うやうや)” の例文
それへうやうやしく木柱が立てられると、そこで祭りの庭のすべてのていが整うてきたと共に、今宵の祭典の意義も充分に明瞭になりました。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
矢場にはすでに弓道師範日置へき流に掛けては、相当名のある佐々木源兵衛が詰めかけていたが、殿のおでと立ちいでてうやうやしく式礼した。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
褐衣の人は一いちうなずいた。不意に一人の貴い官にいる人が出て来て、竇を迎えたがひどくうやうやしかった。そして堂にあがって竇はいった。
蓮花公主 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
燦爛きらびやかなる扮装いでたちと見事なるひげとは、帳場より亭主を飛び出さして、うやうやしき辞儀の下より最も眺望ちょうぼうに富みたるこの離座敷はなれに通されぬ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
そして二つの白い棺の前にうやうやしく礼拝らいはいしたのち、莫大な香奠こうでんを供えた。彼がそのまま帰ってゆこうとするのを、人々はたって引留めた。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
破笠子はうやうやしく手をつき敷居際しきいぎわよりやや進みたる処に座を占めければ伴はれしわれはまた一段下りて僅に膝を敷居の上に置き得しのみ。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
五ツ紋の青年わかものは、先刻さっき門内から左に見えた、縁側づきの六畳にかしこまって、くだんの葭戸を見返るなどの不作法はせず、うやうやしく手をいて
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
伯爵閣下にうやうやしく敬礼すると、物をも言わず吾輩のマントの両袖を掴んだものだ。多分正気付いた家令が電話でもかけたんだろう。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
気の毒な主人はこいつは手に合わんと、それから書斎へ立てこもって、うやうやしく一書を落雲館校長に奉って、少々御取締をと哀願した。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また叡山に対してもうやうやしい怠状を呈し、自身には日課七万遍の念仏を申して、「一念尚生る、況や多念をや、罪人尚生る、況や善人をや」
賤民概説 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
うやうやしくあたまげているわたくしみみには、やがて神様かみさま御声おこえ凛々りんりんひびいてまいりました。それは大体だいたいのような意味いみのお訓示さとしでございました。
が、その男のいかにもうやうやしげな態度と、絶えずあたりに眼をくばっている様子とで、彼が紳士の従者であることが読まれた。
神様が斯うおっしゃると、人間の男と女は、うやうやしくおじぎをして、神様の前を去ろうとします。すると神様は、再び二人をお呼びとめになりました。
トシオの見たもの (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
綱引きの腕車くるまで出て行く、フロック姿の浅井を、玄関に送り出したお増は、屠蘇の酔いにほんのり顔をあからめて、うやうやしくそこに坐っていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その床几の前へ、うやうやしく、一人の将が、祝肴いわいざかなをのせた折敷を捧げると、信玄は、その勝栗を一つ取って、左の手で、日月の大扇たいせんをさっと開く。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのため夫人は一面において旧日本的な婦道と礼節とによって、うやうやしく彼に仕えながらも、半面においては彼を子供扱いにせねばならなかった。
が、彼は私と顔を合わすと、昔風に両肱りょうひじを高く張ってうやうやしくかしらを下げながら、思ったよりも若い声で、ほとんど機械的にこんな挨拶のことばを述べた。
疑惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かんをなすには屎壺しゅびんの形したる陶器とうきにいれて炉の灰にうずむ。夕餉ゆうげ果てて後、寐牀のしろうやうやしく求むるを幾許ぞと問えば一人一銭五厘という。なし。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
石田清左衛門は後ろのふすまの蔭へ、いつの間に持ち込んだか、梨地高蒔絵に朱の紐を結んだ手文庫を、うやうやしく捧げて、主人丹之丞の前に据えました。
といひて内侍の方へ思入おもいいれあり「かたり取つたる荷物の内に、うやうやしき高位の絵姿、弥助がつらに」といひかけ「あなたのお顔に生きうつし」と云替へ
わたくしが前に行ってうやうやしく礼をすると、またじっとわたくしの様子を見てからだまってその紙切れを渡しました。
ポラーノの広場 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
また課長殿に物など言懸けられた時は、まず忙わしく席を離れ、仔細しさいらしく小首を傾けてつつしんで承り、承り終ッてさて莞爾にっこり微笑してうやうやしく御返答申上る。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
三左衛門から紙包かみづつみを受けとって仏壇の前へ往き、うやうやしく扉に手をかけて開けたが、何かに驚いてあとへ飛び退すさった。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
合掌してうやうやしく敬礼すべしとを説き、釈迦牟尼世尊五濁の悪世に衆生を教化きょうけした時、千二百五十弟子の中で頭陀第一、身体金色で、金色の美婦を捨て
その代りに自分の懐ろから制帽を取りだしてうやうやしく飾りながら、ガンベが拝むような様子をしてこういったっけ。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
バスクはもとよりきわめてうやうやしい態度で、低い室のとびらを開いて、そして言った。「ただ今奥様に申し上げます。」
