曲角まがりかど)” の例文
私は四谷見附よつやみつけを出てから迂曲うきょくした外濠のつつみの、丁度その曲角まがりかどになっている本村町ほんむらちょうの坂上に立って、次第に地勢の低くなり行くにつれ
曲角まがりかどの青大将と、このかたわらなる菜の花の中の赤楝蛇やまかがしと、向うの馬のつらとへ線を引くと、細長い三角形の只中ただなかへ、封じ籠められた形になる。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたしたちの馬車は數分間止まつて馬に水を飮ませた後、再び旅をつづけ、ある曲角まがりかどをまがると、小ざつぱりとした邸宅の見えるところへ出た。
駅伝馬車 (旧字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
曲角まがりかどの向うから、気狂いじみたチンドン屋の馬鹿騒ぎが、チチチンチチチンと聞えて来た。
石塀幽霊 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
せまい張り出しに坐つて、驚き恐れてゐる赤ン坊を膝にのせて靜まらせました。あなたは路の曲角まがりかどをおまがりになつた、最後の一目と身を乘り出すとたん、壁が崩れ落ちて私は搖られた。
わしは七軒町の曲角まがりかど待伏まちぶせして、あの朝善之進を一刀に切ったのは私じゃアぜ
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
翌日午過ひるすぎ散歩のついでに、火元を見届みとどけようと思う好奇心から、例の坂を上って、昨夕ゆうべの路次を抜けて、蒸汽喞筒の留まっていた組屋敷へ出て、二三間先の曲角まがりかどをまがって、ぶらぶら歩いて見たが
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二人はまた手を取つて歩き出したが、二三げん先の曲角まがりかどでまた
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
かたへ、煉瓦塀れんぐわべい板塀いたべいつゞきのほそみちとほる、とやがて會場くわいぢやうあたいへ生垣いけがきで、其處そこつの外圍そとがこひ三方さんぱうわかれて三辻みつつじる……曲角まがりかど窪地くぼち
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
雨はいつかんで、両側とも待合つづきの一本道には往来ゆききする足駄あしだの音もやや繁くなり、遠い曲角まがりかどの方でバイオリンを弾く門附かどづけの流行唄が聞え出した。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
定「ナニ寄る気でもないんですが、近いから、あのお寺の前を通ると曲角まがりかどのお寺だもんですから、よく門のとこなんぞをいてゝ、久振ひさしぶりだ、お寄りなてえから、ヘイてんでもと朋輩ほうばいだから寄りますね」
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ところを、からうじて切拔きりぬけると、三島樣みしまさま曲角まがりかどで、またはじめて、入谷いのや大池おほいけみぎに、ぐつとくらくなるあたりから、次第しだいすごつたものだ——とく。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わたくしが日頃ひごろ行きれた浅草あさくさ公園六区ろっく曲角まがりかどに立っていたのオペラかんの楽屋で、名も知らなければ、何処どこから来るともわからない丼飯屋どんぶりめしやじいさんが
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
尖って狐に似た、その背に乗って、ひらりと屋根へ上って、欄干をまたいだように思われるまで、突然、縁の曲角まがりかどへ、あのおんながほんのりと見えました。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よく見覚えのある深川座ののぼりがたった一本さびに、昔の通り、横町よこちょう曲角まがりかどに立っていたので、自分は道路の新しく取広げられたのをもほとんど気付かず
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
家も何にもない処で、狐がどうの、狸がどうの、と沙汰さたをして誰も通らないみち、何に誘われたか一人で歩行あるいた。……その時、曲角まがりかどで顔を見ました。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ましてや夕方近くなると、坂下の曲角まがりかど頬冠ほおかむりをしたおやじ露店ろてんを出して魚の骨とはらわたばかりを並べ、さアさアたいわたが安い、鯛の腸が安い、と皺枯声しわがれごえ怒鳴どなる。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と前に立つて追掛おいかけると、ものの一ちょうとはへだたらない、石垣も土塀どべいも、むぐらみち曲角まがりかど突当つきあたりに大きなやしきがあつた。
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
村岡は少し離れて曲角まがりかどに立留った時、女給らしい女が三人つれ立って、れちがいに通りかかったのをふと見ると、その中の一人はドンフワンの君江である。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
二人は何というわけとも知らず、その方へと歩み寄ったが、その時わたしはふと気がついて唖々子の袖を引いた。万源の向側なる芸者家新道の曲角まがりかどに煙草屋がある。
梅雨晴 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
二人ふたり同時どうじに、川岸かしへドンとんだ。曲角まがりかどに(危險きけんにつき注意ちうい)とふだつてゐる。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
次は瓢箪池ひょうたんいけを埋めた後の空地から花屋敷の囲い外で、ここには男娼の姿も見られる。方角をかえて雷門かみなりもんの辺では神谷バーの曲角まがりかど。広い道路を越して南千住行の電車停留場のあたり
吾妻橋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
言問こととひ曲角まがりかどで、天道てんだうか、また一組ひとくみこれまた念入ねんいりな、旦那樣だんなさま洋服やうふく高帽子たかばうしで、して若樣わかさまをおあそばし、奧樣おくさま深張ふかばり蝙蝠傘かうもりがさすまして押並おしならあとから、はれやれおひとがついてぶらなり。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
つぎ瓢箪池へうたんいけうづめたあと空地あきちから花屋敷はなやしきかこそとで、こゝには男娼だんしやう姿すがたられる。方角はうがくをかへて雷門かみなりもんへんでは神谷かみやバーの曲角まがりかどひろ道路だうろして南千住行みなみせんぢゆゆき電車停留場でんしやていりうぢやうあたり
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
ちょうどいまの曲角まがりかどの二階家あたりに、屋根の七八ななやっかさなったのが、この村の中心で、それからかいの方へ飛々とびとびにまばらになり、海手うみてと二、三ちょうあいだ人家じんか途絶とだえて、かえって折曲おれまがったこの小路こみちの両側へ
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたくしは舗道から一歩ひとあし踏み出そうとして、何やら急にわけもわからず名残なごり惜しい気がして、又ぶらぶら歩き出すと、間もなく酒屋の前の曲角まがりかどにポストの立っている六丁目の停留場である。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ちやうひとみはなして、あとへ一歩ひとあし振向ふりむいたところが、かは曲角まがりかどで、やゝたか向岸むかうぎしの、がけうち裏口うらぐちから、いはけづれるさま石段いしだん五六段ごろくだんりたみぎはに、洗濯せんたくものをしてむすめが、あたかもほつれくとて
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
矢田は歩きながら、砂利に靴の裏をこすりこすりもとの堀端へ出ると、丁度曲角まがりかどの軒下にまき炭俵すみだわらとが積んであったのでやっと靴の掃除をし終った時、呼びもしない円タクが二人の前にとまった。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
家にいても気がふさぐというので銭湯へ行ったその帰り道、横町の曲角まがりかどで不意と出会ったのは、芸者の時分お千代に取っては慶三と同等にく大事なお客の中の一人であった葉山はやまという若い男である。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)