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ものう
ふりがな文庫
“
懶
(
ものう
)” の例文
室
(
へや
)
に入つて
洋燈
(
ランプ
)
を點けるのも
懶
(
ものう
)
いので、暫くは
戲談口
(
じやうだんぐち
)
などきき合ひながら、
黄昏
(
たそがれ
)
の微光の漂つて居る室の中に、長々と寢轉んでゐた。
一家
(旧字旧仮名)
/
若山牧水
(著)
私
(
わたくし
)
は
漸
(
やうや
)
くほつとした
心
(
こころ
)
もちになつて、
卷煙草
(
まきたばこ
)
に
火
(
ひ
)
をつけながら、
始
(
はじめ
)
て
懶
(
ものう
)
い
睚
(
まぶた
)
をあげて、
前
(
まへ
)
の
席
(
せき
)
に
腰
(
こし
)
を
下
(
おろ
)
してゐた
小娘
(
こむすめ
)
の
顏
(
かほ
)
を一
瞥
(
べつ
)
した。
蜜柑
(旧字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
麗
(
うら
)
らかな
懶
(
ものう
)
い春であった。その麗らかな自然の中で、相闘っている一方の人間が充分の余裕をもってその対策を考えているのだった。
仮装観桜会
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
海浜や道傍の到る処に
塵埃
(
じんあい
)
の山があり、馬車が何台も道につながれてあって、足の太い馬が毛の抜けた
鬣
(
たてがみ
)
を振って
懶
(
ものう
)
そうに
嘶
(
いなな
)
いている。
糞尿譚
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
大騒乱が家中の者を一人残らず
懶
(
ものう
)
い疲労した夢から奮い立ててしまった。白熱した昂奮が一しきり人々を内から照らしたのである。
地上:地に潜むもの
(新字新仮名)
/
島田清次郎
(著)
▼ もっと見る
連日の
旱
(
ひでり
)
に弱り切った草木が
懶
(
ものう
)
い
眠
(
ねむり
)
から醒めて、来る
可
(
べ
)
き
凋落
(
ちょうらく
)
の悲しみの先駆である
此
(
この
)
風の前に、快げにそよいで居るのが見える。
奥秩父の山旅日記
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
懶
(
ものう
)
さの
度
(
ど
)
をある所まで通り越して、動かなければ
淋
(
さび
)
しいが、動くとなお淋しいので、我慢して、じっと辛抱しているように見えた。
永日小品
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
燕王
(
えんおう
)
の兵を起したる建文元年七月より、
恵帝
(
けいてい
)
の国を
遜
(
ゆず
)
りたる建文四年六月までは、
烽烟
(
ほうえん
)
剣光
(
けんこう
)
の
史
(
し
)
にして、今一々
之
(
これ
)
を記するに
懶
(
ものう
)
し。
運命
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
捨
(
す
)
てた
燐寸
(
マツチ
)
の
燃
(
も
)
えさしが
道端
(
みちばた
)
の
枯草
(
かれくさ
)
に
火
(
ひ
)
を
點
(
つ
)
けて
愚弄
(
ぐろう
)
するやうな
火
(
ひ
)
がべろ/\と
擴
(
ひろ
)
がつても、
見向
(
みむ
)
かうともせぬ
程
(
ほど
)
彼
(
かれ
)
は
懶
(
ものう
)
げである。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
私は舷側に凭れ、島が幻のように消え失せたあたりを眺めていたが、精神の沈滞はいよいよ深まるばかりで、なにをするのも
懶
(
ものう
)
くなった。
海豹島
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
懶
(
ものう
)
い音を壁一重こちらにまでもひきずり込むので、これにはさすがに強情なムーアも少なからず閉口させられたといふことだ。
独楽園
