旦那様だんなさま)” の例文
旧字:旦那樣
「ただ年齢ばかりじゃないのよ。境遇の変化よ。娘が人の奥さんになるとか、奥さんがまた旦那様だんなさまくなして、未亡人びぼうじんになるとか」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
芸術なんていうものもこうなってはみじめなものでございます。美しいお嬢様、それから御親切な旦那様だんなさま、さようではございませんか。
へゝい、お二人ふたりづれで。——旦那様だんなさまは、洋服やうふくで、それ、かたが、こゝへぶらげておいでなさる、あの器械きかいつてらしつけえ。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
旦那様だんなさま、どうなさいました」と、声を懸けても聞えぬらしいので、「旦那様、旦那様」と、なおも呼びながら近寄りました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
死人しにんのような目で空をにらむように人の顔を見ています。おお、気味が悪い。あれは人間ではございませんぜ。旦那様だんなさま、おおこりなすってはいけません。
縦令たとへ旦那様だんなさま馴染なじみの女のおびに、百きんなげうたるゝともわたしおびに百五十きんをはずみたまはゞ、差引さしひき何のいとふ所もなき訳也わけなり
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
徒士かち大臣たいしんに対しては、ただちにその名をいうを許さず、一様に旦那様だんなさまよびて、その交際はまさしく主僕の間のごとし。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ういふお慈悲なさけぶか旦那様だんなさまがおありなさるから、八百膳やほぜん料理れうり無宿者やどなしくだされるのだ、おれいまうしていたゞけよ、おぜんいたゞくことは、きさま生涯しやうがい出来できないぞ。
なんだか中にいるのは旦那様だんなさまではないかと思うのですけれど、こんな大きな玉がいつの間にできたのか、思いもかけぬことですし、それに手をつけようにも
鏡地獄 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこへ客か何か来たのであろう、つるよりも年上の女中が一人、湯気ゆげの立ちこめた硝子障子ガラスしょうじをあけると、石鹸せっけんだらけになっていた父へ旦那様だんなさま何とかと声をかけた。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
旦那様だんなさまが何とも仰有おっしゃらないんだもの。」と小女は始めて気がつくと共に顔をふくらして行ってしまった。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
とき丁度ちょうど時過じすぎ。いつもなら院長いんちょう自分じぶんへやからへやへとあるいていると、ダリュシカが、麦酒ビール旦那様だんなさま如何いかがですか、と刻限こくげん戸外こがいしずか晴渡はれわたった天気てんきである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
おまえは知らないかい? こういう手合いには、まあ、わたしのような卑しい女を、こんな立派な旦那様だんなさまが、と思って、はっとして嬉しいやらはずかしいやらで
半蔵父子がこれまでのならわしによれば、あの名古屋城の藩主は「尾州の殿様」、これはその代官にあたるところから、「福島の旦那様だんなさま」と呼び来たった主人公である。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
女中が旦那様だんなさまがお呼びですといって私を呼びにくる、用件は分っているのだ、墨をするのにきまっている。父はニコリともしない、こぼしたりすると苛々いらいら怒るだけである。
石の思い (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「そうさなア。君まで僕を困らせるんじゃアないか」と、西宮は小万を見て笑いながら、「何だ、飲めもしないくせに。くだを巻かれちゃア、旦那様だんなさまがまたお困り遊ばさア」
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
世帯持ちもよかろう。亭主に思われるに決まっていると、旦那様だんなさまから分に過ぎた御祝儀を頂いた。夫人おくさまからも半襟はんえりかんざしなどを頂いて、門の外まで見送られたくらいであった。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
旦那様だんなさまも今度という今度は、ずいぶん用心ぶかくやんなさいましたけれど、——やはりまあ早い話が、馬車をやとうとか何とか……とにかく人手なしではまないわけでしてね
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
旦那様だんなさまが鹿児島の戦争で討死うちじにをなされた後は、賃機ちんはた織つて一人の御子息を教育なされたのが、愈々いよ/\学校卒業と云ふ時に肺結核で御亡おなくなり、——大和君のいへと越後の豪農です
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
旦那様だんなさま何か召上めしあがりませんか、』と如何どうかして気慊きげんを取るつもりで優しく言つた。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
旦那様だんなさま! あの杉野さんとう方が、御面会です。」と、云った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「おともしましょう」清子の返事を聴いた下女は、立ち際に津田の方を見ながら「旦那様だんなさまもいっしょにいらっしゃいまし」と云った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
またある日、庭に出ていると、老婢のトゥーサンがこう言っているのを耳にした、「旦那様だんなさま、お嬢様はきれいにおなりなさいましたね。」
権七ごんしちや、ぬしづ、婆様ばあさまみせはしれ、旦那様だんなさま早速さつそくひとしますで、おあんじなさりませんやうに。ぬしはたらいてくれ、さあ、
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
旦那様だんなさま、誠にまア結構けつこうくすりでございます、有難ありがたぞんじます、疼痛いたみがバツタリりましてございます。主「それはるよ、くすりだもの……はおまへかえ。 ...
