ねえ)” の例文
はなが、東京とうきょう奉公ほうこうにくるときに、ねえさんはなにをいもうとってやろうかとかんがえました。二人ふたりとおはなれてしまわなければなりません。
赤いえり巻き (新字新仮名) / 小川未明(著)
茶屋小屋、出茶屋のねえさんじゃあねえ。風俗なりふりはこの目でたしかにらんだが……おやおや、お役人の奥様かい。……郵便局員の御夫人かな。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
送って廊下ろうかへ出ると、妹は「ねえはんの苦労はお父さんもこの頃よう知ったはりまっせ。よう尽してくれとる、こない言うたはります」
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
ねえさん此方へ向いてみねえ。」「ああ彼奴あいつはヘチマじゃな。」「ここの愛国婦人会の奴らは紋付なんか着込んで気張ってらあ。」
震災後記 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
「私の信実な、りっぱな、親愛な、親切な、慕わしい、恋しい恋しいねえ様、」と彼は呼んでいた。それはまったく恋の手紙だった。
しばらくしてから、ねえさんと云った。梅子はその深い調子に驚ろかされて、改ためて代助の顔を見た。代助は同じ調子でなお云った。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しゃぶって居ると旨いが、醤油したじッ気が抜けると後はバサ/\して青貝を食って居るような心持で不思議な物で……ねえさん一寸ちょっと此処に居て遊んで
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ああ、いいとも。安心しておいで。だがねえ、兄ちゃん、小母ちゃんてのはまだ可哀そうだよ。ねえちゃんぐらいにしておくれ」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「気をつけなさい。ひどい目にうわよ。あんたを可愛かわいがってるねえさんのいうことだから聴きなさい。『はい』っていうもんよ」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「ああ、あたしはゆっくりでいいんだからお前さきにおあがり、ねえさんがね、トマトで何かこしらえてそこへいて行ったよ」
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ここの、三十をちょっと出た年恰好の、背のすらりとした、小意気な細君を美佐子は「おねえさん」と甘えるように言っていた。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
ねえさん、私はね、初め四月よつき程の不経済な暮しをして居ました事を思ひますとねえさんに済まなくつて済まなくつて、仕方がないのですよ。』
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ねえよう」と與吉よきちんだ。おつぎは返辭へんじしなかつた。與吉よきちまたんだ。さうしてした。おつぎはつてかうとすると
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
つゐしまあかしか何かの着物にやはりつゐの帯をしめ、当時流行の網をかけた対のパラソルをした所を見ると、或はねえさんに妹かも知れない。
鷺と鴛鴦 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
文造はこの二人ふたりつむりをさすって、ねえさんの病気は少しはくなったかと問い、いま会うことができようかと聞いて見た。
まぼろし (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
幼稚園に通うころより実の同胞きょうだいも及ばぬほどむつみ合いて、浪子が妹の駒子こまこをして「ねえさんはお千鶴さんとばかり仲よくするからわたしいやだわ!」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
これが待っているからとて、附合いを外してまで戻ってやらねばならぬほどの、ねえや思いの神尾ではないはずだ。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
太郎樣たらうさまへの朝參あさまゐりはかゝさんが代理だいりしてやれば御免ごめんこふむれとありしに、いゑ/\ねえさんの繁昌はんじようするやうにとわたしぐわんをかけたのなれば、まゐらねばまぬ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
して藤助の處へゆくと番頭は何をして居ると尋ねらるゝに小僧こぞうアノ藤助さんのはうゆくと久兵衞さんはすぐに二かいあがりおたみさんと云ふ美麗うつくしいねえさんと何だかはなしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ねえやんは、どこへうせやがったんじゃろな。コトのやつめ、もどってきたら、どやしつけてやらんならん」
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
聞いてアラねえさんとお定まりのように打ち消す小春よりも俊雄はぽッと顔あからめ男らしくなき薄紅葉うすもみじとかようの場合に小説家が紅葉の恩沢に浴するそれ幾ばく
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
唯少しの横にだけなつてゐて下されば好いといふ、それではねえさんほんのお茶番なのねえ、三十分もゐたらいのでせうか、ああ好いどこぢやあなくつてよ
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「ええ。まだおひるすぎですもの。一時ごろになると、純子じゆんこちやんが帰つて来るでせうし、二時ごろに耕一かういちさん、三時ごろに蓉子ようこねえちやんが帰つて来るはずだわ。」