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
その様あたかも老伯がポケット内にこれをさぐり、あるひは容器の蓋を開くの
懶
(
ものう
)
きに絶えずとしてしかせしならんが如く見ゆ。
作男・ゴーの名誉
(新字新仮名)
/
ギルバート・キース・チェスタートン
(著)
暖
(
だん
)
を取る必要も何もないのだけれども、習慣的に火燵に寄かかっている。
懶
(
ものう
)
いような春雨の感じが溢れているように思われる。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
が、その声がまた、ロシア式にいうと、まるで釘抜で
頸圏
(
くびわ
)
を馬につけるような、恐ろしくまどろっこく、
懶
(
ものう
)
げな調子であった。
死せる魂:01 または チチコフの遍歴 第一部 第一分冊
(新字新仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
呼吸をするたびに、その胸の線がまるで白鳥の胸のやうに豊かにふくらんだ。
膏脂
(
こうし
)
が体内に
沈澱
(
ちんでん
)
して何か不思議な重さで彼女自身を
懶
(
ものう
)
くした。
青いポアン
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
「遊び
男
(
お
)
の心を乗せるにふさわしい急流だ。——けれど、
後朝
(
きぬぎぬ
)
を、また、都へもどる日は、舟あしも遅いし、
懶
(
ものう
)
いそうだぞ」
平の将門
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
懶
(
ものう
)
いチクタクの音を響かせてゐる柱時計の下で、富江は森川の帰りを待つ間の退屈を、額に汗をかきながら編物をしてゐた。
鳥影
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
夜とも昼ともつかない
懶
(
ものう
)
い明るみだった。その中で、お清はすやすや眠っていた。夜着から肩を半分出して、横向きに枕の上につっ伏していた。
反抗
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
「二毛暁に落ちて頭を
梳
(
くしけづ
)
ること
懶
(
ものう
)
し、両眼春
昏
(
くら
)
くして薬を点ずること
頻
(
しき
)
りなり」「
須
(
すべから
)
く酒を傾けて
膓
(
はらわた
)
に入るべし、酔うて倒るゝも
亦
(
また
)
何ぞ妨げん」
少将滋幹の母
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
その
麓
(
ふもと
)
に水車が光っているばかりで、眼に見えて動くものはなく、うらうらと晩春の日が照り渡っている野山には静かな
懶
(
ものう
)
さばかりが感じられた。
蒼穹
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
庭に向へる
肱懸窓
(
ひぢかけまど
)
の
明
(
あかる
)
きに
敷紙
(
しきがみ
)
を
披
(
ひろ
)
げて、宮は
膝
(
ひざ
)
の上に
紅絹
(
もみ
)
の
引解
(
ひきとき
)
を載せたれど、針は持たで、
懶
(
ものう
)
げに火燵に
靠
(
もた
)
れたり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
ところが、瀬川は一向そんなことには無関心であるように、ちょっと私の方に振り向いてから、両手をのばして
欠伸
(
あくび
)
をしながら、
懶
(
ものう
)
そうに答えた。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
殺風景な下宿の庭に
鬱陶
(
うっとう
)
しく生いくすぶった
八
(
や
)
つ
手
(
で
)
の葉蔭に、夕闇の
蟇
(
ひきがえる
)
が出る頃にはますます悪くなるばかりである。何をするのも
懶
(
ものう
)
くつまらない。
やもり物語
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
