハトーボ農学校の春 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ちゃくわと二方をしきった畑の一部を無遠慮に踏み固めて、棕櫚縄しゅろなわ素縄すなわ丸太まるたをからげ組み立てた十数間の高櫓たかやぐらに人は居なかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
出店は、諸国のくわある所、住居は、繭の中とでもいいましょうか、いやもう、のん気な風来商売で、歩いてばかりおりまする
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
愛之助が床に這入って、仰向きになって煙草を吸っていると、その枕下のくわ角火鉢かくひばちによりかかる様にして、芳江は何かと話しかけるのであった。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
休む暇といったらくわの実とか野生のなしとか、または、口がしびれ、唇が白くなり、そしてのどの渇きをとめるうつぼそうの実とかをちぎる時だけである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
庭の畑に出ていた祖父も、裏側の自分達の部屋でかいこくわをやっていた祖母も、私の声をききつけて駆け出して来た。
この棒の材料はくわの木で、上端を削って眼鼻口を描いたのが、我々の問題にしているオシラサマとよく似ている。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
するとみちそばではあるが、川の方へ「なだれ」になっているところ一体にくわ仕付しつけてあるそのはるかに下の方の低いところで、いずれも十三四という女の児が
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
小六ころくはともかくも都合しだい下宿を引き払って兄の家へ移る事に相談が調ととのった。御米およねは六畳に置きつけたくわの鏡台をながめて、ちょっと残り惜しい顔をしたが
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
新赤壁しんせきへきの裾を幾折れして、岩屋観音にかかる。漢画風の山水である。トンネルがあり、橋がある。みちはやや沿岸を離れてくわ畑と雌松めまつの林間にる。農家がある。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
くわたけ高く伸びているので、遠くから望むと、旧家らしい茅葺かやぶきの台棟だいむね瓦葺かわらぶきのひさしだけが、桑の葉の上に、海中の島のごとくいて見えるのがいかにもゆかしい。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
荒れたうまやのようになって、落葉にもれた、一帯、脇本陣わきほんじんとでも言いそうな旧家が、いつか世が成金とか言った時代の景気につれて、くわかいこも当たったであろう
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
コノエさんはもう朝畑をして戻ってきたらしく、くわの束を井戸の中へつるしていた。クニ子とは小学校から同級生でお互にあけすけなものいいのできる間柄であった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
手炙てあぶり、卓、茶棚ちゃだななどくわきりされた凝った好みの道具がそこにぎっしり詰まっていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
くわ 八四・七一 九・一九 一・八六 〇・三九 二・〇三 〇・五七 一・二五
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
南洋に産する「ちょう」、内地いたるところに産する「くわえだ尺取しゃくとり」などはその最も知られた例であるが、「木の葉蝶」ははねの表面のあざやかなるに似ず、その裏面は全く枯葉のとおりで
自然界の虚偽 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
母はだだびろい次のかいこくわきざみ刻み、二三度良平へ声をかけた。
百合 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
入口のにはくわの鏡台をおいて、束髪そくはつ芳子よしこ(その当時の養女、もと新橋芸者の寿福じゅふく——後に蒲田かまたの映画女優となった川田芳子)が女番頭おんなばんとうに帯をしめてもらって、帰り仕度をしているところであった。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そこは耕されて、くわなどが植付けてある。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
すると、一ぽんくわえだにはいりました。もし、このえだもとのところからったら、じつにいいつえがつくられたからです。
脊の低いとがった男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
春から夏にかけて主として養蚕ようさんで、畑には少しばかりの麦とくわと自家用の野菜と、そして砂地にはわさびを植えることで、冬は、男は山に登って炭を焼き
炉にはかしくぬぎくわなどをくべたが、桑が一番火のちがよく、熱もやわらかだと云うので、その切り株をおびただしく燃やして、とても都会では思い及ばぬ贅沢ぜいたくさにおどろかされたこと。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そっと自分のからだをがけのふちまで移動させて、兵古帯へこおびをほどき、首に巻きつけ、その端をくわに似た幹にしばり、眠ると同時に崖から滑り落ちて、そうしてくびれて死ぬる
姥捨 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私たちはくわ畑と松林の間を木曾川の左岸に出た。また松林があった。テントと投水台と。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
四月三日 今日はいいけられて一日古いくわ根掘ねほりをしたので大へんつかれた。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ごく細い篠竹しのだけ、紙を製するところではこうぞの小枝、養蚕ようさんのさかんな土地でくわの枝、またはささの葉で葺いている例もわたしは知っているが、そういうのは全国いっぱんということができないであろう。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
米もあわれないから、やむを得ずくわを植えてかいこを飼うんだそうであるが、よほど貧しい所と見えて、柱時計を持っている家が一軒だけで、高等小学へ通う小供が三人しかないという話であった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
余等が帝劇のハムレットに喜憂きゆうそそいで居る間に、北多摩きたたまでは地が真白になる程雹が降った。余が畑の小麦こむぎも大分こぼれた。隣字となりあざでは、麦はたねがなくなり、くわ蔬菜そさいも青い物全滅ぜんめつ惨状さんじょううた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
くわなら、ぼく明日あした学校がっこうってきてあげる。びんのなかみずれてさしておきたまえ。」と、いずみが、おしえました。
芽は伸びる (新字新仮名) / 小川未明(著)
柳橋やなぎばし駅から犬山橋までの電車の沿線にはくわが肥え、梨が実り、青い水田のところどころには、ほのかなあかはすの花が、「朝」の「八月」のにおいをさわやかな空気と日光との中に漂わしていた。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
冬が近くて、天山はもうまっ白になり、くわが黄いろにれてカサカサちましたころ、ある日のこと、童子がにわかに帰っておいでです。母さまがまどから目敏めざと見付みつけて出て行かれました。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
一四 部落ぶらくには必ず一戸の旧家ありて、オクナイサマという神をまつる。その家をば大同だいどうという。この神のぞうくわの木をけずりてかおえがき、四角なるぬの真中まんなかに穴をけ、これをうえよりとおして衣裳いしょうとす。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
太郎たろうは、くわえだるどころでありませんでした。きゅうに、あるしますと、そのおとこ太郎たろうについてあるいてきました。
脊の低いとがった男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
せい一は、先生せんせいが、おおきなくわうえへ、かいこを七ひきばかり、のせてわたしてくだされたのをありがたくいただきました。さあこれをどうしてってかえったらいいだろう。
芽は伸びる (新字新仮名) / 小川未明(著)
いつも、ぼくはさびしいどもだった。ある桑畑くわばたけで、いくたりかのおんなくわをつんでいるのをた。なんでもそのはどこかの養蚕地ようさんちへおくられるというのだった。
はたらく二少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ぼくは、こんなようなおかあさんがおればいいになあと、なんとなく、したわしいがして、そのそばへいって、くわをつむてつだいをした。おばさんは、ぼくのあたまをなでてくれた。
はたらく二少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
うさぎは、やまがなくなったから、からすの口車くちぐるまって、はら大根だいこんのこりや、くわえだべにくるになるかもしれない。だが、りこうなうさぎだ、あのからすめ、うまくさそせるかなあ。
からすとうさぎ (新字新仮名) / 小川未明(著)