母の日 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
此所にはまた菜飯なめし茶屋という田楽でんがく茶屋がありました。小綺麗こぎれいねえさんなどが店先ででんがくをってお愛想をいったりしたもの、万年屋、山代屋やましろやなど五、六軒もあった。
や、や、や、たすきだ、べにだ、ねえさんかぶりだ、浴衣だ、赤い蹴出けだしだ、白足袋だ。や、や、や、や。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
それは可愛い赤さんで、私はねえさまぶって、その子のおりをしていたのかもしれませんわ。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
うたちゃんは、三人兄弟の末で、来年からは幼稚ようち園へ行こうというのですが、早くから、自分ではおねえちゃん気どりで「えいちゃん」「えいちゃん」と、自分をよんでいます。
「の」の字の世界 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
浜口夫人はねえさんの大久保夫人と同じやうに良妻賢母を理想としてゐる。良妻賢母に無くて叶はないものは、柔和な猫のやうな良人をつとと、独楽こまのやうによく働いて呉れる女中とである。
縁談のことはねえちゃんと中姉なかあんちゃんに任してあるさかい、行け云われたら何処へなと行くつもりやねんけど、あの人のとこだけはよう行かんさかい、えらい我が儘云うみたいやけど
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「長吉が十八じゃ、あのはもう立派なねえさんだろう。やはり稽古に来るかい。」
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
家へもって帰って、おとうさんやねえさんやにいさんにも見せておくれ。そして、かわいそうな子供がいたら教えておくれ。おじさんはまたあした、同じところを同じ時刻じこくにあるくから……。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『フン、どつちが外聞が惡いんだらう。私や十歳とをの時からねえさんの御奉公してゐたんだよ。其で姉さんの手から、半襟はんゑりかけくれたこともありやしないで。チヨツ利いたふうな事を言つてるよ。』
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
ねえちゃんが待ってるぜ。早くおいでよ。」姉ちゃんだなんて言いやがる。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「鞠ちゃんは、先刻さっきねえや(下婢)と一緒に懐古園へ遊びに行って来ました」
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「あれを見て下さいな、あんちやんとねえやの逢引きだ。泣いたり笑つたり」
ねえさん。すみませんが、ますをかしてください。」とたのみました。
まことに済まない事と思いますけれど、こればかりは神様の計らいに任せて戴きたい、ねえさんどうぞ堪忍かんにんしてください、わたしの我儘わがままには相違ないでしょうが、わたしはとうから覚悟をきめています。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
村は一月晩ひとつきおくれでも、寺は案外陽暦ようれきで行くのがあって、四月八日はお釈迦様しゃかさま誕生会たんじょうえ。寺々のかねが子供を呼ぶと、とうかあねえに連れられた子供が、小さな竹筒をげて、嬉々ききとして甘茶あまちゃを汲みに行く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ねえさんたちも、お母さんも、楽々と暮しているようだ——
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ねえちゃんの小言をきき流して、あたしは二階に上った。
溺るるもの (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「うん、だけど、これ、私の考えだけどねえ、私、ねえさんに話してみようかと思うンだけど、どうでしょう……。そして、隆吉さんが戻って来る前に、私、女中でも何でもして働きに出ようと思ってるンだけど……」
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
おわかれ申したかあ様と、にいねえ様お揃いで
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
着て、わかねえさんにお化粧けしょう
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
鉄蔵 ねえさん、水筒……。
とんぼのねえさん
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
ねえさんですか。
「あんなことで、こすものじゃなくてよ。」と、しょうちゃんは、おねえさんにしかられました。ところが、その午後ごごでありました。
ねことおしるこ (新字新仮名) / 小川未明(著)
ねえや、何でも可いから早く呉んねえ。見さる通り子持だによって、そのつもりでの、頭数三人前。」と天外よりきたる分らぬ言分。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
にんじん——違うよ、ねえさん、そんなことをいうと頭がこんぐらかるじゃないか。僕のいうブルタスと姉さんのとは別物だよ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
しかもその空席のあるのは丁度ちやうど僕の右鄰みぎどおりである。さぎねえさん相当にそつと右鄰へ腰を下した。鴛鴦をしどりは勿論あねの前のり革に片手を托してゐる。
鷺と鴛鴦 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)