紅がらにて染めたるジャム
鬢付
(
びんつけ
)
のやうなるバタなんぞ見る折々いつも気味わるしと思ひながら雨降る日なぞはつい門外の
三田通
(
みたどおり
)
まで
出
(
い
)
で行くに
懶
(
ものう
)
く
矢はずぐさ
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
長いこと転々としてその昂ぶった神経を持てあましながら、ラッセルのように
懶
(
ものう
)
い
蝱
(
あぶ
)
の羽音を、目をつぶって聞いている中に、看護婦が廻って来た。
蝱の囁き:――肺病の唄――
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
何
(
なに
)
をするのも
懶
(
ものう
)
いやうな身体を起して、彼は戸口へ出た。さつきの人達はもう銘々の行くべき処へ行き着いたらしい。下駄の音も、話声も聞えない。
夜烏
(新字旧仮名)
/
平出修
(著)
彼等の話振りを聞いて居ると、少しも病人らしい様子などはなかつた。退屈や
懶
(
ものう
)
さはあつても生活の苦しみや悲しみなどはありさうにも見えなかつた。
世の中へ
(新字旧仮名)
/
加能作次郎
(著)
床の裡の
次団太
(
じだんだ
)
は自分を驚かして、寝られぬものを無理に寝かせ、夜明けて
起
(
おき
)
るさえが
懶
(
ものう
)
くなって、横倒しにした枕に
肱
(
ひじ
)
を乗せて腹這になって居る時
油地獄
(新字新仮名)
/
斎藤緑雨
(著)
自分の気弱さを弁解するためには、オリヴィエにたいする罪をこれで償ってるのだと考えた。激しい愛情の時期と
懶
(
ものう
)
い冷淡の時期とが
交々
(
こもごも
)
やってきた。
ジャン・クリストフ:12 第十巻 新しき日
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
そしてこの部屋には洗面の道具も備つてゐたし、私の髮を梳づる爲めに櫛や
刷毛
(
はけ
)
も置いてあつた。
懶
(
ものう
)
い手で五分おき位に休み乍ら私は身を整へ了つた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
唯チチアネルロのみはやや
懶
(
ものう
)
げに、且つ気乗りせぬげに右手の方に群を離れて立ち、少女たちを眺めている様子。
チチアンの死
(新字新仮名)
/
フーゴー・フォン・ホーフマンスタール
(著)
大きいけれども強い光はなく
懶
(
ものう
)
いような色で満ちているから、品はよいけれども、どうも賢い子には見えません。
大菩薩峠:12 伯耆の安綱の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
ともすれば
懶
(
ものう
)
い
駘蕩
(
たいとう
)
たる春霞の中にあって、十万七千の包囲軍はひしひしと
犇
(
ひしめ
)
き合って小田原城に迫って居る。
小田原陣
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
筋肉にこびりついた
懶
(
ものう
)
い疲労にがっかりして、暫くそこに腰を下ろしたままであったが、それでもやがて闇の野に飛ぶ鬼火のように一人一人に散って行った。
世界怪談名作集:14 ラザルス
(新字新仮名)
/
レオニード・ニコラーエヴィチ・アンドレーエフ
(著)
わたしの騾馬は
後方
(
うしろ
)
の丘の十字架に繋がれてゐる。そして
懶
(
ものう
)
くこの日長を所在なさに糧も惜まず鳴いてゐる。
聖三稜玻璃:02 聖三稜玻璃
(旧字旧仮名)
/
山村暮鳥
(著)
令嬢だと言えば、彼女は寝床も上げたことのない
懶
(
ものう
)
い良家の子女なのです。それが彼女の強い主観なのです。
橋
(新字新仮名)
/
池谷信三郎
(著)
折から桜花は故郷の山に野に
爛漫
(
らんまん
)
と咲き乱れていた。どこからか
懶
(
ものう
)
い
梵鐘
(
ぼんしょう
)
の音が流れてくる花の夕暮、ミチミは杜に手を取られて、静かに
呼吸
(
いき
)
をひきとった。
棺桶の花嫁
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
昼飯の支度をするのも
懶
(
ものう
)