「どうぞ今後とも、よろしくお力添ちからぞえのほどを、奥様おくさまにも旦那様だんなさまにもお願いしますよ」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
無理にも納得なつとくさせねばならぬと、の通りの御意気込み、其れに旦那様だんなさまも、梅も余りらひして居る中に、年を取り過ぎる様なことがあつてはと云ふ御心配で御座いましてネ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
御新造ごしんぞの事では旦那様だんなさまも、随分御心配なすったもんですが、——」
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
旦那様だんなさま、もうビールを召上めしあがります時分じぶんでは御座ござりませんか。』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
旦那様だんなさま大変な木戸で、御座いましょう」と言ったので
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「この子は嫁に行ってから、少し人間が変って来たようだね。だいぶ臆病になった。それもやっぱり旦那様だんなさまの感化かな。不思議なもんだな」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
旦那様だんなさま、」とバスクは言った、「若旦那様は人に運ばれてこられました。防寨ぼうさいに行かれまして、そして……。」
そして旦那様だんなさまは、こんな台所へ出ていらっしゃるものではありません。早くお机の所へおいでなさいまし。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はい旦那様だんなさまわたくしも、賓客きやくときには八百膳やほぜん仕出しだし取寄とりよせまして、今日けふ向付肴むかうづけ甘酢あまず加減かげん甘味過あますぎたとか、しる濃過こすぎたとか、溜漬たまりづけ辛過からすぎたとか小言こごとつた身分みぶんでございますが
旦那様だんなさまは今晩も御帰りにならないのでございますか?」
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
バスクは彼に言った。「奥様は旦那様だんなさまと御いっしょにお出かけになりまして、まだお帰りになっていません。」
それ/\、坊様ばうさまなら、よひくちわしたのんで四手場よつでばもらふたのぢや……、はあ、其処そこへお前様めえさま行逢ゆきあはしつたの。はて、どうも、妙智力めうちりき旦那様だんなさまわしえんるだね。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「あしたになったら旦那様だんなさまがさぞ驚くでしょう」と母が笑った。お貞さんも下を向いて苦笑した。彼女は初めて島田に結った。それが予期できなかった斬新ざんしんの感じを自分に与えた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
岩崎弥太郎いはさきやたらうさんとかたらツしやいまして、あの旦那様だんなさまが針の山をはらげて、その山をくづしたつちで血の池をめてしまひ、今ではたひらで、彼処あすこが公園にりまして、誠に面白おもしろうございますよ
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
旦那様だんなさま
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「ああそのことでございますか、旦那様だんなさま、」とトゥーサンは答えた、「サン・メーリーの方でございますよ。」
旦那様だんなさま、お荷物にもつつてめえりやした、まあ、くれとこなにてござらつしやる。』
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
顔はふくれているが、こんな結構な男を捨てて赤シャツになびくなんて、マドンナもよっぼど気の知れないおきゃんだ。赤シャツが何ダース寄ったって、これほど立派な旦那様だんなさまが出来るもんか。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大家の絵でして、非常な価値ねうちのあるもので、旦那様だんなさま。私はふたりの娘と同じぐらいにこれを大事にしていまして、種々の思い出がこもっているのでございます。
こんなところへ出て参りまして、たまに通りますものをおどかしますのが面白くて成りませんので、つい、あの、癖になりまして、今晩も……旦那様だんなさまに申訳のございません失礼をいたしました。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
旦那様だんなさまも島田が好きだときっとおっしゃいますよ」
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ですが旦那様だんなさま、非常に元気がございましてな、女というよりはまったく牛とでも申したいくらいで。」
「これは、旦那様だんなさまお世辞のい、土地をめられまして何より嬉しゅうござります。で何でござりまするか、一刻も早く御参詣ごさんけいを遊ばそう思召おぼしめしで、ここらまで乗切っていらっしゃいました?」
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
旦那様だんなさまは病気ではないでしょうか。何だか御様子が変わっていたようですが。」
おお、そういえば旦那様だんなさま、お宿はどうなさります思召おぼしめし
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)