口重々しくあざけりながらも、足に接吻せっぷんせんばかりにうやうやしく仕えていることを、クリストフは間もなく見て取った。
へなへなした和歌が、大君おおきみやお国のための戦いをうやうやしくたたえた作品が、明治以後にいかに多かったことか。
ペンクラブと芸術院 (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
取引を済ませて、吾助はかの証拠品をうやうやしく包み直し、かの若者を案内して、己れの住居へと去っていった。
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私は春琴女の墓前にひざまずいてうやうやしく礼をした後検校の墓石に手をかけてその石の頭を愛撫あいぶしながら夕日が大市街のかなたにしずんでしまうまで丘の上に低徊ていかいしていた
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
黄金丸はまづうやうやしく礼を施し、さて病の由を申聞もうしきこえて、薬を賜はらんといふに、彼の翁心得て、まづそのきずを打見やり、霎時しばしねぶりて後、何やらん薬をすりつけて。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
源平時代の見聞を語ること、親しくこれをた者の通りであった故に、小野はただちに海尊なることを看破し、いて兵法を学び、またうやうやしく延年益寿の術をたずねた。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
受持の時間に竹村君が教場へはいるときに首席にいる生徒が「気を付け」「礼」と号令をすると生徒一同起立してうやうやしくお辞儀をする。そんな事からが妙に厭であった。
まじょりか皿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
さはいえ、乗鞍や槍の二喬岳を除けば、皆前衛後衛となって、うやうやしく臣礼を取っているにすぎぬ。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
梅三爺は勿体もったいなさそうにして、うやうやしく一本の煙草を抜き取った。併し、抜き取っては見たが、この貴重なものに、火をつけたものかどうかと、暫く躊躇ちゅうちょの様子を見せた。
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
こえおうじて、いへのこつてつた一團いちだん水兵すいへい一同みな部室へやからんでた。いづれも鬼神きじんひしがんばかりなるたくましきをとこが、いへ前面ぜんめん一列いちれつならんで、うやうやしく敬禮けいれいほどこした。
折角せっかくの折柄を妨げられて、不安を感じていたのを、師匠が、片手落ちなく両方へ、披見を許すといってくれたので、やっとほっとして、白い手をうやうやしく差し伸べたのだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
そして最も謹厳きんげんな態度で、「じつは、私は、いろいろと……恐縮しておりますので……これで失礼します……」こう言って、うやうやしく頭をさげた。これでおしまいであったのだ。
遁走 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
その中を行く礼者の姿も丈の短い紋付羽織、マチの低い平ばかま、白扇を携えてうやうやしく、後ろから双子の仕着せに千草の股引、年玉物の箱を首にかけた小僧さんがチョコチョコ。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
あるものは、ほとんど親しげに通路を擁し、あるものはうやうやしく過ぎ去った後を見送った。
夫はこれほどの志望こころざしになうに、すこしも不足のない器量人であると、日頃の苦悩も忘れ果て、夫の挨拶のことばの終りに共にうやうやしく頭をさげると、あまりの嬉しさに夢中になっていたために
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
叱咜しったしながら、バラリ袱紗を払いのけてうやうやしく捧持しながら、ずいと目の前にさしつけたのは、前の将軍家光公御直筆なる長沢松平家重代のあのお墨流れです。これに会っては敵わない。
仁科少佐はうやうやしく礼をしました。総長はホッとして、幾分顔をやわらげながら
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
ここで彼は、老婆の手から酒杯さかずきを受け取ったが、婆さんはそれに対してうやうやしくお辞儀をした。「ああ、ここへ連れて来い!」と、ポルフィーリイが仔犬を抱いて入って来たのを見て、彼は叫んだ。
大統領はうやうやしくたたずんでいる機密局長の顔をじっと見つめた。むろん顔見知りではあるが、直接口を利いたことは殆んどなかったので、人伝ひとづての噂以上に彼の人物を知っているとは云えなかった。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そうって子家鴨こあひるまわりにあつまってました。子家鴨こあひるはみんなにあたまげ、出来できるだけうやうやしい様子ようすをしてみせましたが、そうたずねられたことたいしては返答へんとう出来できませんでした。野鴨達のがもたちかれむかって
およそ法螺ほらとはえんの遠い孔子がすこぶるうやうやしい調子でましてこうした壮語をろうしたので、定公はますます驚いた。彼は直ちに孔子を司空に挙げ、続いて大司寇だいしこうに進めて宰相さいしょうの事をもらせた。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
私もその接客室から出まして、やはり大王の行く方へ来いというものですからずっと下の方に降って正門の臣下の待合所の所まで来ますと、うやうやしく礼をして居るところの地方長官が大分に居りました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
うやうやしく風呂敷包を取りて包み紙の折れぬよう大切そうにひら
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
女中がうやうやしくタウルを捧げる。もう一人は後ろから拭く。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)