い。ぼんやり寐ころんでいる。ふと ああよく体を大事にしてといった と思い出して力なく
焜炉
(
こんろ
)
に火をおこしはじめた。飯をかける。
島守
(新字新仮名)
/
中勘助
(著)
瞼の上に重く蜘蛛の巣のように
架
(
かか
)
っていて、払おうとしてもとりのけられない霞のようなものが、そこら中に張りつめられているようで、
懶
(
ものう
)
い毎日がつづいた。
性に眼覚める頃
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
扱帯
(
しごき
)
は
一層
(
ひとしお
)
しゃらどけして、
褄
(
つま
)
もいとどしく崩れるのを、
懶
(
ものう
)
げに持て扱いつつ、
忙
(
せわ
)
しく肩で
呼吸
(
いき
)
をしたが
悪獣篇
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
懶
(
ものう
)
い、爛れた眼をして、灰色の毛を垂らしてゐる。そして犬の達し得る、極度の老年に達したと云ふあらゆる
徴
(
しるし
)
が現れてゐる。わしは犬をやさしく叩いてやつた。
クラリモンド
(新字旧仮名)
/
テオフィル・ゴーチェ
(著)
しかしながら
懶
(
ものう
)
く王者の
項
(
うなじ
)
をうな垂れ、しみじみとその厚ぼつたい蹠裏に
機
(
はず
)
む感覚に耐へ、彼は考へた。
測量船
(新字旧仮名)
/
三好達治
(著)
百事齟齬す、
正
(
まさ
)
にこれ死して益なく、生もまた
懶
(
ものう
)
きの苦境に迫る。ここにおいて五月六日庸書檄を作り、筆耕以て
無聊
(
ぶりょう
)
を消ぜんとす、これもまた獅子
毬
(
まり
)
なるかな。
吉田松陰
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
時節は
五月雨
(
さみだれ
)
のまだ
思切
(
おもいきり
)
悪く
昨夕
(
ゆうべ
)
より
小止
(
おやみ
)
なく降りて、
欞子
(
れんじ
)
の
下
(
もと
)
に四足踏伸ばしたる
猫
(
ねこ
)
懶
(
ものう
)
くして
起
(
た
)
たんともせず、
夜更
(
よふけ
)
て酔はされし酒に、
明
(
あけ
)
近くからぐつすり眠り
そめちがへ
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
懶
(
ものう
)
い目で一寸三藏を振り返つて見たが、すぐ又正面を向いて讀經を續ける。若い尼はこちらへと導く。
俳諧師
(旧字旧仮名)
/
高浜虚子
(著)
「何、
昨夜
(
ゆうべ
)
から飲み続けて、
余
(
あんま
)
り頭が重いから、表へ
些
(
ちっ
)
と出て見たのさ。」と、お葉は
懶
(
ものう
)
げに答えた。
飛騨の怪談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
もう二十年も前にその丘を去った私の幼い心にも深く
沁
(
し
)
み込んで忘れられないのは、
寂然
(
ひっそり
)
した屋敷屋敷から、花のころ月の
宵
(
よい
)
などには申し合わせたように単調な
懶
(
ものう
)
い
山の手の子
(新字新仮名)
/
水上滝太郎
(著)
そして、そのふり積んだ雪のこころは、まゆ玉の、垂れたその
懶
(
ものう
)
い枝々にしずかにかようのである。
浅草風土記
(新字新仮名)
/
久保田万太郎
(著)
車中の客を見れば、痩せて色蒼き男の
斑
(
まだら
)
に染めたる
寢衣
(
ねまき
)
を纏ひて、
懶
(
ものう
)
げに
倚
(
よ
)
り坐せるなり。馭者は疾く下りて、又二たび三たび其鞭を鳴し、直ちに馬を
續
(
つ
)
ぎ替へたり。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
女は相変らず袖を顔にしたぎり、何んといわれようとも、
懶
(
ものう
)
げに顔を振っているばかりだった。
曠野
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
懶
漢検1級
部首:⼼
19画
“懶”を含む語句
懶惰
懶怠
懶惰者
物懶
気懶
疎懶
懶気
懶怠者
懶眠
痛懶
懶聲
放縦懶惰
放蕩懶惰
暢好是懶懶
氣懶
無懶
懶相
粗懶
羸弱懶惰
老懶
...